巫女とかくれんぼ(2018)
皆さま初めまして、私、実家の神社(神職であった両親は他界してますが)で巫女などしている者です。
巫女といってもエ◯ゲーなどで描かれている華やかな存在ではありません、巨乳ではないですし清い身でもありません。
まあ、田舎の神社で細々とやっております。太っ腹なおじさんが入れてくれる宝くじの高額当選券が専らの収入源という……お爺ちゃんの五円玉だけではとてもとても。まあ、ここしばらくはそれすらないのですが。
つまりとても貧しいのです。
その為、お仕事をしています。
「巫女さんやあ……」
早速やって来ましたね、金ヅ……いやいやクライアントさんが。
プルプルと体を震わせたお爺ちゃん、杖の使いも覚束なく、転びそうになる。
「危ないですよー、お爺ちゃん。全くもー、ってほらどさくさに紛れてお尻触らないの」
「巫女さんやあ……孫が、孫が帰らんのじゃあ」
お孫さんって、確か小学生の男の子の……名前とか外見は知らないけど、そんなことを話していたように記憶している。
まあ夏休みだしねー、男の子だし秘密基地でも作って遊んでるんじゃね?
……とは言えないので、うんうんとお爺ちゃんの話に耳を傾けた。
「わかりました。神社で遊んでる子供たちにでも聞いてみます、何かわかったらお知らせしますね」
お爺ちゃんを励ました後、その後ろ姿を見送り、転びそうになるのを支え、体を触られる、その度に軽く頰をつねってやる。
あのジジイこれが目的じゃねーだろうな?
社務所の中で事務の仕事をしていると、一人二人と子供たちの声が聞こえて来た。
お爺ちゃんにああ言った手前、直ぐにでも証言を取りに行かねばならないのだけれど、私も忙しいのですよ。夏祭りの段取りとかね。
ここまで終わったら行くからねと心の中で詫びながら、作業を進める。
すると、小学生にしてはウェイトの半端ない男児が飛び付いてきた。
「巫女のねーちゃーん!」
飛び付くな暑苦しい!
……とは言えないので、ここは優しいお姉さんぽく注意しよう。
しかしこのデブち……男の子は私の言うことを一切聞かずに、作業場を物色している。
「うっわあっちー!クーラーねーのー!」
「ごめんねここにはない……って散らかさないで私の午前中の労働がー」
あちらこちらを好き勝手にひっくり返し、さらに居住スペースにまで侵入しようとしたところで何とか食い止めた。
「……ごめんなさい」
「よろしい。それより君一人?他の子達は?」
男の子に聞いたところ、只今絶賛かくれんぼ中らしい。
かくれんぼ?
何故に社務所に……。
まさか。
「ちなみに他の子達は?」
「けんじとゆきみは裏の扉に入ってった」
それうちの玄関じゃないのおお!
時刻は丁度午後0時、昨今は熱中症に対する世間の目は大変厳しく、子供達をそんな目に合わせたとあったらどんな目に……。
「ふいーすずしー生き返るぜー」
「おねえちゃんカルピスありがとー」
どういたしまして、私一人なら普段絶対付けないエアコンと貴重なカルピスサワー用の原液はお楽しみ頂けまして?
まあ、金銭のやり取りが伴うミッションの協力を仰ぐわけだ、対等なる報酬と考えよう。
「今日は三人だけ?」
「あと鬼がいるぜ!」
ぽっちゃりさんが大きな声で発言する。
いやいや、休憩するなら呼んであげなよ。
仕方ない……探すか。
「お姉さんちょっと探してくるね、なんて名前の子?」
「「「しらねー(しらなーい)」」」
何たる……いやまあ夏休みだし、そういうこともあるのか。むしろ昨今では褒められたことだ、名前も知らない子と遊ぶとか。
表に出てみるとエアコンの効いた室内との温度差に目眩がした。
そもそも普段一切運動をしない私の体力など子供以下なのに、何故自らこんな役目を勝手出たのやら。
大して広くもない神社の敷地内を暫く探し回り、私はあることに気付いた。
私が探しているのは鬼ごっこの鬼。
隠れる側ではない。
血の気が引く。
無事でいて無事でいて無事でいてお願いだからああ!
パニックになる気持ちを必死に落ち着ける。
鬼ごっこ。
10か100か知らないけど、鬼が目を瞑り数を数える間に隠れる。
ぽっちゃりは私のいた社務所に、けんじゆきみは玄関。
どちらも普段は隠れないところだけど、この神社の広さなら他に隠れる所なんて……。
本堂。
何で気付かなかったんだろう。
幸か不幸か、本堂には鬼の子は見当たらなかった。
しかし駆け付けた時扉は開いていたので、ここに入ったのは間違いないようだ。
となると、鬼の子探しはまた振り出しに戻った。
あまり考えたくは無いけど、そこの植え込みなんかは先が崖になっているから……もし草木を掻き分けて進んで行ったら、ただでは済まない。
とはいえ、鬼の子=お爺ちゃんのお孫さんと決まったわけじゃないし、その子がうちに帰った可能性も0ではないのだけれど……。
溜息をつく。
楽観視して放って置くことは出来ないけど、これ以上私に何が出来るわけでもない。
「警察行こっと」
流石に子供たちに黙って出掛けるわけには行かないので、一度部屋に戻った。
のだが。
冗談……。
言葉を失った。
いないのである、先程まではいた三人組が。
嘘でしょおお!
確かにじっとしてるよう言い忘れたけどさあ!
しかもジュースこんなに残してさああ!もったいないでしょーがああ!
どうやったらこんなに飲んだ形跡が無くなるくらい綺麗に作り直せるのよおお!
こうして、万策の尽きた私はがっくりと肩を落とし麓にある派出所にむかったのである。
が、誰もいない。
表には呑気に
「御用の方は○○○ー○○○ー○○○まで」
と張り紙が出されている。
これ、昨日の夕方からじゃない……これじゃあお爺ちゃんが私を頼って来るはずだわ。
巫女に行方不明操作の依頼が舞い込むとか世も末過ぎる。
それからは何処をどう歩いたか。
手掛かりも無く、現在も神社のある高台下辺りを探索している。
とはいえ四人の子供達を見殺しに出来ない為、当ては無くとも歩き続けるしかない。
(もう、だめだ……)
どれくらい歩いたのだろう、夏の日差しも陰りを見せ始める。
ガードレールにもたれかがりぼんやりと眼下に広がる大きな水溜りを眺める。
一見ダムだよねー、でも違うんだなー。ほーら、よく見て?あれ、尖ってるのって実は屋根なんだなー。
頭の中で一人、そんなやりとりをしてみる。ははは、何度目だ?こんな風に考えるのは。
鬼の子の心配とか。
三人組の心配とか。
お爺ちゃんのお孫さんの心配とか。
警察を頼っても誰もいない!
誰もいないのよ……。
ほら、見てよ。そこのトラックも乗り捨てられてるしさ。
あの日から、私はおかしくなってしまった。
私の元を毎朝尋ねてくる、濁流に飲まれ、それでも一人お孫さんを待ち続け亡くなったお爺ちゃんとか。
かくれんぼの最中に崖下に転落してしまった男の子とか、本堂の神物落下に巻き込まれた女の子とか、社務所でカッとなって私が……!
この世にいないはずの者たちが、毎日私を訪ねてくる。
毎日。
毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日。
そうしているうちに、私は記憶がおかしくなり、こうして毎日子供達を探しにやって来る。
あの豪雨で私以外みんな亡くなってしまったことも忘れてしまい。
毎朝孫を殺した私を呪いやってくるお爺ちゃんといつものやりとりをする。
はははー、もう疲れたなー。
……。
「……全国各地で猛暑による被害が後を絶ちません。昨日○○県では二十代前後と見られる女性が熱中症と見られる症状で倒れている所を、付近の住人により発見されました。病院に搬送されましだが__