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Melting Dead 最弱の科学者  作者: aki o
3/14

人間? ウイルス?

 「そう。隆司っていうの」

 パソコン画面に映し出された少女の返事は耳に入らなかった。

 

 面と向かって言葉を発したのは何年ぶりだろう。父が家を出ていったのが三年前で、その時、行ってらっしゃい、といつものように挨拶をした。

 学院を休むようになって、もう一年はたつ。数少ない友人と交わした最後の言葉は何だっけ?

 

 「隆司君。聞こえていますか?」

 あぁ、また、パソコンから声が聞こえる。美しい少女が僕に声をかけてくれる。

 

 「ねえ、本当に聞こえているの」

 

   好きだ……。


   何度目だろう。いや、これが最初で最後だ。


 

 少女は、隆司の微細な心の揺れを感じ取った。



 「ああ、聞こえていますとも。君は、随分と僕のことが気になるようだね」

 暗闇の奥底に自らを閉じ込めた隆司は、一筋の救いを見出した。

 

 「君は僕の恋人になってくれるんだろう」

 

 僕は何を言っているんだ。これでは、単なるロリコンだ。この汚らしい顔が世間を賑わしてしまうじゃないか。まぁ、二次元だから許されるんだけどね。どのみち失うものなんてないのだから。楽しくいこうじゃないか。


 隆司は、それとなく画面に顔を近づけた。

 「今すぐにでも君の、その白く透き通った肌に触れたいものだが」

 少女は、顔を赤らめた。他人の感情を自分に都合よく解釈する隆司は、少しばかり胸を弾ませた。

「出来るわけないでしょう。私とあなたには幾重の障壁がある。私が住む世界は二次元で、あなたが住む世界は三次元……」

 「言うと思ったよ」

 隆司は顔をしかめた。

 

 また外れたよ。人間の心は愚か、数式の感情すら読み取ることが出来ないのか。

 最も、完全に負けたとは思っていないがね。

 

 「君に名前はあるのか」

 少女は、すぐさま、ぶっきらぼうに、

 「ないわ」

 と言った。

 「そんなに冷たくあしらわないでくれ。孤独な夜の終わりを告げる暁は、母なる温かみを持つ、というものだ」

 「生憎、パソコンのソフトは、スマートかつクールなの」

 少女はすぐさま反論した。隆司は、苦笑いを浮かべた。

 「何か勘違いしているようだから、この際言っておくわ。私は仮にもウイルスよ。ひと暴れしたら、こんなおんぼろコンピューターなんて、一秒もあれば破壊できる。それが終われば、新たなコンピューターに忍び込んで暴れるの。そう、ここは単なる仮住まいなのよ」


 なるほど。こいつは大したウイルスだ。

 一番恐ろしいのは、ウイルスの性能そのものではない。

 こいつは、人間の振る舞いを心得ている。いや、確かな人格を持ち合わせている。

 

 「ああ、君はどうやら人間の心をもてあそぶのに長けているらしい。そこで、僕から一つ、問題をプレゼントしよう」

 「暇つぶしくらいにはなるかしら」

 少女は乗り気だった。

 「ハードディスクの最深部に刻まれた数字を読み込んでくれ」

 隆司は、微かな勝機に賭けることにした。

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