国立科学院 その2
情報エリアは、大きく、学生棟、教員棟、実験棟に分かれている。普段授業が行われる学生棟は、国立科学院の全ての建築物の中で、最も新しい。他の棟は、皆、三百年も前の建築であるのに対し、学生棟は、僅か百年しか経っていない。情報学という学問そのものが新しい、というのが一つ、理由に挙げられるだろう。もう一つの理由は、その内分かるだろうから、ここでは述べない。
学生棟は、十階建てである。所謂、教室は、一階から六階までで、それより上は、学生たちのプライベートルームとなっている。個人的な研究活動、あるいは、部活やサークルのミーティングに使われることが多い。
隆司が向かおうとしていた国家研究会の部室は、八階の一番奥にある。創立は八十年前で、学院屈指の伝統を誇る。元々は、物理棟の一角にひっそりと佇んでいたのだが、隆司が入部した年からは、一番新しい、そして、一番大きな部屋の使用が許可されるようになった。当時の上級生は、隆司たち、新入りの部員を、神様の光、と称え、理由もなく感謝された。
「立ち入り禁止だって?」
嘗て通い慣れた部室の扉に、大きく書かれていた。隆司は辺りを見回した。合点がいかなかった。
「あの、どなたですか」
背後から声が聞こえた。振り返ると、自分と同じ背格好で、やや太り気味な学生らしき男が、睨むように隆司を見つめていた。
「ここから先は僕たち国家研究会の占有地です。関係のない方は早急にお引き取り下さい」
「何だ、ここで合っているのか」
隆司は、すかさず、学生証を掲示した。
「国立科学院情報学科三年の鈴木隆司です。と言っても、今は休学中。一応、ここにも籍は残しているはずなんだけど……」
男は、鈴木隆司、と聞いて、すかさず頭を下げた。
「失礼いたしました。鈴木先輩のことは、立花先輩からよく聞いております。申し遅れました。私、情報学科二年の小野寺武史と言います」
隆司は、立花、と聞いて歓声が沸き出て来た。
「あぁ、みずきを知っているのか。そうか、そうか……」
小野寺は、隆司を部室に招き入れた。すでに、部員らしき学生たちが数人集まって話をしていた。
「武史、その人は誰だ」
学生の一人が問いかけた。
「あの、鈴木先輩だよ。ほら、立花先輩が、しょっちゅう話している人!」
隆司は、大いなる疑問に襲われた。
「ちょっと待って。小野寺君、と言ったね。みずきが、僕のことを話しているだって?本当かい」
「ええ、暇さえあれば。もう、すごい勢いですよ。あれは完全に恋する乙女の表情です」
小野寺は、立花みずきが隆司について語っていた内容を、全て伝えた。成績が云々、という話ならまだしも、幼い頃の思い出や、学生時代の語らいまで、事細かに再現されると、何も言えなくなった。
「……といった具合です。本当に楽しそうなんですよ。立花先輩って」
「あぁ、そうなんだ……」
立花みずきが現れたのは、それから五分ほど経った頃だった。




