国立科学院
国立科学院は、隆司が住まう邸宅から歩いて十分程の距離である。隆司が所属している情報学の他に、物理、化学、医学、工学といった、様々な研究施設が軒を連ねている。
「パスポートの認証をお願いします」
セキュリティーの面から、警備体制は非常に厳重である。隆司が入学したての頃は、大勢の人間警備員によって守られていた。周囲百メートルに五、六人はいただろうか。
非情に優秀な人間ほど、ミスを起こしやすい。父、隆吉の名言が具現化したのは、ちょうど一年の過程を終了した日のこと。物理学エリアにある、非常に高性能な実験原子炉が何者かによって爆破された。迅速な対処により、大きな被害は出なかったのだが、それでも、数人の研究者が被曝することになった。彼らは、すぐさま医学総合研究所に搬送されていった。その後、どうなったか知る者はいない。
この一件について、世間で報道されることはなかった。そもそも、原子炉が爆発した、という事実を知る人自体、少なかった。国立科学院は、周囲十キロを一般人の立ち入り禁止エリアに指定している。近くに住めるのは、隆司のような学生であったり、父、隆吉のような教員であったり、その他、限られた関係者のみである。いわば、研究のための要塞である。
以降、警備を担当するのは、隆吉が作成したプログラムと、それらを忠実に守る優秀なロボットたちであった。
「鈴木隆司さんですね」
ロボットと言っても、声の感じは、何ら人間と変わらない。見た目は明らかに鉄の塊であるが。
「入場を許可します」
一般に知れ渡ってはいないが、彼らが最も素晴らしいと評価される所以は、人に攻撃を加えることが可能、という点である。御存じ、ロボット三原則には、人に危害を加えてはならない、と書かれている。歴史的に考えると、ロボットは、人間を死に至らしめてはならないわけだ。
勿論、彼らの電子回路には、このことがしっかりと刻まれている。でも、それだけでは、従来のロボットと何ら変わらない。お馬鹿なロボット、と烙印を押されてしまう。
彼らの制御回路は、平たく言うと、スイッチ式になっている。つまり、何かエラーが起きた時、ただうずくまってしまうのではなく、人間の脳内で繰り広げられる思考実験を、演算することが出来る。不測の事態が起きた時は、原則で行動する回路をシャットダウンし、半人間的回路に切り替わるそれにより、迅速な対応が出来る。
例を挙げてみよう。テロリストが侵入した場合、人間は何を考えるか。基本的には殺すことを考える。短絡的かもしれないが、大方の意見はそうだ。彼らは、体内に格納されたライフルを取り出し、犯人に照準を合わせる。警告に従わない場合は、その引き金を引く。ロボットの計算は、100%正確だから、彼らの犯行はあっという間に終結する。後は、適当に処理して終わり。いつものように平和な日常が訪れる。
「ありがとう」
隆司は一礼して、ゲートをくぐった。
三年前、入学したての頃と同じ風景に感じた。流石は科学技術の最高峰である。このエリアは、この学院は、永遠に同じ時間を繰り返す。変わる、ということは、どれだけ努力しても、未だ、神の御心に勝つことが出来ない人間の性なのだ。




