半日常
日課の散歩を終えて家に帰ると、すぐさまインターネットに接続する。面白そうな漫画を見つけて、すぐさまクリックする。
違法だって? 見るだけなら大丈夫! 欲望は抑えられないんです。
一秒に数回にやける。溜息を二度つく。ページを閉じる。
「おや?」
エラーメッセージが刻まれる。
ウイルスが侵入しました。再起動します。
「……」
ウイルス ウイルス ウイルス ウイルス ウイルス ウイルス ウイルス……
再起動 再起動 再起動 再起動 再起動 再起動 再起動……
終いに現れたのは、難解なプログラム言語。片言の翻訳によると、強制終了。
金銭の要求が始まる。代償は、パソコン内のデータ。
「早くしないと消えちゃうよ!」
「……」
「あなたのことが好きです」
「趣味はお兄ちゃんの面倒を見ることです」
「一緒に帰ってあげてもいいけれど。別に家が近いだけなんだからね」
二次元のリピドーは、閉ざされた絶望の森に注ぐ一筋の光。
絶望? そう、絶望。
だから? 消えてしまっても構わない。
「データが消えるまであと10秒だよ!」
快活な響きがかえって優しい。消えゆく命と記憶を少しばかり慰める。
「5,4,3……」
秒読みが単調に進む。
「ああ、消えちゃった」
ウイルスよ。君の嘆きはどこか優しいぞ。
シスコン? 一人っ子は大抵そんなものだ。
ツンデレ? 悪くはないけれど、もっと愛されたいなぁ。
二次元ループを抜け出す唯一の手段は、三次元的快楽だった。とりとめのない人生に注ぎこまれる甘美な誘惑は、荒野の虫をだまらせるほど大きな風のように、体中をなめ回した。他人の醜態をまじまじと見つめるほど、笑いの泉が溢れかえる。
嵐が吹き荒れるくだら野の熱が次第に衰えていくと、ちょうどいいタイミングで、パソコンが一度、停止する。
リフレッシュされたパソコンを起動する。初期化されたプログラムの羅列を追いかけながら、適当にキーボードを連打する。ホーム画面が現れる。
地中海の島々と夕日の映えた写真を幾度見たことだろう。
心機一転、新たな航海が始まるはず……だった。