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事情を説明してください1


 私の前にはトモル君、五條さん、そして、抱っこちゃんのごとくサリ様を腕に張り付かせた斗真が、応接スペースの絨毯の上で正座でかしこまっていた。


 因みに斗真以外は、自主的行動である。 

 さすがに私だって巨大なドラゴンであるトモル君と五條さんに正座を強要するなんて命知らずな事なんてできない。

 申し訳ないと思ってくれているのは、何となく伝わってるからそこまで反省を促したいんじゃないけど。


 ……しかし私が一番高い所から見下ろしているというこの状態。妙にスッキリするというか癖になりそうな。

 やだ、私、サリ様ばりに女王様気質だった?


 そんな冗談まで思い浮かんだ事に苦笑しながら、私は改めて三人プラス一人の顔をそれぞれ見渡した。


 しっちゃかめっちゃか……というしかない魔界の王城から、ラグナに鉄拳制裁をくわえようとするガザ様を何とか宥めて、斗真の魔法で受付へと戻ってきたのがつい五分前の出来事。


 感覚は前に五條さんと移動した時と同じ。突然吹き上がった足元の風にびっくりして目を閉じ、次に開けた瞬間には、いつものこの場所――受付に立っていた。


 ゲートを経由しなかったのは、やっぱり特別らしく斗真だからこそ出来る事なのだと、サリ様が興奮したように説明してくれた。


 ……斗真がチラチラとこちらを見てきたので、棒読みで『スゴイネー』と褒めておいた。


 久し振りだったので、それでも嬉しそうにこんな事も出来るよ! と、手のひらから炎を出そうとしたので鉄拳制裁して消火する。

 オフィスは火気厳禁である

 自分は使えない八つ当たりなんて半分しか入っていた。

 そしてその後、はっと落雷が落ちたように顔を上げて勢いよく私を見たサリ様。


 ……もしかして今、斗真を殴った事責められる?

 ココで「斗真様によくも!」なんて襲われたら困るな……。

 冷静に観察しつつちょっと間合いを取ろうかと、足を引きかけたところで――

 サリ様は華奢な腕を床の上に置いた。――そしてそこからまさかの五体投地!

 そうだよ!土下座じゃなく全身地面に投げ打つやつ!


「ちょっお姫様!? あのちょっと……!」

 まさかの行動に慌てて駆け寄り、立ち上がって貰おうてするけれど、どんな身体の仕組みなのか肩も腕もぴくりとも動かない。


「おねえさま、わたくしの事はどうかサリと呼んで下さいませ! ああ、いいえ! ……それよりも! トーマ様が借金を背負ってしまったのは、わたくしのせいなのです!」


「……は?」


「わたくし、一目惚れしたトーマ様を追い掛けて人間界にまで来たのですけれど、食べ物や服を手に入れるにはオカネというものが必要だと知らなかったのです。それで……親切な方が肩代わりしてくれると言うので、言われるまま目に止まった品物全て頂いてしまって……」


「……」

 親切な人……。

 目に止まった品物全て……。


 なんだか一気に疲労感を覚えて顔を覆う。


 ……って言うかサリ様。ソレ確実に親切な人じゃないですからー! 


「……それで……後からお金を請求されて、斗真が肩代わりしたってこと?」


「ええ。そうです。本当なら人間なんて一捻りなのですけれど人間の世界で騒ぎを起こせば、二度とこちらには来られないでしょう?

 それで斗真様を頼ったのです。わたくし人間界に知り合いはいませんから」


 なるほどなるほど。

 ……なんて呑気に納得している場合じゃない。


「……斗真、なんで言わなかったの」


 視線を隣に流して尋ねれば、斗真はちょっと不服そうに唇を尖らせた。


「だってねーちゃん。例えば言ったとしてさぁ、信じなかっただろ? それに俺じゃなくて友達の借金だってのは言ったよ!」


 頭の中で過去を攫って、はぁ、と溜息をつく。


 もっと深く話を聞いてやるべきだったのか。

 いやでも今ならともかく、借用書片手にドラゴン世界で魔王討伐してきた話なんてされても、眉唾もの過ぎて信じられないよな……。

 いや、むしろ「いい加減な事言うな」って前の十倍くらいキレたかもしれない。


 胃も痛いし腹も立つし、自分も退職したばかりで生活もあって、弁護士さんに丸任せだったし。

 ……最後の方は、かなり適当に受け流していた気もするしな……。


 自分の詰めの甘さを今更ながら後悔していると、サリ様がおすおずと声を掛けてきた。


「おねえさま。ですからわたくし魔界に戻って換金出来そうな宝石をちゃんとご用意しました。おねえさまよろしければこちらを」


 そう言ってサリ様が悩ましい胸元から出し、恭しく差し出してきたのは、色とりどりの宝石の原石だった。

 よくそんなに入ってたね!? と聞きたくなる量に思わず食い入るように見つめてしまう。


 ダイヤに混ざって青やら赤やら……ピンクまである。え、あれが噂のピンクダイヤとかじゃないよね?


 輝きの眩しさに目がチカチカする。

 サリ様の小さな両手から零れ落ちそうで、思わず慌ててすぐ近くにいたガザ様を呼んで、引き受けて貰った。さすがに大きな手の平は危なげなくて、ようやくほっとする。

 

 少し考えて、受付の部屋をぐるりと見回して五條さんに助けを求める。おそらく彼が適任だろう。


「五條さん、これ換金出来る伝手とかありますか?」


 本物だとしたなら、例え一粒だとしてもこんなしがないOLが質屋に行ったら確実に通報されそうな大きさなのである。


「ええ、勿論。わが社は手広く事業を広げておりますから」

「じゃあこれ一旦預かって貰えますか? まとめてじゃなく一個ずつ値段出して貰ってくださいね」


 期待していた通りの答えにほっとして、私はガザ様の背中を押した。それにしても、ドラゴンの関連会社ほんと手広いな……。

 変なところで感心してしまった。


 もちろん借金を清算した残りの宝石はお返しすると断ると、サリ様はうふふ、と可愛らしく笑って見せた。

 いや、ホントに可愛い。なんでこんな可愛い子が斗真の事好きなのだろう。

「余った分は、迷惑料として取っておいて下さいませ」

 そう言われても「あ、はい。じゃ遠慮なく」なんて言える訳がない。世の中タダより怖い物はないのである。


 ちゃんと「一旦預かる」ということを強調してから斗真に頼んで五体投地を止めてもらった(まだしていた)。


 ……つまり、私の退職金と貯金は上手くすれば元に戻る訳で……。


「……」


 断然テンションが上がってしまう。

 単純なんて言うなかれ。


 お金、大事。

 心の余裕に繋がるからね!


 とりあえず気になっていたお昼から出勤予定だった一子ちゃんは、五條さんが機転を利かせて、午後からのお客様の予約がないという事で、有休を取るように勧めてくれたらしい。


 電話の向こうで私の様子をしきりに気にしていたと聞いて、話し合いが終わったら、すぐに電話しようとこころにしっかりメモをする。


 一子ちゃんの為にも私は真実を知らねばならない。

 そして今、ドラゴン世界の一番偉いのであろうトモル君もいるし、何より問題の鍵を握っている斗真がいる。

 

「――じゃあ、どういう事か説明して貰いましょうか」


 私はソファに腰を落ち着け(サリ様には断られた)、目の前の三人の顔を見回した。



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