表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/124

第83話 光の糸

◆◇◆◇◆


◇同年同刻 飛騨国

 大原村


「動ける者は仕度を急げ!」


 大原綱義の号令に反応出来たのは、大原に駐留している姉小路軍百五十騎のうち、僅か九騎であった。



 姉小路頼綱が桜洞に帰還したのがこの日の昼過ぎの事、それを察知した遠藤胤俊の手勢は、日中から夕方にかけて三度の襲撃を慣行した。

 その都度、姉小路軍は大原綱義の指揮の元でそれを迎撃し、どうにかこうにか守りきっている。


 とは言え、元は姉小路の兵である。

 見ず知らずの大原を守る義理など、本来は無いのだ。


 いくら主の命令とはいえ、命懸けで大原の為に戦う事程、馬鹿馬鹿しい物はないと思い始めている。


 石島の援軍など来るべきではなかったのだ。そんな愚痴が蔓延する程、姉小路軍はその士気を著しく低下させていた。


(これだけか)


 西の山から立ち昇る一本の煙。

 この正体を確かめる為に山に入ろうとしている訳だが、余りにも人数が集まらないので綱義は焦っていた。


(村の者は既に疲れ切っておる)


 大原村の面々は、敵の襲来から村を守ってくれた姉小路軍の負傷者を手当てする為、日中からずっと駆けずり回っていた。


 中には武器を手に取り戦ってくれた者までいる。


(この人数ではまともな捜索は出来んぞ)


 綱義は焦っていたが、それを気にしない人間が二人いた。


「いいよ綱義くん、行こう!」

「うん、がんばれば大丈夫だよきっと!」


 綱義は、困り顔を二人に向ける。


「お、お二人とも本当に行くのですか?」

「もちろん!」

「あったりまえ~」


 止めても無駄であろうと感じた綱義は、その二名が同行する事を渋々許可した。


「煙の正体が敵軍という可能性もあります。危うい場合はお逃げください」


 その二名とは、佐川優理と平岡瑠依である。


「うん、走って逃げるから任せて!」

「ぴゅ~って逃げちゃうから気にしないでいいよ!」


 綱義が急いで煙の正体を確かめたい理由。佐川優理と平岡瑠依がそれに同行する理由。それは同じである。


「伊藤さんだよきっと、そんな気がする。私達に『来てくれ』って言ってるんだよ」


 何の根拠も確証も無い、佐川優理の希望的観測に過ぎないかもしれない、そんな直感である。その佐川優理の直感を信じ、敵が待ち受けているかもしれない山に入ろうとしているのだ。


 姉小路軍にしてみれば、そんな馬鹿な話はない。


「急ごう。きっと敵に追われてるんだろうし、あの煙で敵も気付いていると思うんだ!」


 佐川優理は、自分の直感に微塵の疑いも抱いていない様子である。


「殿が号令をかけて下さればもう少し動いたのでしょうが、夜になれば煙を見失うやもしれません。行きましょう!」


 綱義は悔しい想いでいっぱいながらも、佐川優理の直感を心の底から信じていた。


 綱義が右手を高く上げる。


「これより伊藤様の捜索に取り掛かる! 上がっている狼煙目がけて突き進め!」

「応!」


 綱義を含めた兵十騎と、優理と瑠依。たった十二人の捜索隊は、東の山間から上がる煙を目指して突き進んだ。



 既に日は傾き、空をオレンジ色に染めている。

 一度山の中に分け入ってしまえば、上がっていた狼煙など見える物ではない。



「こっち!」


 佐川優理の右手には、未来の道具が握られていた。


「その道具は方位が分かるのですか?」


 不思議なその道具は優理の手の中で輝くと、一定の方角に向けて一筋の光の糸を照らし出す。その光の糸は、自分達がどの方向に体を向けようと、一定の方角を指示しているように見てとれる。


「測量して距離と方角を記録させてあるの。山の中だからある程度の誤差は出ると思うけど、だいたいの場所まではコレで行けるはず!」


 綱義には何を言っているのか理解出来ない部分があったが、今はその言葉を無条件で信じる事にしていた。


「優理先輩! こっちの斜面は無理そう!」

「回り道か。るいちゃん、北から回ろう!」


 瑠依は捜索隊から一定距離を先行しながら、進むべき進路を選択していく。当然、その手には優理と同じく、光の糸を照らし出す道具が握られていた。


「りょうかいっ!」


 捜索隊の面々は、ひたすら驚いていた。

 優理と瑠依が持っている道具もそうだが、二人の身体能力にただただ驚くばかりである。


(忍びの者? 石島はくのいちを雇うておられるのか)


 姉小路軍から捜索に参加している者は、だいたいこのような感情を抱いており。


(御二人だけではなかろう、恐らく美紀殿も唯殿も忍び)


 綱義も、石島の屋敷にいる不思議な女性達四人が全員、忍びの者であると確信していた。


 夕日が地平線に吸い込まれ始め、空は東の方から徐々に暗くなってゆく。


「優理先輩! こっちは下っていけそう、ここからにしよう!」

「おっけーるいちゃん! もうだいぶ近づいてるから周囲に気を付けてね!」


 この時代の捜索隊としては、驚異的な速度で目標に接近していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ