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第77話 郡上八幡城へ

■1567年 8月2日昼

 美濃国

 郡上八幡城付近 石島軍



 深夜の打ち合わせ通り、俺達は全軍を率いて郡上八幡城付近へ移動。そこで一旦陣を構えると、遠藤さんからの使者が戻るのを待った。


 先程、一度ここへ来た使者さんが言うには、郡上八幡城には僅かな兵と、遠藤慶隆さんに忠誠を誓う身近な家臣しか残っていない有様だという。


 その状況を、伊藤さんはしきりに心配していた。


「城を出た家臣や兵が気になる」


 ずっとそう言っていた伊藤さんは、使者さんが戻ってくるのを待つ間に周辺の見回りを実施。その最中に農民相手に略奪行為を働いていた遠藤さんの所の脱走兵を発見し、その狼藉者を捕えると、すぐに本陣に戻ってきて全員と打ち合わせをしていた。



 先程、姉小路軍の物見の報告によると、織田信長さんの稲葉山城包囲の知らせに、遠藤さんの軍は殆ど逃げてしまったそうだ。


 使者の方が言っていた事はどうやら本当の事らしい。


「なれば、二手に分かれるのが得策か」


 頼綱さんは難しい表情でいる。


 伊藤さんの懸念は、脱走兵を捕えたことで現実となった。


 斎藤家という美濃の大名が滅びの時を迎えようとしている。

 国が一つ滅びるとなると、大量の失業者が出るのは間違いない。


 その失業者の中には、そのまま野山に潜伏して反抗を続ける者や、山賊に成り下がる者までいるらしいのだ。そうなった場合、俺達の危惧はこの郡上八幡城付近の治安維持、そしてなにより。


「大原の治安ですよね」


 俺達がここにいるという事は、大原は確実に手薄である。


 村の若者で腕が立ちそうな十五人を、軍役として徴集して連れて来てしまっている。今、村に山賊が襲ってこようものなら、誰も抵抗できないのだ。


(屋敷も危ない……)


 ましてや、この郡上における俺の評判は今の所は悪いはずだ。


 恨みを抱いた遠藤家の家臣さんが、城を出てこっそり大原に向うなんて事も想像できる。


「白鳥方面も気になりますね」


 金田さんの心配は、遠藤さんの従兄弟が治めている郡上北西の地だ。郡上の半分を占めるらしいその地は、今回の戦乱に全く関与していないのだ。


「白鳥が未だに動かぬのは、兵が集まらぬからか、織田に下る意思があるからか、それとも別の意思か」


 頼綱さんも心配している。


 今この瞬間まで、俺達は順調に行き過ぎているのだ。


 どこかで歪みが出てもおかしくないと思う。



 そんな心配事をしている時、遠藤さんの使者が戻ってきた。



「恐れながら、我が主の言いによれば、まずは御使者殿を立てられたしとの事。石島様の御登城に関しては、今しばらくお待ち頂きたいとの事で御座います」


(俺は来るなって事かよ)


 使者さんは黙って俯いている。


 俺も納得がいかないが、失礼の無いように発する言葉を探していた。少し沈黙が流れた所で、伊藤さんが助けてくれる。


「御使者殿、一つお伺いしたい。それはご配慮であられるか、それとも他意がお有りか」


 鋭く冷たい声で問いかけた。


 使者の方はその問に、特に慌てる風でもなく「とんでもない」というような顔で答える。


「誠に恥ずかしながら城内定まらず、石島洋太郎様の御登城に関しては安全を保障できないという我が主の配慮で御座います。申し訳のしようも御座いませぬ」


 伊藤さんは少し思案してから、使者の方に条件を述べた。


「そのような場所であれば、我が殿のみならず、こちらの使者が入れぬではありませんか。されば一つ、このようにしては如何か」


 伊藤さんは、使者さんに地図で示しながら。


「我が軍は半数をここへ残し、もう半数を以って郡上八幡城に入ります。兵を入れてしまえば安全は確保されましょう」


 そこまで言うと、使者さんの肩に手を置いた。


「ご苦労とは思いますが、もう一走りお願いします。半数の兵と共に城に入るのは、この伊藤が。我が殿については降伏の条件が整い次第と致しますが、それは慶隆殿が城を出られた後でもよろしゅうござる」


 使者さんは伊藤さんの目をじっと見据える。


「我が主のお心がお分かりになられるのか」


 伊藤さんはニッコリと微笑みを返すと、自身の刀を鞘ごと使者さんに手渡した。


「この伊藤も死ぬ訳にはいきませぬので、安全の為に兵は帯同させて頂きます。然されども、この刀は遠藤殿にお預け致します。伊藤が取りに上がるとお伝えくだされ」


 使者さんの目は、感動で少し潤んでいた。


「伊藤様のお心遣い、しかと、我が主に伝えまする!」


 当初、全員で行くという話になっていたが、相手がいる事なのでそうそう上手くは行かないだろう。伊藤さん一人で行くような事にならなければそれでいいと思った。伊藤さんを守る兵と、綱義くんと綱忠くんが同行すれば大丈夫だろう。


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