第23話 作戦会議
■1567年
飛騨国 山岳地帯
簡易キャンプ
思いがけない二人の登場で、この時代に残ったのは全部で十一人になってしまった。もうすでに出発してしまっていた、生還者コンビと、大森さんの合わせて三人と。
伊藤さん、金田さん、つーくん、俺。
美紀さん、優理、唯ちゃん、瑠依ちゃん。
作戦会議とやらはやり直しらしく、金田さんの発案でとりあえず皆で一緒にランチタイムになった。
昼食を取りながら唯ちゃんと瑠依ちゃんにブツブツと小言を投げかけていた美紀さんは、なんだか少し嬉しそうだ。
「おおひょ~、マジか! すげー!」
唯ちゃんと瑠依ちゃんが転送されてきた場所で、何かを発見した金田さんが変な声を上げる。
「あらホント、こりゃすごいね」
小走りに駆け寄った伊藤さんも、それを見て感心している。
(なんだ?)
つーくんと武士語の使い方について話をしていた俺も、気になって目を向ける。
「あ、気付きました? それ瑠依のお手柄なんですよ~」
瑠依ちゃんはテーブルを離れると、ピョンピョンと撥ねるように伊藤さんの所へたどり着く。
「転送された候補者の皆さんが持っていた物を回収したきたのです!」
言葉にはなかったけど、「えっへん!」と書いてあるようなドヤ顔を見せた。
(瑠依ちゃんて優理に負けないくらい可愛いんだよな。キャラは大分違うけど、あれはあれで妹っぽくていいな)
なんて思いながら視線を優理に向けると、目が合ってしまった。
(……?)
心臓が跳ねる。
「いや、何も! 何も考えてません!」
意味不明に何かを否定する俺を見て、優理はただ不思議そうに首を傾げている。
(ややや、落ち着け俺! ってか、ふと目が合うとか初めてだな。俺の事見てたって事だよな……?)
そんな俺の一大事はともかく、伊藤さんは発見したそれを手に取った。
「八個全部か、これだけで四貫ある。なんか希望が湧いてきた」
伊藤さんは、じゃらじゃらと麻袋を一纏めにして持ち上げる。
「ホントですか? ヤッター! 褒めて下さい、ナデナデしていいですよ?」
瑠依ちゃんは「ほらほら、ナデて? ほらほらっ」と頭を差出しながら楽しそうにしている。
「なんか複雑。褒めたいような、叱りたいような」
伊藤さんは何か考え込むように呟いた後。
「金田くん、代わりにナデナデしといて」
そう言って瑠依ちゃんから逃げるようにテーブルに向った。
「お? 喜んでっ!」
金田さんが瑠依ちゃんに一歩近寄る。
「ぎゃー変態! くるな~~」
瑠依ちゃんは慌てて逃げ出した。
「んなっ? 変態って」
ショックだったのか、金田さんはそのまま固まってしまう。
(ありゃ灰になったね。白くなってる金田さん、真っ白だわ)
みんな笑っていた。
本気で衝撃を受けた様子の金田さんを見ながらコロコロと可愛く笑っている優理に、俺の目線は釘付けになっている。
そこからまた、難しい話あり、楽しい話あり、くだらない話あり。要するに、ただの雑談会が続いた。
しばらくして伊藤さんが、改めて会議をすると言い出した。
メンバーは、伊藤さん、金田さん、つーくん、美紀さん。
確かに、瑠依ちゃんは会議に参加しても意味なさそうだし、意味ないどころか邪魔になりそうだ。唯ちゃんもあまり興味はなさそうだったし、今の優理は伊藤さんの事しか見えていない、ただの恋するバカだ。
俺はちょっと不満だけど、確かに、この人選は頷ける。
頷くと同時に、自分で自分が情けなく、この子供達と同レベルと思われるのが悔しかった。
(まぁ、仕方ないか。そもそもあの四人しか残らない予定だったわけだし)
小屋から会議組が出てきた時には、もう日が傾いていた。
「おっまたせ~」
最初に出てきたのは金田さんだった。
伊藤さんは「ちょっと寝る!」と言ったきり、そのままぶっ倒れたそうだ。仕方ないと思う。昨日、深夜に優理を背負って山道を歩いてきた上に、今日もかなり早起きしていた。
その影響か、ちょっと体調も悪いらしい。多少の寝不足で熱が出るとは、歳は取りたくないと改めて実感する。
今後の事について、それを説明してくれたのはつーくんだった。
「――とゆうわけなんで、皆それぞれ大変だとは思うけど、理解と協力と努力をお願いします! って事で!」
会議で話し合った事のうち、割と簡単な事項だけをドバーッと説明してくれた。この役をわざわざつーくんにやらせたのは、これから中心メンバーの一人として活躍させようとしてる意図があるのだろうか。
まだ聞いてない事も沢山あったけど、それは伊藤さんからって事になっていた。
「金田先輩、どんどん出番なくなっていきますよ?」
つーくんと金田さん、それと俺の三人で、特になんてことない会話が始まっていた。
「ホントっす、ここ何話か出番が数行っす」
つーくんの問いかけに、金田さんは意味の分からない返答をしている。
(会議メンバーなんだから、出番あるでしょうに)
そう思ったので、不満そうな金田さんに問いかけてみる。
「金田さん俺より出番あるでしょう、俺ずっと蚊帳の外ですよ」
ちょっと悔しかったんだ。
「いやいや、会議の中でさ、石島ちゃんはかなり重要なポイントになったわけよ」
(え?)
「そそ、俺達の要になるかもしれない、よーくんはそんなポジションかもね」
(なんで?)
俺なんかより、ずっと頭のいい三人を差し置いて、俺が要になる訳がない。
「主人公って事さ、俺たちゃ脇役ってわけ」
金田さんがなぜか、ちょっと誇らしそうに言った。
「どう考えたって、伊藤さんが主人公って感じじゃない?」
当然そうだと思っていた。だから言ったんだけど、どうも会議の中では全然違う方向になったらしい。
何が可笑しいのか、つーくんが笑う。
「確かに、伊藤さんが主人公っぽいよね、特にモテっぷりがさ」
「あひゃひゃひゃ。ほんと、モテっぷりは敵わねぇよ、ありゃ勇者様レベルだ!」
(つーくんの言う通りだよ……俺なんか超脇役じゃん)
「でもさ」
つーくんが言葉を続ける。
「伊藤さんが自分で言ってた事、言われてみて俺も、金田さんも、美紀さんも、なんとなくわかったよ」
(何を話したんだろうなぁ……気になるなぁ)
ストレートに聞くのが一番だと思った。
「なんて言ってたの?」
つーくんは小さく考え込むような仕草で、言葉を並べていく。
「んー、ちょいと要約するとさ。あの人は縁の下の力持ちが理想なんだってさ。先頭を切って我武者羅に走るのは向いてないんだって」
俺を正面から見て言葉を続ける。
「あの時さ、直感を信じて優理ちゃんの端末吹っ飛ばしたろ? あれ、伊藤さんは絶対出来ないって言ってた」
金田さんも乗って来た。
「俺もできねぇなあれは、あひゃひゃ」
「そ、もちろん俺も出来ない、よーくんだから出来たんだよ」
(あんな行動一つで、俺が主役?)
「めっちゃかっこよかったですよね、あの時のよーくん」
つーくんは俺を褒めると、金田さんに同意を求めた。
そんな時、小屋の戸が開いて伊藤さんが出てきた。
「んー、よく寝た! おはよう地球の諸君!」
伊藤さんは体調が悪いのだろう。見た感じ顔色もあまりよくなく、どうも疲れているように見える。
この日の夜はそれぞれ思い思いに過ごし、特に大きなトラブルに見舞われる事もなく平和に過ぎていった。
この現状を、トラブル中だと言わないのであれば、という大前提ではあるけれど、安息の時はとても有り難い時間となった。