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◆ゲネシスファクトリー 弐 【其々の思惑】

◆◇◆◇◆


◇ゲネシスファクトリー日本支部

 転送広間


「管制室との連絡を怠るなよ!」


 そう叫ぶ男の制服は、選考委員会執行部の中でも特別な腕章が付いており、十名程度の部下を抱える指揮官の証である。


「あらゆる状況に対応出来るようにしておけ!」


 指揮官の周りには同じ制服姿の男達が数名、忙しく端末を操作中だ。


 転送広間に設置された巨大モニターに、時空域最高管制室の管制官が映し出された。


『719号にケースパープルが発令されました。以後、管制室は指揮権を失います!』


「ケースパープル……そこまで逼迫しているのか」


 指揮官の懸念は、事故によるヒストリーの中断ではない。


「あの男を連れ戻さんと、大クレームになりかねん」


『管制室より執行部へ。転送受け入れます!』


 管制官の言葉に、指揮官は素早く反応した。


「離れろっ!」


 指揮官の号令で、転送ポイント周辺に待機していた執行部が散開する。


 直後、転送ポイントに渦巻き状の物が音もなく出現する。


「イテッ!」

「う……吐く……オエェェェ」


「く、不安定なゲートを抜けるのはキツナな」


 転送されてきたのは総勢十四名。

 指揮官はその中に目当ての人物がいない事を瞬時に確認していた。


「クソッ! 残ったか」


 言うなり、自身が手にしている端末を睨みつけた。



 ――ッッツツー ッッツツー



 その端末は転送準備の警報を鳴らしながら、盤面では『準備完了』の文字が明々と点滅している。


(行くのか? たかが顧客のクレームを抑え込む為に……。組織の為に人生を賭けるのか?)


 指揮官の手は、若干震えていた。



『どけ!』


 巨大モニターに映し出されていた管制官を押しのけるように、初老の男が割って入る。


『美紀は!? 美紀はどうしたっ!?』


 広間からの応答はない。



「あれ……優理は? ねぇ更紗、優理は?」


 最初に口を開いたのは、転送されてきたサポートの中では年長の女だった。その言葉に、一番近くにいた更紗と呼ばれた女も当りを見回す。


「いないですね、あと六班の石島さんも……」


 そんな二人の女のやり取りに気付いた一人の少女が、同時に転送されてきた候補者を一人一人回って何かを回収し始めた。


 その少女の行動を見た別の少女は、指揮官の持っている端末に気付き、巨大モニターに向って叫んだ。


「パパっ! パパっ!」


 程なくして、巨大モニターに最高管制室の責任者が映し出された。


『……行くのか』


 責任者は言葉短く、一言だけを返した。

 少女は小さく頷き、はっきりと言葉を投げ返す。


「私達、本当の双子みたいなものだし、離れ離れなんて無理だよ」


 両目いっぱいに涙を溜め、今にも泣きそうな声で責任者に語りかける。


「それにさ、私も一緒ならさ、パパも叔父様に言い訳しやすいでしょ?」


 涙声ながら精一杯明るい声を出した少女、その少女を見る責任者の目は、同じように潤んでいた。


『バカを言うな』


 責任者は、苦笑混じりに短い言葉を発した後、管制室のメインモニターに表示されている数値を確認する。


『だがな、お前の意思を尊重する。ママに叱られる役は私が引き受けよう』


 その言葉に少女はニッコリと笑って頷いた。

 その様子に責任者は強い決意を持って応える。


『必ず見つけ出す、必ず。あと三十秒だ、意思を貫くならば急げ』


 それだけ言って巨大モニターから姿を消した。


「唯先輩! 全部集めた!」


 早口で叫ぶ少女の両手には、手の平サイズの小さい麻袋と、ショルダーバッグのような袋が幾つかぶら下がっている。


 唯先輩と呼ばれた少女はそれを確認すると、広場にいた執行部指揮官の元へ歩み寄る。


「すいません、借ります!」


 言うなり強引に端末を奪い取り、袋をぶら下げた少女と共に転送ポイントに駆け出した。


「ま、待て! 何をする気だ!」


 少女二人は転送ポイントに到着すると、執行部指揮官の言葉を無視するように、その場にいた女性に声をかける。


「明日香先輩、みんなさん、行ってきます!」


 言うのとほぼ同時だった。



 ――ィィィィリリリリ



 甲高い音が広間に響き渡る。


『時空域切除まで残り十秒!』


 管制室から時空域を切断するカウントダウンが入る。


「明日香先輩……」


 更紗と呼ばれた女が、茫然とする女に声をかけ、その背に優しく手を添える。


「美紀ごめん、バカがそっち行っちゃった」


 明日香先輩と呼ばれた女は、渦巻きの消えた虚空へ向けて呟いた。

 そして、転送広間に管制官の声が響く。


『時空域切断します!』

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