表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/124

第18話 ケースレッド

■一五六七年

 飛騨国 山岳地帯

 簡易キャンプ


 この時代では絶対にありえないだろう電子音の警報が、よく晴れた空に響き渡っていた。



 ――ピュイピュイピュイピュイ



「優理、瑠依、緊急回線準備! 先行スタッフに連絡を取れ!」

「はいっ!」


 美紀さんの反応はすごく早い。こうゆう人を危機管理能力が高いと言うのかもしれない。


「明日香、更紗! 時空域測定!」

「はい! やってます!」


 二人の子は、美紀さんの指示の前にやるべき事を察知して動いていた。


(かっこいいなぁ)


 俺はそんな感じで他人事のように眺めていたが、候補者の中にはこの警報に慌てている人もいる。それでも当然のように、俺の周りの三人は余裕たっぷりだ。


「瑞穂、佳織、唯! 万一に備えて転送準備急げっ!」

「はい!」


 警報は鳴りやまない。

 しばらくして、明日香ちゃんが叫んだ。


「時空域干渉レベル2、肥大しています!」

「レベル2……? 更紗!」


 直後、更紗ちゃんが悲鳴に近い声を上げる。


「少し待ってください! 計測完了まで残り八秒!」


「六!」

「五!」

「四」

「三」

「二」

「い……ち?」


 カウントダウンする更紗ちゃんの顔が、徐々に青ざめていくのがわかった。


「更紗!」


 美紀さんが叫ぶ。


「は、はい! ゲート周辺に別の時空域が発生中です! このままではゲートごと融合します!」


「別の時空域? なんで……」


 美紀さんの顔も青ざめている。




 ――ピュイピュイピュイピュイ




「これって、大変なんすかね?」


 小声で尋ねた金田さんに、伊藤さんは特に興味が無さそうな感じに返答した。


「だろうねぇ、忙しそうだし」


 そこまで言うと、チラッと金田さんのほう見て言葉を続けた。


「なんかさ、ピンチ度的には『武田信玄が動いたぞ~!』って感じだよね」


 笑いながら、俺には分からない冗談を言ったようだ。

 伊藤さんの言葉を受け、金田さんの表情はパッっと明るくなる。


「先輩!? いける口じゃないっすか、まさにそんな感じっすね! てか、なんで今まで黙ってたんすか? かなりいける口っすよね!?」


 真面目にびっくりしている様子で、伊藤さんに食いついていた。




 ――ピュイピュイピュイピュイ



 相変わらず鳴り続ける警報に、その緊張感は候補者たちにも張り詰めていた。


「美紀ねぇ、だめ、つながらない! もうコッチにいないみたい!」


 小屋から飛び出してきた瑠依ちゃんが叫んだ。

 先行スタッフさんとの連絡が付かないらしい。


「いない? なんで……」


 美紀さんは数秒考えたが、すぐに結論に達したようだ。この速さ、俺もこんな風に高速回転で考えを巡らせたい物だと、妙に感心していた。




 ――ピュイピュイピュイピュイ

  ――パーッ パーッ パーッ



 甲高い警報に、何か別の音が混じりはじめた。

 ほぼ同時に明日香ちゃんが叫ぶ。


「さらにゲート肥大、レベル3に到達します! このまま融合したらトンネル化します!」


 明日香ちゃんの叫びを聞いた美紀さんは、自らの端末を起動した。


「更紗! 融合までの時間は!」


 端末を操作しながら美紀さんが問いかける。


「約九百秒を表示していますが正確には測れません! 測定レベルMAXですが最大誤差百五十秒程かと思います!」


 更紗ちゃんの返答も迅速で、このやり取りは聞いてて気持ちがいい。


「どうにか十分以上、ありそうね」


 美紀さんは苦しそうな表情を見せると、端末を忙しそうに操作し始めた。


 美紀さんの端末が今まで聞いたことの無い音を発した。


「来て……お願い!」


 美紀さんは端末に向って祈るように声をかけている。


 二つの音が混ざり合う警報は、更なる緊迫感を演出していた。



「こりゃただ事じゃねーっすね」


 流石の金田さんも表情を硬くする。


「にしてもコレ煩いね、もうわかったっての」


 ひたすら鳴りやまない警報に、伊藤さんがケチをつける。



「きたっ!」


 美紀さんの端末から別の電子音がすると、美紀さんが歓喜の混ざった声を上げた。


『リンク完了、こちら時空域最高管制室。現状報告は不要、ケースレッド発令中。繰り返す、ケースレッド発令中』


「嘘でしょっ!?」


 端末から発された声に、美紀さんの顔から血の気が引いていくのが伝わってきた。


「瑠依、明日香、更紗、優理!」

「はい!」


 俺達にはよく分からない、この緊迫した状況に、瑠依ちゃんは少し泣きそうな顔で応答していた。


「私の端末以外は全て転送準備を開始! 急げよ!」

「はい!」


 今にも爆発しそうな緊張感の中、女の子たちが一斉にタブレット端末を手にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ