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第118話 雪中行軍

■1569年 1月7日早朝

 美濃国

 郡上八幡城 石島家



「とりあえず出れる人から出よう!」

「ハッ!」


 俺の命令に力強く頷いた綱忠くんが、配下の兵を纏めて城門へ向かう。


 昨年十月に岐阜へ凱旋した織田信長さんは、見事に上洛を果たし日本中にその名を知らしめた。


 ところが、年明け早々に畿内の敵対勢力が蜂起し、せっかく京都に据えてきた足利将軍さんを襲っているというのだ。



 陣太鼓が鳴り響く。

 それを合図に城門が開き、百五十騎程度の一隊が綱忠くんを先頭に郡上八幡城を飛び出した。


 俺はその中腹を進んでいる。


 織田信長さんの元に急使が到着したのが昨日、一月六日。

 即断した信長さんから出陣要請が届いたのが同日の夜遅くである。


 正月という事で伊藤さんや優理、瑠依ちゃんとお栄ちゃんが郡上八幡城に来てたのが幸いした。

 伊藤さんは優理と瑠依ちゃんにある程度の事後を任せると、北西部の綱義くんに指示を出した直後に鉄砲玉のように城を飛び出して岐阜に向った。


 先行理由は道中の整備である。


 ろくに軍足の整わない中、とりあえずお城勤めをしていた男衆二十人程を引き連れ、城下で更に人を集めて岐阜までの道のりで雪かきをしてくれる事になっている。



 俺と綱義くんはその翌日、一月七日早朝、たった今城を出たところだ。既に岐阜を出発したであろう信長さんの本隊を追って、大急ぎで京都へ向かう。


 俺達に追いつけるかわからないが、北西部の綱義くんと遠藤慶胤も兵を率いて後から合流予定である。


 何より今回のこの出陣は「全力で最高速度で出陣する」事に価値があるのだ。もちろん俺の考えではなく、伊藤さんの考えだ。


 伊藤さん自身、史実の記憶は細かい部分まで明確ではなく、今回の出陣は予定外だったそうだ。にも拘らず、この出陣が何を最善とするか瞬時に判断したのには、それを確信できるだけの知識があっての事だろう。


 今まさに起きている京都での足利将軍さん襲撃事件は、織田信長さんが到着する前に収束するらしい。


 ただ、事の重大さに美濃各地へ出陣命令を下した織田信長さんの意向に対し、俺達は何処までも従順に対応しなくてはならない。他の誰よりも、どんな山奥からだろうと全力で駆けつける姿勢を見せる為の出陣なのだ。


 行軍は困難を極めた。


 先行した伊藤さん達が疲労困憊で豪雪と闘っている現場に、俺達が合流したのはその日の昼頃。


 一緒に雪をかき分けながら進んでいた所へ、夕方には綱義くんと慶胤くんが北西部の兵二百騎と、俺達が出発した後に集まった郡上八幡の兵百騎が合流。


 総勢約五百騎なった俺達は代わる代わる雪かきに挑み、その日の夜には山岳地を抜けて平地へ出た。

 当然ながら疲れ切っていたのでその夜はゆっくりと休み、翌早朝には織田信長さんを追って京都へ向かう。



 まだ夜が明けきる前、白み始めた空に薄明かりが差し始めた頃に伝令さんが飛び込んできた。


「申し上げます! 稲葉良道様の手の者が参りました!」


 その声とほぼ同時に俺の視界に飛び込んできたのは、甲冑を身に纏った逞しい姿んのつーくんであった。


「石島の殿、お久しぶりで御座います!」


 笑顔で手を振ってくれたつーくんを見て、寒さで悴む手も、凍りそうな鼻水も、どうでもよくなった。


「久しぶり!」


 俺とつーくんはがっちりと抱き合った。

 甲冑がガシャリと音を立てる。


「稲葉のお殿様がこの先の赤坂で陣を張られております、共に京へ参りましょう!」


 話したい事は山ほどある、でも今は急がないといけないのだ。

 そんな事、つーくんだって百も承知だろう。


「有難う御座います! 稲葉様には直に追いつきますとお伝えください!」


 俺達は互いに深く頷き合った。

 懐かしく、温かく、頼もしい。


「承知いたした!」


 返事を言い終えたつーくんはサッと背を向けると、疾風のように去っていく。その背を見送りきる前に、俺は無意識のうちに号令を飛ばしていた。


「全軍出発です! 稲葉隊に追いつきますよ!」


 そこから先も当然雪はあったが、郡上のように深く積もったりはしていない。その後、稲葉隊と合流しながらも速度を緩める事なく、俺達は京都へ向かって邁進した。



 後で知った事なのだが、織田信長さんは通常なら急いでも三日程度かかる岐阜から京までの道のりを、大雪が降る中にも拘らず僅か二日で駆け抜けたらしい。


 道中で凍死者が出る程の過酷な行軍になったそうだ。


 織田信長さんに遅れる事二日、俺達を含めた織田軍が続々と集結。既に足利将軍さんの安全は確保されていたので事なきを得たって感じだったのだが、織田信長さんは俺達の到着にすこぶる上機嫌だそうだ。


 織田家生え抜きの武将達に混ざって到着した美濃衆は、稲葉隊と石島隊だけだったからだろうか。

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