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④ チームメイトは美少女だった。

 

 4


 長い金の髪。やや切れ長の金茶の瞳。それに影をつくる長い睫毛。ほのかに桃色に染まる頬。桜色の唇。上等な生地の白いブラウスと青地のズボンから伸びるしなやかな手足。

 美少女・・・確かに、美少女だ。

 あまりにも最近見かけない単語ではあったが、それ以外シックリとくる言葉が見つからないのだから仕方がない。

 そんな、美少女って生物に、食堂の入口でオレ達は呼び止められた。


「・・・・ラディス・ユディット?」


 桜色の唇から、オレの名が呟かれる。

 オレを一瞥し、視線がオッズに向けられる。一瞬だけ、オッズが身体を強張らせたような気がしたが、すぐにヘラりと表情を崩し、


「そそ、待ち望んだ、ラディス・ユディットその人だぜ」


 と、おどけてそう言い、突き出すようにオレを押し出した。


「ちょ、おい、オッズっ」


 バタバタと暴れるも力ずくで両肩を押さえられ身動きが出来ない。そんなオレを値踏みするかのように、目の前にいる美少女の瞳がつぃ、と、細められた。


「・・・・初めまして」

「は、はじめまして」


 どこかぎこちない笑みを浮かべ、差し出された右手。握手を求められているのだと、気付きその手を握り返す。

 オッズは後ろで沈黙してるし、助け舟を出してくれる気はないらしい。

 しかたなく、もう一度目の前の美少女という生き物を眺める。

 整った顔立ちに、均等の取れた華奢な体。心なしか胸の辺りは・・・・ぺったん。はっ、何言ってるんだオレ!バカ!落ち着け、とりあえず、落ち着け!・・・深呼吸よ、ラディス!・・・よし、落ち着いた。

 えーと、腰に下げたベルトには逆三角のホルダーがついているが、中には何も入っていないようだ。ここにいるってことはセラフィメンズの生徒で・・・そしてオレに話し掛けてくるってことは・・・・―――誰?


「えっと・・・あんたは―――」

「・・・・いきなり呼び止めたことに関しては御容赦下さい御挨拶が送れましたがワタクシはニネ・マジュヌーン=セルクと申すもので以後オッズ・メルカーバ様、ラディス・ユディット様の両名とチームを共にする者ですのでチームの変更が行われるまでどうぞよろしく御願い致します」

「―――――・・・うぉ」


 口早に淡々と、まるで表情を変えることなく一気に喋り倒す。口を挟む隙がない上に、ジッと、この金茶の眼で睨みつけられると・・・ああ、なるほど、身体が強張るかも・・・。


「ニネさん、ニネさん、ラディスが呆気にとられとんぞ」

「・・・・・・・それは失礼致しました」

「普通でいいじゃん、普通で。なぁ、普通にいこうぜ、ニネ」


 そうオッズに言われて、美少女――ニネ・マジュヌーン=セルクは、考え込む様子を見せる。


「ニネの敬語って絶対に心臓に悪いしさー」


 ケラケラと笑うオッズの言葉で決意したのか、桜色の唇を開く。


「・・・不躾だとは思いますが、ラディス・ユディット様にお願いが御座います」

「はっ、はい?」

「以後ニネ・マジュヌーン=セルクと同チームであると言うことを御忘れください」


 そう何の感情もこもらない台詞をさらりと述べた。


「―――――・・・・は?」

「ここではワタクシも貴族の娘としての対応を一切いたしませんしそちらにも期待しておりませんから出来る限りただの平均種(コモン)として、人として、その扱いを望みます」

「えっ?・・・ん、っあ!貴族・・・!セルク!あーッ!」


 セラフィム王家縁の貴族!直々に王に仕えている四方貴族のセルク家か!道理で聞いた事があると思った!

 さすがに「セルク」「ヴォルヴァ」「コールガダヴェル」「サァーオーン」の四方貴族の名前は、セフィロトの地に生きるヒトならば知らぬはずが無い。なにせ、この王都セラフィムを守るようにその広大な領地が広がっているのだから。


「・・・御願い出来ますでしょうか?」

「えーと、つまり普通にやりゃいいってことだろ?オレも、アンタも」


 セルク家の御令嬢は控え目に頷いた。


「分かった。じゃあ、・・・えーと、ニネでいいのかな?」


 オレのカワイイ疑問詞は、やや吊り上がり気味の目が肯定する。


「ええ。ニネでいいわ」


 ガラリ、とまではいかないが、その台詞は今までの口調とは異なり、ひどく酷薄な感じのするものだった。

 いや、そうじゃない。・・・その酷薄な感じは、敬語らしい言葉を使っている時からヒシヒシと感じていたのだが・・・息継ぎをせずに早口に言葉を紡ぐもんだから、そっちに意識が向いていただけだ。

 そして今、一切の無駄な言葉を省いた。それだけで、こんなにも・・・


「・・・・あ、は、ハハハ・・・・おっし、ニネな、ニネ。オレは―――」

「ラディスでいいわね」

「・・・・はい」

「あなたの到着を心から喜ぶわ。足を引っ張らない限りね」


 言葉の鷹揚は相変わらずないまま、ニネ・マジュヌーン=セルクはそう言い放って、口角を少しだけ吊り上げた。その笑みのなんと、邪悪なこと・・・・。

 ・・・・・末恐ろしいのが、チームメイトにいたんだね、と、会って間もないオッズと視線だけで仲良く会話が出来てしまうほどに、怯えたオレたちであった。


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