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③ チームメイトはヤバい人だった。

 3


 部屋の鍵を受けとり受付を後にしたオレは、パンフレットを頼りに寮に行くことにした。

 学園内を適当にうろつく事も考えたのだが、あんな危険な植物や蝶が飛び交うような場所が他にもないとは限らない。そういうことを考慮した上、さっさと部屋にこもるのが最良の手段だと判断したわけだ。

 そして、オレの足は迷うことなく寮のある3号館に向かっていた。

 いや、道には迷ったんだけどな・・・まぁ、その辺は学生と思しき人とかに訊いて、あとは建物が見えてきたら、そのまま直進しただけなのだが。意外に普通の人がいてよかった。

 全員が全員、あの勇者男のような人ばかりだったら首を吊った方がマシかもしれないな・・・なんて悲観的になっていたんだが、その必要はなさそうだ。

 よかった、よかった。・・・よかったついでに、今後の生き残る術を考えていると、いつの間にか、オレの足は寮の玄関側まで来たわけだが・・・。


「―――は、い?」


 その寮の外観ときたら・・・薄汚れた壁にやけに青々としたツタが這っている。風が吹くたび、窓がガタガタ揺れ、むしろ建物自体も揺れているような気がする。

 いわゆる幽霊屋敷のような所だ。

 ・・・欠陥住宅?いや、まぁ・・・・雨と風とが防げれば文句は言いませんけどね。ただ、ちょっと期待してた自分もいるわけで、なんだかとっても裏切られた気分だったり。

 ハァ、と溜め息をもらし、その幽霊屋敷さながらの寮に足を踏み込んだわけであった。


 実際問題、思っていたほど内装は酷くない。照明が切れかかっているところとかが一つあるくらいで、掃除は行き届いているし、時折楽しそうな笑い声も聞こえる。予想に反して、蜘蛛の巣もなけりゃ、人の叫び声も聞こえてこない。どうやら中は普通の寮のようだった。

 ざっと見渡すと、一階はどうやら100番台の部屋があるらしいことがわかる。そうなると、オレの部屋は204だから―――二階か。軽い足取りで階段を駆け上がり、部屋の番号を探す。

 200、201・・・・―――あった。

 204。ドアに彫られた部屋の番号を確認し、受付でもらった鍵を使い開く。確かな手ごたえの後ドアノブを右に回した。―――が、開かない。左に回しても開かない。


「あれ?」


 鍵が壊れているのかと、もう一度鍵を差し込みカチリと音がするまでまわす。すると、今度は簡単にドアノブが回った。・・・どうやら、最初っから鍵は開いていたらしい。

 閉め忘れならば、無用心な。と、言うところだが、ここは天下のセラフィメンズ学園の寮―――何が用心で、何が無用心なのか、よく分からない場所である。

 とにかく、ここがオレの部屋である事は間違いなさそうなので、恐る恐るではあるが、ドアをゆっくり開いた。


「お邪魔しますー」


 そう言って中を覗き込む。まず見えたのが泥だらけの狭い通路。その通路の先に開けた部屋。奥にはドアを開けたら丸見えの二段ベッドが見えた。


「オッズ・メルカーバさん、いますか?」


 とりあえず一歩だけ、部屋に足を踏み込む。間違いなくヒトの気配は奥の部屋にあるようだった。

 そして、思った通り・・・オレの声に気付いた男が、この狭い部屋の通路に顔を出す。

 真っ赤な髪を短く刈り込んだ精悍な顔付きの・・・何故か上半身ハダカの男だった。


「・・・・・んぁ?」


 しかし、引き締まった筋肉を惜しげもなく晒し――腹筋なんぞ綺麗に六つに割れている――やる気のない声とともに、オレの方に視線だけ向けた。

 ボリボリと首を掻きながら、床に落ちていた服を蹴り上げ、空中で草色の服をキャッチする。どうやら、着替え中だったらしい。


「スイマセン、着替え中のところ・・・あの――」


 オレがそう言って頭を下げると、上半身ハダカだったことを思い出したのか、


「―――あ。・・・・・・・いやぁ~ん、エッチっ☆」


 と、無駄のない筋肉で固められた胸を両手で隠しながら、言い放った。しかも、バチンッと、ウインク

まで飛ばす始末。

 ・・・・交錯する、奇怪な生物の赤い目と、オレの清流のように澄んだ青い目。


「――――――・・・・・・・」


 バタンッ。

 何も見なかったことにして、オレは思いっきり力いっぱい204の扉を閉ざした。


「見なかった。何も見なかった。何もいなかった。オレは、何も見ていない。――よし!」


 精神の回復呪文を唱えながら、そしてもう一度、物凄い速さで手渡された部屋の案内が書かれた資料と、部屋の番号と照合する。

 パンフレットに書かれている数字は『204』。

 目の前の部屋に彫られている数字は『204』。

 ・・・再度確認したが、プリントミスでない限りオレの部屋の番号は204で間違いなかった。しかし、無理矢理自分を納得させる為、あらゆる方向から番号を読もうとする――が、どう頑張っても204と言う番号を別の番号に置き換えるのは無理そうである。

 と、いうか、部屋のドアの右上に、


『RX11990899/オッズ・メルカーバ』

『SA12010108/ラディス・ユディット』


 と、木のプレートにバッチリ記入されているあたり、どうすることも出来ないと分かっていたのだが・・・ハッ、そうか!部屋にいたヤツが『オッズ』というヒトじゃなければいい!そうだ、部屋を間違えている可能性だってある!いや、オレの目が疲れて幻覚を見たのかも!きっとそうだ!そう願おう!これ以上オレの周りに変人はいらない!

 危なく声に出しそうになる衝動を抑え、小さくガッツポーズをとる。一体、何に対してのポーズだったのかもよく分からないが、脳内で何かに打ち勝ったらしいことは確かだ。


「とにかく確認を・・・――」


 部屋の中の生物が『オッズ』と言うヒトなのかどうか、確認を取る為に再度、恐る恐るドアノブに手をかけるが、・・・――ガチャッ、

 とオレが回すより先にノブが動いた。


「ぶぐっ―――――――!」


 勢いよく先に開かれたドアが、オレの額にクリーンヒットした。予想外の奇襲にデコを両手で抑えて、しゃがみ込んだ。物凄くデコが痛い。恐らく真っ赤になっていることだろう。・・・・などと、冷静に分析してみるが、痛い事にはかわりはない。


「あ、悪ぃ・・・大丈夫か?」


 申し訳なさそうな声に顔を上げる。ドアを開けたのも、この声の主も、見間違えることはない。この部屋の中にいた赤い髪の変態さんだ。ただし、今はちゃんと服を着ている。


「えーと、あの、オッズ・メルカーバさん、じゃ・・・ない、ですよね・・・?」


 ジンジンする額のことは一先ず忘れる事にして、目の前の男に一言だけ尋ねる。否定してもらいたくて仕方ない質問の仕方だが・・・この際しかたない、と思う。


「おぅ?なんでオレの名前を?・・・はっ、まさかおれのファン!?いや、でも、男なんぞがファンについても、嬉しくもおもしろくもなんともねぇしな・・・すまん」

「・・・いや、謝られても。だいたい、そうじゃなくて」

「なに違う?・・・じゃあ、おれの才能を妬んだ刺客か!?いやぁ、確かに、自分で言うのもなんだが、この学園でおれほどの力の持ち主はほかにいないしな・・・フフフ、わかる、わかるぞ、暗殺者くん」


 ご満悦、という言葉がピッタリな顔をして、オッズ・メルカーバだとハッキリしてしまった赤毛の変態サンは、ポンポンとオレの両肩を正面から叩く。


「いや、違うし」

「な、なにー?!そんな、立派な黒ずくめで違うと言うか?!それ以外にピッタリの職業ってないだろう!?その気配の消し方、身のこなし、おれを狙うその目つき・・・・はっ?!まさか、おれの体が目当てなん――!」


 ピタリ、と言葉が止む。他でもない、オレが止ませたのだけれど。


「・・・・・・・・とりあえず、冗談はそこまでにしよう。オッズ・メルカーバさん。でないと、ホントにサックリ殺しちゃうかも」

「冗談、お嫌い?」


 咽喉仏に突きつけたナイフを持ってしても、どうやらこのヒトを黙らすことはできなさそうだ。ハァ、と溜め息を吐いて、抜き放ったナイフをジャケットの内側に収めた。


「とりあえず、オレの話も聞いてください」

「ホントに暗殺者じゃないのか?ずいぶんと、手癖が悪ぃみたいだけど?」

「だから違うって。オレは、ラディス・ユディット。今日から、同室に――」

「ラッ、ラディィィィス・ユディットォォォオオオォォォオオッッッッツ?!」


 ドアの横にかけてある木のプレートの名前と、オレの顔を交互に見やり、叫んだ。


「あ、ああ」

「んだよ、それなら早く言えよ!ラディス・ユディットって、これだろ?おれのルームメイト&チームメイトだろ?!いや、まじ、このまま来なかったらどうしようかと思ってたんだ!いや、よかった、よかった!」


 オレの手を引っ掴み、ブンブンと上下に振り回す。さっきまでの態度とは打って変わって、涙まで流す歓迎ぶりだ。・・・・テンション、高い・・・。ついてけない。遠巻きに他の部屋から感じる視線が痛い。見てないで助けて欲しい。


「部屋にプレート出てからもう一ヶ月経つしよ、もしかしたら途中で事故にまきこまれちゃったのかって、おれ心配で心配で・・・このまま、チームメイト&ルームメイトを顔も見ないまま亡くすのかと思ったら・・・うう、無事でよかったー」


 目に溜まった涙を、腕で拭い去ると、なにを思ったか両手を広げる。それは、あれですか、この胸に飛び込んで来い的なナニかですか?

 じり、っと、後ろに下がり、相手の様子を見つつ、


「一ヶ月かけて、王都まで出てきたんで・・・何してたって言われると、歩いてた・・・かな」


 とりあえず、あの親父の手紙を見てからすぐに家を出たし、寄り道もしなかったって言ったら嘘になるけど、まぁ、人の足でくるなら、むしろ早い方だろう。


「そ、そっか。それは・・・たいへんだったな」


 おお、あんまりに予想しなかった答えが出てきて、戸惑ってる、戸惑ってる。広げた腕も結局行き場を無くして、ズボンのポケットに突っ込んでるし・・・これは、オレの勝ちだな。


「・・・・そーいや、部屋があるのに外で話すのはなんだな、上がれ・・・――って言うのも変だな、同室なんだし。こういうときってなんていえばいいんだ?おかえり?ようこそ?いらっしゃい?・・・・あー、何がいい?」

「別に、なんでもいいんじゃ・・・」

「いや、こう言うのははじめが肝心って言うし」


 はじめも何も、のっけからアナタの事を変態だと思いましたが・・・――と、いうのは口には出さず、とりあえず作り笑いを浮かべておいたオレ。なんたる優しさだろう。相手は、いきなりオレの事を暗殺者扱いしやがったのに・・・。

 しっかし、いきなり悩みはじめたと思ったら、いきなりオレに振ってくる。どこかに似たようなタイプのヤツがいたような気がするが・・・・・いやいや、考えたら負けだ。ということで、オレは、負けない!


「うーん、こう、なんていうか、イイセリフが思いつかねぇな。――・・・あっ」


 ポン、と手を叩く。


「こう言うときは、まず挨拶からだよな!おれとしたことが、すっかり忘れてたぜ。これからよろしく頼むぜ!ルームメイトでチームメイトのラディス・ユディットくん!」


 そう言って、その赤毛の男は、よく焼けた褐色の右手を差し出した。

 悪気はないことは分かっているのだが、この手を握り返したら何か大切なものを失う気がして握り返すのを1分くらい躊躇ったのは言うまでもない。


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