石の国
ぼん「お、確かあそこは」
山に囲まれた盆地にある国は、トコイワ皇が治める石の国。
網目のような川の集まりの、ちょうど中央に見える砂鉄の迷宮がその証です。
ぼん「懐かしいなあ。僕はここで意志を鍛えたんだ」
ぽん「ふーん」
ぼん「ちょうどいい!あなたさんにも、あの迷宮に挑戦してもらいましょう」
ぽん「ぷちめんどー」
それ以前に、幼いぽんちゃんには危険では?
ぼん「僕は妹を甘やかしはしない!優しくも厳しい姉なのです!」
ぽん「えー」
まあ、きちんとお勉強を教えているところだけはそうですね。
ぼん「だけはって、ぷちひどー」ぷくー
ぽん「ほんとは勉強もしたくありません」ごろごろ
ぼん「さ、行くよ」
ぽん「やだなあ」
きゃー!たつまきがー!たすけてよー!
ぼん(降りるのに一時間もかかるとは)
ぽん(竜巻を起こすからだよ……)ねむねむ
ぼん(ほら、しゃんとしなさい)
ぽん(その前にお腹空いた)く~
ぼん(もう、仕方ないんだから)
コンビニエンスへようこそストアー。
ぽん(スパイスササミください)
石頭(こいつ……心に直接語りかけてきやがった!)
ここは、心の声がだだ漏れの国ですから当然です。
石頭(うん。知ってる)
ぽん(でっかい岩だなー)
この国の住民のほとんどが岩石で、子供が石、大人になると彼のように岩に、そしてお年寄りになると巌になるのです。
ぽん(いわおって、あの自動ドアを壊して棚をしっちゃかめっちゃかにしてるあれ?)
そうです。
苔が多いほど立派なんですよ。
ぽん(なんか汚い)
心が声をお漏らしです。
気を付けなさい。
ぽん(この国めんどー)
石頭(はい。スパイスササミ)
ぽん(ありがとう)
まいどありがてーん。
ぽん(ぎゃっ!これ砂だ!ぺぺっ!ぷっーぷっぷっぺぺー!)
この国の住民のご飯といえば、砂利が最も有名ですからね。
ぽん(先に言ってよね!あーもう、あれしてやる!)
訴えてやりたいのでしょうがそれは無理です。
なぜなら、この国だけの特別なお店ですから。
ぽん(くそー!やられたー!)じだんだ
小石くん(おいしそうだな……)
ぽん(はい)
小石くん(え!どうして!?いいの!?)
ぽん(心の声漏れまくり。それと僕は石じゃないからいいの)
小石くん(ありがとう!)ずざざ!
ぽん(地面の上を滑ってる……そうだ!)
ぽんちゃん、近くにいらした巌の上によじ登る。
ぽん(らくちん)ちょこん
厳格(失礼とは思わんのかね)
ぽん(ぷち)
厳格(どちらかね)
ぽん(どっちもです)
厳格(ところで、あのボートは君達のかね)
ぽん(うん)
厳格(そうか。それで、どこかへ行きたいのかね)
ぽん(砂鉄の迷宮)
厳格(ほう。なぜ君のような子供が)
ぽん(お姉ちゃんが厳しいから)
厳格(それで、そのお姉ちゃんは?一緒じゃないのかね)
ぽん(そう言えばどこだろう)
崩れた砂のお家を、全方位からゴリゴリと責められて建て直しています。
ぽん(楽しそう)
ぼん(砂遊びじゃないんだからね!ジェノスピータン改、あとはお願い!)
ぽん(おつかれ)
ぼん(あーひどい目にあった)よじよじ
国民が。
ぼん(お腹は満たされた?)
ぽん(全然)
ぼん(じゃ、ご褒美としてササミパーティーを用意しましょう)
ぽん(おお!)
ぼん(頑張れるかな?)
ぽん(ぷち頑張っちゃう!)
ぽんちゃん、やる気満満(ウー)マンに変身です。
ぽん(お?)
ぼん(気になるよね。家々にあるあの宝石は、催合象というんだよ)
この国の男女が結婚する時に、初めての共同作業で作るものです。
ぽん(もやいぞうほしいなー)
いけません。
ぽん(じゃ、作る)
それもできません。
ぼん(結婚する男女にしか許されないから)
ぽん(そう)
厳格(ワシのでよければやろう)
ぽん(本当!?)
厳格(ワシは今、独り身だ。記念にあげよう)
ぼん(いえいえそんな)
厳格(いい。人間好きな婆さんも喜ぶ)
ぼん(あれ、もしかしてそのお婆さん)
厳格(思い出してくれたかね)
ぼん(お久しぶりです!思い出しました!)
ぽん(お姉ちゃん、知り合いだったんだ)
ぼん(まったく見分けつかなかったなー)
厳格(君たちにとってはそうだろうね。構わなくていい)
ぼん(あのね。厳格さんと花尾さんはね、僕が初めてこの国に訪れた時に案内してくれた、親切な巌さんなんだよ)
ぽん(へえ)
ぼん(あ、この欠けたところ、僕が足を滑らせて削ったところだ!懐かしいなー!)うきうき
ぽん(ぷちひど)
ぼん(あなたさんは足を滑らさないように気を付けてね)
ぽん(うん、あ)がりっ
ぼん(ちょっと)
ぽん(厳格さんが揺らすからだよ)
厳格(構わなくていい)
ぼん(すみません)
厳格(いい。それよりも、おしりの方へ降りてごらん)
ぽん(あ)がりりっ
ぼん(ゆっくり降りなさい!)あわわ
ぽん(はーい)がりごり
ぼん(すごい削れてる……)どきどき
厳格(歳だから構わなくていい)
ぽん(あ!催合象が刺さってる!)ずぽっ
厳格(いつか、刺さってね。さあ持ってお行き)
ぽん(うん!ありがとう!)
厳格(案内もここまでだ。またね)
ぽん(またね!)
ぼん(お世話になりました!お元気で!)ぺこだよ
砂鉄の迷宮は大きな壁で出来ており、それは厳格さんよりもはるかに高い壁です。
ぼん(つまり、よじ登るとかのズルはできません)
ぽん(掘っていい?)
ぼん(こら)おこだよ
ぽん(はあ……仕方ないかな)
ぼん(さ、行っておいで)
ぽん(はいはーい)しぶしぶ
心配ですね。
ぼん(だからナレーションさん、お願いね)うぃんく!
やはり、そうなりますか。
ぼん(ごめんね、いつもいつもお世話頼んで)
今や生きがいですから、喜んでやらせてもらいますよ。
ぼん(あらま、嬉しい)
そんなに心配ですか?
ぼん(え?)
さっきから浮かない表情をしていますので。
ぼん(ああ、違うよ。今、ちょっと思い出したことがあるんだ)
思い出したこと。
ぼん(そう。前に僕はね。悪の国で、ある女の子と出会って、この試練に挑戦することを決めたんだ)
それは私と出会う前の話ですね。
ぼん(うん。あの時に僕は気負けして、女の子を助けてあげられなかったんだ。でも、もしかしたらそれで良かったのかも知れない。それでも……ね)
気にはなりますね。
ぼん(僕ってばなんて勝手なんだろう。笑顔でいる資格なんてないよ)
悲しい心の声が聞こえます。
顔をおあげなさい。
ぼん(ん)
いつか今度こそ、誰かを救えるように、前向きでありましょう。
下を向いては、困っている人を見つけることもできません。
ぼん(そうだね。ありがとう)
ぽん(ぎゃあー!)
ぼん(あーやばいやばい!頼んだよ!)
はい!任せてください!
ぼん(僕はお墓参りに行ってくるから後でね!)
というわけで、ぽんちゃん。
ぽん(遅い)あしぱたた
すみません。
ぽん(迷子なんだけど)ぷくー
この迷路は常に道が変わり、ぽんちゃんが自身の正しい意志に従うことでゴールへ辿り着けます。
ぽん(意味不なんですけど)
おばけ(はーい)やあ
ぽん(ぎゃあー!またでたー!)びくっ!
おばけ(おいでおいで)
ぽん(やだ!)
こいつは砂鉄おばけ。
ぽん(ん?こっちの道から美味しそうな匂いが)
いけません、それは罠です。
おばけのおいでおいでに従ってください。
ぽん(馬鹿じゃないの!絶対にやだ!)
苦手なものから逃げない強い意志を示すのです。
ぽん(やーーーだ!)たたっ
ああ!ぽんちゃん!
ぽん(うわー!)ずしゃあ!
それは欲地獄です!
このままでは欲に引きずりこまれ、やがて無欲のミイラになってしまいます!
ぽん(どういうこと!?)
毎日死んだように生きることになります。
楽しいとか、美味しいとか、二度と感じることができません。
ぽん(ふぇぇ……)
おばけ(おいでおいで)
その手を掴んで、さあ。
ぽん(でもでも……)
このままでは砂に埋りますよ。
そしてミイラですよ。
ぽん(え、えい!)がしっ!
おばけ(それっ)
ぽん(うわわ!)すぽん!
ふう、何とか危機を脱しましたね。
ぽん(怖かった……)
おや、ぽんちゃん。
ぽん(ネジが落ちてる)
点々と、まるで誘うように。
ぽん(ネジか……ぷち嫌だなあ)ぽい
ネジに混ざって納豆まで落ちています。
ぽん(これただの嫌がらせだよ)とてとて
さあ、苦手なものから逃げない強い意志を今度こそみせてください。
ぽん(はいはい。おばけよりかは)ぐにゃ
おばけ(ふんでるよ)
ぽん(マシだから平気)ふみふみ!
そうして、ぽんちゃんは迷路をずんたかと進み、やがて豪華絢爛な食卓へと導かれました。
ぽん(あ)
ここでは、好きなものに惑わされない固い意志を。
ぽん(どうせ砂でしょう)やれやれ
おみごと。
ぽん(お!)
さあ、あそこがゴールです!
ぼん(ぽんちゃん!)
ぽん(お姉ちゃん!)たたっ!
おばけ(待って)
ぽん(やだ)真顔
おばけ(助けて)
お皿の上でそうお願いするおばけは、いつのまにやら食卓に集まったゴーストハンターズに食べられそうです。
ぽん(どうでもいい)
おばけ(本当に?あなたは誰でも笑顔にしたいはずだよ)
ぽん(おばけなんてどーでもいい)
おばけ(そう……だよね)
おばけはマシュマロのようにちぎられては食べられてゆきます。
ぽん(あーもう!)たっ!
おばけ(ぽんちゃん!)
ぽん(さっきのお返し!それだけ!)
ぽんちゃんがおばけを救いだしたことで、ようやく迷宮から解放されました。
おめでとう。本当のゴールです。
ぽん(どうゆうこと?)
サンドイッチ(僕はサンドイッチ伯爵)
ぽん(おばけも砂だったんだ)
サンドイッチ(砂の精霊だよ)
ぽん(ふーん)
サンドイッチ(さ、どういうことか説明するよ)
ぽん(お腹空いたからはやくして。めんどい。はやく帰りたい)
しつこく言いますが心の声がビショビショです。
ぽん(いいからはーやーくー)あしぱたた
サンドイッチ(さっきのお姉ちゃんも、じつは砂だったんだよ)
ぽん(そう)
サンドイッチ(あなたが心の奥で強く願う笑顔。それを優先できるかの最後の試練だったんだよ)
ぽん(つまり、大好きなお姉ちゃんよりも。困っている誰かさんを笑顔にするか試したってこと?)
サンドイッチ(そういうこと)
ぽん(さすが僕!)ふふん!
サンドイッチ(そうしてこれからも、誰かを、誰であっても、笑顔にしてあげてよ)
ぽん(はーい!)
サンドイッチ(それでは、さようなら)
砂の精霊は砂の迷宮へと帰り、砂の迷宮の出口は閉ざされました。
ぽん(れりごー!)
砂の迷宮、儚く散りゆく。
ぽん「あ、お姉ちゃん忘れた」
ぽんちゃんのせいで砂に埋まりました。
ぽん「…………」
怒られるから逃げようとしていますね。
ぽん「聞こえてた?」えへへ
聞こえなくとも分かります。
ぽん「れりーごーごー!」
直したのにー!ぽんちゃーん!目がー目がー!




