008 呪いと魔導の作り出した歴史
美しいクリスタルに囲まれた谷。底に無数のドラゴンが空を掛けている。その一番深く美しき場所には一際美しいクリスタルの鱗を纏った巨大なドラゴンと人型にその美しいクリスタルのドラゴンの角と翼と尻尾を持った少女が一人いた。どうやら何かを口論しているようだ。
"魔導を極めたい?我ら誇り高きドラゴンが小技を極めてどうする。…おっと、お前はハーフだったか。だが、ハーフとてお前は立派なドラゴンだ。小物供と共に学んだとて直ぐに底は見える。詰まらなくなって直ぐに帰って来るのが落ちだ。"
"それでも、私は見てみたいのです。憧れるのです。まだ見ない未知を知りたいのです。"
"未知を知ってどうする。それは敢えて隠された物だとしてもお前は知りたいのか?"
"はい、それがどんなだとしても私は知りたいのです。"
"お前はハーフとてドラゴンだ。この世界には愚かな種族が大半を占める。お前を苦しめる事もある。我等はそれが辛い。お前はこうして立派に育っているが、我等より遥かに短い生涯だ。それでも、我等の元を離れるのか?"
"私は誇りに思っているわ。ドラゴンにも、人である事にも。けれど、いつでもどこに居ても私の居場所は家族と共にあると信じているのです。"
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昨日と同じくらいの時間に起きて美味しい朝食を食べて、ドロシーの研究小屋に向かう。
辺りは変わらず人通りが大通りは多く、裏通りになるに連れて減っていく。ロランの街も似たようなものだが明らかに人の多さは朝というより昼に近いこの時間帯は少ない。アーシェになんか人が少ない気がすると言えば、今学生は学び舎で勉学に勤しむ時間だからと言う事だった。何でも学校というところで同じレベルの学力の生徒が集まり講師から知識を授かるそうだ。中には研究を仕事にしているもの達も多い事から室内にいる人たちが多いからじゃないかとの事。自由に外に出れると言うのに外の人達も大概縛りがあるよだなと知った。
「あら、意外と早かったのね。」
「ヴァヴェの為に遠回りして来たから遅いくらいだが?」
「あれ、そうだったのか?昨日より距離がある気がしたのはそれだったのか。」
昨日よりもゆっくりとしたペースだった気もした。街並みを眺めながら歩く俺を気遣ってくれていたのだろう。どうやら、昨日とは違う道を歩きここに向かっていたようだ。
「観たかっただろう。ここならしばらく滞在して観光しても良いぐらいには思ってたしな。それと、ここなら金が稼ぎやすい。」
「へぇ、そうなのか?」
俺がドロシーに目を向けると彼女は困り気味に答えてくれた。
「さぁ、お金が稼ぎやすいかどうかは知らないわ。何せ私はソフィアの称号があるからこの街で不自由する事は無いもの。研究は自由に出来るから問題も無いしねぇ。でも、故郷に帰れないが悲しいくらいよ。」
「そうよね。その呪いって確かここから出れない呪いなのよね…。家族とはやっぱり会えない距離なの?」
「……私の母はもう私と出会う事はなかったけれど。父は元気なはずよ。父はドラゴンだから此処には来られないけれど。」
「そういえばドラゴンハーフだと言ってたな。奴等はハーフとて同房を重んじる種だ。アイツらにしてみりゃ寿命ないテメェはだいぶ群れを離れる事を渋られただろう。」
「そうね。父は最後まで反対したわ。にしても今時にしてはドラゴンに詳しいのね。」
「……クリスタリカ種なんだろテメェ。」
「ええ、私はそう名乗る事を父より許されているわ。とても大切な名よ。」
ドロシーはまるで宝物の様に大切にその言葉を口にした。前にソルが言っていたが名前はお互いを縛るものだと。この街に来た時にソルはフィンと呼ばれていた。それはきっと実名を隠すためなのだろう。ソルは何かと自分の姿を隠そうとしている。それはどうしてなのだろうか。
「そんな雑談よりも本当に呪いを解く方法を貴方は知っているの?」
「簡単さ、術者をなんとかすればいい。生きていようが死んでいようが何とかなるからな。」
「死んでたらどうにもならなくないか?」
「そうよ。死んでも呪いは残るというじゃない。」
死んでしまっていたらそれは手遅れって奴なのではないだろうか。何故ソルは死んでようが関係ないと言ったのか。アーシェも同意見らしくそう答えた。
「呪いを解く方法はかけられてからは無いのが常識ね。」
ソルが言うほど簡単に解けるなら確かにドロシーも解いてるだろう。ソルの簡単はきっと普通は難しいのだと思うのにそれを実践されると俺らにも出来そうな時があるから怖い。
「テメェら、そもそも呪いってのは何にかけると思ってやがる。」
「恨んでる奴か?」
「そうね。私もそう思うわ。恨んでたり憎んでなきゃ自分も穴に落ちる程の事はしたくは無いわ。」
「恨みとかもあるけれど…魂を縛っておきたいモノにかけると思ってるわね。私はそれだし。」
それを黙って聞くソルは鼻で笑わず珍しく不機嫌でも嘲笑うでもなく質問の回答をくれた。
「何れも呪術をかけるには十分な理由だ。だが、俺の質問の答えにゃあなっちゃいねぇ。」
「どういう事だ?」
「俺が聞いたのは何にかけるかって話だ。」
「何にって…成る程、そう言う質問ね。」
ドロシーが少し悩む素振りをしたかと思うと何かを思い付いた様にソルに顔を向ける。
「何にとは、体や精神や、物や土地にと言った事ね!」
「そうだ。今言った物にならなんだって呪術は使える。呪われた武器なんかがいい例だな。」
「その話って解くのと関係あるの?」
「無きゃ聞かねぇよ。バカが。」
相変わらず悪態にムッとなるアーシェを気にした様子も無くソルは話を進める。
「呪術を解くには基本何に呪いを授けたかが重要になる。それがわからなきゃまず解けないからな。」
「…なら私にかけられたのは精神、魂への呪いよね?」
「恐らくな。その場合だと術者と生け贄と本体が必要になる。呪術に置ける本体は呪われたものって訳だが。土地や物でない限りは見つけるのは簡単だ。何だって本体は解いて欲しいと願ってるからな。」
「成る程…でも不思議ね。土地や物の呪いを解く方法は知れているのに何故体や魂の解く方法は知られていないなんて…。」
「推測だが、土地や物は多数が困る。しかし、体や魂はそいつさえ居なくなれば他人様はそれで解決だ。解くより殺したりした方が手っ取り早い。救いを求めて殺されるのなんて昔はありふれた話だった。全てが平等にある一定まで衰退したから珍しくなっただけだ。」
「神による、衰退期と繁栄期による文明調整の結果って事?」
「嗚呼、そうだ。この世界はとても平和だ。衰退してようが繁栄してようがな。」
ソルは天空城のある方角を見上げて、嬉しそうで何処か悲しげな顔を一瞬見せる。だがそれも一瞬だ。
「情勢の話は今は関係ねぇ。呪いを解く方法だ。聞くがテメェは術者を知っているか?」
ドロシーはその問いの瞬間にうっ、と気まずそうに顔を逸らす。そして、少しの間の後とても言いづらそうに口を少し震わせて言った。
「……えぇ、知ってるわ。」
「生きているのか?」
「えぇ。生きているわ。」
「そうか。ならそいつの場所に向かうぞ。場所は知ってるんだろ?」
「……えぇ。」
「なら、決まりだ。案内しろ。」
ソルがサッサと身支度をするのにドロシーは顔を逸らしたまま俯いている。まるで、行くのを拒むように。それを見てソルは冷たく言い放つ。
「お前の記憶に聞く方法もある。行くか、行かねぇかだ。」
「……行く、わ。だけど、聞かせて。呪いを解く方法を…。覚悟を決めさせて欲しい。」
「それで決まるのかよ?」
「っちょと!アンタ!何でアンタはそんなに強引なのよ!誰しもがアンタの様に直ぐに決められないのぐらいわかってんでしょ!?」
ソルは鼻で笑ってそう言った事でアーシェの気に触れたらしい。アーシェに詰め寄られて責められているソルは溜息をつく。
「テメェのことじゃねぇんだ。引っ込んでろ。アホが。」
「なっ!アンタってほんっと一言多いと思うのよね!」
「アーシェ、構わない。本来即答すべきは私だ。」
「ドロシー、でも、貴女とても辛そうなのにコイツがお構いなく責めるのだもの。怒りたくもなるわ。」
「アーシェは直ぐ怒るじゃないか。」
俺がボソリとそう呟けばアーシェにギロッと睨まれる。
「……揉めるのも面倒だ。呪いを解く方法の説明は簡単だ。片方を消滅させれば良い。何一つ残す事なくな。」
「物と同じなのね…やはり………。」
「俺は何よりの救いは死ねる事だと思っている。呪いを掛けた者は肉体の死後は呪った者共に醒めない夢を見る。他人の手で消滅をされない限り永遠に。」
「死んでも呪いは継続するのか…そこまで、したいモノなんだな。俺には理解できない。」
そんな、自分まで苦しむのに何で他人なんか呪うのか意味がわからない。それを、考えると兄上のは呪いに近いなぁと思えた。神様の言葉を信じそれが正しいと信じ暗示をかけた様なもの。俺を愛する呪い。俺には地獄だった。
「…やっぱり。失われた消失魔導を使うって事なのね。」
「アレは使えねぇ奴が使えば、魔導災害が起こる。おいそれと教えねぇーぞ。」
「…禁忌だもの。その禁忌で幾人もの魔導士が命を散らしたわ。そして、それに巻き込まれて幾人も。その魔導は研究する事が禁忌。やはり貴方は古の傷ありって事ね。」
「テメェらが俺をどう思おうがしらねぇ事だ。サッサと行くぞ。」
ソルはそう言ってドロシーの研究室を出て行く。ドロシーは頬をパシリと一度叩いて気を引き締める。そして、こちらに向けた顔は貼り付けたような気丈な笑顔だった。
「何故、無理して笑うんだ?」
「え?」
「そこは無理して笑わなくって良いって言いなさいよ!」
「ん?笑う必要もないのに笑うから何故だと聞いただけなのだけど…本でも良くあったが何故笑う事が強さなのだろうか?」
「それは心に余裕を保つためでしょ?多分?落ち込んだ顔したって周りも落ち込むだけじゃない?」
「成る程。でも、俺は兄上達がどんなに楽しそうでも心底嫌な気分だったが…そうなのか。なら俺も笑おうか?」
俺は態々笑おうと笑った事はなかったけれど良く兄上やあの子が俺に向けていた笑顔を真似ながら笑った。それを見てアンフィルは口を押さえて震え始める。ドロシーはもうダメだと言って大笑いを始める。
ドロシーはさっきとは違い無理して笑ってない。
「あははっ!貴方、感覚おかしいのね。でも、そうね。元気でたわ。ありがとう。ソルが急かしてる事だし早く追いかけましょうか。」
困惑する俺にドロシーは手を引かれた。ドロシーは何がありがとうだったのだろうか。
ソルは扉を出てしばらく先を歩いていた。まだ、走って追いかければ追い付ける距離だ。
「なんだ、来るのか。」
「貴方、場所聞かなかったじゃない。」
「聞かずとも、予想はついてる。」
「さっき、聞かなきゃどうのって言ってたじゃない?」
「ああ、アレは揺すっただけだ。意味はねぇーよ。」
「意味も無いのにしたのか?」
「意味が無くともあの魔女には意味があるってだけだ。テメェには理解が難しいだろが、な。」
ソルは俺の頭をぐしゃぐしゃと掻き混ぜてからデコピンをかます。全然痛く無いが帽子と髪はぐしゃぐしゃだ。
けれど、嫌な気はしない。これは本で読んだ事がある。あんまり愛情表現が苦手な男が照れ隠しで乱暴に撫でるヤツだったか。これはソルなりの優しさであるのだろう。そんな事しなくともソルは充分に優しいのにな。
「ソフィア様、そちらの方々は学院の方ではないのではありませんか?」
「私の研究協力者達よ。それ用の仮学証を発行したいので学院長に通達お願いします。」
入り口の受付の者はドロシーのそう言う無茶振りに慣れているのか、直ぐにと言って入り口を開けてくれる。
この街の真ん中にあるお城の様な場所。このもどうやら学院のらしい。俺がキョロキョロと見渡すとソルが「変わらないな。」と呟く。
「ソルも昔、在学してたのか?」
「ハッ、な訳ねぇだろ。俺が何学べってんだ。作る事があっても、もう学ぶ事なんざねぇーよ。」
「随分な物言いなのね。師匠とてまだ研究する事はあるのではないの?この世の中仕組みはまだ謎が多いじゃないの?」
「フッ、バカが。この世の理の解明は禁忌のばすだ。」
「そんな禁忌千年前の話しでしょ?」
「……禁忌な理由を考えろ。テメェらにゃあ手に負える内容じゃねぇーよ。」
「そんなの、分からないじゃない?」
「アーシェ、テメェはあのクソな伝説信じたんならわかんだろ。」
「え、あのクソなって傷あり伝説よね?」
尋ねるアーシェの言葉に返す事もないズンズンと歩く。きっともう喋る気がないのだろうと言うのがわかってアンフィルがむすっとするが気になるのか考える素振りをしばらくした後にハッと気づいた様に言う。
「確か一説に"下界を見極めに羽をもがれた"とあるわ。その他にも数ある禁忌や封印の施してある地には古の傷ありが関わってると言う事が多いの。即ち禁忌や封印を施したのは古の傷ありと言うのが考古学では有力視されてるわ。」
「アーシェ、君は考古学に詳しかったのね。ただの魔法オタクのエルフだと思ってたわ。」
「失礼ね。私は魔法なんて面倒臭いからゴメンよ。奏術の解明できればいいの。奏術を極めるには古の傷ありに付いての解明もしなきゃならないからね。」
「エルフにしては珍しいわね。奏術なんて停滞してる技術最近では誰も手を出さないって言うのに。…でも、そうなのね。禁忌の魔道具が封印されてるこの学院の地下の画廊には傷あり伝説の壁画があるわ。ソフィアはその封印前の入り口に保管されてたとされてるわ。」
「あぁ、あの有名な壁画ね。」
「どんな壁画なんだ?」
「そうね、簡単に言えば古の傷ありはこの世の魔導を全て使えると言った内容で全ての魔導は彼が管理してると言うものよ。」
ドロシーがそう語った瞬間にアーシェがそうだったのね!!と声を上げる。
「ソルが言ってた意味がわかったわ!!だから、禁忌や封印されたモノを仕え切れないと断言できる理由もソルにはあるのよ。彼は全ての魔導を使える唯一の魔導師。そして、世界を見極めるのも彼な訳で封印する術を持ってるのは彼なの。古の傷ありが見極めた後の今。禁忌も封印もソルが決めた事って事になるのよ。」
「それじゃあ、ソルがスっごく不機嫌なのはソフィアの件と同じで約束を破るから怒ってるって事だよな。だから、この学院に入ってからずっとソルは最初に喋った後無言なのか。」
「でも、禁忌が解禁された事によって生活は楽になった事も多くあるわ。」
「確かに封印が解けて良かった場所の話も良く聞くけど…。」
「んー、ソルは長生きなんだろ?ソルは知ってるんじゃないのか。それを知った結末を。だから禁忌にしたり封印したりした。」
ソルは溜め息を吐いて振り返る。心底呆れた顔だ。そして、舌打ちを一つして言った。
「封印は所によっては自動に解ける仕組みの物があんけど、禁忌にはそれはねぇんだよ。無駄口叩くなら理解しろ。」
ソルに遠回しに煩いと言われて、しばらく無言で歩けばある場所に案内される。そこは学院長室と書いてある部屋だった。
ドロシーがノックして返事が返ってくると扉を開けて入る。
すると、そこには若い女性と言って良いだろうかとおもえる人が学院長の椅子におりソルの姿を見て見た瞬間には立ち上がる。ソルは今認識阻害のフードを被ってるから顔は見えないのだから一体何に驚いているのだろうか。
「……ソルフェーゼ様なのかしら。」
「さぁ、存じないな。」
「そうでございましょう。失礼致しました。余りにも魔力の雰囲気がその方に似ていましたので。ドロゼェリア、この方達に研究協力をするとのことですが説明を願います。」
「おや、珍しいですね。説明を御所望とは。いつもの様にすんなりと仮証を出してくださらないのですか?」
「ソフィアの貴女には無条件で本来出したい所ですが、今回に限ってエンドリアの騎士を連れてきたからです。現在、エンドリアより魔導通信よりエンドリア騎士に緊急指令が下されてます。そしてその命には緘口令がひかれてる様です。」
そう言って学院長は俺を一睨みする。何か喋れと言う事なのだろうか。取り敢えず、目を晒すとソルが一歩出て俺に下がってろと言う様に言う。
「その件は私から説明しよう。今回、エンドリア王より第二王子ヴァーシュヴァネッヂ様が各地を視察する事になったのだ。お忍び故に事を荒げたくない。全ての貴国への不利益はエンドリアが保証すると約束をしよう。その為に此処での無干渉を学院長に申し渡しに参った。」
「何を仰っているのですか。エンドリア王国の第二王子と言えばもうすでに天使と共に神の身元に逝かれたと記憶してますが。」
「それは王が寵愛するヴァーシュヴァネッヂ様を御護りする為で御座います。この件は王の召使い騎士の団長クラスと第三王子の特殊魔導部隊の幹部クラスのみ知る事実。国の者でも知るのはわずかなのです。それを重々承知で見ない振りを望みます。」
何処からそんな台詞が出てくるのかと思う程にソルはツラツラと嘘を語る。何時もの乱暴な言葉遣いは一切無くて街での喋る様な軽い丁寧さでも無く、言い回しが難しい貴族其の物だ。俺自身は社交会なんて者は経験がないし、話すのは兄様もあの子だ。兄様とあの子や騎士達が話す時はこんな感じで何だか俺には分からない時があったなと思った。
「……王の直下と言う証明が欲しいです。」
「ヴァーシュヴァネッジ様、王より賜ったダインスレフをお見せ下さい。それこそ寵愛を受ける王族である証なのですから。」
ソルはサッサっと剣を掲げろっと頭の中に直接言ってくる。それに驚きつつも言われるままにスレフを掲げれば学院長は驚き、目を伏せる。
「大変失礼致しました。紛れも無くエンドリアの王族の方だと言う事は理解致しました。仮学証を直ぐに発行致します。しかし、余程エンドリアは第二王子は秘匿事項なのですね。態々、我が国の誇るソフィア越しに私に連絡を取るなど。」
「正式な文面だと関わる者が増えるだけ故。事前調査で一番有効で履歴が残らない手段を選ばさせて頂いた。」
「…余程、隠匿したい様ですね。ドロゼェリア。ソフィアの名に恥じない働きを期待しています。」
「古のかの方にかけて。」
その後はドロシーが学院長と手続きを進めて仮証が発行されて、そのままドロシーの研究室まで案内される流れになる。
研究室に入るとドロシーは深刻そうな顔で振り返りソル尋ねる。
「…あの、私聞いてなかったのですけど?事実なの?さっきのお話は?」
「嘘は一つの事実と綯交ぜにするものだ。嘘であり事実だ。」
「では何が嘘で事実なのでしょうか。」
「真実はヴァヴェが第二王子と言う点だけだ。んのな、最初からコイツが言ってたろ。」
「俺がヴァーシュヴァネッジ・エンドリアで第二王子なのは紛れも無い事実なのは確かだな。なんで信じてくれないんだろうな。」
「そんなの当たり前よ。近代史に置いてエンドリア王国で最も愛された王子よ。前国王も王妃も貴方の為に神への供物になり、現在国王と第三王子の為に貴方はその贄で天使共に天空城に赴いたと言う話は有名なの。他国にも広く伝えられた話だもの。」
ドロシーもそれに同意の様で特に反論なさげに俺が可笑しいと言う眼差しで見る。ソルを頼る様に目を向ければ何やら顎に手を当てて悩ましげな表情でドロシーを見る。
「いや、おかしいのは確か話だ。正直、エンドリアがこんな大々的に動くなんて俺は思っちゃいなかった。ランダム転移でこの大陸に無断で来た俺とヴァヴェが国境を正式に超えた記録も裏ルートで抜けた痕跡もねぇ。追手だった召使い騎士も俺の魔導の詳細は理解できねぇ。逃げた小鳥を探すにしちゃあ必死過ぎる。」
「…そうね、おかしいわ。今の世の中でエンドリアの第二王子と言われて信じる者は居ない。仮に今回ダインスレフが盗難された事で騎士たちが動いてるならそれを学院長が知らないのはおかしいわ。だからと言って王の宝が盗まれた醜態を晒す事もする訳がない。だからこそエンドリア的には他国にも要請する程の案件では無いし、緊急魔導で他国の自兵にまで何か内政悪化があったと疑われる様な緘口令を引いてまだするリスクがおかしいと言う事よね?」
「…あぁ、それなのに学院長は第二王子という事取り敢えずダインスレフがある事で認めた。…ッチ、計画が狂うかもしんねぇな。」
ソルは至極面倒臭そうに溜め息を吐いて、指に魔力を集めて入り口に魔法陣を展開し始める。それに気が付いたドロシーは急いで手帳を取り出してメモを取る。俺もそれが何か気になるから覗き込む。
「時属性の魔導の陣。初めて見たわ…。」
「時属性?魔導にそんな属性あったかしら?」
「貴方本当にエルフなの?魔導には4の属性があるのは常識よ?」
「俺知ってるぞ!時、夢、空間、元素の4つだろ?」
「え?属性って6つの火、水、風、地、光、闇の事じゃないの?」
「ヴァヴェが正解ね。アーシェの言うのは元素属性の自然の元素よ。殆どの基本魔導はこれに準じてるわ。下級魔導はこの元素で使う物しか無いわ。一部に限って夢属性は下級魔導だけど使うには国の許可が必要ね。けれど夢属性の今ある魔導の殆どは中級魔導ね。空間属性に至っては転移や構築なんかで殆どが上級魔導よ。そんな中でも時属性は上級中の上級。空間属性もそうだけど時属性の魔導は殆ど失伝されてるの。こうして陣の完成系を拝めるなんて感動ものよ。」
ドロシーはそのソルの描く陣にうっとりしながら語る。本で沢山読んだから魔導の原理は大まかに分かるけど何分保有魔導値が少ないから実感がない。
「そんで、結局何をしてんだソルは?」
「防音と結界もどきだな。この部屋の壁一面の時間を停止させたんだ。俺が解かねぇ限り、この部屋の時はこのままツーワケだ。」
「それが結界もどき?本来結界は魔導と物理で別れてるはずよね?この場合は物理と言う事になるのかしら?」
「ハッ、バカか?これは結界もどきだ。魔導も物理も関係ねぇーよ。まぁ、テメェが使うと魔力が足んねぇからやるんじゃねぇぞ?俺は時の相性が良いから重宝してるだけだ。」
「流石ソルだな。と言う事は外から攻撃とかされる可能性があるのか?」
「あぁ、恐らく学院長は確認を取るだろう。その後エンドリアの幹部クラスが来るのは目に見えてる。それを交わしながら魔女の呪いを解くために動かなきゃならねぇ。…それにあの学院長にゃあ引っかかるとこがある。まぁ、それはこれから話す事だ。テメェらは俺の大事な餓鬼共だからな。手を尽くしてやろうじゃねぇか。」
色々と時間が空いてしまっての投稿で申し訳無いです。この話を書くのを辞めたわけでは無いので気長にしてもらえたらなぁと思ってます。
ソルを取り巻く物事やヴァヴェの行末はまだまだ書きたい事が山程有りますのでよろしくお願いします。