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Last Inferno  作者: 浅木彩芽
第1幕 5つの宝の鍵編
4/9

003 お転婆な小鳥の歌声は美しい

歌が全てを助け守ってくれるとお父様は言い続けた。お前は誰かを助け誰かを自分を守る為に歌い続けるんだとこの歌は守りたい全てを守る為に捧げる歌なのだと子守唄を歌ってくれた。けれどお父様は繁栄期が未だ長く続くと思われて居たその日。どの種族も喪う衰退と繁栄への共通の死の決められた生贄。それは唐突に訪れるものだった。神様の決めた全ては真実で正しいなんて思えたらどんなに楽だろうか。




__

______

____________





目が覚めればそこは見覚えのない場所。そして、ベッドの上だった。辺りを見渡せば窓から緑の新緑と木漏れ日が風に揺れ優しく日が射す。


「やっと起きやがったか?」


「ソル!?無事だったんだな。」


窓とは逆側から声がしたと思い振り返れば扉にもたれて優しく笑うフードを下ろしたソルの姿だった。ソルを見れば気を失う前の事が思い出される。血の流れるその傷のままに俺を抱え演唱するその姿。そう思い手を勢いよくベッドにつけばズキリと手が痛む。


「いっ!?」


手を見れば包帯が巻かれて居た。それに疑問を思えばソルが口にする。


「あんな無茶な使い方すんからだ、アホが。だいぶ深手だったんだぞ。」


「え、…ああ!俺、ダインスレイフを使って…。」


「あれは別名魔剣だの悪魔の剣だとも言われてる。5宝の中でも一番危ねぇ宝だ。彼奴の言葉を鵜呑みして使うじゃぁねぇ。何かを喪う前に理解してろ。」


「そうなのか…。それより、お前の傷は大丈夫なのかよ?だいぶ深手だったよな??」

「あ?あんなの擦り傷だ。あれで死ねたら苦労はねぇ。」


少し悲しげで阿呆らしいと言った顔でそう言うのだから本当に大事はないのだろう。そうなれば次に気になってくるのはここはどこだと言う事だった。


「なら、良かった。それにしてもここは何処だなんだ?」


「ああ、ここは…」


「それには私が答えましょうかの。」


ソルはそう言うとばつが悪そうにもたれて居た扉の入り口から退いた。そうすれば扉は開き姿を現したのはエルフの年老いた恐らくはもう殆ど見えて居ないであろう白い目に真っ白な床まで伸び先を三つ編みにして引きずらない様にした腰の曲がった老婆だった。


「ッチ、引っ込んでろ。」


「お前さんはここで私が現れんかったらこの子供を連れてさっさと此処を出て居たのであろう。少しはゆっくりして行かんかえ。」


「俺は此処を追い出された身だ。不可抗力とは言え長居は出来ねぇよ。」


「そんな、古代の決まりなんか私らは存じないよ。それより、そこの人の子よ。此処が何処だと言ったね。此処は古代からあると言われてる全てのエルフの故郷。エドロック村の村長の家さ。」


「全てのエルフの故郷。あの本とかにあるエルフの聖地のあると言われてる村の事だよな?実在したのか?」


そう尋ねれば老婆は口元を押さえ笑う。


「幼き子供よりも世間知らずな人の子の様だのぉ。ここ出身のエルフは今や世界の至る所で己の生活を営んでいる。そんな伝説の地などではないよの。」


「そうなのか!?めっちゃ恥ずかしい質問したって事か!?」


「幽閉されてればそうなるだろうな。ここは文献なんかでも多くある、伝承なんかの口伝には決まり文句のように出てくる。だが、殆ど故に何が真実かなんて正しくは残っちゃ居ねぇ。けど古代の文献やら古代遺跡が数多くこの周辺にゃ残っちゃあいる。その研究してる奴も多いけどな。」


「そうじゃな。じゃが過去を探る者は多い。そのお陰で今回の繁栄期の最期の頃に5宝の喪われたと言われて居た一つ宝盾オハンが遺跡に封印されてると…」


話をしてる中で突然何かが上で着地した音と共に屋根の上からドタバタと音を立て窓から長い黒髪をなびかせた少女が飛び込んでくる。突然入って来た彼女を避けられるわけもなく、ベッド目掛けて飛んで来た彼女を身体で受け止める事になる。


「いたぁーい!なんで、私のベッドで人が寝てるのよぉ!」


「アーシェ!お前さんはまたそんな所から入りおって!」


「うげっ!?なんで、オババ様が私の部屋にいるの!?ってソルフェーゼ様、お目覚めにってああ!思い出した!君も目が覚めたのね!!良かったわぁ!」


表情をコロコロと変えて笑う彼女は下敷きにした俺を抱きしめて良かったと大喜びしている。


「お前はもう少し村長として神子としての心が足らん!だから、オババは休めんのだ!」


「…私は何度も言ってるわ。神子なんて嫌よ!お父様を殺す神様の言葉を守る神子なんて死んでもごめんだわ。」


「何度言ったら…」


「口喧嘩は後でやりやがれ。それより、オハンって言ったな?その話をしろ。」


未だに続きそうだった口喧嘩を普段の口の悪さに添えられた冷たい声で遮ったソルはオババ様とやらに問う。その纏う空気はさっきの軽口の会話と違い迫力があった。


「…は、はええ、そう、文献と遺跡を調査した結果、喪われた伝説の5宝の二つのうち一つが現存する可能性が判明したのじゃ。」


「封印って言うくらいだから、魔導施錠か?」


「いかにも。"古の奏と共に封じせし、守り人奏でん時扉は開かん。"とその施錠場所には書かれていたのじゃ。奏が魔奏術の歌であるのは分かったのじゃが守り人って言うのがわからぬままじゃ。」


「成る程な。そんで今も調べてるのか?」


そう言うとオババ様は顔を背け代わりに飛び込んで来た少女が口にする。


「試しに歌を奏でた時に魔物は現れたのよ。魔物は古代言語を使う魔物。」


「そりゃ、古代語話すんなら魔獣だろ。」


そうソルが呆れたように言うと彼女は俺から離れて窓際に手を掛けて遠くを見つめ言葉を紡いだ。


「そう、その通り。その魔導施錠には召喚魔獣の陣も刻まれていたのよ。召喚魔獣自体は失伝魔法の一種で研究するにも危険故に禁忌とされていたわ。だから研究者の誰もが気づけなかった。奏でた時にそれは唐突に発動して、魔獣は古代語で何かを言ったのだけれど古代言語を聞き取る事はもちろん読み解くのが難しいのが今の世。そして、魔獣は余りにも強く挑んだ者、いいえ範囲内にいた者は皆死んだわ。」


「成る程な。エルフの衰退期への神への捧げの噂の真相だなそれか。」


「えぇ、そうよ。それは分かっていた情報だったわ。なのにっ神への捧げだからって…。お父様は歌い続けたと言うのに…」


彼女は怒りと悔しさを噛み締めるような顔をして八つ当たりとばかりにソルを睨みつける。


「神への捧げって言うのは衰退期にも繁栄期にもある皮切りの処刑の事だよな。」


「皮切りの処刑。そうよ。あなた、何?必要だったと思ってるの?」


そう言って凄い喧騒で睨まれついソルの陰に隠れる。


「いや、必要無いと俺は思ってるから…そんなに怒るなよ。」


「アーシェ、落ち着かんか。ソルフェーゼ様の前なのだから少しは弁えるのじゃよ。」


「分かってるわ。けど、腹は立つの!」


そうムスッとするも一息付いて改めて此方を向いた。


「…さて、お決まりの文句でも聞いてし仕切り直させてもらうわ。…お帰りなさいませ、この日が来るのを我らは初代より待ち焦がれていました。ソルフェーゼ様が帰ってこられたとい事だけが我らは嬉しいのです。申し遅れて申し訳ありません。私、現村長を担っております。アンフィルと言います。其方は元村長にて大神子様のオババ様です。ソルフェーゼ様とお連れの人の子を我らは歓迎いたします。」


そう言って、その場の空気を変えるかのようにサラッと自己紹介を始める。そこで疑問なのがソルが様付けで呼ばれている事だった。


「…ソルってこの村ですっごく偉かったのか?」


「んな事ねぇよ。」


「初代様は死ぬまで貴方様の帰りを未だかとずっと言っておりましたそうです。」


「それで、ソルフェーゼが何故生きてると確信してたんだお前らは。」


「傷ありの印付は今や失くされた伝統。そしてその紋はこの世に一つしかないのです。そして、この村の長を務める者は貴方の血を継いでなければならない。貴方が現れる時夢を観れるようにと。夢を見た日貴方様方は夢の場所に現れた。星の導きと言う奴です。そして、貴方様には我らに伝わるこの紋はが刻まれているのだから。それは紛れもなくソルフェーゼ様だと決めつけてます。貴方様がその子孫であろうとそうで無かろうとソルフェーゼ様は永遠を手にした方。そして何より同じくエルフの血で繋がれている。」


「あ?馬鹿げてるな。傷ありなんて繋がっちゃいないさ。傷ありはエルフじゃなく傷ありって言う化け物でハーフエルフにすらなり損なった生き物だ。他の傷あり以上の化け物の俺には無縁な話だ。」


ソルがそう言い切ればアンフィルは手を強く握り閉めて我慢ならないと言わんばかりに声をあげた。


「……っ何よ貴方!その思想を他の傷ありにまで押し付けないでっ!何が繋がっちゃいけないよっ!同じで良いじゃない!」


「はぁ?テメェはエルフだからわかんねぇだけだろ。テメェらとは生きる時間がちげぇんだよ。先に死なれるくらいなら初めから関わらなねぇ方がマシだろ。」


「それを言うのだったら人とエルフだってそうよ!何が違うって言うの?この世界は色んな種族が居るのよ!寿命だってそれぞれじゃない!それを貴方一人の価値観で決めないで!」


「あんだテメェ。蔑んできたの他でもねぇテメェらだろうが!たかがうん千年で変わった月日の話なんか知らねぇよ!テメェらが蔑んで死んだ命が返ってくるって思ってのか!?都合良く無くなった歴史を俺が忘れたなんて言わせねぇ!これが軽々しくねぇ事を知るんだな小娘が。」


「それこそ知らないわ!貴方って頭が硬いのね。たかが何千年なんて言われてもそれだけあればなんだって変わるわ!この時代遅れさんが!居ない人がした貴方への仕打ちなんてわかってやれないし、いない人の気持ちだって解らない!けど、私の気持ちは解るわ!」


「テメェの気持ちなんて知らねぇってんだよ!うるせぇ小娘だなっ!良い加減黙りやがれこのっ!」


「ソル!ストップ!ストップ!なんでお前が揉めてんだ!それに君も!なんで、喧嘩腰なの!?なんでオババさんも止めてくれないの!?」


なんだか不穏過ぎる空気になってきた口喧嘩に割って入る。俺の慌てっぷりにソルは少し罰の悪そうに息を吐く。アンフィルの方は未だに少し興奮気味。オババさんは唖然としてばかり。それをいち早く終えさせてくれたのはソルだった。


「…ふふっ、ははっ。…ヴァヴェ、テメェは怖いもの知らずだな。流石世間知らずの箱入り。」


ソルは俺の頭をポンポンと叩いて呆れた様にやんわりと笑う。


「悪りぃな。あんまりに腹が立って大人気ない事する所だった。…んで、小娘、いや村長だったか?テメェはさっき仕切り直しで有耶無耶にしようとしてたがオハンに少しは精通してるみてぇだな。」


未だに威嚇した猫のようにフーフーと息を興奮気味にするアンフィルをオババさんはやっと唖然した表情から気を取り戻したのか彼女にそっと問いかける。


「ほれ、アーシェ。落ち着かんか。我らが敵う相手でないのは理解してるだろ。…済まんのぉ。儂も老いぼれた身。そちらの気に当てられて動けんかった。その人の子が居てくれて助かったわい。」


そう言うオババさんはアンフィルをなだめてまだふくれっ面の彼女をほれと言い背中を押す。


「…オハンの封印場所への案内と生け贄の日の詳細を少し話せるくらいよ。」


「胸くそ悪りぃが話と案内頼めるか?俺にはオハンが必要だ。」


「…何故?5宝なんて今ではよく解らない宝よ。5宝と呼ばれる由縁すら忘れられてる。」


「テメェらが忘れてる歴史だろうと俺は覚えてる。俺が知ってれば問題ねぇよ。」


「本当に腹の立つ人ね。何故君は彼と居るか理解し難いわ。…でも、良いわ頼まれる事にする。けどね、オハンを手に入れると言うのなら必ず魔獣を消し去って。」


「ハッ、小娘が一丁前に交渉か?相手を選べ、じゃなきゃ早死にするぜ?」


ソルがそう言うと貴方ねっ!とまた彼女が怒りを露わにするも今度は軽口と言わんばかりにまぁ落ち着け。と一言ってソル特有の嘲笑いの表情で言う。


「だから小娘なんだよ。話は最後まで聞くのが交渉だぜ。だから聞けよ?…魔獣退治なんてそんくらいやってやらぁ。魔獣なんて俺の目的に比べたら糞食らえだ。俺は恩は返す。俺も恩を売ったら返されたいからな。」


「あー!!もうっ!!嫌い嫌い嫌い嫌いっ!!!ソルフェーゼ様ってもっと素敵な方だと思ってたのが馬鹿みたい!!約束よ!明日の朝には遺跡に案内するわ。私にも支度があるから!この部屋以外の部屋とか村の中なら自由にすると良いわ。先も言った通り私達はソルフェーゼ様とお供の人の子を歓迎するのは村の決まりだもの。それじゃあ、朝に。さっさと出て行って頂戴。」


そう言って俺たちは部屋の外へ退出させられる。


「とんだじゃじゃ馬だな。久々に頭にくる小娘だった。怖がらせて悪かったなヴァヴェ。」


追い出されて早々に肩を竦めて俺の頭を撫でる。ソルはなんだかんだで今の所俺を大切に扱ってるらしい。初めから感じていたがこの人はお人好しで卑屈な人だ。だから、さっきもどんなに怖くたってソルに話しかけられた。まだ会って2日とちょっと程だと言うのにこの人の本質は余りにも真っ直ぐで揺るがない。


「ソルはお見通しなんだな。けど、俺を救ってくれたお前を俺は本当に怖くたって怖いと思いたくない。ソルは長生きなのに本当に人らしくて真っ直ぐで安心できるしな。」


「…人らしく?産まれて初めて言われた気がするな。彼奴だって俺を人とは言わなかったのにな…。」


そう、寂しそうに上を仰ぐ姿は柔らかくも大きな壁に阻まれるようだった。


「お二人とも今日休まれる部屋へご案内しましょう。」


部屋を追い出されてオバハ様が2階から下のリビングに案内すればそこで1人のエルフの男が立っていた。


「ソルフェーゼ様とお付きの人の子様。私はアンフィル様御付きのルルアと言います。お二人のお世話と村の案内を頼まれましたのでお待ちしておりました。」


「世話と案内か。助かる。そんじゃ俺は休ませてもらう。ロランじゃ見物所じゃなかったからな。ゆっくり見て来い。」


「ソルは来ないのか?」


「いかねぇよ。気にしねぇで行ってこい。そんで、俺んとこに戻ってくれば良い。」


「…わかった。」


「ルルア、後は頼んだぞぃ。」


「はい、大神子様。」


「そんじゃ、こいつ頼んだぜ。」


「はい、かしこまりました。お休みになる際はそこの部屋をどうぞ。」


その言葉を聞いたソルはそそくさと部屋に入って行った。


「ルルアさん案内お願いいたします。あ、俺、ヴァーシュヴェネッヂ・エンドリアって言います。」


「エンドリアの第二王子と同じ名にエンドリアと苗を名乗りますか。まぁ、本名を名乗りたく無いのであれば良いでしょう。何処をご覧になりたいですか?」


「紛れも無い本名なんだけどな。早速なんだけど俺あれ見たいエルフの大聖堂!後村全体!古代からある村って言うだけで本当ワクワクだ!」


「…本名と言い張りますか。その名を名乗る意味をよくお考え下さいね。まぁ、あの偉大な傷ありソルフェーゼ様が名乗る事を許しておられるのだから何も言わないですが。その身の振り方お気を付け下さい。それにしても大聖堂ですか物好きですね。村の外れに御座いますので最後にご案内ます。その前に村を見て回りましょうか。さぁ御手をどうぞ。」


この名前は世間では余り名乗るべき名前ではないと言うことを多分遠回しに諭されるも他に名乗る名前を持っていない俺は多分今後もこの名前を名乗って色んな事に合うのだろう。この人はそれを優しく教えてくれたのだろう。そして、あまりにも自然に手を差し出され俺は困惑する。


「あぁ、貴方のような幼子は好奇心旺盛でしょう。逸れてしまわない様に手を繋ぎましょう。」


「俺は16だっての!そんな子供に見えるのか…?」


「子供ですよ。何よりもソルフェーゼ様が貴方を子供として扱っておられるのだから貴方は子供ですよ。16なんて人間でさえ子供だと言うでしょうに。それに迷子にでも成られては私がソルフェーゼ様になんと言われるか。貴方も迷子になりたくはないでしょう。」


「それもそうだけど……ソルは俺なんか居なくっても平気だって。ソルが欲しいのはこの剣が使える人なんだから。」


そう俺が言えば俺より背が高いルルアさんは目線を俺に合わせてにっこり笑って俺が取りあぐねて宙ぶらりんの位置にあった手を取って言った。


「だからこそ貴方は子供なのですよ。さぁ、行きましょう。」


「え、あっ!」


そう言って手を引かれ俺はこけそうになりながらも歩き出す。





***





窓から外を眺めて居ると戸を叩く音がして返事を聞く前に入ってくる。


「アーシェ本当に行くのかえ。」


「ええ、行くわ。オババ様は反対なさるのはわかる。けどね、この歌を知っていて歌えるのは私だけ。お父様の為だもの。」


「お前が行く事を彼奴は喜ばないぞい。」


「それでも、行くの。あの本当にソルフェーゼであるかなんてわからない気に入らない男に任せるなんて嫌よ。私の怨みだもの。自分でやるわ。それに今歌えるのは私だけだもの。」


「確かにあのお方はソルフェーゼ様ではないかもな。何せ新暦時代以前に居たお方。何万年もの時を生きて居ることになるからのぉ。それにお前だけの怨みではなかろう。皆の怨みじゃ。」


「まぁ、そんなのどうでも良いことよ。皆んなの感情とかもね。私の感情は私だけのもの。他の人の感情はその人のもの。人それぞれ思う事があるわ。それでいて私は自分の手で復讐を成し遂げたいだけ。」


私は窓の淵に足をかける。


「アーシェ!まだ話は!!」


「準備があるからね。後、お父様達にお話してから行きたいしね。」


私は引き止めるオババ様を無視してそのまま村へ歩いて行く。最後にドアから出んか!と言われたのはまぁ何時もの事。

それから村の市場に着いた私は一通り明日の準備の品を揃え最後に花を買うためにいつもの花屋で少し花を眺める。


「いらっしゃい、村長。」


「ええ、こんにちは。」


「今日は可愛い人の子が来てるんだねぇ。」


「あら、ここにも来たの?」


そう聞いた時に離れた簡易食事処から声が響く。


「!!!これ!やっぱりスっごく美味しい!!串に刺して炙るのがやっぱり素材を引き立てるのか……?」


そんな声が響いたと思い見やればソルフェーゼと共に来た人の子だった。彼はルルアに手を引かれながら村をキラキラと見つめている。


「村長はこれから大聖堂に行くのかい?」


「ええ、何時ものお父様が好きだった。ブルーファンタジアの花束を頂戴。」


はいよといつもの様に世間話しを交えながら花お包み始める女将さん。


「にしても人の子とは珍しいですね。それにこの村をこんなに楽しげに見るなんて。」


「そうね。あの子は何故永遠を生きるソルフェーゼ様と居るのかしら。」


「何か魅入られるものがあるのでしょう。それにしてもルルア君も楽しそうね。…ほら出来た。歌い手様に捧げてらっしゃい。」


「ありがとう。ルルアが笑うの久しぶりに見たわ。ルルアは子供好きだから。息抜きになった見たいで良かった。…それじゃあ。」


大聖堂に着けばいつも通りに誰も居ない。とても、静かでとても現実味の無い場所。そこの祭壇にあるのは名前が夥しく書かれている。


「お父様、私は…あの日を悔いています。何故、あの日ついて行ってしまった事を。…御免なさい…許さないで下さい。」


私はいつも通りの祈りの歌を捧げる。お父様が教えてくれた歌。歌い手の一族だった父。この村の長なんてものになっているけれどただソルフェーゼの薄い血筋があったから。ソルフェーゼの血筋なんて等に散らばり見つかれば村に神子として迎えられる仕来りなだけの血筋。私達エルフが信じてる神はソルフェーゼ。古代の永遠を生きると言われる初代様と呼ばれてるエルフの弟。ただ弟に帰って欲しかっただけの姉の祈り。

歌を終えると拍手が響いた。振り向けばそこにはルルアとソルフェーゼが連れて来た人の子が居た。


「とても、綺麗な歌だった!」


「…何故、ソルフェーゼが連れて来た人の子が此処に居るの?」


「彼が大聖堂を一目見たいと仰ったので。申し訳ございません。」


「…此処はエルフの墓よ。おいそれと気軽に来る所ではないわ。」


「え、あ、済みません。…でも、とても綺麗な場所だって本で読んだからずっと見たかったから。無神経…だよな…。」


「とても綺麗な、場所。……そうね。そうかもね。誰も喋らず、嘘の無い現実だけがある場所なのだから。死人に口なし。死んだ事実しかない。」


「え、えーと……。あ、それブルーファンタジア?あの永遠の象徴の。」


気不味さから彼は目線をさ迷わせたと思えば私が捧げた花に目を向けたらしい。


「ええ、そうよ。お父様が好きだったの。まるで私達が信じる初代様の弟ソルフェーゼ様見たいだと言ってね。」


「それって、エルフやハーフエルフ達が主に信じてるって言う永遠に生きる古代のハーフエルフの伝説か?」


「ええ、そうね。永遠に生きれる訳なんて無いのに。そう言えば貴方は何故彼と居るの?」


「え、ああ、ソルが俺の部屋に来てくれたから。ついて行くって決めた。あいつは俺の救世主だ!」


「部屋に?要領がえないわね。…そう言えば貴方の名前は?」


「ヴァーシュヴェネッヂ・エンドリア。それが俺の名前。よろしくな。えっと、アンフィル。」


「…何言ってるの貴方は?その名前を名乗るなんて。」


「また、それか?ソルに名乗った時はそんな事言われなかったぞ?名前聞かれて名乗っただけなのに何で否定から始まるんだ。」


「そんな事当たり前よ。だって、エンドリアの亡き第二王子の名前よ?それも平和の道標よ。今の望めない過去の人だからこそ。それを名乗るなんて酷よ。」


「そんな事言われたって、これは俺の名前だ。」


「何故そこまで言うのか知ら無いけれど、人間の前では余り名乗らないことね。まぁ私もここのエルフもあまりそこまで気にし無いからとりあえず良いわよ。」


「さっき、ルルアさんにも言われた。ソルが認めてるから黙認ってヤツだろう。」


その人の子は少し剥れながら言う。まぁ、その名前を名乗るのならこの村の住人なら誰だってそう諭すだろう。この村でなければおおごと間違え無しだが。


「そう言えば、貴方は明日来るのかしら?」


「え?行くよ。だってソルが行くんだから俺はついて行く!ソルは俺の物語の救世主で主人公なんだからな!」


「意味のわからない子ね。自分の物語の主人公を他人に譲ろうだなんて。」


「だって、俺は兄上の愛玩人形だったから。俺に主人公みたいな自我は難しいんだ。だって何が不幸とか幸せだとか正義とか悪とかも、正直わからないしな。」


兄の愛玩人形だとか不穏な事言いながら自我は難しいと言う彼は矢張りズレているのは確かだ。


「貴方、変人ね。」


「アンフィル様、もう少し優しく言ってはいかがですか。余りにも酷いですよ。」


「そうかしら、私の正直な気持ちを伝えてるだけだもの。隠されるより良いわ。」


「別に俺は平気だ。兄上にもあの子にも好き勝手言われて来たんだどうって事ない。」


「貴方、さっきから兄とか言うけど家族は何処に居るの?兄ってあのソルフェーゼじゃないんでしょ?」


そう尋ねると少し悩む感じで答えた。


「多分、ロランの王城じゃないのか?俺は兄上の事もあの子の事も把握出来ないからな。視察とかで出てなければ居ると思うぞ。」


「ロランって、エンドリアの王都よね?視察って貴方のお兄さんって地位が高いのね。」


「地位が高い?国王と王子なんだから当たり前じゃないのか?」


「ん?国王と王子って言いましたか?」


「え、うん。言ったけど?」


「ルルア、本気にするの?この子自分がヴァーシュヴェネッヂって名乗ってるのよ?」


「それもそうですが…。」


「信じてくれないのか?」


「嘘つくのが悪いのよ。」


『小娘になぁーにがわかるのかしらぁ?』


何処からとも無く知らない女の声が聞こえる。それに私もルルアも辺りを警戒すると人の子が自分の腰の剣をみる。


「ダインスレイフ、起きたのか?」


『えぇ、随分前からねぇ。むしろぉ、この女の歌声でぇ起こされたのよぉ。迷惑なことだわぁ。』


「…なっ、剣が喋ってって…ダインスレイフ?確か5宝の1つよね?それって確かエンドリアの国王が持ってるって言う…」


『そーよぉ。けどぉ、ここ200年はぁ宝物庫に放置っていうお粗末な扱いだったわぁ。だからぁ、宝物庫に閉じ込められたぁこの子に話し相手にぃなってもらってたのよぉ。まぁ、この子の血は因果のお陰でぇとっても格別なのぉー。』


「王城の宝物庫に?」


『そぉーよぉ。この子はあの頭の沸いてそうな国王のお人形さんなのぉ。そこからぁ、出る事も、国王ともう1人の王子しか会う事が許されてなかったのよぉ。まぁ、王の護衛と食事係は別だったけどぉ。』


「そんなつまらない話しなくても良いだろ。」


ダインスレイフを見て少し拗ねるように彼は言う。


「つまらない話ね。そうね、それじゃあ話題変えに聞いても良いかしら?」


『つまらないって酷いわねぇ。』


「ちょっとダインスレイフは少し黙ってて。で?なんだ?」


そう彼は剣を軽く叩けばハイハイとと言って剣は沈黙する。


「そのソルフェーゼは何故5宝を集めてるの?それに貴方はダインスレイフの守り人だったの?」


「知らないよ。ソルの抜け道が偶々宝物庫になってただけらしかったし、ダインスレイフを持ち歩いてたのだって話し相手ができたからだったから。」


「貴方、あの人と長いんじゃないの?」


余りにもアッサリと知らないというものだから聞くと思っても無い答えが返って来た。


「長いも一昨日会ったばかりだぞ。それに昨日は追われてたから大変だったんだからな。」


「は?一昨日?追われて?何それ。あんなに親しそうなのに?」


「ソルはお人好しだからな。だから、俺に優しいんだと思う。」


「あれがお人好し?あんな横暴で乱暴そうな奴が?それにしても何かに追われてるの貴方?」


「お人好しだろ?だって、君が頼まなくったてきっとソルは魔獣倒すだろうけど、きっと君に頼まれたから必ず魔獣倒すと思うぞ。追われてる事に関しては……兄上が俺を連れ戻そうとしてるだけだ。けど、しばらくは平気だろ。ここ国外だし。エンドリア、そもそも首都から相当遠いから。転移魔導ってのがイマイチ実感湧かないけどな。」


「はぁ…?なんだか本当に度し難い程にわからないわ。ルルア解った?」


「さぁ…。次元が違うと言いましょうか。」


ルルアも私も苦笑い気味なのは仕方ない。この飛んでも妄想話しと剣が自称ダインスレイフと喋ったりと話がごちゃごちゃになる一方だ。この人の子すら馬鹿げた事にエンドリアの第2王子と言い張る。そして、兄上曰くエンドリア国王に追われてると主張するのだから何を真実とするかだ。それにソルフェーゼに関しても転移魔導やら知り合って2日とかでイマイチ実態も掴めなかった。今日本人と話した印象は最悪も最悪でしかない訳だ。


「…何が真実で何が嘘なのかしらね。本当明日が思いやられるわ…。」


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