表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Last Inferno  作者: 浅木彩芽
第1幕 5つの宝の鍵編
3/9

002 憧れと現実の鳥籠の外

「はぁ…なんて賑やかなんだ!」


見渡せば見渡す程に人は溢れ賑わい活気に満ちていた。そう今いる場所はなんと言っても王都ロランのバザール区域。今までは城の上から遠く眺める事しかできなかった場所。隠し通路の出口の城外れの丘から此処に辿り着くまでに朝はとうに過ぎお昼時になる頃。その時間帯もありバザールは賑わいの盛んな時間。食事処には人が溢れ始め皆楽しそうに食事をし、あるものは子供と共に昼の買い出し。あるものは自分の店こそはと客呼びに励む。衰退期と言えどもやはり始まったばかり故に王都はさして寂れた雰囲気はない様に見える。しかし、少し路地を除けば当たり前にひもじそうに大通りを睨む視線もある。貧困の差とは繁栄してようとも衰退してようとも少なからずある訳だからいない方が不自然なのだろうがやはり王城であんなに裕福な暮らしをしてきたぶん理想は馳せるものだろう。


「おい、あんまり騒ぐなよ。」


そう言ってソルはため息をついているが俺はそれよりも串に刺さった肉と野菜などがソース?に浸してある物を取り出しては火炙りにしてる物に興味を惹かれてならなかった。何と言ってもそれを購入した者たちは皿に盛らずに串に刺さった肉や野菜にかぶりついているのだから疑問で仕方なかった。しかし、その疑問も通り越して何よりもこの香ばしく、ジューウ…という音が何よりも俺を釘付けにする。


「お!騎士の兄ちゃん食べるかい?今なら150エルリを120エルリにしてあげるよ。」


「あ、外だと通貨と物を交換するんだったっけか。」


「なんだ?騎士の癖に金がねぇとかじゃ無いだろうな?」


「え、あ、今日は……その……えっと…」


そう他人とあまり喋ったことがない為にやたらと緊張して言葉を吃らせてしまう。ソルとはあんなに簡単に話せたというのに。上手く会話の出来ない俺を見兼ねたのか盛大なため息と共にソルは俺の肩を叩いてこう言った。


「おいおい、それはないぜ?さっきそこの美人さんには100エルリで売ってたよな?何でも美人割とかだったか?」


「あ?んだ?」


「俺はこいつの連れさ。それよりも、こいつの顔よく拝んでみろよ。…美人だろ?」


「まぁ、そりゃスッゲー美人だ。」


「認めたな。こいつに一本俺が連れ回しちまってる駄賃に買う。110エルリだ。」


「んだと何言ってやがるテメェ。騎士なんぞたんまり金持ってやがる輩にまけてやるかとでも思ってのか?」


「馬鹿だなあんた。ボッタくるつもりだったのか。俺はそこの小さな値札を読んだに過ぎないぜ?元値を払うってんのにそりゃあねぇーぜ。前の客には美人だからとまけて美人の連れに奢るから元値を払うって言う客にそのしうちかよ?なぁ?」


そう言うと店主は舌打ちをする。


「貴族騎士の兄ちゃん。やたら口のうめぇ連れ連れてやがりやがって。まぁいい100エルリで良いぜ。口の回る奴は好きだし、マジで美人な男であんなにキラキラした目で見られちゃあ正直食わせてやりたかなるからな。」


そう言って店主は串を俺に一本渡す。


「あ、ありがとう。…これってかぶりついて良いんだよな?」


「ンなの好きに食えば良い。おら、付いて来い。」


そう言ったソルはいつの間にかもう一本買って受け取っていたのか同じ物をカブリと串の肉にかぶりつくそれはやはり美味しそうでたまらなかった。だから、自分もカブリと真似する形で食べる。


「んんんっふっ!?!?」


「んだ、うっせぇ。あちぃんだから気をつけろ。アホが。」


「っ、ちがっ、はふっ…んむ。…それもあるけどっ!?これ今までに食べたどんな物より美味しいんだ!?作法なんてないの驚きだし、冷めた食事なんかでも無い熱々のお肉と野菜甘辛のソースが絡んで香ばしく焼きあがってる。そんな単純な食べ物が今までにない程に…美味しい。本当に美味しい…。」


「今まで何食ってきたんだよ。感動しすぎだろ。」


そう言ってソルは優しく遠くを思うように笑った。小馬鹿にした笑いが多い彼にしたら珍しい笑い方だったが、結局出会って良く見る全てを小馬鹿にした様な笑い方に戻る。


「んで…その服は貴族って言うよりは、騎士服に似てるがちげぇんだろ?これからお尋ね者にならにゃぁめんどくせぇ。さっさとその剣以外売り飛ばして新しい服にすんぞ。」


「嗚呼、気にしなくていいぞ。この服は正真正銘、本当に騎士団の服だからな。ほら見てみろ。彼処の騎士の服と同じだろ?」


「え、は?嗚呼、そうだな。本当に同じか?」


「同じ同じ。俺が近衛の騎士服が着たいって言って着せて貰ってたからな。本物だ。運動するのにちょうど良かったし、兄上の寄越す服より何百倍も増しだからな。」


「はぁ、ならいいか。寧ろ近衛の騎士服を売り飛ばす方がめんどくせぇ事になりかねない。それにそれはそれで便利か。幸いテメェの髪と目は栗色に真紅の瞳だ。エンドレアじゃあめずらしくねぇ。背丈も平均くらいの新人騎士でも危うそうな体型だが良いとこでの貴族の坊ちゃんでなら納得の容姿。にしても極め付けは顔も知れない王子ってのも便利だな。あ、でもマント取るなよ。所属なんかはしらねぇから聞かれると面倒だ。」


「…マントはわかったが。ソル、それは嫌味か?それを言うならお前は目立ち過ぎだっつーの!銀髪に金の瞳、そんで顔の刺青。苦労するな。ってか身長なんか俺と変わんねぇだろっ。」


「ふん、ある程度は魔導で隠せる。銀髪はどうしようもないが瞳と刺青は認識阻害でどうとでも出来るさ。」


「確かに始めは見えなかったけど今はフード越しでも見えるじゃないか。」


「そりゃ一回顔見た奴は基本認識阻害外だからな。見えて当たり前だろ。アホか。」


「ぐぅ…魔導は便利な事で。それで、この後の予定は?」


そう尋ねると会った時からよく鳴らしていた舌打ちが鳴る。きっと癖なのだろう。面倒ごとと予定が狂うと舌を打つのだろうなぁと観察してしまってる自分もこの俺の唐突に現れた救世主もとい謎の男を知ろうと観察して居るのだろう。しかし、この男は他人に頓着しないのか、それとも長く人付き合いを絶っていたのか、見た目では歳が判別つかない辺りどちらなのだろうか。舌打ちをした後考える素振りをするも無言である。だから、答えを急かそうと思って口を開こうとすれば先にソルの口が開く。


「何かが後を付けてやがる。意外と速い対応だな。クソが。休息と旅支度ぐらいさせろや。ヴァヴェ。ちゃんと飯食って宿に泊まる予定だったが軽く買い物だけ済ませてさっさと街からずらかるぞ。奴ら灯台下暗しってのを理解してやがった。」


「は?って、追われてるって俺の顔知ってるのって兄上の召使い騎士六花部隊長。それと弟の特殊魔導部隊北斗各隊長ぐらいだぞ?」


「あ?それの何れかに追われてるって考えると納得いくな。まぁ、テメェに追跡用術式がないお陰で助かってる感じだな。」


追跡術式と言われそもそも俺が出て行く事も攫われて剰えあの部屋に身内以外に侵入者がくる想定なんてしていなかったのだろう。


「旅支度って外に出る方が危険じゃ?」


何度目だろうかのため息が聞こえる。そして、面倒に思っていいるにも関わらず説明をしてくれる。


「テメェの剣も俺の魔導もこんな人中じゃあ充分その力を発揮出来ねぇんだよ。そもそも、俺は兎も角テメェに剣も抜かせられねぇよ。でも、彼方さんは違げぇ。召使い騎士六花や王国特殊魔導部隊北斗が話だと別だ。彼奴ら暗殺部隊で特に市街地、室内戦闘に於ける最高の部隊だ。彼奴らは国王と王子がそれぞれ指揮する直属部隊。まぁ俺も名前と式典に出てる奴らしか知らねぇけど。六花なんて言うのはここ6代前ぐらいから出来た国王直属部隊だったな。彼奴ら始めは女のみのエゲツない部隊だったけど、ここ2代はメイドと執事の混合部隊だな。その分クソ厄介だ。特殊魔導部隊に関しちゃ絶望の王子が自分の保身で作った部隊だ。今回忍び込んだ際に小遣い稼ぎに初見したけどあれはえげつない。エンドレアは唯でさえ国軍の強い国だ。敵にしたくねぇ国だよ。」


割りかし何度も乗りんでるらしいと言うだけあって情勢には詳しいらしく急ぎ足で食料を手際良く買っていく。


「騎士の兄ちゃん、このお連れさん中々の気前だね。どっかのお偉いさんかい?」


「え?…ええ、お忍びなもので。」


「流石に良い所の出だとバレますか。ちょっとばかり父に一泡吹かせようと思い家出をと思いましてね。一つ情報撹乱して頂きたい。」


俺が何気無く口走った事を上手く拾い上げて男に少しばかり多めの駄賃を渡す。すると良い少しニヤリと店主は笑い気分良さげに麻袋に物を詰めながら喋る。と言うかこいつ綺麗な言葉遣いできたのか。


「良いぜ。けど、相手さん次第な事をお忘れ無く。」


「わかっていますとも。しかし、少しばかりは期待してますよ。聞かれたら相手さんには2、3日ここに滞在予定だと言っていたと言って頂きたい。その後南に向かうらしいと。」


「了解。頼まれた。仕事分は値が付いた分商人として雇われたよ。」


「…生きてたらまた、贔屓にきますとも。」


「そりゃあありがてぇ。魔物に気を付けなっ!これは選別だ。騎士の兄ちゃんしっかり雇い主を守んな!」


「え、あ、はい!ありがとうございます。」


そう言って麻袋に少しオマケとばかりに干し果物を詰め店主は麻袋を返す。そして、オマケとばかりに勢い良く背中をバシッと叩かれもう進み始めてるソルの方へはたき出される。これが商人と言うもののノリかと本で読んだ感じの様でそれとは違う何かも感じている。


「そう言えば世間知らずの坊ちゃんだったな。この国の商人には自治か認めらてる。まぁ、いわば商人ギルドの資格がなきゃ商売できない決まりだ。言ってしまえば商人全て商人ギルドだな。あの紋は確か商店ギルドアラベスクだな。それぞれの地に支店を多く展開させ広いネットワークを持ってる。商人ギルド最大のギルドだ。」


「あれがギルド。ギルドといえば傭兵団やトレジャー達で有名だよな?」


「ああ、そうだな。ギルドは金を稼ぐには手っ取り早いしな。だがこの国に認めらてるギルドは認可を得た多数の商人ギルド以外は護衛を生業にする国の認めた3つのギルドだけだ。エンドレアは商売はしやすいがそれ以外は割と規制の厳しい国だな。まぁ、ノーノンバル信教共和国に比べりゃあましだがな。」


「あの信教共和国は1人の名誉司教の教えを崇める国家だったか。そして、あの国ほど反傷ありハーフエルフを、ハーフ差別の高い国は無いとも聞く。今は何故傷ありハーフエルフを狩るのかの理由がほぼ無いのは知ってるが、それでもあの国は未だに傷ありハーフエルフを狩る部隊を独自の自警軍として持っている。今や唯の国軍とも言われてるけれど。」


「そうなのかよ。意味無く命狙われてるとか時代ってのは恐ろしいな。」


「追われる理由がやはりあったのか?」


「まぁ、俺には傍迷惑でしかなかったけどな。取り敢えず最低限の準備は整ったわけだし急ぐぞ。撹乱もそう長くもたねぇかんな。」


そう言って王都の北の出口の検問所が見える。そこで俺は急いでソルを止める。


「ま、待て!彼処は駄目だ!兎に角そこに待ち構えてる奴が駄目だ!」


そう言えばソルはまた舌打ちをかます。そして、一言もう遅せぇよ。と言う。


「これはこれは昨日の侵入者じゃあありませんの。こんにちは。」


「どーも、昨日の美人さんじゃぁねぇの。まさか、昨日の今日で会うたぁ思っちゃなかったな。」


「ふふっ、昨日は名前も名乗らず失礼出しました。今度は名乗ってあげるわ。私は召使い騎士六花第3部隊銀花隊長ピサンリ。私も貴方がただ下らない宝を盗むぐらいの盗人ならあの時見逃したままに探しませんでしたわ。しかし、それは盗んではならない。とんでもない宝を貴方は盗んでしまった。貴方はこの国最大の大罪人。死すら罰にならない。」


「あーそうだなぁ。確かに宝剣は大層すぎたか?」


「……は?宝剣?何言って…」


その態度は自分にすら理解するに遅れる程で、世間話で軽く相槌を打つ程度の事の様に軽い受け答えに真面目に話してる方は何だこいつと思うだろう。そう宝剣その言葉を理解してついダインスレイフを隠す様に抱えれば呆けていたピサリンもハッとそれとかと思いもしたが忌々しいとばかりに心底機嫌の悪そうな声だった。


「嗚呼、それもそこでしたか。しかし、それは些細な事。今すぐそれを返すのです。貴方はそして、地獄を味わう事に感謝して後悔と共にその命を憎みなさい。」


そこに立つのはメイド服の様な騎士服を纏った女。金の長く細やかなウェーブを黒色のレースリボンでツインテールに纏め、翡翠の瞳をした程よい体つきの彼女は銃を構えた。


「え、逃げれないかこれ?」


「俺一人なら余裕だがテメェがなぁ。」


「え、俺出戻り?」


「いや、ダインスレイフが使えねぇのは困るから何とかするさ。てか、テメェの言う事聞かねぇの彼奴?」


「え、さぁ?」


そう言われてみれば顔を見る機会と彼女を知る機会はあれど話す機会はなかったなぁと思う。兄様の部下だからきっと言う事は聞いてくれないだろうが駄目元で声をかける。


「なぁ、俺外に出たいんだ。出来れば見逃してくれない?」


話しければ唖然とした顔の後に問いかけられる。


「まぁ、ヴァーシュヴェネッヂ様。脅されているのですね。お可哀想に。直ぐに我が王の所に帰れますからご安心ください。」


「いや、俺の本心だよ。勝手に想像するなよ。俺はコイツと外に行く。だから見逃せ。」


「ふふふ、ご冗談を。貴方様が我が王から自ら離れるとおっしゃるのですか。」


「そうだ。俺は人形じゃない。」


「遅い、反抗期と言う訳ですか?少しは人間らしさがあったものですね。」


それまで優しい笑顔と呼ぶに相応しい顔が伏せられた。そしてその伏せられた顔が上がったと思えば至極気にくわないと言う顔が俺に向けられ先程の声とは全く似つかない憎みの篭った声が発せられる。


「…人形風情が下手に出来れば調子に乗って。けれど、今なら貴方様を怪我させた所でこの怪我わらしい大罪人に罪を擦りつけられる。お人形の貴方様は解らなかったでしょ?私達召使い騎士は貴方様が大嫌いなのよ?我らが王の寵愛を一人で受けている貴方様がっ!外に出た事を後悔すると良いっ!」


「…いや、兄上のメイドと執事達は俺が嫌いなの解ってたさ。だから、話しかけなかったし、近づかなかった。いらない争いは彼処では俺以外が苦しむからな。それにあの部屋の中や城の中なら兄上の物である事からの足掻きは難しい。けれど、外は別だ。誰も俺を第二王子としても何処の誰だとも知らない。それを踏まえて言えば、守られるのを辞めたんだ。守られる側は守ってもらうに当たって守ろうとする守る側のエゴに左右される。それは守られてる方に守ってる側の守る理由を決める権利はないからだ。だから、守る側は理由がソワなくなれば守るのを辞められる。けれど、守られる側には守って欲しいと思っていようがいまいがどうにもならないのさ。だってそれは自立してる事じゃないからさ。けれど、守られる側だって決める事が出来る事ある。守られる事を拒否する事。デメリットは大きいけれどね。だから、君の言う後悔とやらはきっとこれからの守られて来た事で知らなかった事でだろう?そんなの掛かってこいだ。」


「…わかった様な口振りをっ。なら今、貴方様達に力があると言いたいの?私から逃げ延びる力がっ!」


「あるさ、俺に無くとも俺の腰の剣と目の前のコイツには。」


そう言えば話してる間に何やら術式を組んでいたらしくタイミングを合わせた様に術式か展開し始めた。」


「なっ!?これは結界!?この短期間でどうしてっ!簡易結界術式は滅びてた筈!?今残るのは長期術式と大規模術式のみの筈っ!」


結界に閉じ込めれれたピサリンは信じられないと叫ぶ。


「へぇ、残念だったな生きた時が違げぇんだよ。まぁテメェの銃を最大出力にして術式に乗せて弾切れになるまで撃てば出れるだろうよ。それか外からは見えてりゃ簡単壊れる術式だ。こうやって外とも会話できるしな。応援の奴にでも助けてもらえ。」


「俺を囮につかったのか?」


「勝手にテメェが囮になったんだ。お陰で楽に低コストで片付いた。応援が来る前にさっさとズラかるぞ。外に出りゃ、ダインスレイフだろうと何であろうと使える。それ以外だとチームプレイとかもう幾年もやってねぇのに上手く出来る自信ねぇ。」


「チームプレイって…逞しい事で。流石俺の救世主様だ。」


そう言ってやれば鼻で笑われるだけだった。ソルはスタコラと俺の手を掴み体良く門番を下がらせていたのか報告に行かせたのかわからないが検問も無く通り過ぎる事が出来た。去り際にのピサリンの激怒は同情するぐらいに去り際のこいつは無関心だった。そして極め付けはこの台詞である。


「あの女がある程度間抜けで助かったな。」


「間抜けなのか?」


「あの場で俺を見くびって、お前に激情するバカを間抜けと言わずなんて言う。だから、昨日も俺にアッサリ撒かれるんだ。学ばないアホだな。」


ハッと鼻で笑って毒を吐きまくるこいつは出会った時からアホだの馬鹿だの、兎に角相手を罵倒するし舌打ちも多いし、本当に口が悪い。それでいて、上位の失伝魔導を使いこなすのだから教養がないわけでない。失伝魔導以外にも余りにもナチュラルだったが城の隠し通路での灯りなんかも当たり前に窓で灯していたから基本魔導も言うまでもない。それに情勢にも詳しかったし、商店の親父さんとのやりとりとかと手馴れていた。


「ソルって何者何だ?」


「何者?俺は俺だ。それ以外何でもねぇ。」


「いやいや、いまは大罪人だけだどさ。その前は仕事してたんだろ?」


「あ?仕事?んなのテキトーだったての。」


「テキトー?」


「そうだ、今回みたいに城にそいつ探すついでに城探って情報屋に売ったり。魔物やら薬草やら野党とか狩って売ったりが主だな。そうすりゃ何とかんだよ。」


「何だか、凄いハイスペックなんだと理解した。」


そんな事を思いながら空を見上げればぐぅーっと自分の腹の虫が鳴く。


「そう言えば串焼き食って小腹満たしたきり他は何も食い飲みもしてなかった。」


「文句も言わないお坊ちゃんなのがスゲーよ。けどしばらくはお預けだ。串焼き食っただけ良しとしろ。次は早くてせめて夕暮れだな。」


「…やっぱりか。」


「賢いのも考えようか?」


「本の様には行かないって良く物語の癖に書いてあるからな。」


「お前の世界は本の中で終わらなかった訳だ。まぁ、理由はっ!」


そう言って、ソルは魔導障壁を展開させれば目の前で爆発が起こる。


「…早かったじゃねぇーか。援軍は直ぐに来てくれたのか?」


「は、え?そう言う?」


「何だ。気付いてた訳じゃねぇーのか。まぁ、引き篭もり割に賢いのは確かだってのに訂正な。」


そう言って面倒だと言わんばかりに溜息と少しの嘲笑い、圧倒的である自信。今の一撃確かに命を奪うものでは無いが確実に爆撃だけで酷いものだ。現にそこの街道は整備が必要だ。


「ちょっと、失伝魔導いいえ、古代魔導式が使えるからって調子に乗るなっ!!」


「古代魔導式って今の魔導のリミッター術式を外しただけの唯の魔導だろーが。」


「それこそ神の定めた禁忌の由縁。平和を望む神への冒涜。」


空から声が降る。上を見上げれば燃える様な赤い肩までの髪にエメラルドの瞳。そして腰に翼を生やした天使の様で白と黒の召使い騎士の武装型のメイド服を着込んだ女が見下ろしていた。


「…ッチ。聖天族か。しかも属性は炎。下のは双銃使い。物理と魔導しかも、制空権すら取られてやがっんのか。」


「古代魔導式を使うだけあって、最高、最低の魔道士の様ね。良く一目見ただけで属性まで解るなんて、気持ち悪い。」


見下したままの彼女は心底気持ち悪い虫を目にした様にその美しい顔を歪め次は俺に顔を向ける。


「ヴァーシュヴェネッヂ様、お迎えに上がりましたよ。貴方まで神を冒頭為さるおつもりですか?貴方は偉大なる神の定めた王の為の物。貴方は己で生きなくて良いのです。」


「…そんなの、知るか。…神様なんてこいつが滅ぼしてくれるさ。」


そう言った瞬間一気に殺気が強くなり、気温が上がる。さっきまでとは違い彼女の翼は炎を纏っていた。


「何たる罰当たり。…人形には神の偉大さなんて理解できないのね。だから、異端者に惑わされる。此処で思い知ると良いのです。六花第1部隊三白隊長エルマリアと六花第3部隊銀花のピサリンの二人で罰を与えてあげましょう。」


それは足の竦むほどの恐怖だった。そして、視界にソルの背が広がったと思えばまた爆発が起こる。


「何突っ立てやがる!死ぬぞっクソがっ!!」

「あ、えっと…」


しかし、考える事ができない。どうすれば良いのかすら考えられなかった。魔物とは違う圧倒的な力の差と殺気が想像もつかない程の恐怖だった。


「ッチ!流石に引きこもりにこれはキツイかっ!」


爆発の直ぐ後に銃弾が飛んで来る。しかし、それをソルが水の魔導で防ぐも直ぐに炎が襲ってくる。


「ヴァヴェ!俺の背中だけ見てろっ!それだけ追いかければ良い。」


その言葉を理解するよりもそれしかできなかった。炎が追いかけ来る。そして、銃弾の音がする。死への恐怖。口では分かっていても体験は矢張り違った。本の中の主人公にはやっぱり慣れないのだ。


「うふふ、庇いながらいつまで逃げれるかしらぁあ!」


「罪を理解して神に祈りなさい。そして、懺悔しなさい!神は許しはしないでしょうけど。」


ソルは舌打ちをする。魔導で防御と反撃をするが中々に決定打にならない。そして逃げ回る故に俺の体力もしんどくなるのを感じ始める。


「ハァ、ハァっうわぁっ!!」


「クソッが。やっぱ限界があんか。大丈夫かっ!!畜生がぁあっ!」


その瞬間赤が舞った。そこで炎を操るエルマリアの様な美しい赤ではなく、ドス赤い液体。そう血が舞った。ソルが狙われた俺を庇ったのだった。


「な、んで?」


「テメェは怪我なんて真面にしたこねぇだろ。そんなんで怪我されちゃあ余計足手纏いなんだよ。」


「ソルっ!」


「自らを犠牲になんて、素晴らしいのかしら。けれど、これで勝敗はつ来ましたね。」


「このお人形様にも少し痛い目見て貰わなきゃ気が済まないわ。」


「そうだけど、我が王は望まない。逆らうの?」


エルマリアとピサリンがそんな会話をしてる中で俺はただソルが死んでしまうと俺の救世主が居なくなってしまう恐怖が頭を占めていた。そして声が聞こえる。


『今こそ、私を頼りなさい。私が助けてあげるわぁ。』


本当に?助かるのかとその声に疑問を抱く。


『私を抜いて、血を捧げれば私が必ず助けてあげるわぁ。』


血を捧げれば、助かる。


『ヴァヴェ。さぁ、抜きなさい!』


俺はダインスレイフを抜くそして、掌を切りそれをダインスレイフに塗った。


『あぁあああっ!!サイッコウッ!!!最高よぉ!!さぁ、私を構えなさい。ヴァヴェ!!』


そうするとダインスレイフは絶叫し術式が浮かび上がる。


『そして唱えてぇ!"滅びよ、永遠の苦痛をジャッジ"ってぇ!』


口は勝手に動く。


「滅びよ!永遠の苦痛をジャッジ!!!」


そうすると術式は大きく展開され勝手に腕が剣を振るう。それは圧感の一撃だ。俺の思い知れない反撃に召使い騎士二人は理解出来ずに取り乱す。


「な、何なの!?い、いやぁああっ!!」


「唯の宝剣が何故っきゃあああっ!!」


ダインスレイフの剣撃が二人を吹き飛ばした。その一撃は見事に決まった。

その隙を見たソルは二人の生存を確認するよりも早く動く。


「…ぐっ、この手は使いたかなかったがしかたねぇ。何処に行くか解らんねぇが、覚悟しろ。」


そう言うと血に濡れたソルは放心してる俺を抱き寄せ地面に魔導を展開して叫ぶ。


「ーー星と聖霊の導きに我身を任せる。転移っ!」


光が俺達を包み込んで身体が宙を浮く感覚がしたのを最後に限界だった。




***




そこは地面が抉られた様な跡が出来ていた。

炎の聖霊の加護のお陰でなんとか軽傷で済むもこれを打ち出した者はこの一瞬で閃光と共に消えていった。今や何処に居るかも掴めない。しかし、あの傷と足手纏いでは逃げるには無理があるはずが数キロな単位でひらけたこの街道で姿を消したのだから、あの死に掛けの魔道士は余程だろう。人形が居なければ造作も無く私らなど蹴散らされてた程には格が違うのは確かだった。


「……生きてるかしら。ピサリン?」


そこの抉られたより少しずれた今は崖の端になってしまってる所に腕を無くし唸り叫ぶピサリンが倒れている。


「あのクソ餓鬼。私の腕をぉぉお!拷問してやる!王の見えない所で王の加護のない所で必ずぅう!!そもそも王に弟等必要ない!あんな、姉を簡単に裏切り生きる為に殺そうとしたぁ!!だからぁ!殺したのにぃぃっ!」


どうやら彼女は避け損ね右腕を無くしたらしい。痛みと怒りで満身なりながら記憶を混濁させ唸っている。これではこの先任務などできないだろう。


「憎らしい。しかし今は神の罰が下る事を願いましょうか。…はぁ。ピサリン黙りなさい。帰るわよ。」


内心この街道の修理とピサリンのしばらくの穴埋めを恐らく押し付けられるであろう面倒ごとに頭を悩めせ王に咎められるであろう罪悪を思い羽を広げその場を去るのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ