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Last Inferno  作者: 浅木彩芽
第1幕 5つの宝の鍵編
2/9

001 囚われのお姫様の幸福論と不幸論

本を読んで居たけれど不意に目休めに天気と時の移り変わり以外変わり映えのない窓の外を眺めていたら城の中庭を灯りが忙しなく動き回るのが見える。今は夜中と言うのに外が随分と騒がしいなと思って眺める。しかし、その騒ぎの理由を知る術は持っていない。何しろここの部屋は見張りが居ないのはおろか中から外に出る術もない。唯一は窓が開くのは救いだ。しかし、城の最上階付近故に下に声が届く事も無ければ顔も真面に見えはしない。それにこの部屋に時計なんてものもないからこの窓の風景と体内時計に頼る他ないがしばらく何事かと思いを巡らせれば何時もとも違う可笑しな音と共に廊下に続く扉が開く。


「チッ、可笑しな仕組みの鍵になってやがったか。物理的に壊すのは楽だが経路が知れるから後が面倒だってのに…ってんだこの部屋。胸糞悪りぃ。」


開いた扉のそこに現れたのはフードを被った文句を一人ぼやきながら部屋を見渡す見慣れないそいつは声や身体つきからして男であるだろう怪しい奴だった。経路が知れるとか言ってるあたり、外の騒ぎの根源であろう口の悪いらしいそいつは不機嫌さを隠さずに俺に気がつけばまた舌打ちをするのだった。そして、俺のことなんて無害と思ったのかずかずかと部屋に入ってきたと思えば普通に俺に話かけながらあたりを見渡しながら入ってきたのだった。


「あ?お前がこの部屋の主かと言うよりは外側施錠の中から開けられないのからその辺り考えれば囚われてる感じか。」


「…そうだな。これは閉じ込められてるって言うだろうな。間違っちゃいないさ。」


何とも詰まらない出会い方。それがこいつとの出会いだと思うとこれが今後の笑い話になるなんて今は思い描きもしてない。俺の世界も狭いだけあってそれを違和感に思う思想もなかった故だろうか。この部屋に突然人が入って来るなんて当たり前で非現実なのは自分は死ぬまでこの部屋を出れないと思っていたのだから。それが当たり前だと不幸にすら思わないのだからそれが後々笑い話になってしまった。けれど、これを多くに語る始まりになると思ったのも事実だった。


「なんだ、そんなに不幸に思ってない口振りだな。侵入者にも焦らない。危機感ぐらい持たなきゃならねだろ。」


「危機感を持たなきゃなんない相手は忠告なんてしないだろう。」


「はっ、アホだろ。危機感持てって。酷い事しようと思えば誰だってできる。子供だって虫を酷い事とは違う次元で酷く無残に殺すだろーが。…しっかしこの部屋見る限りもテメェと話す感じでもテメェ愛玩具の類だろ。趣味悪りぃ王だな今期は。まぁ、衰退期らしいと言えばそうだな。」


そいつは俺との会話を心底嫌そうな声で喋りかけてくる。通常からこの嫌そうな喋りなのかそいつの通常を知れるほどでもないが嫌そうなと印象は第一印象ってやつだ。しかしそんな印象だが、疑問に少なくとも何かしらの返しはあるだろうと期待できる故に更に声をかけてしまう。


「今期はってエルフか何かなのか長寿な種族なのか、あんた。」


「エルフね。さぁ?お前に関係ねぇ事だ。」


「関係ない。そうだな。関係ない。なら関係ある事でさ。この部屋にはなんの用で?」


そいつは一拍置いてその質問を濁す。確かにここに隔離された世界で種族なんぞ言葉を交わせるか、交わせないかの差しか関係ない。しかし、この部屋に来たことに対しては自分の生活スペースで有り、こいつは鍵が変わる前のこの部屋を知ってる様な口振りで来た訳だから目的ありきでこの部屋に来たのは明白である。だから、この部屋に何かあるのなら住んでる故に関係あるだろうと反論する。


「あ?お前に言う必要ねぇだろ。」


しかし、無下にも次は壁際を探りながらのながら作業的に視線すら向けられず辺りを探るそいつは必要ないと返す。それならと更にヤケになって質問を返す。


「じゃあ何故会話する?」


「無視されるのは俺が気分悪りぃ。それだけだ。…チッんだよ。それにしてもこの玩具だらけな面倒な荷物は。ガキは暇があればオモチャ遊びってか?邪魔で仕方ねぇ。」


「オモチャで遊ぶそんな年に見えるか?…壊して構わないさ。俺の物じゃない。」


「テメェのじゃないなら愛玩具のお前が怒られるんじゃねぇの?」


「俺が?そんなの壊したって怒られないさ。寧ろ怪我の心配されて怪我してたらそれがあんたが壊すのと同じ末路を更に向こうへ進むぐらいさ。」


「…このご時世に物を大切に出来ないクソ貴族だな。気楽な人生そうで羨ましい。」


男はそう言って手を一振りし魔導を展開させそこのものを一瞬にして消し去った。


「クソ貴族ね。貧しい所にこんなオモチャより食べ物の方がいいだろう。それにしても魔導師か。下級魔導程度の才能しかないから羨ましいな。」


「…下級魔導程度はそうだな。どんな奴らでも誰でも使えるレベルだかんな。魔導だけは才能と言うよりは個人保有魔力値の問題だからな。」


そう言いながら男は壁に触れ呪文を唱える。そうすれば魔導施錠が起動する。魔導施錠は呪文の順列だけ分かれば開く鍵だから大気魔力魔導の一つ。大気魔力はそこにある初めから存在する魔力だ。それしか使わないのが下級魔導。魔導道具の殆どがそれに依存している。だから下級魔導と魔導道具は保有魔力値が少なくとも努力次第でどうにでもなる勉学の少しできる一般人にも可能だ。中級以上は産まれながらの保有魔力値に依存して来る為に魔力値がものを言うだけな話だ。魔導施錠は施すのには上級魔導の部類だが術として施して在るものに対しては誰でも開閉が可能と言う活気的な施錠だ。その扉は魔導施錠以外での開閉が全て無効になる故にだ。


「驚いた…、そこに隠し通路があったんだな。それは外に繋がるのか。」


「ここは昔俺が無理やり作った抜け道だからな。誰が知る訳ない。まぁ、繋がる通路は結局この城に初めからあった隠し通路だから今や知られてない故に魔物の巣窟だな。」


「そうか、ならさっさと行こうか。」


俺は迷わず開いた扉を潜る。そうすればそいつは威圧的に声をかける。


「は?テメェどう言うつもりだ?」


「どう言うとは?ただ人生の一度、外に出たいそれだけだ。外に出る為のいい機会だ。勝手にお前に付いて回るつもりだ。」


「はぁ?愛玩具ならここに入れば生きるの楽だろうが。外は衰退期に入って余り良くない雰囲気だ。人災なんて当たり前。それに自然災害、疫病、戦争…何が起こっても不思議じゃねぇ。それに俺と一緒にと言うのは必ず後悔する。」


何故外に出る事をそんなに否定されなければならないのだろう。何処に居たってそんなのは起こる事だ。自然災害なんて以ての外だし疫病なんてもそうだ。そして何より戦争に置いてここが最も重要で安全で最も危険な場所だ。其れなのにおかしな事を言う。閉じ込められてるからそんなので引くだなんて思われてるのだろか。


「後悔?…閉じ込められてるからってそんな事で揺らがない。俺はずっと外に出たかったんだ。一人じゃあ無理なのは知ってたし誰も助けてくれないのも知ってた。それが神様って奴が俺に与えた役割だから。けどな、お前が来た。それだけが救いなんだ。もう二度とこのチャンスが来ない事なんて分かる。その後悔をする方が嫌なんだ。それにこの城に単体で乗り込んで来たんだ。大罪人なのは理解出来てる。けれど、大罪人出なきゃ俺は逆に困るな。だって俺が盗まれるって大罪も押し付けなければならない。それにこの城はただの侵入者が最上階のこの部屋に来れるほど甘くない世界最高に等しい要塞で警備兵だってたかが一人に良いように出来るレベルじゃない。だからたかが使用人だと協力しただけで殺されるのは可哀想だろ。その分で大罪人はもとから大罪人だ。なんの問題もない。」


「付いて来ても来なくてもそれが後悔しかなくともか?」


「何もしないで後悔するよりはマシだ!」


「どちらの後悔が恐ろしく重いかも分からないのにな。まぁいいそんなの俺も未来が分かるわけじゃねぇしな…確かにここは今人の居る要塞じゃあ最高峰かもな。お前のいる所に関係者以外が辿り着くのはほぼ無理だろうな。けどな俺の言葉を少しもテメェは理解してない。俺はもう一度言う。お前は後悔する。頼る相手を間違えてるからな。」


それは、全てを諦めた声だった。けれどそいつの諦めなど俺にはなんの関係もないこだった。要はそいつの言う後悔は俺が言ったのとは別で俺が思っていない以上の事なのだろう。しかし、そんなの俺に当たり前に理解を超える事なのは理解できる。それでも諦められてるその声音で俺はその更にそいつについて行きたいと思ってしまって居たのだ。それにどの道直ぐに後悔は外に出ればどうであろうとするだろうと思っている。外を知れば此処へ戻った時の事を考えればその時の自分は思いも知れないだろう。だけど、それでも良いと今思っているのだ。だから、答える。


「実際しても良いんだよ。後悔も幸福もない此処よりは感情的でいられる。俺は例え後悔だろうと期待だろうと幸福も不幸も希望も絶望も知りたい。」


「くだらない。直ぐに死ぬかもしれないんだぞ。お前は永遠ではないだろう。汚いものから目を背けられるなら期限が尽きるのを待てば良い。」


「ははっ、死ぬ事ができるのは幸福な事だろう。けどな、死への恐怖はある。だけど、それが幸福と不幸の両立なんだと信じてる。生きる事にも幸福と不幸がある。死にも幸福と不幸がある。何に大差があるんだろうな。けどな、此処にはそれは無いと思ってる。だから、それは生きるとは思えない。」


「…生きる事にも死ぬ事にも幸福と不幸がある。か。…お前はきっと理解してねぇよ。…もう説得するのも面倒臭せぇ。付いて来るなら好きにしろ。」


「そんなに都合よく考えてないさ。会って殺されなかっただけで始まりだと思ってる。それに朝が来る前に早く出ないと部屋の本当の主が来るかも知れない。さっさと行こうぜ。」


そう言えば男はため息を吐くも無言で扉をくぐり扉を施錠し通路に灯りを灯す。階段を降りればそこは城の内装を保っているが窓のない為かとても暗い。ここが上の階層かと言われると地下ではないのかと言いたくなるほどだ。


「凄いなまるでダンジョンだ。」


「ダンジョン。間違っちゃねぇーだろ。一応は魔物がいんだからな。」


「ダンジョンって仕掛けあってこそじゃないのか?」


そんな素朴な疑問を投げかければなんとも馬鹿らしいと言わんとため息混じりでその男は口にする。それも後ろをさしながら言った。


「仕掛けあんだろ隠し通路なんだしな。入り口の殆どは隠し扉だ。それに王城だろ?道なんて迷う奴ら多いだろ。それだけでダンジョンって話だ。許可もらってなきゃ兵士すら敵だしな、それにここにいる王と王子直属は化け物級だしな。1対1じゃやり合いたかねぇくらいだ。」


「そうなのか?彼奴らとは真面に話したことも無いからなぁ。まぁ、兄上とあの子は僕の話なんて聞かないで聞かせて愛でるだけだからな。」


「闇しか感じねぇ。兄弟でかよ。本当王族ってのは可笑しな人種だ。」


「否定はしないさ。可笑しいのは事実だしね。本の中のようだと俺も思うし。」


「テメェも類を外れてねぇよ。」


俺が変わってないって言うのは難しい。それに普通なんてこのフードのこいつも可笑しな人種なのは少し向けて居た顔を逸らして前向き歩くあたり自分の言えた側でないと少し思っているのだろうか。しかし不思議なのは初対面にも優しく突き放さない。何故ついてくるなと言った俺の話しを無視せず、灯りも俺の分まで魔導で灯しているようだし。最初にヤケで何故と尋ねはしたが自分が気分悪いからと何とも理想的な言葉。フードの顔は決して見えない。きっと相手は魔道士なわけだし相当のやり手。そして、この城に単体で乗り込んで城の騒がしさから一度は見つかって、撒いたのだろう。それで王室に近い俺の部屋を通ってると考えればきっと王室警備の六花部隊の誰かしらには会ってるのも考えられる。それなのにこいつにその片鱗も見えない。見えない顔もきっと何らかの認識阻害の魔導で隠してるんだろう。それはまるで俺の好きな本の中の人だと思う。俺の部屋に来たそれだけで俺の狭い世界を破る物語の始まりに思える。憧れて止まなかった物語の世界。この人は俺の主人公で俺の救世主。俺の知らない世界から来たこいつに思い馳せてしまった。




***




その足取りはとても軽快で軽やかこの薄気味悪い道を喜んで歩いている。何時魔物が来るかもしれないこの道で。そもそも連れなんて何時ぶりなのだろうか。会話は流石に情報を一人で得る為には最低限はするが、こんなに長く細かくするのは久方振りだ。その他に気を配るのも同様なのは言うまでも無い。


「おい、先行し過ぎるな。下手に魔物を刺激されたらたまったもんじゃない。」


「あ、悪いな。でも魔物見て見たいなぁ。でも外に行けば幾らでも見れるんだよな。でも図鑑とかではたくさん観てきたから見分けはきっとつくぞ!」


「見分けついたって仕方ねぇだろ。襲ってきたら敵。それさえわかりゃいいだろうが。」


そうこう言ってれば魔物が現れる。


「おぉ!あれがウルフ!!」


「あいつそんな名前だったのか。犬っころで十分だろ。丸腰は下がってろ。」


そう言いつつも群れの逸れかもしくは群れの周囲偵察の犬っころだろう。確実に仕留めた方が面倒は少ない。しかし仕留め損なって後者の場合は群れでこそ、この魔物は多少強いのは確かだ。丸腰で箱入りの彼奴には荷が重いだろう。俺なら一瞬で片付くが。


「失せろ。」


そう言って術式を展開すれば犬っころは消失する。


「消えた、魔物ってみんな死ぬと魔力返りするのか!?」


「はぁ?んなわけねぇだろう。確かに魔力返りする魔物もいるがそんな上位こんな所居てたまるか。ただの魔導だっての。消失魔導の一種だ。原理は魔力返りに似てるが全くの別もんだ。魔力ごと消失する。」


「消失魔導…って確か禁忌で失伝魔導じゃないか?」


「知るかよ。俺が昔覚えたもんだ。後からそんな事言われても知るかよ。使えこなせねぇ方が悪りぃんだよ。」


「滅茶苦茶な…でも、まぁそこまで言うんだから怖い物なしだな!俺もこいつを余り使わない方がいいだろうし。でも、使ってあげてみたいや。」


相変わらず気楽に考えてるこのガキは丸腰で来たかと思っていたがよく見りゃ腰に剣を携えていた。それが何とも飾り剣でしかない見た目と脱走願望のあるたかが愛玩具に武装だなんておかしな話だ。だからこその質問を投げかける。


「お前、武装してたのか。」


「あ、これか?ただの暇つぶしの相手だ。この国の宝剣何だが、実は魔剣とか最強の武器だとか切り札とからしいぞ。御伽噺によく出て来る実在している剣の一つだと言っていた。」


そう言われ何だか引っかかるものの見せられたそれは鞘にはとても煌びやかな施しと術式があった。ただの剣ではない事がわかる。しかし、疑問はそんな物が何故愛玩具如きが持っているかだ。


「何故そんな物がある。」


「ん?あそこは国王の宝物庫だからな。」


「は?国王の宝物庫?お前の部屋でなくか?」


「あそこはこの国の王 "クルセカル国王"の宝物庫。俺はそこの宝物の一つだ。そしてこれはその人形の装飾。聞いた事ないか?第二王子は第一王子の誕生日プレゼント。」


「噂でしか無いと言われてた話か。産まれた事実はあるも墓は無く死んだとは公にはされてないし亡くなったと言った事実もないが、巷では幼くして絶望の王子の代わりに暗殺されたと噂になっていると言われている王族の亡き宝、早々に親の元に帰った幸せ者のはずだが?」


そう言うと幸せ者かぁとボヤキ言う。


「何だそれ。面白い話だな。もしかしたら兄上と言うよりはあの子がそう言う噂にしたのかもな。けれど、事実は詠まれた通りに俺は兄のプレゼントになった。そして、今も大事に大事に隠されてた。」


「なんて事だ…ならお前があの"ヴァーシュヴェネヂ第二王子"名しか存在しない現国王と第三王子の仲介場の部屋の名前とされて居るがそれは決して公にはされない場所が彼処か。」


「そんな言われなのか。それにしても仲介場か。兄は弟が好きだが弟は兄を嫌ってる。それを隠さず俺の元に来て俺を愛でるだけなんだよあの二人は。」


「成る程ななら迷うはずのない所で迷った理由が少しわかった。前までは迷わなかったしあんな仕掛けも術式もなかった。」


「迷った?何処で?仕掛けとか術式もって何だ?」


とても疑問に思ったのかそれとも外に出た事ないが故にあの部屋の空間が異質なのに気づけないだけなのか。


「この城に入った時から元からあの部屋の隠し通路でずらかる予定だったんだ。それ以前にここから進入予定だった。それが行きはとにかく見つからなかった。理由は結界だ。正規のルート出なきゃこの場所にはたどり着けない術式が施されてたんだ。外側からだったら何とか見つけられたからたどり着いたがな。しかしこう言った結界はたどり着くのは正規ルート以外では無理だが外に出る場合はとても楽だ。出口はランダムだがな。」


「へぇ、お前やっぱ凄いだな。」


しかし、そいつの反応は目を輝かせるガキそのものだ。まるで知らない全てを知りたいと知的探究心で満ち溢れている。あの胸糞悪りぃオモチャ箱も部屋にも似つかわしくない本棚と本が大量にあった。中にはパッと見俺でも知ってる禁書すらあった。まぁ、国の宝物庫ならあるのも納得だが。しかし、思えば常識から隔離されているもの程面倒なものはないんじゃないかと自分が後悔し始めてるなと思い始める。


「…今思ったがお前はとんでもなく面倒な存在じゃねぇか?」


そして俺がこいつを誰としっかり認識した事をとても愉快そうにしてるこいつは話して聞く程に厄介者だ。こいつが何故大罪人に着いて行くと豪語して、自分が罪人にならないのに自信があるのがわかった。そして、唯でさえ生きづらい世の中なので自分には厄介な追っ手もいるのに更に厄介な追っ手が増えるのだろうか。


「だから、言ったろ?大罪人にしか頼めないって。」


「クソが。入らない敵が増えたって訳かよ。今期は生き辛い。」


「あはは、今期か次元が違うな。」


ガキは子供の様に笑う。果たして何が楽しいのか。人の不幸を喜ぶ残虐性でも秘めているのだろうか。


「チッ、めんどくせぇ。」


「それは悪いな。そう言えば貴方の名前を聞いてもいいか?」


「俺の名前か。名は己を縛る物だ。それは互いに縛る楔であり。お互いを裂く物だ。」


「しかし、貴方は俺の名を知っている。それでは俺は独りよがりに縛られている事だな。」


こいつはこんな無知の様な表情な癖に言葉は賢くそれが更に面倒だ。あいつ程では無いにしろ、言葉巧みに相手を己の望む答えに都合よく導こうとする。これであいつ程の力があれば最早俺の望んだ存在だ。しかし、こいつは魔導はさほど使えないと言っていたし、閉じ込められている以上剣の腕も武術の類も期待出来ない。そんな事を思えば当初の出口とはきっと違うが出口辺りに差し掛かる。思った以上と言うよりは先程の一匹以外に可笑しなほどに魔物が襲って来ない。行きなんかもほぼ出会わなかった。それはそもそも可笑しく感じて居たが出口辺りに魔物の群れの気配がした。成る程、変に結界が張ってあるせいで結界の及ばない所以外は魔物の入りようが変わったらしい。要は追いやられた挙句入り口に溜まり獲物を狩って居たらしい。それ故に城の隠し通路はある種無防備の筈の隠し通路は守られて居たと言うわけだ。魔物が襲って来る。そして、構える俺を目にし先行するガキはそれに気づけば飾りと思しきその剣を次は自分の番だと言わんばかりに意気揚々と抜いた。俺はそれに目を疑った。その剣こそ長年俺がこの城に定期的に探しに来ていた鍵の一つ。彼奴に出会う為の鍵。あの剣は持つものを選ぶ宝剣の一つ。ガキはそれを抜きその宝剣の名を呼ぶ。


「俺に従えダインスレイフ。」


『良いのぉ!良いのぉ!!ヴァヴェの血をやっと飲めるのねぇえ!!!!どぉれほど夢見たのぉ!その貴方の血の代価一滴に満たなくとも神の力があげちゃうわぁぁあ!!』


あの歪んだ金切り声を上げて絶叫するクソッタレな剣は正しく血狂いの宝剣。宝剣と言うよりは魔剣に近いが魔王を殺す為に産み出された剣と言われのそれは血を代価に力を与え、使用者を死に近づける剣。


「少ない代価で頼むよ。俺はまだ死にたく無い。」


『あぁ、良い。良い!私もヴァヴェとはまだまだ共に居たいわぁ。貴方程の上質な血は大事にしたいものねぇ!雑魚にくれてやる一撃なんて一滴も必要ないのぉ!!!ひと舐めも勿体無いわぁ!!!』


魔物は尽く一層する。結局雑魚の集まりなど一溜まりもないだろう。その剣を使える自体で何を示そうこの世界で最強の剣士の称号であろう。それ程の宝剣だ。いや、この世界に5つ存在する宝の一つだ。神話の実在を物語る歴史の一つ。かつての彼奴は代価無しに屈服させていたがそんなの必要がなかっただけの話だ。


「おい、ダインスレイフ。やっと見つけたぞ。」


『うにゃ?なぁんだ。ソルフェーゼじゃあない。懐かしいねぇ。当たり前に生きてたのぉ。探してたぁって言われてもぉ。ソルちゃんに使われる事なんてゴメンねぇ。』


「ん?なんだ、知り合いか?」


「知り合いっていうのか?」


『ホォント薄情なのねぇ。そぅなのぉ。だぁけど、幾ら血が最高級品の子でもぉ教えてあーげない。血はとぉーてっも不味いからぁ、私は嫌いだけどぉ。私の一番の使い手の時の縁はぁ確かだものぉ。』


「ッチ、腹立つ剣は相変わらずだな。クソッが。」


『うふふぅーん。相変わらずお口が悪いわぁ。でもぉ、私はソルちゃんとお話しする気はぁないのぉ。わたしはソルちゃんだぁいキライなのよぉ。あの人の一番だからぁ最低限の会話はしてあげてるのぉ。それにぃ、久々に使ってもらえてぇはしゃぎ過ぎて疲れちゃったぁ。だから、鞘にお寝んねさせてぇ。力なら何度でもヴァヴェの為なら貸すわぁ。おやすみぃー。』


そうダインスレイフが言えばヴァーシュヴェネッヂは操られた様に剣を鞘に収めた。いや、正しく操られたのだろう。使用者を選べる程の上位な意思持ちの宝剣。命を対価に従わせてるなら未だしもそう言った契約はしていない様だ。それに彼奴とは違う。

しかし、まさか長年探して城に何度も乗り込んだ理由の探し物がこうして手に入るとは驚きだった。


「それにしてもお前の名前ソルフェーゼか。俺もダインスレイフみたいにソルって呼んで良いか?俺の事もヴァヴェで構わない。俺の名前長いしな。」


「…ッチ、良いだろう。思わぬ誤算だ。不本意だがテメェは俺と来てもらう。その剣は俺に必要な物だ。側に居させるにはそれなりに俺を教えなきゃならねぇ。」


そいつはニヤリと嬉しそうに笑う。城に乗り込んだのは夜中だった事もあり出口から外に出ればどれ程長く居たのかあ朝日が昇って居た。


「教えてくれるのか?」


そう言いつつも城と城下町を見渡せるこの丘で朝日を見渡しながら呟く。


「行動を共にするからには遅かれ早かれバレる事だけな。」


未だに感動しながらこいつは馬鹿げた事を口にする。


「俺の救世主の事が知れるなら嬉しいぜ?」


「連れ出しただけで救世主になれるんだったら世の中誰でも救世主で何よりだ。」


そう言葉で言ってこの後このガキは言葉を撤回するだろうと意味を込めて嘲笑う。


「さて、テメェは会った時、今期の王って言った俺にエルフかって聞いたな。その答えをくれてやらぁ。」

「確かに聞いたな。たが、お前は言ったお前に種族なんて関係ないって。」


余りにも自然と返して来て調子が狂った。予想してた受け答えじゃなかったから。だから、一拍遅れて俺は続ける。


「…言ったな。だが外で行動するには必要な情報だ。関係ないで済むなら、関係ないで終わらせてぇげどな。」


「俺はそれで構わないが?」


「テメェは箱庭から外に出たんだ。知っておけ、いらねぇ騒ぎは俺も望まねぇ所だ。…俺は傷有りのハーフエルフ、それが…」


この後向けられる差別の目が嫌で目を背け言葉を紡げば人が近づく気配が感じ言葉は止まる。何事かと背けた目をその方向に向ければそいつは朝日の逆光を浴び俺のフードをその手で下した。そして、露わになる顔を見て蔑む目など向けもせず表情を緩めて安心した様に笑った。


「俺は貴方がどんなものであろうと受け入れるよ。俺を盗んでくれたんだ。俺に意思があると、貴方は教えてくれると今言ってくれた。」


「…嘘つけ、差別したか?この世界の意思ある全ては俺を嫌う。」


とたんにヴァヴェは手をギュッと握って俺の目を見つめて言った。


「差別?するわけないさ!世界には目に見えないこれ程幸福があってこれだけの不幸があるんだ!この国の大罪人に相応しい!!」


「傷有りは産まれながらに大罪人だから殺されるべきってか?」


嘲笑う様に言ってやれば頬の傷有りの入れ墨を撫でガキはどんな感覚よりも優しく否定の言葉を紡いだ。


「違う。貴方は僕を盗んでくれた。貴方は世界を救うんだ。貴方はこの世界の数ある禁忌の伝承に出てくる神を滅ぼす救世主。少なくとも俺には救世主だ。嫌と言われようと貴方と俺は世界を見る。貴方の物語を見たい。そして俺の物語に貴方は最重要の登場人物だ!寧ろ主人公だね!俺はきっと貴方をずっと待って居た。」


「傷有りのハーフエルフは全ての生き物が嫌う者だ。それを受け入れると?神と最も近い時を生きる化け物を受け入れるか?」


「関係ない。だってそれで一人になって辛いのはソルフェーゼだけじゃないか。俺は貴方を置いて老いて死んでしまう。それに物語りの傷有りは殺されるか自殺するかの結末ばかりだ。だけど今目の前にいる貴方は此処までそれを選ばなかったし、運命に選ばなかった。」


その言葉は正しく生きていく中で何度でも何度でも味わった事だった。久々に思い出した感情が押し寄せる。


「俺はどんなに嫌われていても、俺を嫌う全てが好きだった。とんでもない囚われのお姫様を俺は攫ったんだな。」


つい、眩しさの余りに目を閉じ俺は言葉にした。この思いを忘れようとして、一度諦めそして二度も諦めようとして、そして忘れてたはずのそれはその三度目の試みを今砕かれる。よくある事は三度あると言ったものだ。


「姫なんて心外だ。俺は男で王子だ。囚われの王子が正しい。カッコはつかないけれど。何も囚われるのは女だけじゃない。」


それはちょっと拗ねた顔だった。これからが思いやらえれるなと思いながらも楽しくなるなと久しく思った。


「可笑しぃな。テメェは。…ヴァーシュヴェネッヂ。いやヴァヴェと呼ばせてもらおう。改めて俺は傷有りのハーフエルフ、ソルフェーゼ。ソルって呼んでくれ。お前にはこの旅に付き合って貰う。大罪人にはまだ犯さなきゃならねぇ罪がある。」


「それは物語の始まりだと信じても?」


「正しくそうだな。長く始められなかった物語が始まった。お前はそれに必要な物を持ってた。俺を物語の終わりに行かせてくれ。」


「喜んで付いて行こう。俺は唯の人間、エンドレア王国、第二王子ヴァーシュヴェネッヂ・エンドレア。俺は知りたい。外の世界を。物でない自分を。選択を許された自分の選んだ道の先を知りたい。」


__

______

____________


それは確かに出会いだった。自分と言う存在を手に出来なかった少年と彷徨う忌み嫌われた青年の何気ない運命の出逢い。それはずっと昔に始まった物語の終わりへの始まり。最後の地獄にして最後の楽園の始まり。そして、永遠に見えた一瞬の終わり。

____________

______

__


月の明かりの薄暗いさに終わりを告げ。眩しき太陽が部屋を照らし始めるその煌びやかなオモチャ箱の様な部屋。その部屋の一番大事な宝物が居なくなった部屋に男は立っていた。


「何故。何処に?いない事など許されない。私に渡された大切なプレゼントだっ!!!許さない!許さない!」


その部屋で一人絶叫してに近ずつく全て投げ払い壊す。


「クルセカル国王。どうぞ気をおやすめください。」


「物が口答えするかっ!とにかくヴァーシュヴェネッヂを探せ。そして何よりも取り返して連れ帰れ。そして、盗んだ者に死よりも辛い仕打ちをっ!」


そう男が叫ぶ中でメイドは耳のピアスに手を当てその男に声をかける。


「課の方を攫った者の容姿は確認できました。」


そう言ってメイド服でありながらその服は武装が施されていた。


「どうなさいますか?」


「……彼奴が俺の元を離れるわけ無い。その大罪人を捕らえ救出するぞ。」


「かしこまりました。」


武装したメイドはひざまづきそう誓う。


「…大切な大切なヴァーシュヴェネッヂ。必ず助けるよ。」


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