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2騙り:はなをおったはなし

予告通り、コメディ風味のおでんの話です。

おでんっつうよりアルコールの話ですが、まぁ深くは気にしない方がお得感が増します。

では、どうぞ♪

 酒さえありゃ、世はなべて事もなし。



 20歳未満は飲酒禁止。

 日の出ずる国の御法で、普通自動車の速度違反程度には守られていない御法だろう。

 実際、僕がアルコールの類を口にしたのは3つの時だ。その頃は日本には住んでおらず、度の高いアルコールを摂取しなきゃやっていられないような御国で、母親がおでん屋などを営んでいたのだから仕方ないと言えば仕方ない。

 そんな生活を続けて8年。母親が死去したのをきっかけにおでん屋台を引き継いで、僕は日の出ずる国へとやって来た。

 久方ぶりの帰国だと、母さんなら言ったかもしれない。

 奇妙な文化に奇妙な人々。閉鎖的なくせに有用なものはすぐに吸収し、改善した上でさらに試行錯誤。オリジナルは少ないかもしれないが、小手先の技術や小賢しさでは比肩し得る者がいないほど。

 しかも、夜遅くまでよく働く。おでん屋としては実にありがたいことだ。

「と、いうわけでお客さん。お酒もほどほどにしておでん食べてもらえません?」

「んー……あー、そだな」

 一箇所でおでん屋台をやっていると常連さんもつくもので、彼女もその一人だった。

 名前は工藤所縁(くどうゆかり)。近所の高等学校で教師をやっているらしい。昨今の教師は生徒やら親やら他の教師とのしがらみが多くて大変らしいけど、彼女はそんな中でも生徒の頭をぶん殴れるという特殊技能を持つ、一昔前の珍しい教師だ。

 そのせいで、色々としがらみも多いらしいけど。

「んー……っと。そうだな。ぬるめの熱燗と大根。それからこんにゃくと竹輪」

「さりげなく飲むんですね」

 ほど良く味の染みこんだ大根とこんにゃくと竹輪を取り出し、秘伝の辛子と一緒に皿に盛り付けて差し出す。熱燗の方は冷ますまでに少しばかり時間がかかるので、まずは母さん直伝のおでんを賞味してもらうことになる。

 大根を一口サイズに箸で切り分けて、ゆかりさんはその大根を口に運ぶ。

「……相変わらず美味いな」

「そう言ってもらうと、作りがいってもんがありますよ」

「まぁ、作ってる本人が未成年なのが玉に瑕だがな」

「未成年が美味しいおでんを作っちゃいけないって法律は、この世界のどこにもありませんでしたがねぇ」

「道徳の問題だ、ばか者。将来ある若者が路地裏でおでん屋ってはいかんだろう」

 そのおでん屋で幸せそうにおでんを頬張っている教師に言われたくはなかったけれども、僕は口元を緩めるだけでなにも言わずにおいた。

「なにか言いたそうだな、おでん屋」

「言いたいことは多々ありますが、口を閉ざすのが屋台引きの役目ってもんです。提供できるのは美味い食事とアルコールと、愚痴を吐く時間程度しかないのが欠点ですが」

「……相変わらず食えない男だよ、お前は。本当に未成年か?」

「人生経験ではそんじょそこらの子供には負けない自負はありますが、未成年です」

 学校には行ったことがなく、教わったのはおでんの作り方と美味いお酒の鑑定方法。それから、酔っ払いの話を聞き流す方法。

 この屋台に必要なのは、たったそれだけ。それで十分すぎる。

「一点特化型の人生ですけどね、ちょっと気に入ってるんですよ、この生き方は」

「……羨ましい限りだな。私は今の生活を全然さっぱり気に入っていない」

「最近まではわりと楽しそうにしてましたけど、なにか悩み事でも?」

「あー……悩み事っつーかなんつーか、な」

 ゆかりさんは僕が出した熱燗を受け取りながら、ゆっくりと溜息を吐いた。


「生徒が、口では言い表せないようなほどの厄介ごとに巻き込まれててね……」


 苦渋に満ちたその表情からは、その生徒さんとやらになにが起こったのか想像はできなかったけど、とんでもないことになっていることはよく分かった。

 熱燗をちびちびと飲みながら、ゆかりさんはテーブルに突っ伏した。

「生徒の特別扱いは良くないと思うんだケドさ、妹の親友っつうか妹が好きな男だし、その辺は色々と世話を焼いてやらにゃいかんなと思うんだけどね、いくらなんでも私の許容範囲を楽勝でぶっち切った厄介ごとが頻発するのはどうかと思うわけよ。なんか最近モンスターペアレントどもがうるさいしさぁ、両親は結婚しろって見合いをセッティングしやがるし、肌は荒れるし食欲は出ないしストレスは溜まるしで、もうたまんないわ」

「かなり追い詰められてますねー」

「……普通、こういう時ってテキトーでもなんでも慰めてくれるもんじゃないか?」

「慰めて欲しいんですか?」

「………………」

 おや、黙り込んでしまった。どうやら、心身ともに相当追い詰められているらしい。

 僕は口元を緩めて苦笑してから、頑張っている女性の頭にポンと手を置いた。

「仕方ないですねぇ。ゆかりさんは甘えん坊みたいなので、僕が面白い話を聞かせてあげましょう」

「誰が甘えん坊だコラ。こう見えても我慢強いっちゅーねん。長女なめんなよ」

「まぁまぁ、そう睨まずに」

 僕はにっこりと笑って、いつも通り、誰も聞いてくれない話を語ることにした。

 面白くてつまらない……そういう話を、騙ることにした。



 おでん屋という職業柄ですがね、僕は色々な場所に行ってきました。

 ただ、まぁ寒いところの方が多かったですね。寒ければおでんもお酒もよく売れる。火さえあれば水には困らないし、おでんを売り歩いていれば飢えることもそれほどじゃありません。中にはおでん屋台ごと奪おうとする盗賊や不貞の輩もいましたが、彼等もそこそこいいお客でした。主に財布の中身的な意味ですが。

 そんな中に、奇妙なお客様がいらっしゃいました。

 ぶかぶかのローブには似合わない、ぞくりとするほどの美しい顔立ち。背丈は低いのですがそれを補って余りあるほどの色気というか、なんというか、とにかく魔性を秘めた男性なんだか女性なんだかよく分からないナマモノでした。

 え? ああ、僕は基本的に美少女とか美少年とか大嫌いなんですよ。顔がいいなんて生まれながらに既に卑怯じゃないですか。顔がいい奴はいい奴なりに努力しているとか、それなりに大変とかそういう意見は一切認めない。あ、一発ぶん殴らせてくれるなら認めましょう。その一発で鼻を妙な方向に折り曲げてやりますがね。

 で、まぁそのナマモノは店にやってくるなり、いきなりウィスキーとか注文するんですよ。いえいえ、僕だっておでん屋の端くれの木っ端の隅っこの風下なんで、普通にウィスキーくらい常備してますがね? それでもいきなりウィスキーってのは果たしてどうなんですかね。いえいえ、僕も客商売ですからね。『大根食えハゲ』とは言いませんよ? 言いませんがこう……空気ってものを察して欲しいところです。

 しかしまぁ、その顔がいいだけのナマモノが頼んだのは生ハムメロンですよ。僕だって客商売ですからね。そのナマモノの頭髪を残らず引き抜きたい衝動に駆られながらも生ハムメロンを用意しましたよ。え? なんでおでん屋に生ハムメロンがあるのかって? そりゃ客商売なんだから、お客様が食べたいものは大体用意しますよ。仕入先は主に近所のスーパーとかですが、酔っ払いはおおむね気がつきませんね。そのナマモノもウィスキーじゃなくて老酒とか出したのに全然気がつきませんでしたし、気がついていたとしても正直知ったこっちゃないです。食べちゃえばみんな一緒です。

 それから、そのナマモノは僕を試すかのように色々と注文しましたね。飛騨牛のステーキとか、魚沼産コシヒカリのご飯とか、マカロニグラタンとか、真鯛の刺身とか。え? いやいや、さすがにこのあたりになるとスーパーじゃ仕入れることは不可能でしたので、ステーキは近くの精肉店から頂戴し、コシヒカリはコシイブキで代用しました。魚沼産かどうかなんざ、地元の人間じゃないと分かりゃしませんよ。コシヒカリとコシイブキの違いすら分からない人間が多い昨今ですからねぇ。マカロニグラタンは適当に新婚の熱々カップルから拝借し、刺身に関しては漁師が一本釣りで釣り上げたものを横取りしました。

 え? それは泥棒じゃないかって?

 嫌だなぁ。評判落とされるくらいなら泥棒なんざ屁でもありませんよ。……屋台ってのは、評判落とした時点で見るも無残な最期が待ってるもんですからね? あと、姿さえ見られなきゃ犯罪は立証できませんからね。

 そんなこんなで時間も経った後、そのナマモノは立ち上がって口元を緩めました。

 そして、とても綺麗な笑顔でこんなコトを言ったのです。

「うん、実に美味しく楽しい夜だった。そうだな……お礼がしたいから、今欲しいものを言ってくれないかな?」

 僕はにっこりと笑い返して、いつも通りに言いました。


「勘定払え、ハゲ」



「で、お勘定が払えなかったそのナマモノは、僕の鉄拳制裁により鼻をいい感じに折り曲がってしまいました。めでたしめでたし」

「めでたい要素が何一つねーんだけど!」

「世の中舐めた人間の鼻が在り得ない方向に曲がったんですよ? なんかこう、ちょっと愉快な気分になりません?」

「ならねーよ! どんだけ根性曲がってんだ、お前は!」

「えー? あんだけ人のこと馬鹿にした真似されたら、誰だって血が噴水のように噴き出るくらいにぶっ叩きますよぅ。ゆかりさんだって、学年主任の顔面をフルパワーでぶん殴れたらどんなに気分がいいかって思うでしょ?」

「そりゃまぁ……って違う! 一瞬納得しそうになっちゃったじゃないか! あたしが言いたいのは、人としての心構えであってだな……」

「はい、それじゃあつまらない話を聞いてくれたお礼に、つくね串とハンペンをサービスした上、ものすごく美味しいお酒を一杯だけ奢っちゃいましょう」

「人の話を聞けこら!」

 怒鳴りつつも、ゆかりさんはしっかりと僕が差し出したお猪口とつくね串とハンペンの乗った皿を受け取った。

 ちゃっかりしてるというかなんというか……こういうところは見習っていきたい。

 やれやれと溜息を吐きながら、ゆかりさんはお酒を口に含んだ。

「大体お前はな……未成年のくせにってなんじゃこりゃああああああああああっ!?」

「あれ、その日本酒美味しくなかったですか?」

「逆だ阿呆! なんだこの酒は! ちょっと尋常じゃないくらい美味いんだけど!」

「をっほっほ、大吟醸の生原酒を格安で仕入れたので試飲を……って、なんすかその妙に怖い目付きは。言っておきますけど、一杯だけですからね?」

「……未成年」

「へ?」

「いやいやいやいや、あたしだってアレだよ? そりゃ先生とかやってるからね? 未成年の飲酒を止めるのは義務ってもんでしょ。多少は心苦しいけどね、先生としてほら、没収とかしなきゃいかんと思いました」

「いや……こっちも客商売で……あの、ゆかりさん!?」

「いーから飲ませろ。たまには酒でいい思い出を作らせてくれ。もう一杯目はビールとか悪しき風習は死んでくれ。苦いんだよ。アルコールが鼻につくんだよ。喉で飲むってなんだそりゃ、味覚の完全否定か? なんでテキーラを飲む。なんで限度を弁えない。なんで救急隊員と店員にあたしが説教されるっ!? 死ね! 学年主任と酒を飲む学生はみんな死ね! 可愛いのはおでん屋だけかこんちくしょう!」

 なにか言い返したかったけど、『味覚の完全否定か?』のあたりで僕はゆかりさんに首を絞められていたので、なにも言えないっていうか救急車。

 うーん……やっぱり酔っ払いの相手は何年経っても慣れません。

 薄れていく意識の中で、僕はそんなコトを思っていた。



 ぶかぶかのパーカーに、ロングスカート。髪の毛はいつも通り太い三つ編みにまとめ、眼鏡は変装にかける程度。

 いつも通りのいでたちでボクは夜の街を歩いていた。

 ボクの名前は式部キリカ。真正悪魔とも聖魔(聖なる魔。純然たる魔の意)とも呼ばれていた、絶望だか邪悪だかよく分からないモノから生まれでて、若気の至りで色々と悪さをした挙句、おでん屋に封印されたという経緯を持つ、世界でも有数の情けない存在。

 とはいえ、そのおでん屋にも温情はあったのか、新月の晩だけ外に出歩けるようにしてもらったことは実にありがたい。

 たまには、悪魔だって食べたいものを思いっきり食べたいもんだ。

 カップ麺じゃなくて、出店のラーメンとか。

 しかし、残念ながらボクは少食なので食べたいものは慎重に選ばなくてはいけない。ボクが住処としている学校のレッドフェザー共同募金の箱からコツコツとせしめたお金があるので大抵のものは食べられるけど、たまには普段食べられないものを食べたい。

「ん?」

 と、不意に目に留まるのは、裏路地で美味しそうな匂いを放つおでん屋台。

 そのおでん屋台の座席にはボクを封印したおでん屋の主人と、なんだか幸せそうな表情で一升瓶を抱き締める、どこかで見た覚えのある女教師。

 んー……邪魔しちゃ悪いかな?

「別にいちゃついてるわけじゃありません。酔っ払いの介抱です」

「相変わらず難儀してるねェ、君も」

 気配でボクのことを察知していたのか、あるいは最初からボクのことに気づいていたのか、少し疲れたような様子を見せるおでん屋はそれでも口元を緩めていた。

「おでん、食べていきますか? ……座席は使えないので、普段僕が使っているパイプ椅子を使ってもらうことになりますけど」

「ん、じゃあご馳走になろうかな」

 ご馳走とは言いつつも、このおでん屋が奢ることはまず在り得ないので、そのあたりは期待はしないでおく。以前は勘定を払わずに欲望を叶えてやろうと思ったら、見事に鼻っ柱を物理的にへし折られた。

 世の中は広いとだけ思っておくことにした。

 パイプ椅子を取り出して座り、続いて小皿を用意。辛子は具によって少々つけることにして、割り箸を割っていただきます。

 今日は珍しく牛筋の煮込みがあったので、それと大根をいただくことにする。

「……生ハムメロンとか食べないんですか?」

「んー、デザートはイチゴ大福で主食はおでんの気分なのさ。それに……まぁ、たまにはいい思いをしてる苦労性のおでん屋主人を見るのも悪くは無いね」

「いい思いはしてませんよ。酔っ払いの介抱です」

「いやいや、好みの女性に膝枕しながら、柔らかい髪の毛とかに触れてたキミは間違いなくほんのチョッピリ幸せだったはずだにゃー♪」

「ぶっ殺すぞ、クソ悪魔」

「やーん♪」

 図星だったのか、本気一歩手前くらいで怒る普段は忍耐強いおでん屋の主人。

 ま、茶化すのはこれくらいでやめておくとしよう。今のボクはとてもお腹が空いています。別に吸血鬼でもなんでもないけど、悪魔だってお腹が減る。


 そう……おでんがなければ人間を食べればいいって程度には、ね。


「クソ悪魔。また酷い目に遭いたいんですか?」

「ボクの思考を読んだみたいだけど、残念ながら今のボクはおでんに夢中です。パンがあるならパンを食べればいいのさって具合にね」

 牛筋と大根を美味しく頂いた後は、メインディッシュに突入です。

 たまご卵タマゴ玉子たまご卵タマゴ玉子たまご卵タマゴ玉子たまご卵タマゴ玉子たまご卵タマゴ玉子。

「よし、こんなもんかな」

「食いすぎです。後のお客様のことも考えやがれ。20個も食ってんじゃねぇ」

「食べたいものを食べるってのは、悪魔なりの流儀だよ。キミだっておでん屋の主人のくせに、気に入ったお客に大吟醸の生原酒とか奢ってるじゃん?」

「……いや、あれは奢りっていうより強奪なんですが」

「まぁまぁ、ちゃんとお代は払うから心配しなくても大丈夫。いつぞやのように欲望と等価交換しようとは思わないから」

「………………」

 おでん屋はゆっくりと溜息を吐いて、空を見上げる。

「お客さん。一つ聞いていいですかね?」

「ボクに答えられることなら、なんなりとどうぞ」

「どうして、大人ってお酒を飲むんですか?」

「時間がないからだよ」

 にやりと、悪魔なので悪魔らしく、ボクは笑う。

「単純な足し算さ。仕事の時間は企業にもよるけど、平均で8時間程度。休憩を含むと9時間。残業を3時間すると12時間。睡眠時間を6時間とすると18時間。……さて、ここで問題だ。残りの6時間を遊びやらなにやらに使えるけど、ここから食事や入浴や明日の準備やらを差し引くと、自分のための時間は何時間残るかな?」

「………………」

「酒でも飲まないとやってられないのさ。でなきゃ、長い歴史の間でアルコールなんて不味い飲み物が残るはずないだろ? 必要だから、残っているのさ」

 そう言いながらもオレンジジュースを手酌で飲むあたり、わりと説得力がないと我ながら思う今日この頃。

 おでん屋の主人はゆっくりと溜息を吐いて、夜空を見上げた。

「……大変ですね。生きるってのは」

「そりゃそうだよ。殺し合わない代わりに協力し合う。そっちの方が大変さ」

「じゃ、たまには奢りにしましょうか。今日はわりといい日みたいですし」

「んー……そうだね。おでんが奢りなんて、今日はとてもいい日みたいだ」

「でも、卵のお代は払えよテメェ。20個は食べすぎです」

「あ、やっぱり?」

 苦笑いを浮かべながら、ボクは肩をすくめて卵を齧る。

 空には月はないけれど、それに見合った卵の黄身。お酒はないが、幸せそうにしているおでん屋の主人と膝枕されている女教師を見ているだけで十分にお釣りがくる。

 と、不意にお釣りを3倍にするいたずらを思いついた。

「ねぇねぇ、おでん屋さん」

「……なんですか?」

「はい、これ。女性に受けるプレゼント。おでんのお礼だよ」

 魔力だかなんだか超常的な悪魔力で織り上げたのは薔薇が一輪。もちろん万国旗が出る不思議仕様である。

「とりあえず、今はこれが精一杯ですけどね」

「ベタベタですね。ま……もらっておきます。明日にはゴミになってそうですが」

「よくあることです」

 翌日に枯れる花があれば、翌日に食べられなくなるおでんもある。そういうものを差し引きながら、人間とか悪魔は生きていく。

 月の代わりに卵の黄身で、酒はないがつまみはある。目の前にはほんのちょっと不幸なおでん屋の主人が少しだけ幸せそうに笑っている。

 ま、たまにはこんな日も悪くは無い。

 風情のある夜じゃないけれど、今日は本当にいい日だった。



 明日もいい日でありますように。

というわけで、2話が終了。3話に続きます。

次回はバッドエンディングの話。続投キャラは言わずもがな悪魔です。

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