プロローグ 1
俺は佐藤誠。32歳。
普通の家に生まれ、普通の学校に行き、普通の会社に就職した普通の男。
だが、ここからはあまり普通じゃなかった。
会社は長続きせず、早ければ一週間で転職した。そんな事を繰り返していくうちに就職出来なくなり、フリーターへ。
そして親からは勘当され今は孤独死を待ちわびながらバイト生活。
人生つまらない。終わりにしたい。でも勇気もない。
今日はバイトは休み。ネットの奥底へ進出中。
意味もなくエロ動画を探したり。グロ動画を探している。
こんな人生何がいいんだろう・・・・・
そんな事を考えていると
見たことの無いページに気になるバナーがあった。
「あなたの人生全てください。その代わり最高の余生をお返しします」
なんだこれ?
よくある投資詐欺のような気もするけど「人生」って?
気になってバナーをクリックすると、企業の採用ページでよく見るような入力画面が出てきた。
変なサイトなのか普通サイトなのかよくわからない。
でも面白そう。
どうせ知られて困るような個人情報でもないしマジメに入力してみる。
送信ボタンを押すと「選考後ご連絡いたします」と出てきた。
さて採用?になるのかどうなのか・・・・
その翌日、俺のパソコンに案外すぐ返答が来た。
内容を要約すると「○○日の△△時に××に来て欲しい」とのことだった。
さて、鬼が出るか蛇が出るか。
その日早速そこに行ってみる。
事前に下見をしていたのだが、なんてことのない普通の雑居ビルの一室だ。
しかもドア等には何も書かれていない。テナントが入っていないような感じに思える。
しかし、今日は違った。明らかに中から人の気配がする。
俺は恐る恐るそのドアを叩いた。
中からは人のよさそうな男の人が出てきた。
「あー佐藤さん?待ってましたよ。田中といいます。どうぞ入ってください」
そういって田中は俺を招き入れた。
部屋の中には事務机とソファーがあるだけ。殺風景というより何にも使われていないように思えた。
さっそく招かれたソファーに座ると田中がトンデモない事を言い放った。
「あの最高の余生がどうのっての見ました?正直言いますが、もしあなたが我々に力を貸してくれるならあれは本当になります。ですが、その分それなりのリスクも背負って頂きます。簡単に言うと表向きにはしゃべれないような事をしてもらいます。」
俺はこの時点で感付いた。こいつヤクザだ・・・・・多分振り込み詐欺とか違法な事のスカウトなのか・・・・・
だが、俺はそういう人生こそ望んでいた。この何もないつまらない生活を終わらせる為。
「望むところだ!俺に出来る事なら何でもしてやろう」
威勢よく声を出す。俺の声は部屋中に響き微かな反響をしている。
「いいねぇ佐藤さん。じゃあ一次面接は合格かな。この後実技試験をします。そこも合格したら後日最終面接をします。それに合格したら晴れて採用かな」
田中はニコニコ笑いながら説明をする。
だが実技試験?
すると田中は電話で誰かと話し始めた。
そして数分後突然ドアが開き、男が2人入ってきた。いかにもヤクザな風格の2人が・・・・
「佐藤さん。では実技試験を始めます。コイツは組の下っ端で・・・・まぁご存知だと思いますが私もそういうスジの人間でして・・・・話を戻して、こいつは下っ端ですが、ちょっとやらかしてしまいまして。落とし前をつけなきゃならないんですよ。」
すると2人の内1人が顔を青くしながら頷いた。コイツが何か仕出かしたのだろう。
「それで早い話指を詰めるんですが、佐藤さん御願いできますか?」
は?
こいつは何を言ってるんだろうか。
指を詰める?指を切るっていうあのヤクザのお決まりのを?俺が?切る?
「え?俺が切るんすか?」
「先ほども話した通り、これは試験です。詳しくお話出来ませんが、これぐらい簡単に出来ないようであれば今回の話はなしということになります」
涼しい顔をしながら俺の質問の答えではなく真意で回答する。
そうこうしている内にいつの間にか男2人が準備を終えていた。
俺の目の前にはまな板と出刃包丁、金槌。そして止血用だろうか、消毒やらガーゼも準備されている。
そして顔面蒼白の男は左手の小指を氷水で冷やしていた。
「佐藤さんの準備が出来たら、指の上に置いた出刃包丁をこの金槌で力いっぱい叩いて下さい。力抜くと何回も叩く事になって面倒なので一回で終わらせて下さいね。ちなみに佐藤さんがやらなくても私がやるだけなので、コイツの事は気にしないで下さい。どうします?やります?」
そういうと田中は金槌を俺に差し出してきた。
これを受け取るということは「やる」ということ意味している。普通の人では知る事の出来ない世界に踏み出す切符。しかし、もう戻る事が出来ない片道切符。もしかしたら目の前にいる男は明日の自分かもしれない。指だけで済んだらいいが、命もないかもしれない。どうするべきか・・・・
そんな事を考えていると
「もしかして「明日は我が身」とか事考えてます?それはないです。例えミスを犯してもそんな事にはならないと約束しますよ」
この言葉に何だか吹っ切れた自分を感じた。別にその言葉が心に響いたとかそんなわけでもない。田中が嘘を言っている可能性もある。
だが、どうせつまらない人生。このまま終わらせるより変わった人生を歩みたい。そんな気持ちを何となく後押ししてくれたような気がした。
※これより閲覧注意
俺が金槌を受け取ると、指を冷やしていた男が指きりをするような形でまな板の上に手を置いた。
もう1人はガーゼとタオルを手に持ってスタンバイしている。田中はニヤニヤしていた。
「お願いします」
どちらの男が言ったのかわからないがそんな声が聞こえ俺は左手に出刃包丁を持ちまな板の小指の第一関節にあてがう。
心臓がドクンッと大きく脈打ったのがわかった。
人は皆成長していく中でやってはいけない事を学ぶ。それは最初我慢となる。しかしそれが馴染むと無意識の内に我慢できるようになる。ある時その我慢が解き放たれるとどうなるだろうか。
背徳感を感じながらも心地いい感覚。してはいけない事が出来る喜び
体中の毛が逆立つのを感じ、体中から汗がにじみ出す。心臓の鼓動がうるさく耳につく。一瞬のような永遠のような不思議な時間感覚
それは快楽でしかない。
この金槌を打ち付けたくない。もっとこの時間を味わいたい。だが、打ち付けた後の事を考えると一刻も早く打ち付けたい。
逆にこの包丁を動かすとどうなるだろうか?
少し動かすだけで指は傷付くだろう。間違えたと言って動かしてみようか?そうするとこの男はどう反応するだろうか。やってはいけない事のさらにやってはいけない事。考えるだけでも興奮する。
不意に股間が熱くたぎっている事に気付いた。
こんな事で俺は興奮するのか。。。。何だか少しおかしくそして冷静になれた。
クスっと笑うと右手の金槌をゆっくりと振り上げ、力いっぱい打ち付けた。
ガチッ!!
鈍い音と共に出刃包丁はまな板に突き刺さる
間にあった指を切り裂いて。。。。
その後はよく覚えてない。というか男の血がまな板に広がっていったので、服に付かないか気になった。
もう1人の男も慣れた手つきで止血とまな板の血を処理していた。
よくよく考えると指を切っても「んんっ!」ぐらいしか声出さなかった。
さすがヤクザというところだろうか
※ここまで閲覧注意
その後2人は出て行き、また最初のソファーに座った
「いやー佐藤さんすごいじゃないですかぁ。どうでした?」
「うーん。思ったよりあっけなかったですね。」
俺は率直な意見を言った。
「それはそれは・・・・でも少し前とは大違いですね。さっきだって3分ぐらいニヤニヤしながら動かなかった時は壊れたかと思いましたよ」
どうもさっきは3分間も動かなかったらしい。しかもニヤニヤしながらって・・・・
「何はともあれ実技試験も合格ですね。では最終面接の話をしたいのですが、その前に佐藤さんはどうです?辞退とかされます?」
俺は少し考えた。
さっきの高揚感はすでにないが、また味わいたい・・・
「確認したい事がある。「こんな事ぐらい簡単に」と言っていたが、もし引き受けるならさっきよりももっとすごい事が出来るのか?」
「はい。先ほどとは比べ物にならないと思います」
「もう一つ。そうなると法に触れる事もあると思うが・・・・」
「身の安全は絶対に守ります。まぁさっきの後で言われても信じれないかもしれませんけど」
おれはもう決めていたのだろう。仮に法を犯し、捕まってもそれも仕方がない。だが、何もない人生よりこっちのほうがはるかに面白そうだ。
おれは田中の目を見ながら答えた
「最終面接の話を聞かせてくれ」