犯人は誰?
「琴未ちゃんが犯人なんでしょう?」
「へっ?」
「お願い琴未ちゃん! 思い出して!!」
「お、思い出してって言われてもなあ……」
「うぅ……」
目の前の少女が悲痛な声を上げた。
絹の糸のような長髪がトレードマークの彼女はしきりに頭を動かしている。
それは自分自身の感情を処理するために必要なことだったのかもしれない。
純白のワンピースを着こなしている彼女だが、その服も体を動かしているせいで着崩れしてしまっている。
いつもなら肩の紐がずれないように気をつけているはずの彼女だが、今日はそれどころではないようだ。
俺には到底着ることのできないものだ。
ワンピース。
自分には早過ぎる、乙女レベルが足りないとでも言うのか。
俺はまだデニムのショートパンツとデニムのジャケットを着ることぐらいしかできない。
スカートとか、女の子っぽいフリフリ系は無理だ……。
それより、俺は先ほどから彼女に言われている事柄を必死に考えあぐねた。
……だが、俺の脳内にそのデータは記録されていない。
そもそも、俺が犯人だという証拠はあるのか。
苦笑いをしている俺を見て、彼女は何かを察したようで目に涙を溜め始めた。
大粒の涙が床に落ち、小粒となって弾ける。
俺にとっては些細なことだとしても、彼女にとっては天変地異が起こってしまう程の大事件なのだろう。
「大事なことなの……! 私にとっての世界なんだよ! 夢なんだよ! 最後の希望なんだよ!」
「いや、それはさすがに言い過ぎなんじゃ……」
「言い過ぎじゃないもん! ……返してよー!」
「い、イテテテ! 沙里ちゃん! ポニーテールを引っ張らないで!」
歯をむき出しにして、彼女――沙里――は俺の髪を引っ張る。
ゴムで止めた付け根から引っ張るものだから、まとまった髪の毛が一斉に引っこ抜かれる感覚がする。
それはつまり、恐ろしいほどの激痛がしているということだ。
「わ、分かったよ沙里ちゃん! ちゃんと思い出すから!!」
「……むー。本当だね?」
俺が折れてくれたことで納得したのか、髪を引っ張るのを止めてくれた沙里ちゃん。
だが、彼女はまだ俺の髪の毛を持っている。
それは俺の返答によっては武力行使も辞さないという考えなのだろう。
うう、思い出しても思い出さなくても地獄を見そうで嫌だ……。
「え……えーっと……」
とりあえず、俺は沙里ちゃんが監視している目の前で過去を思い返すことにした。
果たしてどこから遡ればいいのか。
とりあえず、俺の体が『琴未』になってしまった直前ぐらいから思い出した方がいいだろうか。
……というか、沙里ちゃんに急接近したのがそこくらいだがら、俺が何かした場合はそうなのだろう。
琴未が犯人でなければ、な。