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①帰路

 裏通りの公園から見上げる太陽は、大通りを照らす日輪より枯れた色をしていた。

 四方をビルに囲われた空は、肩身が狭そうに正方形を描いている。やたら遠い気のする喧騒に風音が紛れ込むと、コンクリの外壁を塗り潰す日陰から肌寒い空気が滑り落ちた。


「……そろそろ時間だね」

 ブランコを小さく漕ぎながら、二時間ぶりに出した声が、金具のきしむ音に掻き消される。唇を結び、地面を傍観していたシロは、返事もせずにベンチから腰を上げた。事務的に尻の埃を払ったシロは、淡々とした足取りで公園の出口に向かう。


 初対面の道を携帯に先導してもらいながら、タニアはアルハンブラたちの待つ駅前を目指す。

 街角からお店から何気なく漏れ出す笑い声が、今日に限っては酷く耳障みみざわりだ。無神経に覗く歯をの当たりにすると、惨めさとも羨望とも付かない不快感が湧き上がる。彼等には下を向くタニアも、押し黙るシロも視界に入らないらしい。

 少しでも早く笑顔から逃れたい一心で、タニアは競歩のように歩調を速める。だが左右の足音が間断なく続くようになっても、楽しげな声をありありと聞かせる無言を振り払うことは出来なかった。


 なるべく周囲を見ないようにして、一〇分くらい歩いただろうか。

 駅前につらなる〈タクシップ〉に続き、三隻の警備船が目に入る。古びたボストンバッグをげたマーシャの傍らでは、松葉杖を付いたアルハンブラが大きく手を振っていた。

 雰囲気で薄々事情を悟ったのか、二人はタニアがメーちゃんを抱えている理由を訊かなかった。その代わり警備船に乗り込む直前、うつむき加減のメーちゃんをそうっと撫でた。


〈ロプノール〉へ向かう船内は、沼の底のように重苦しい沈黙に包まれていた。

 逃げようにも逃げ出せないからか、重い空気に怖じ気付き、口をつぐんでいると、むくみ気味の足がむずむずと蠢きだす。同時に四肢を縛られたような感覚がこみ上げてきて、余裕で体操が出来るはずの船室を窮屈に思わせていく。


「護送中みたいだね」

 前後を警備船に挟まれている状況を指し、タニアがおどけて見せても、吹き出すのはエアコンだけ。職務上表情を引き締めていなければいけないはずの〈NIMO(ニモ)〉の隊員さんだけが、辛うじて愛想笑いを浮かべてくれた。

 信頼を裏切られたメーちゃんは、丸い船窓せんそうに貼り付き、殺風景な砂の海を見送っている。ぼうっとした眼差しに漠然とした不安を覚えたタニアは、背後からメーちゃんを覗き込む。


「心配しなくてもだいじょぶだよ。新しい家が決まるまでうちにいていいから」

 タニアは精一杯励まし、出会って以来最もしぼんでいる背中をさする。自宅に置き続ける件に関してはタニアの独断だったが、マーシャが口を挟むことはなかった。


「〈ロプノール〉には独り暮らしが寂しいってお年寄りも多いですから」

 今まで黙り込んでいたシロが、メーちゃんの手を取り、安心させるように微笑み掛ける。

 めぇ……。

 社交辞令的に会釈したメーちゃんは、すぐさま船窓せんそうに目を戻す。思う存分、心ない言葉を吐きかけられた瞳には、誰もいない砂漠のほうが魅力的だったのかも知れない。

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