第三話 交易品の査定
自転車とキックボードの講習会を終え、村に戻ってきた。
フクロオオカミ用の馬具はそう簡単には手に入らず、納品待ちとなっている。
今日の所は、台車を説明して終了としよう。
「それじゃ皆さん、最後に台車の説明をしたいと思います」
台車には、二十キロのコメが入った袋を乗せてある。
これでも女性にはちょっとキツい重量だけど、台車を使えば楽ちんだ。
「もうなんか、つかいかたわかりました」
「みたまんまです~」
「べんりそう」
使い方はホント見たまんまなので、もうこれ以上説明が不要な気配だ。
まあそうだよね。今用意するときに既に見てるからね。
「皆さんの思ったとおりの使い方をします。まあ試して下さい」
「わかりました」
「らくちんです~」
ハナちゃんが早速台車を押しているけど、問題なく押せている。
地面が多少デコボコしていて、台車もガコガコいっているけど、これ位なら問題なく運用できるね。
「これがあれば、女性でも重い荷物を移動できます。乗せるのは男の役目ですけどね」
「これからくんせいづくりをはじめるので、ちょうどよいですね」
「おにくをはこぶのも、らくになるわ~」
元族長さんから秘伝の燻製作りを伝授してもらえるので、早速作業をするんだな。
思う存分、台車を役立てて頂きたい。
「みたまんまのつかいかただけど、べんりだな」
「わたしでもおもいものはこべるとか、すてき」
「……これくらいなら、おれのじまんのもっこうでつくれそう」
おっちゃんエルフが、まじまじと台車を見ている。
確かにこれならエルフ達の木工技術を使えば、作ろうと思えば出来るだろうな。
専門職が育ちにくい彼らの社会では、車軸やら車輪を作るのに手間と時間がかかるから、無理して作る事をしなかっただけに思う。
台車は無くてもなんとかなるからね。森の中じゃ使えないだろうし。
「とりあず、思うがまま使ってみて下さい」
「わかりました」
「それじゃ、さっそくくんせいづくりはじめよう」
ガラガラと台車を押して、倉庫の方に行くエルフ達だ。
美味しい燻製作り、頑張って下さい。
さて、村のエルフ達が燻製作りに勤しんでいる間、俺は俺で平原の人と交易品について話すことにしよう。
ユキちゃんから交易品の鑑定結果が出たと聞いているので、それを聞きながら交渉でもしようかというつもりだ。
駆け引きするつもりは無いので、もう全部あけっぴろげにして価格を決めてしまおう。
◇
「というわけで、皆さんの交易品がこっちでどれくらいの価値があるのか、調べて貰いました」
俺とユキちゃん、それと平原の人たちで集会場に集まり、商談を始めた。
「おお、なにかわかりましたか?」
「ええ。ではユキちゃんおねがい」
「はい。まずはあの塩ですけど、安全性に問題はありませんでした」
「分かってはいたけど、これでお墨付きがでたかな」
「そうですね。焼き物に良く合うそうで、市場価格はあの量で四万円くらいする高級塩ですね」
四万円か。そりゃ高級品だ。
こっちの業務用塩だと……四百キログラムは調達できるな。
普通の塩の十倍の価格だ。なかなか凄い交易品だな。
この費用は、あっちの森へ提供する塩の費用の足しにしとこう。
「ありがとう。後は俺が子猫亭と調整しておくよ」
「そこはお任せします。では次に移ります」
ユキちゃんは次に、謎の乾燥植物を指さした。
「この乾燥植物ですけど……これは家で引き取ります。全部で五万円ですね」
お、結構な額だな。……でも、加茂井家で引き取る?
「ユキちゃんちが引き取るの? またなんで」
「これ、化粧水の材料になるんですよ」
「え? そうなんですか? せきどめのやくそうなんですけど……」
平原のお父さんがビックリしている。まさか咳止めが化粧水の素材になるとは思っていなかったようだ。
そして俺も思っていなかった。これが薬草だというのも今聞いた。
うん、聞くの忘れてた。……まあ、とりあえず詳しく聞いてみよう。
「……それホント?」
「ええまあ。日本では手に入りにくい材料があるそうなんですけど、この薬草が代用できるらしいです」
「らしい? ユキちゃんが作るわけじゃないの?」
「友達の魔女さんから聞きました。作るのもその方ですよ」
魔女? 実際会ったことは無いけど、居ることは居ると聞いている。
「……魔女に知り合いがいるんだ」
「ええまあ。高専の同級生ですよ。生まれも育ちも信州産の魔女で、趣味はガーデニングですね。マジカル野沢菜とか栽培しています」
「同級生は良いとして、マジカル野沢菜?」
「恋のおまじないに使えるそうです」
野沢菜で恋のおまじないって……。もうちょっとなんとかならなかったのだろうか。
恋のおまじないってこう……可愛らしいものではないだろうか。
……まあ、気にするのは止めよう。
謎植物に関しては、こっちも人のことをあれこれ言える立場じゃないからね。
異世界植物を栽培して出荷しているのだから、こっちの方がヤバさじゃ上かも知れない……。
「……なるほど。じゃあこの乾燥植物はユキちゃんお買い上げかな?」
「はい。これで作った化粧水で、魔女さんとお小遣い稼ぎをします」
「う、うん……頑張ってね」
「上手く出来たら、ここのエルフさん達にもお裾分けしますね」
「たのしみにまってる~」
「あら、うれしいわ」
平原のお母さんと娘ちゃんは、化粧水のお裾分けの話を聞いて嬉しそうだ。
……化粧水のできが良かったら、また騒ぎになる気がしなくも無い。
「それでは次に移ります。この民芸品は……こうなりますね」
ユキちゃんがペタペタと値札を貼っていく。
大体千円から、高いのは三千円くらい。観光地で売っているお土産くらいだね。
「これは普通の民芸品で、観光地価格だとこうかなと」
「いまいち、かちがよくわかりませんが……」
こっちの観光地価格が分からないから、平原のお父さんもいまいちピンと来ていない。
試しに例えてみるかな。
「これひとつで、ラーメン十個分とかになります」
「なるほど。ほかのもりでも、だいたいそれくらいのおにくとこうかんできますね」
「それでは、値付けには問題ないですかね?」
「ええ。ちょうどいいかんじです」
値付けは問題ないようだな。じゃあ、この工芸品は俺が買おう。
お袋はこれ絶対喜ぶ。今もどこかで仕事しているお袋への、俺からのプレゼントとしよう。
「それではこれは私が買います」
「あ、私もいくつか買います。これとか可愛くて良いですね」
お、ユキちゃんも工芸品が欲しいみたいだな。
ただ、これまで色々手伝ってくれたんだから彼女にお金を使わせるのは忍びない。
やっぱりいったん俺が全部買い取って、欲しいものはプレゼントしよう。
「それは俺からのプレゼントってことにするから、ユキちゃんはお金払わなくて良いよ。お世話になっているから、お礼の気持ちとして贈らせて欲しい」
「わあ! 嬉しいです! ……それでは、お言葉に甘えます」
たいした額でも無いけど、ユキちゃんはやわらかい笑顔で喜んでくれた。
お礼の品として受け取ってもらえるようで、遠慮されなくて良かった。
さて、工芸品はこれでいい。それでは最後に、このなんかの石だな。
さっぱり価格が分からない。これはどれくらいの価値があるんだろうか。
「じゃあ次はこの石だけど、どれくらいになるのかな?」
「この石は……これくらいのおおきさのが一つ二百万円で、これが一つ五十万円。このちいさいのは一つ十万円ですね」
ユキちゃんがまたもやペタペタと値札を貼っていくけど……。
総額は――千五百万円!
これは凄い!
「えらく高額だけど、これは宝石としての値段?」
「宝石として見ると、そうでもないです。カットもされていませんから」
宝石だけで見るとそうでも無い? じゃあ別の価値がある?
「……これも何かの素材になる?」
「そうです。この石ですけど、お婆ちゃん曰く――大志さんのお母さんが持っていた石と同じ効果を持っているそうです」
――お袋が持っていた石!
高橋さんに魔法をかけるときに必要だったあれか!
「――と言うことは、これって『増幅石』なの?」
「そうです。魔法のみならず、霊能力とか結界とかの力を増幅しますね。……貴重品です」
それは凄い! 地球じゃお目にかかれない石で、お袋も二個しか持っていなかった。
そんなのがこんなに沢山ある。
……なんでお袋がそんな石を持っていたかは、よく知らないけど。
「これって凄いよね?」
「ええまあ。……時期や人によっては、この五倍くらいの値段で取引できますね。欲しがる人は沢山居ると思います。家も欲しいですし、友達の魔女さんにみせたら『絶対買うから! お金貯めるから!』とかいってアルバイトを始めましたよ」
「だろうね」
平原の人たち、一気にお金持ちだ。
これで自転車買い放題だよ。
「あの……これってどれくらいのかちなのですか? なんだかもりあがってますけど」
おっと忘れてた。平原の人に価格を伝えないとな。
……ラーメン十五万食分とかいっても、伝わらないよな……。
あの自転車で例えるか。
「この石全部で、あの自転車三百台分くらいです」
「さんびゃく! そんなに!」
「いくらでも自転車買えますよ。リアカーも買い放題です」
「わああ! じてんしゃたくさんかえるの~!」
「やったじゃない! よりみちしてよかったわ!」
自転車が沢山買えると聞いて、平原の人たち大喜び。
三人が輪になってキャッキャしている。
寄り道でチクチク言われていたお父さんも、これで面目躍如だ。
おめでとうお父さん。家族にいいとこ、見せられました。
「まあ、実際三百台分も買うことはないとは思いますが、大金です。使い道は慎重に考えて下さい」
「はい! わたしたちもそんなにたくさんかってもこまりますので、いろいろかんがえてみます」
確かに、彼らだけならそんなに自転車を買っても持てあますからね。
じっくり考えて下さい。
「……大志さん、これは全部引き取っておいた方が良いですよ。ただ……千五百万円を用立てるのは家ではきびしくて……」
「家なら用意は出来るから大丈夫だよ。銀行から下ろしてくるのが面倒なくらいで」
「……用意できちゃうんですね」
そりゃまあ、資産家だからね。でなけりゃ隠し村の管理とお客さんのお手伝いなんてやれるわけがない。
その資産だって、異世界の人たちから得た物を有効に使った結果得たりもしている。
地球で地球のルールに沿って得た資産は家のため、異世界の品やルールで得た資産は隠し村とお客さん達のため、そういう使い分けをしているけど。
それはそれとして、平原の人たちも現金を渡されたって困るかな。
なにせあっちの世界じゃ使えないものだ。
彼らにとって価値のある物にして、それと引き替えにした方が良いだろうな。
「ただ、現金で渡されても困ると思うから、何か物に変えて渡すことになると思うよ」
「確かにそうですね」
平原の人たちが何を欲しがるかは、聞けば良いよね。
「こちらのお金を渡されてもあっちじゃ使えないので、千五百万円相当の品と変えるっていうのでどうでしょうか?」
「それでおねがいします! あのテントとか、ラーメンとかいろいろあります」
「多分持ちきれないでしょうから、何度かこの村に来ることになると思いますが……」
平原の人がどこに居るか分からないから、俺が届けるわけにも行かない。
ここは申し訳ないけど、何度かにわけて取りに来て貰うしか無い。
「なんどもきますよ。ここは、いいところです」
「あそびにくるの~」
「あっちのもりにいくたびに、かおをだします」
平原の人たちは、何度もこの村に寄ってくれるのか。
村を気に入って貰えたようで、こちらとしても嬉しい。
「それは楽しみです。こちらもお待ちしていますよ」
「ええ。そのときはよろしくおねがいします」
これで、平原の人たちの交易品は片付いた。
思わぬ高額商品があったけど、このなんかの石改め「増幅石」は、こちらでは貴重品で有用な品だ。
欲しがる人に売っても良いし、自分たちで使っても良い。
良い物が手に入ったな。
◇
「くんせいづくり、つかれた~」
「おいしくなるには、もうちょっとか」
「あとひといきだべな」
商談も終わって、皆でのんびりともんじゃ焼きを食べていると、燻製作りが一段落したのか皆がやってきた。
「燻製作りの調子はどうです?」
「なかなかむずかしいですね。さすがはひでんだけあります」
「おれがいるあいだに、ぜんぶさずけていくからがんばってくれ」
ヤナさんがちょっと疲れた顔で応えてくれたけど、元族長さんの話を聞くにまだ完全に習得出来たわけじゃ無いみたいだな。
急ぐことは無いから、じっくり頑張って欲しい。
「燻製が出来たら、お酒ももってきてぱーっとやりましょう」
「ええもう。それがたのしみでがんばっています」
「くんせいとおさけ、これはもうがんばるしかないな」
「こっちには色々なお酒がありますから、楽しみにしていて下さい」
そうして、いずれ来たる燻製祭りの話をしていると、親父と高橋さんもやってきた。
「あれ、二人ともどこ行ってたの?」
「燻製作りを見学してたんだが、あれは俺たちには無理だな……」
「葉っぱの組み合わせを間違えると、あんなことになるなんてな……」
燻製作りを見学してたんだ。
……しかし、葉っぱの組み合わせを間違えるとあんなこととか、俺たちには無理だとか、なんか色々とあったようだ。
「あ、それと大志、そろそろ炊事場のガスが切れるぞ」
「もう? コメを炊くと、減りが早いなあ」
ガスの残量も調べてきてくれたようで、もうそろそろガスが切れるようだ。
早速ガスを充填しなきゃいけないけど、別の手も考えた方が良いな。
そろそろ炊き出し方式はおしまいにして、各世帯での調理に切り替えるか。
「そろそろ、各世帯ごとに食事を作るようにした方が良いと思うんだけど、どうかな?」
「まあ、そろそろだな。あと数日で梅雨も本格的になるから、皆で集まってってのはお天気的に難しくもなるから」
「そうだね。雨の中皆で集まって食べるのは、ちょっと厳しいね」
炊事場の周りで、皆で集まって食事をするのは楽しいけど、梅雨が本格的になったら雨の中でそれをやるのは大変だ。
そういう意味でも、炊き出し方式はそろそろ限界だな。
「それじゃ、調理器具とか七輪とかを調達しないといけないね」
今のところ、調理器具は炊事場にしかない。
各世帯で調理をするなら、八世帯分を揃えないと。
「他にも、それぞれの家の台所も大掃除しないとな」
「燃料の調達もあるな。薪拾いをしてもらわないと」
親父と高橋さんからもアドバイスが来た。
掃除と燃料の調達、これから大忙しになるな。
申し訳ないけど、燻製作りと平行してやって貰おう。
ちょうど皆が揃っているので、軽く説明だけはしておこうかな。
「皆さん、ちょっと相談事があるのですがよろしいですか?」
「そうだんごとですか? なんでしょう」
「そうだんです~」
呼びかけると、皆が集まってきた。まず現状を伝えよう。
「炊事場のあの火が出る奴ですけど、燃料が切れそうなので補充する必要がでてきました」
「ねんりょうですか」
「つまみを捻ったとき、たまに変な匂いがしたでしょう? あれは燃える空気なんですよ」
「え? そんなからくり」
「くうきがもえるとか、ふるえる」
「すなおにこわい」
燃える空気と言われて、ぷるぷる震え出す皆さんだ。
まあ、確かに扱いを間違えるとめっちゃ危険だ。
怖がって貰うくらいがちょうど良い。
「きちんと扱えばとても便利な物ですが、やっぱり燃やすと減るわけでして」
「それをほじゅうするわけですか」
「そうなんです。だから、補充している間は炊事場で火は使えません」
「なるほど」
「ひがつかえなくなるです? ハナ、がんばるですよ?」
火が使えないと聞いて、ハナちゃんは木の板と棒を構えた。
……今はまだ必要じゃ無いから、まだ構えなくて良いよ。
これからハナちゃんの火起こしが必要になるから、そのときまで待って欲しい。
「……ハナちゃんには、これから活躍して貰おうと思っているんだ」
「あい~! がんばってひおこしするです~!」
活躍の場が出来そうなので、ハナちゃん大喜びだ。
しかし、実際これからハナちゃんの火起こしが重要となる。
説明を続けよう。
「炊事場の方は燃料を補充すればそれで済むのですけど、あともう一つ問題があります」
「もんだいですか?」
「ここいらの地方だと、あと少しすると長雨の季節に入るんですよ。梅雨と言います」
実際にはもう突入しているけど、本格化するのはもうちょっと先だ。
「お! ここでもていきてきに、あめふりのじきがあるんですね」
「そうなんです。ヤナさん達の所でもあったと思いますが、ここでもあるんです」
あっちだと約四百日くらいの周期で、大雨が降るとか聞いた。
こっちは大雨ではなく長雨だけど、まあとにかく雨が続く。
違いはあるとは言え、雨の周期があることは理解してもらえたと思う。
それでは、本題に移ろう。
「それで長雨になると、皆で集まって外で食べるのが難しくなりますよね」
「……たしかにそうですね。あめのなかたべるのは、なかなかたいへんです」
「たいへんです~」
「あめにぬれながらたべるのは、さすがにむりだな」
他の皆も大体察してくれたようだ。困った顔になっている。
それじゃ、どうするかの説明をしよう。
「そういうわけで、長雨が本格的になる時期になったら各世帯で食事の準備をして、家で食べる必要があるんです」
「たしか、おうちのなかでおりょうりができるんでしたっけ」
「そうです。台所ってありましたよね。そこで薪や炭を使えます」
「いままでつかってなかったけど、きになってたのよ~」
「いまはものおきになってるものね」
台所の説明は、エルフ達がこの村に訪れて家を割り当てたときにしている。
どういう設備なのかは分かっているので、話も早いな。
「わかりました。それでは、それぞれのおうちでおりょうりします」
「お願いします。調理器具は用意しますので」
「たすかります」
「おりょうり、がんばるです~」
「おれ、りょうりにがてなんだよな~」
「おれもだよ」
各世帯で食事の準備をする、という点は受け入れられてもらえた。
ハナちゃんはもう大張り切りで、いまだに木の板と棒を構えたままだ。
……まあ、火力は大事だからね。しゅぼしゅぼやって頂きたい。
マイスターとマッチョさんは料理が苦手らしく、困った顔をしている。
まあ、どうしてもダメだったら、だれかの家で食べて頂きたい。
ここのエルフ達は仲が良いから、それくらいの助け合いはしてくれるだろう。
さて、ここまでは良いとして、問題は燃料の調達だ。
薪拾いをお願いしないといけない。
「そして、各世帯で調理する場合は燃料が必要になります。薪拾いをしなければなりません」
「もんだいはありませんよ。あのもりではいつもやっていたことですから」
「いっぱいきのえだ、ひろうです~」
「みんなでやれば、すぐあつまるよね」
「ひさびさに、もりにはいろう」
薪拾いをお願いしたけど、皆問題が無いようだ。
拾って薪割りして、乾かしてと結構手間だけど、元々やっていた仕事だからか特に抵抗なく受け入れてもらえた。
これで大体の懸案は消化できたかな。
「それでは、調理器具を調達したらまた説明しますので」
「よろしくおねがいします」
「タイシ、こんどおうちで、ハナのおりょうりたべてほしいです~」
ハナちゃんから、手料理を食べて欲しいとのお誘いだ。
断る理由なんかないから、楽しみにしておこう。
「ハナちゃんの手料理、楽しみにしてるからね」
「あい~! がんばるです~!」
手料理を振る舞う未来を想像してか、ハナちゃんちょっと興奮気味だ。
耳をぴっこぴこさせている。
あと、やっぱり木の板と棒を構えている。
うん、そのうちそれが大活躍するから、そのときを楽しみにしててね。
俺もハナちゃんの家庭料理は楽しみだ。
梅雨に入って皆での食事は出来なくなるけど、各世帯で食事を作るというのもまた別の楽しみはある。
自分の食べたいもの、家族に食べさせてあげたい物を自分で作るんだ。
自由が増えるので、それはそれで良いことだと思う。
自分の作った料理で家族が喜ぶ、家族が一生懸命作った料理を食べて、団らんする。
そう言うのも大切だと思う。
まあ、とりあえず話はまとまったな。最終確認をしておこう。
「私からは以上ですけど、何かありますか?」
「おうちでひをつかうなら、しょうぼうだんをつくらないといけないですね」
……消防団? エルフ達もそう言うの作ってたのかな?
まあ、確かに火の用心の啓蒙を含めた、防火・消火組織を作るのは必要だな。
消火器も各世帯に設置はしてあるけど、使い方は教えていない。
ヤナさんの言うとおり消防団の結成と、あとは消火訓練をやる必要があるな。
「消防団は確かに必要ですね。結成はヤナさんに任せるとして、団が出来たら消火訓練とかしましょう。消火の道具がありますので、使い方を教えます」
「それでは、おとこしゅうをあつめてしょうぼうだんをつくります」
「お願いします。人数が決まったら教えて下さい。装備を用意します」
「わかりました」
各家庭での食事の準備から、消防団結成の話になった。
彼らの消防団がどういう活動をしているか分からないけど、とりあえず結成したら詳しい話を聞くとしよう。
「しょうぼうだんか~」
「わかいおとこは、だいたいさんかだからおれらかくていだな」
「ふたりとも、がんばってね」
「たよりにしてるわ~」
マイスターとマッチョさん、消防団所属決定なんだな。
ステキさんと腕グキさんに応援された彼らの顔は、まんざらでも無い感じだ。
じゃあ、俺は俺でガスの充填やら調理器具の調達やら、防火、消火装備の調達やらを始めよう。
梅雨が本格的になる前に、急がなくちゃな。