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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第八章  エルフ産業
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第一話 検討会


 エルフ達の世界で、交通と輸送を改善する。

 これを行うに当たって、輸送と移動の高速化から取り組むことにした。

 とっかかりはそれで始めて、それからじょじょに発展させて行ければ良いなと思う。

 

 エルフ達の世界ではプライベートキャリア、いわゆる自力で移動したり、自分の商品は自分で運ぶ自己輸送が今行われている形態だ。

 これをコモンキャリアという、他人や他人の荷物を専門的に輸送する形態への発展までこぎつけたい。

 この他人輸送が実現した場合、エルフ社会に輸送専門業者やら旅客業者やらが出現する。

 そこまで行けば、あとは勝手に回っていく。

 ……そこまで持って行くのが大変だけど。


 ちなみに一見凄そうに思えるけど、日本では江戸時代以前からそういうものがあったわけで。

 別に近代装備が無ければ出来ないわけではない。

 近代装備があれば効率は段違いだけど、無くても何とかなったりはする。


 なぜエルフ社会では、そういう輸送事業体が発達していないかと言えば、単に集落や森単位での完結性が高いからだろう。

 そこで全部済ませてしまうから、他の森や集落と頻繁に行き来する必要がない。

 必要が無いのだからやらない。当たり前の話だね。

 必要性があれば発達するし、無ければそのまんま。


 俺の仕事は、そこに必要性を見出してこじつけて、悪魔のささやきでもってあっちのエルフ達をたらしこむことにある。

 その気にさせて乗せちゃえばこっちのもの。

 ……あっちのエルフ達をそそのかす言葉の研究も始めておこう。


 ん? なんかこれ、悪人のやることっぽいな……。


 ……。

 ……気にしないでおこう。


 さて、どんな道具がいいかな?



 ◇



 あっちの世界で運用するなら、どんな道具が良いかの検討会を開くことにした。

 メンバーは俺と親父、高橋さんとユキちゃん、場所は自宅だ。

 こっちの道具を知っている人でないと、検討できないからね。


 皆でPCのディスプレイを見て、ネットで検索しながら検討だ。


「とりあえず、どんな道具を使えばいいかな?」

「折り畳み式のリアカーは確定なんだろ?」

「まあそうだね」


 平原の人たちも欲しそうにしていたし、荷車と基本的に運用は変わらないから、とっつきやすいだろう。

 例え壊れても折りたたんでフクロオオカミのフクロにしまえるので、二台保有すれば万全だ。

 そうすれば移動中に壊れ牽引不可能になっても、荷物を予備のほうに載せ替えて輸送を続行できる。

 これはつまり、輸送時の故障にて立ち往生したり、それにより輸送不可能となり荷車と荷物を同時に失う危険性をなくす、もしくは減らせることが可能となる。


「こんなので良いかな?」


 カチャカチャと検索して、よさげな製品を表示してみる。


「パイプフレーム型で折りたたみ式か。これなら軽量頑丈で折りたたみも楽だな」

「ベニヤ板一枚敷く必要はあるけど、逆にそっちの方が使う側としては便利かもな」

「一気に安くなりましたね」


 パイプフレーム型だと、軽くてとてもコンパクトに折りたためる。

 構造物が少ないので、お安くもなる。

 軽さは正義だな。


「それじゃリアカーはとりあえずこれで。次は牽引のための用具かな。こんなんとか」


 馬用の牽引用具を検索してみる。……なるほど、ハーネスって言うんだ。


「これは馬用だけど、そのまんま使えるよね」

「リアカーと接続する部分は作った方が良いかもな。ちっと設計する必要があるし、溶接も必要になるけど、難しい物じゃ無いからさ」

「それじゃ、作ってみようか」

「ああ」


 ポン付けも出来るけど、まあ多少は利便性を考えて自作してみよう。

 ハーネスとリアカーを接続する部分を作るだけだから、難しくはないだろうし。


「そういえばエルフさんたちは、あのオオカミさんに乗ることもあるんですよね? こういう用具って使ってました?」


 ユキちゃんが、ハーネスのページに表示されている他の用具を指さした。

 (くら)とかハミとか色々あるな。

 しかし、こっちに来るときに平原の人が母娘おやこでフクロオオカミに乗ってきたけど、そういう物は使ってなかったな。


 ただ、元族長さんが借りてきたフクロオオカミは、荷車をけん引する用具はついていた。

 そういう用具があるなら、乗るための用具もあるんじゃ無いかとは思うけど……。

 良くわからないから、今度聞いてみよう。


「今のところ乗るための用具は見たことが無いね。こんど聞いておくよ」

「お願いします。こっちの馬用の(くら)とか、もしかしたら使えるのでは、と思いまして」

「なるほどね。良いかも」


 確かにフクロオオカミに馬具を付ければ、移動の疲労も軽減される。

 ただ、このハミってやつはつけられないだろうな。オオカミ? であって馬じゃないから。

 ……しかしこれって何の意味があるんだろう? 乗馬はしたことないから、良くわからない。


「このハミって奴はフクロオオカミには使えないと思うけど、これってなんだろね」

「調べてみましょう」


 ユキちゃんがカチャカチャと検索をしてくれて、表示されたページを見てみると……。


「馬に人の意思を伝える道具っぽいね」

「書いてあることをそのまま解釈すれば、超重要な馬具っぽいですね」


 ……ほほう、鞍よりハミの方が画期的な発明だったとか書いてあるな。

 なんで馬にあれを噛ませているのかって疑問だったけど、なるほど馬に人の意思を伝える馬具なんだ。

 こんなの良く思いつくな。

 まあ、馬はそれが必要だとして、フクロオオカミはどうだろうか。


「フクロオオカミは口で言えば伝わるっぽいけど、どうなんだろね」

「それなら、無理してハミの替わりを考えなくても良いと思います。言葉を理解しているなら、無言で指示されるのはかわいそうですし」

「そうだね。せっかく言葉を理解しているのに、ハミみたいなので指示する必要もないよね」


 犬ぞりもかけ声で指示しているわけだし、フクロオオカミも今まで通り声で指示すれば良いか。

 さしあたっては、ハーネスと鞍でも持ってきてみるかな。

 馬具はこれでいいから、他も何かあるか聞いとこう。


「それじゃ馬具はハーネスと鞍を候補に入れるとして、他なんかある?」

「そりゃあれだ、自転車だよな」

「鉄板ですよね」

「チャリを外すわけないよな」


 みんな口々に自転車を推してくる。ほんともう鉄板だよね。

 人力で運用できて、あれほど高効率な乗り物は他にない。

 というか各種輸送手段の中でも、人と自転車を組み合わせた時の効率が抜群だという。

 自分の質量を一キロメートル移動させるのに必要なエネルギーを計算した場合、人と自転車の組み合わせが物凄い高効率だとか、なんかの論文で読んだ。


 人と自転車の組み合わせで実現するエネルギー効率に並ぶことができるのは、鳥が滑空したときくらいだそうな。

 たしか人が自転車に乗って坂を下る時が、地上の生物の中で移動における最高のエネルギー効率をたたき出している瞬間だと書いてあった。


「自転車は即採用だよね。考えるまでもない」

「まあ、乗れるようになるまで練習は必要だけどな」

「エルフさんたちなら、大丈夫そうですよね」

「なんせ狩人だもんな。運動神経よさそうだ」


 まあ自転車は確かに、普通なら乗れるまでに練習は必要だね。

 でも、それほど練習しなくても乗れる種類の自転車にすれば、もっといい。

 このあたり、皆はどう思うかな。


「俺は三輪自転車をまず導入してみようと思ってるけど」

「あ~、田舎でじいさんばあさんが良く乗ってるな」

「四輪のやつも、なにかのイベントで見たことがあります」


 二輪が最も高速に移動できて、タイヤが増えるごとに低速向けの商品になっているんだよな。

 だって、タイヤを増やすのは安全方面に寄せる為だからね。当然安全のために速度も抑え目な設計になって行くわけだ。

 速さが欲しいなら、普通の二輪に乗ればいいということだね。


「あっちじゃパンクしたらそれで終わりだから、ノーパンクタイヤは要るよね」

「重くなるし乗り心地も悪くなるけど、まあ仕方ない」

「チェーンに油を()したり、ブレーキがすり減った時の交換位はエルフさん達だけで出来ると思います」

「うん、それくらいの日常点検とメンテナンスは問題無いだろうね」


 補修部品や工具は高い物でも無いから、自転車本体と一式で提供できるね。

 主だったところはこれ位で良いかな?


「とりあえず、移動の高速化はフクロオオカミと馬具、それと自転車でなんとかしてみようか」

「そうだな。積載はリアカーなんだろ?」

「積載量が必要な場合は、フクロオオカミにリアカーをけん引させる方式でまずやるのが良いと思う」

「馬車みたいなものですね」

「そうそう、フクロオオカミに大荷物を牽引してもらって、人は自転車で移動する。これならフクロオオカミが人に合わせてゆっくり歩く必要もなくなる」


 その運用は実際にやったからね。

 人の移動速度さえ上げれば、フクロオオカミを使った輸送は一気に高速化できてしまう。

 人が自転車で移動すれば、フクロオオカミの普通の速度について行ける。

 単純にこれだけで、積載量はそのままで移動速度は三倍になる。


 人だけで二輪の自転車を運用し、ただ移動するだけなら徒歩の五倍も達成できる。

 うん、見えてきたね。


「主だったところはこれ位でいいかな?」

「まあ、手始めとしては良いんじゃ無いか?」

「大物を輸送するのはこれでいいと思いますけど、小物を短距離輸送できる何かも、欲しいかなと思います」


 小物の輸送? 一体なんだろう。


「私はそこそこ腕力がある方ですが、それでも女ですから限界はあります。そういう人たちにも使える何かが、欲しいかなと」


 ……なるほど、確かにちょっとした移動や輸送に使える物があれば良いな。

 そして腕力の無い人でも便利に使えるようなもの、といえば……。

 ……普段よく使う物と言えば……台車か。


「台車とか良いんじゃ無いかな」

「それは要りますね」

「集落の中でなら、便利に使えるだろうな」

「じゃそれも」


 台車も問題ないかな。後は何かあるかな?


「他には何か思いつく?」

「お手軽と言えば、キックボードとかどうでしょう」


 ユキちゃんがはいはいと手を上げて、キックボードを提案してきた。

 確かにお手軽コンパクトで、練習も要らないな。

 しかも、使いようによっては結構便利かもしれない。

 自転車だとお高くて無理だったり、乗れなかったり、そこまで要らないよって時には使えるかも知れない。


「キックボード、良いかもね。とりあえず持ってってもらって、使い方はお任せとかにしちゃおうか」

「そうしましょう。それほど危ないものでもないですし」


 大体まとまったかな。それじゃ、ひとまずこれでいったん終わりにしよう。


「いったんこれ位にして、あとは様子を見ながらやっていきたいけど、どうかな?」

「良いんじゃ無いか」

「それで行きましょう」

「じゃ、調達始めるか」


 皆もそれでいいみたいだから、次は調達の方に移ろうか。

 ちょうどネットも見ていることだし、良い製品ないか探してみよう。



 ◇



 六月某日、梅雨に突入し雨が増えてくる。

 ただし、この地域は雨が余り振らない地域なので、言うほどずっと雨が降っているわけではない。

 意外と晴れ間も多かったりする。


 そんな最中、エルフ達に田んぼのある平地に集まってもらった。


「前に話していた、移動を高速化する道具を持ってきました」

「これがうわさの……」

「ピカピカしてる」

「ユキがのってたやつです~!」

「かっこいい」


 三輪自転車、そしてユキちゃんのマウンテンバイクと、リアカーを並べてみた。ついでにキックボードも。

 自転車を初めて見るエルフ達は目をキラッキラさせているし、自転車を見たことのあるハナちゃんはキャッキャしている。


「これは自転車という乗り物で、自動車と違って人の力で動かします」

「いろんなしゅるいがあるのですね」

「かっこいい」


 ヤナさんが自転車を右から左から覗き込み、他の方々は前から後ろから自転車を覗き込んでいる。

 皆さん好奇心いっぱいの顔だ。

 興味を持ってもらえたところで、説明を続けよう。


「この車輪がふたつしかないものは、乗れるようになるまで訓練が必要です。もちろん乗るのに失敗したらすっころびます」

「まえにいっていたあれですね」

「そうです。転ぶ乗り物です」

「いたそう」

「ころんだら、うけみがだいじ」


 ヤナさんには、以前に話だけはしていたから直ぐに伝わった。

 他の方々にはまあ、これから説明しよう。


「ころぶきけんがあるのに、なんでしゃりんをふたつにするの?」

「あぶなくね?」

「あえてやってるのかな」

「かっこいい」


 ヤナさんと同じく、自転車を覗き込んでいたエルフ達は、車輪が二つな点に疑問を持ったようだ。


「それは簡単な話で、こうすると軽く安く単純構造になって、さらに高速で移動できるからです。利点の方が多いんですよ」

「そうなんですか」

「なるほど?」

「つまりはあれだ。わからない」


 ……いまいちわかってない感はあるけど、実際に乗ってみればわかる話だな。

 車輪が多ければ構造が複雑化し重くなる、そうすると値段も高くなる。

 さらに車輪を動かすための力も転がり抵抗も増えるので、効率が単純に落ちる。

 結局、転倒リスクを考慮しても、二輪が最もバランスよく運用できるわけだ。

 それは乗ればわかる。


「ちなみに、タイシさんはこれにのれるのですか?」

「もちろん。私も父も、高橋さんもユキちゃんも皆乗れますよ」

「ほほう」

「こうやって乗ります」


 ユキちゃんがさっそく実演してくれた。軽快にマウンテンバイクを走らせる。

 おお、結構スピード出すねえ。時速二十キロ位出してるな。


「おおおお!」

「はしるよりずっとはやい!」

「かっこいい!」


 けっこうな速さで自転車を走らすユキちゃんを見て、エルフの皆さん大興奮だ。

 そして、乗っている姿を見ればどうやれば動かせるのかもすぐにわかる。


「大体分かりました?」


 ユキちゃんがこっちに戻ってきて、緩やかに停止しながらエルフ達に問いかける。


「ええ。そこをあしでふむわけですか」

「そうです。ペダルというのですけど、ここを踏んで回すことを漕ぐ、と言います」

「なるほど~」

「うごいてるところをみると、なっとくのつくり」

「わかりやすい」


 ユキちゃんは後輪を持ち上げてペダルを回し、後輪が動く様も解説してくれている。

 これでもう、ほぼ自転車がなぜ進むのか、どうやって動かすのかは殆ど理解できる。

 実際、エルフ達も原理は理解できたようだ。


「ただまあ、倒れないように乗れるには練習しないと無理です」

「かんたんそうにみえましたけど」

「コツを掴めばそうなんですけど、それまではすっころびまくりです」

「そうなのですか」


 ユキちゃんが簡単そうに乗り回したのを見てそう思うのも無理はない。

 ただ、乗れない人はとことん乗れない。

 水泳と同じで、習わないとできない類のものである。

 そのままエルフ達を自転車に乗せたら、負傷者続出なのは確実だ。

 なので無理せず、車輪の多い車種から慣れてもらうつもりではある。


「二輪は想像以上に難しいので、まずは三輪で慣れてもらいます」

「自信がついたら、二輪もやってみましょう!」

「じしんなくなってきた」

「わりとおおごと」

「あきらめがしはいするせかい」


 想像以上に難しいと言ったら、エルフ達に諦めの空気が……。

 皆さん、あきらめるの早すぎですよ。やれば出来る子なんです。頑張ってほしい。


「ま、まあとりあえず、この車輪が三つあるもので慣れましょう」


 三輪なら、歩ける人間は誰でも乗れる。

 この三輪は前輪がスイングする方式だから、二輪に近い感覚で乗れる。

 まずはそれで様子を見ることとしよう。


 それじゃ、ブレーキの使い方などを説明して、実際に乗ってもらおうかな。


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