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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第七章  エルフ交通
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第十七話 いっちょやりましょう


「タイシ~、おんせんはいったです~」

「みなさんでさいごです」


 どうやったらロジスティクスを構築できるのかを考えたり、受け入れ体勢を皆で相談やらしているうちに、温泉の順番が来たようだ。

 つやつやほかほかしているハナちゃんとカナさんが呼びに来てくれた。

 小難しい事を考えるのはここまでにして、温泉に入って俺もほかほかしよう。


 と、温泉に行く前に、シャンプーとリンスはどうだったか聞いてみようかな?


「ハナちゃん、髪の毛サラッサラになったかな?」

「あい~! くしがよくとおるです~!」


 ハナちゃんが笑顔でブラシを取り出し、髪の毛を梳かして見せてくれた。

 まだちょっと髪の毛は湿っているけど、見た感じブラシの通りはよさそうだ。

 髪の毛が乾いたら、もっと分かりやすくなるかな?


 そしてブラシで髪を梳かすたびに、ハナちゃんの毛先がぴろりんと跳ねるのがかわいらしい。

 癖っ毛だから、毛先だけくるりんとしているんだよな。

 同じ癖っ毛であるカナさんは、どんな感想だろうか。


「カナさんはどうです?」

「まだかみのけはかわいていないのですが、かみのけがからまらなくなってますね」

「おかあさん、かみのけきれいになってるです~」

「そう? うふふ」


 カナさんもシャンプーリンスの効果は出ているようで、ハナちゃんがお母さんの髪の毛を褒めている。

 微笑ましい母娘(おやこ)の光景だ。


 ハナちゃん達は効果を実感しているとして、もっと先に温泉に入った女子エルフさん達はどうかな?

 もう髪の毛は乾いていて、もっと実感できているはずだけど……。

 ……あっちのほうで集まって、キャッキャしているね。


「かみのけサラッサラとか、すてき」

「みてよこのツヤ! かみのけツヤツヤよ~」

「うつくしくなれたわ~。うふふ、うふふ」


 うん、大喜びですね。さっそく効果がでたようで。

 それぞれ髪の毛をサラァとさせて、しきりにブラシをかけているね。

 見た感じでも、ちゃんと効果が出ているのがわかる。

 ユキちゃんのおかげだな。良かった良かった。


 でも、ブラシのかけ過ぎで静電気パチパチいってますよ。

 ほどほどにね。ほどほどに。


「ほらみて、サラッサラよ~」

「どれどれ」

 

 そしてステキさんがマイスターに髪の毛を見せて、サラッサラアピールをしはじめた。

 ……あの二人は仲が良いのかな?

 ステキさんにサラッサラアピールを受けたマイスターは、ふむふむと髪の毛を見始める。

 ――その目は女子の髪の毛を見て照れる男の目ではなく、観察対象を分析する学者の目だった。

 そして――。


「あ、えだげみっけ」

「なんですと」


 ……マイスター、余計なものを発見してしまった。

 ステキさん、慌てて枝毛を確認する。


「えだげ?」

「……もしや」

「みるべし」


 さらに、枝毛と聞いてうふふうふふとはしゃいでいた女子エルフさん達も、毛先を確認し始めた。

 よした方が……。


「あら! わたしにもえだげが!」

「けっこうあるわ~!」

「キャー!」


 案の定枝毛を発見してしまい、女子エルフさん達はわたわたしはじめた。

 ……うん、毛先を切れば良いんじゃないかな。

 ハサミを渡してあげればいいかな?


 見かねて女子エルフさん達にハサミを渡すと、真剣な目でチキチキと枝毛の処理に没頭し始めた。

 頑張ってください……。


 ……そんな枝毛事件がありつつも、俺たちは俺たちで、ようやく温泉に到着した。

 元族長さんに温泉のつかい方を教えつつ、ゆっくりあったまって温泉を堪能しようじゃないか。


「まず体を洗います。それが終わったら温泉に入って、ゆっくりとします」

「おお……これがれいの、おゆがわくいずみですか!」

「おゆにゆったりつかると、これがまたきもちいいんですよ」

「きもちよすぎて、たまにねる」

「あるある」


 マイスターとマッチョさん……お風呂で寝るのは危ないですから……。

 まあ、温泉に一人で入るような事はなく、大体誰かと入るようにはしているみたいだから、大丈夫だとは思うけど。

 それはそれとして、体を洗って温泉に入るとしますかね。


「さっそくシャンプーとリンスとやらをつかってみよう」

「おう。シャンプーからだっけか」


 マイスターとマッチョさんが頭を洗い始めた。

 洗い始めたけど……。


「あれ? あわだたない。なんだかぬるっとするかんじ」

「シャンプーってこういうものなの?」


 それ、リンスですよ。



 ◇



 温泉に入った元族長さんは、たいそう気に入ってくれた。

 温まっては体を冷まし、また温まるといった事を繰り返して、嬉しそうに温泉を堪能していた。

 平原のお父さんも温泉はお気に入りらしく、ちょっとのぼせていた。


 そして六人で賑やかに温泉に入った後、元族長さんを家に送り、おふとんに入って貰ったら即寝落ちしていた。

 よほどお疲れだったのだろう、ゆっくりお休み下さい。


 そして平原のお父さんとも別れて集会場に行くと、ハナちゃんとカナさんが待っていた。


「ハナ、どうしたんだい?」

「タイシタイシ、いっしょにざこねするです~」

「タイシさんとねるんだっていうので、まっていたんですよ」


 ハナちゃんが枕を抱えて、雑魚寝のお誘いか。

 いいんじゃないかな。いっしょにお休みしましょうか。


「それじゃ、いっしょにねようか」

「あい~!」


 元気いっぱいにお返事するハナちゃんだけど、そのテンションで眠れるかな?


「それでは、わたしたちはおうちにかえってねますので、ハナをよろしくおねがいします」

「ハナのねぞうにきをつけてくださいね」

「ハナ、ねぞうはいいですよ?」


 ヤナさんとカナさんは家に帰って眠るようだ。ハナちゃんをお任せされたので、しっかり面倒を見よう。


「ハナ、ねぞうはいいですよ?」

「うんうん、自分は大丈夫だから、おふとんにいこうね」

「あい~!」


 しきりに寝相の良さを強調するハナちゃんをおふとんに誘導し、おねむの準備は完了だ。


「タイシ、おやすみなさいです~!」

「おやすみハナちゃん」

「すぴぴ」


 ……相変わらず、凄まじい寝付きの良さだ。

 数秒で寝てしまった……。


「なあ大志、人ってあのテンションからこんなすぐに寝落ちできるものなのか?」

「凄えな」


 あまりの寝付きの良さに、親父と高橋さんも驚いている。


「ハナちゃんは大体、これくらいの速さで寝落ちするよ?」

「子供だからなのか?」

「なんだろな」


 良くは分からないけど、寝る子は育つっていうから、良いこと何じゃ無いかな。

 すくすくと育って欲しい。


「まあ、俺らも寝よう」

「そうだな」

「おう、寝よう寝よう」


 気を取り直して、俺たちも寝ることにした。

 それでは、おやす……ZZZ。



 ◇



 早朝なのか、まだ夜中だったのか。

 ふと目が覚めた。


 周囲を見てもまだ真っ暗で、起きるには早すぎる時間のようだ。

 なぜこんな時間に起きてしまったのか……。


 ぼんやりした頭で考えていると、ふと、体の異変に気づく。

 なんだこれ……ん!


 ――右腕の感覚が無い!


 なんだ一体! 何が起きている……。

 左手で掛布団をめくって、右腕を見てみる。すると――。


 ――ハナちゃんがガッシ! と、しがみついていた。


「あえ~」


 ……ハナちゃん……いつの間に潜り込んで来たの?


「すぴぴ」


 起きる気配は無い。幸せそうにおねむしている。

 そして離れる様子も無い。というかガッチリ掴まっていて外せない。

 ……まあ、気持ちよさそうに寝ているから、起こさないでそのままにしておこう。


「ぐふふ~」


 ……なんか寝言でぐふぐふ言っているけど、一体何の夢を見ているのだろうか。

 ……何はともあれ、身動きは取れない。

 このまま、もう一回寝てしまおう。


「ぐふ~」


 ぐふぐふハナちゃんにしがみつかれたまま、再びまどろみに包まれる。

 明日はすっきりと起きられそうだ……。



 ◇



 右腕めっちゃしびれてる。ビリビリ状態だ。

 

 それはさておき、さわやかな朝だ。

 がっしりしがみついたままのハナちゃんを起こして、親父と高橋さんも起こして皆で歯磨きをする。


 右腕がしびしびなので、左手でしゃこしゃこ歯磨きをしていると、元族長さんや平原の人たちも起きてきた。


「おはようございます。いや~、あのおふとんってやつで、もうぐっすりでしたよ」

「あれはいいですね」

「ふわっふわでよくねむれる~」

「きもちよすぎて、おふとんからでるのがなかなかたいへんです」


 ふわふわおふとんを堪能して頂けて、何よりです。

 

 そうしてしばらく歯磨きをしたり雑談をしたりしていると、続々と他の皆も起きてきて歯磨きを始めた。


「これがあると、はをみがくのもらくだよな~」

「おくちすっきりとか、すてき」

「おれのじまんのはみがきどうぐは、ただのほぐしたえだだったのだ……」


 おっちゃんエルフは、ヘコみながらもしゃこしゃこ歯磨き。

 他の皆も、しゃこしゃことやっている。

 すっかり歯ブラシも歯磨き粉も普及した。

 皆自腹でそれらを買っているので、じわじわと貨幣経済も普及している証拠だったりもする。


 ちょっとずつ、ちょっとずつだけど村は発展している。

 これからも、ぼちぼちやっていこう。



 ◇



 朝食前に、ちょっと皆に集まって貰い、昨日ヤナさん達と相談した中継地点となる話をした。

 それなりの頻度で来るわけで、かつ皆さんに受け入れをして貰う必要があるから、同意を取っておかないといけない。


「昨日こういう話が出たのですけど、皆さん大丈夫ですか?」

「あら~。にぎやかになるわね~」

「いいんじゃないべか」

「まかしといてくれ」


 皆さん特に問題ないようだ。これなら、何とかなるな。


「いや、おせわになりっぱなしですが、ありがたいです」

「あっちのもりも、たすかるよ。おれからいっておくから」


 平原の人と元族長さんも、村の皆にお礼を言っている。

 この話はこれでいい。

 あとは、俺が昨日考えた件だな。それも話しておこう。


「あとですね、手始めとして平原の人たちやあっちの森の移動手段や輸送能力を、強化したいなって考えても居るんですよ」

「きょうかですか?」

「どんなかんじになるの?」

「タイシ、なにかやるです?」


 皆さん興味津々な様子で、耳を傾けて来た。

 というか耳がぴこぴこ動いているので、見た目で分かるな。

 特にハナちゃんは、ぴょこっと俺の隣に座って、わくわくした顔をしている。

 それじゃ、結果としてどうしたいかをまず説明しようか。


「たとえば森にある集落間の移動に一日かかっていたところを、半日以下よりもっと短くにするとか、森から森への移動を十二日から三日にするとかです」

「そんなことができるのですか!?」

「めっちゃはやい!」

「すごそう~」


 移動時間が半分以下、というか徒歩と比較すると五倍位の移動速度にする。

 それを聞いたエルフ達はもうびっくりした様子で、目をまん丸にして驚いている。


「タイシはじっさいやってたです~」

「たしかに」

「たいりょくすごかった~」

「でもあれ、わたしらじゃむりですよ?」


 ハナちゃんと平原の人たちは実際にそれを体感しているので、感覚は理解出来ているようだ。

 ただ、平原のお母さんが言うように、エルフ達が俺のように力業でやるのは無理だろう。

 さすがに、エルフ達がリアカーを引いて数時間走れるとは思わない。


 ただ、フクロオオカミやリアカーや、もっと他の道具を使えば、エルフ達でも実現は可能だと思っている。


「たとえばフクロオオカミにリアカーを引っ張って貰うとか、皆さんが作った荷車をこっちで改良するとか、色々手立てはあります」

「あのリアカーをつかうんですね」

「それだけではないですけど、一つの手段ではありますね」


 地球には便利な道具があふれている。

 エルフ達が扱えて、頑丈で、そして安価な道具は思いつくだけでも沢山ある。

 でも、それらを用意するのは簡単だけど、どのように使うかを考えるのは簡単じゃない。

 最終目標は、ロジスティクスという水準まで運用が出来るようにエルフ世界を変革することだけど、さしあたっては平原の人たちとあっちの森の交通革命にしようと思う。


 身近な所から始めて、じょじょに広めて行ければ良いなと思う。


「いろいろてだてはある、ということは、まだまだあるんですよね?」

「もちろん。道具は沢山あります。ただ、上手く使うにはちょっと考えないといけない部分はありますね」

「タイシ、ハナたち、ちからになるです~」

「どんなどうぐが、でてくるのかな」

「たのしみね~」


 ハナちゃんがにぱっと笑顔で、協力してくれると言っている。

 この計画はエルフ達の世界の情報を集める必要があるので、皆から色々話を聞くのが重要だ。

 他のエルフ達も、今度はどんな道具が見られるかとキャッキャしている。

 皆の協力は得られそうだな。


 俺一人じゃ無理だけど、皆の力を借りればなんとかなる。

 まずは、あっちの世界に交通革命を起こそう!


「それでは、皆さんのお力をお借りして、皆さんの世界で面白いことをやろうじゃないですか!」

「おもしろいことです!? やるです~!」

「あっちのもり、よろこぶかな?」

「だったらいいな」


 面白いことをやろう、と宣言してみたけど、皆乗り気だ。

 じゃあ、いっちょやりましょうかね!


 さて、どんな道具で、どんな運用をしようかな?

 これから皆で、考えよう!


以上で今章は終了となります。お付き合い頂き有難うございます。

次章からは計画の構築と実行が始まります。今後ともご贔屓頂けたらと思います。

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