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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第七章  エルフ交通
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第十五話 きちゃった


 さらに追加で来ちゃったでござる。


「ヤナさん、この方どちら様で?」

「もとぞくちょうだったかたです」

「ども。もとぞくちょうです」

「むらでいちばんおっきかったひとです~」


 ペコリと頭を下げたでかいエルフさん、元族長さんらしい。

 百八十あるかないかくらいのでかさだけど、俺が見たエルフの中では一番でかい。


「あなたがタイシさんですか?」

「そうです。一応ここら辺一帯の土地を所有している、地主ですね」

「ハナたち、いっつもおせわになってるです~」


 ハナちゃんがまたもや足にぴとっとくっついて、仲良しアピールだ。


「ハナちゃんがこれだけなついているということは、たしかによくしてもらっているみたいですね」

「あい~! まいにち、おなかいっぱいです~」

「色々と至らないところはありますけどね」

「いやいや、なかなかできないですよ。こういうことは」


 元族長さんはペコペコと頭をさげている。

 体は大きいけど、腰の低い人だな。俺もつられてペコペコしちゃうよ。


「しかし、ヤナからいろいろききましたけど、じっさいにみるとでかいですな~」

「いやいや、元族長さんも結構でかいですな~」


 段々打ち解けてきた。お互い身長を比較し合って、わははと笑う。

 それにある程度のことはもう聞いてきたらしいな。

 元族長さんは、見ず知らずの土地に来ているけど落ち着いている。貫禄があるな。


 ……しかし、この人がここに来るとは、一体どうしたのだろうか。

 聞いてみるのが手っ取り早い。


「それで、元族長さんはどうしてこちらに?」

「みんながしんぱいで、あっちのもりのひとたちときょうりょくして、たべものをありったけかきあつめてもってきちゃったわけですが」

「ばうばう~」

「ばう~」

「ばう~ん」


 元族長さんが指さす先には、フクロオオカミが三頭も居た。

 あのフクロに、食料を詰め込んで持ってきたのかな?

 後ろには荷車も見える。

 ……エルフ達の話では、荷車を長距離の旅に持ち出すのはためらわれるという話だ。

 それを持ち出して来てくれたのだから、ゆったりとした物言いとは異なり、相当の覚悟がうかがえる。


「そんでむらにたどりついたら、だれもおらなんだ。どうしようってこまってたら……なんか『こっちゃこい』ってこえが」

「神様の声なんですかね?」

「たぶんそうかな、とおもいますが」

「かみさま、がんばってるな~」

「ありがたや」

(つかれた~)


 なるほど。皆が心配だったから食料をかき集めて持ってきた。

 だけど村は避難が終わっていて無人なわけだ。

 そこでどうしようか困っていたら、神様からのお誘いがあったと。


 ……神様が忙しそうだった? お疲れだった? のは、あっちでお仕事してたからなのかもしれないな。

 謎の声も、疲れたって言ってるし。


「みんなから、あるていどのはなしはきいてます。てをさしのべていただけたようで、おれいもうしあげます」


 元族長さんが、またもや頭をペコリと下げた。

 まあ、家の仕事でもあるから、当たり前のことではあるんだけどね。

 それでも、お礼を言われて悪い気分になるはずも無い。

 それにこの元族長さんも、彼なりになんとかしようと頑張ったわけだ。


「しょくりょうをかきあつめて、フクロオオカミをかりるのにじかんがかかってしまって、これちょっとまずいかなっておもってたのですが……」

「そちらはそちらで、移住先でも大変だったと思います。そんな中でよく頑張りましたよ」

「そういっていただけると、ちょっとはすくわれます」


 何より、元族長さんがなんとかして助けに来てくれたわけだ。

 出来る出来ない、上手く行くか行かないかではない。

 やるかやらないかの話だ。

 この元族長さんは、そういう状況で行動をした。


 食料援助は間に合わなかったけど、それでもきちんと助けにはなったと思う。

 他のエルフ達は、見捨てられていなかったと分かって嬉しそうな表情だ。

 見捨てられていなかった、それが分かっただけでも大きな救いになる。

 そういう意味で、元族長さんはちゃんと残されたエルフ達を救った、と俺は思う。


「まあ、積もる話はあると思いますが、ひとまずは体を休めて下さい」

「おことばにあまえます。しょうじきクタクタで……」

「空き家で仮眠を取られてはどうですか?」


 二つあった空き家の家、一つは平原の人たちが逗留している。

 その隣の空き家を使って貰えば良いだろう。


「あ、それならわたしたちがあんないとせつめいをします」

「おれらにまかせといてくれ」

「わかりました。えっと……これが空き家のカギです」


 ヤナさん達に空き家のカギを渡して、あとはお任せだ。

 ヤナさん達もそれなりに滞在しているから、案内も説明も問題ないだろう。


 元族長さんが仮眠から起きたら夕食を食べて、その後温泉でも入って貰おうかな。

 今入ると入浴中に寝ちゃいそうだから、一眠りして貰った後の方が良いと思う。

 まあ、まずは体を休めて貰おう。


「それでは、あんないしてきます」

「よろしくお願いします」


 そして、ヤナさん達が元族長さんを伴って空き家の方に向かって行った。


 ……しかし、また新たなお客さんが増えちゃったな。

 ここのところ、お客さんが来まくりだ。

 過去に無い出来事が起きまくりで、面白い。


 このことは後で親父と高橋さんにも紹介しておこう。

 まだ温泉で測量をしているからなのか、姿が見えない。

 元族長さんがやってきたことも知らないだろう。

 絶対ビックリするだろうから、驚いた顔が楽しみだ。


 ……あ、驚いた顔と言えば。

 予想外の来客にすっかり忘れていたけど、ユキちゃんが何か言いかけていたっけ。

 鏡はあっちとこっちをなんたらとか。

 最後まで聞けなかったけど、続きを聞いてみるか。


「それでユキちゃん、さっきの鏡の話なんだけど……」

「……」

「ユキ、どうしたです?」


 ユキちゃんは事態について行けなかったのか、口をぱくぱくさせて居た。

 うん、めっちゃ驚いていらっしゃる。


「ユキちゃん、大丈夫?」

「……ええまあ……大体分かりました。ここは、何でもありなんですね……」

「そうなのかな?」

「お婆ちゃんに聞いていた話では、追加とかは無いと聞いていましたので……」


 ある程度はお婆ちゃんから聞いていたみたいだけど、それは今までの村だからね。

 今は想定外の事態が当たり前に起きるわけで。

 まあ、もう起きちゃってるから気にしてもしょうが無い。


「想定外だらけだけど、自分は気にしない事にしたよ。そのうち慣れると思う」

「そうです~。ユキ、きにしないのがいちばんです~」

「え、ええまあ……」


 引きつった笑顔のユキちゃんだけど、もうどっぷり巻き込まれているからね。

 とはいえ、若い娘さんに色々負担をかけるのはちょっとアレだ。

 無理せずぼちぼちと手伝ってもらえれば、それだけで助かる。


 ユキちゃんが無理しないように、ゆったりやろう。


「……ソウデスネ、気にしないことにします……」

「そうそう、そういう物なのかなって考えとくと楽だよ」

「らくです~」


 うん、ユキちゃんも何か吹っ切れたようだ。

 ただ、目にハイライトがないけど、気のせいだよね。


「……そもそも、異世界の神様がこっちにいること自体、普通じゃ無いですからね」

(おじゃましてます~)


 若干困り顔のユキちゃんだけど、まあ納得してくれたようだ。

 しかし、異世界の神様が居る事自体が普通じゃない?

 ……謎の声も、当たり前のように返事しているけど。

 もうごくごく普通になじんでるよ?


「……そうなの?」

「異世界の神様がお客さんとして来た、なんて記録有りますか?」

「そう言われてみれば……無かった」


 ――確かに無かった。


 大勢来たのに気を取られて、どんな存在が来たかまでは考えていなかったな。

 ……なるほど、言われてみればそうだ。

 あまりにこっちの世界になじんでいるから、当たり前かと思ってたよ。


「……まあ、細かいことは気にしなくても良いんじゃない?」

「細かいことなんですかね?」

「多分」


 もう来ちゃってるし、面白い神様だからね。

 気にしたってしょうが無いし、ここは大らかに行こう。

 というか、こっちで奉っちゃったし、今更といえば今更だ。


「神様も来てくれて、こっちは助かってるからね」

「かみさま、きてくれてよかったです~」

(それほどでも~)


 神社がほよっほよ光って神様アピールだ。

 もう定着しちゃってるよね。これ完全に。


「ああああ、何か宿っちゃってる……」


 はっきりと光る神社を見て、ユキちゃんはまたしても驚いていた。

 うん、あんまり考えてもしょうが無いよ。

 気楽に行こう。



 ◇



「今度は、泊まりがけで行きます」

「あの村は電気が通ってないから、不便だよ?」


 ユキちゃんをコナ○コマンドで家の前まで送迎し、別れ際のこと。

 今度は村に泊まるような事を言った。

 ただ、現代文明を知ってる若い娘さんが宿泊するには、割ときついのでは無いだろうか。

 電化製品もないし、空き家は全部埋まっている。

 集会場で寝泊まりすることになるんだよな。


「私だって、こう見えて山育ちです。結構色々出来るんですから」


 そんなことを言いながら力こぶを作るユキちゃんだけど、残念ながら細腕で力強さはない感じだ。

 ……でも、確かに腕力では測れない何かは持っているだろうな。


 だってさ、影見たらもう――正体モロバレだもん……。


 本人気づいてないのこれ?

 言わない方がいいのこれ?


「それじゃあまた、連絡しますねー!」


 俺の内心の葛藤を知らずに、元気よく石段を登っていくユキちゃんだ。

 うん、詮索はすまい。

 というか詮索する以前にもうバレてるからね。


 そうして若干の葛藤はあったものの、ユキちゃんを送り届けて村に帰った。


 しかし、村に戻ると親父と高橋さんの姿が見当たらない。

 聞いてみると、親父と高橋さんはまだ測量していて村に戻っていないようだ。

 二人は俺が紹介するのが良いという判断なのか、俺の帰りを待っていたようだ。

 二人というか、高橋さんの紹介をどうしようか困ったのだろうと思うけど……。


 まあ、そういうわけで俺が温泉に二人を呼びに行って、ついでに現在の状況を説明した。


「親父、高橋さん。なんかまた追加でエルフが来たよ」

「またって……」

「どうなってんのこの村?」


 親父と高橋さんに、元族長さんが来た事やその理由などを説明しつつ、一緒に村に帰る。

 親父と高橋さんはいつの間にかエルフが追加でやってきたことに驚きつつも、なんだか悟った顔になっていた。


 ……もう慣れてきたのかも。

 実は俺も慣れてきた。

 このままどんどん追加でエルフが来ても、「ああまたなのね、いらっしゃい」位には慣れたかな?


 そうして慣れてきた親父と高橋さんを連れて、元族長さんの所に向かった。


 元族長さんは一時間ほど仮眠して起きてきたらしく、広場で皆に囲まれて色々話していた。

 ちょうど良いので、早速親父と高橋さんと顔合わせをして貰ったのだけど……。


「初めまして、志郎と申します。こちらの大志の父親です」

「高橋と申します。よろしく!」

「あわわわわ……」


 元族長さん、やっぱり高橋さんをみてぷるぷる震えだす。

 もうこれパターンに入ったな。高橋さん、おいしい役どころです。


「あの……このかたは……」

「強力なしっぽで岩をも砕き、固い鱗で刃物も弾き、おまけに強いキバでマルカジリも出来ますが人畜無害です」

「人畜無害の高橋です! よろしく! マルカジリは最近やってません! 地味に顎が疲れるので!」

「……」


 ごり押しした。



 ◇



 何事もなく平穏に? 主要メンバーの紹介が終わったところで、食事をすることにした。

 元族長さんはおなかペコペコの様子なので、早めに夕食を食べ、温泉で体を休めてもらいたい。

 仮眠を取ったとはいえ、一時間程度で疲れも完全には抜けていないと思う。

 沢山食べて温泉に浸かり、おふとんに入ればぐっすりなんじゃないかな?


 それに今日は子猫亭のラップサンドがあるので汁物と付け合せを作るだけだから、夕食もそんなにお待たせすることもない。

 せっかくだから、お料理が出来るまでと、食べながらの時間で色々話を聞こう。


「みんな、たべるのにはこまってないですか?」

「ええ。十分とは言えないながらも、飢えることは無いように気を付けてはいます。ただ、食料はあればあるほど良いですね」

「それなら、わたしがもってきたしょくりょうもかつようしてください」

「有り難く頂戴します」


 奥様方が料理する風景を見て、元族長さんも安心した様子だ。

 食べ物が不足していたら、こんな風にはお料理はできない。

 そのあたりから大丈夫そうだと判断したようだ。


「しかし、食料をかき集めたと聞きましたが、あっちの森のほうは食料に問題は出てませんか?」

「そこはだいじょうぶです。あっちのもりは、たべものがたくさんありよゆうもあったので」

「なら大丈夫そうですね」


 あっちの森は食べ物が豊富に採れるようだ。

 それならこの食料をもらっちゃって大丈夫だろう。どんな援助物資なのかは後で確認しておかないとな。

 それにより、俺が今後調達する援助物資の計画も変わってくるはずだ。

 保存が効くものだと助かるけど、そうでなくてもこっちなら何とかなる。

 いざとなれば冷凍すればいいだけだから、無駄にはならない。


「あっちのもりにいったみんなと、あっちのもりのひとたちでたべものをあつめましたもので、じかんがかかってしまって……」


 元族長さんが申し訳なさそうに言っているけど、気持ちは受け取った。

 この気持ちだけでも、十分な物がある。


「十分ですよ。私も、他の皆も感謝してます」

「ありがとうです~!」


 移住した人達やあっちの森の人達が力を合わせて、食べ物を集めてくれたんだ。

 良い人達じゃないか。フクロオオカミ三頭と荷車がある時点で、かなり頑張ってくれているのがわかる。

 ハナちゃんもにっこにこでお礼を言っているし、他のエルフ達も嬉しそうだ。


「みんながおれらのことかんがえてくれてたのがわかって、よかった」

「こんどおれいしなきゃね」

「なにがいいかな?」


 あっちの森の人達の気持ちを受け取った皆は、お礼を何にしようかと話している。

 ……そうだな、ここまでしてもらったのだから、何かお礼をしたい。

 どんなお礼が良いかは、また話し合おう。


「おりょうり、できました」

「がんばったの」

「くばるわよ~」


 お、夕食が出来たようだ。受け取りに行こう。

 今日はラップサンドもあるから、神様にもお供えしなきゃね。


「神様、お供え物です」

(ありがと~)


 何時ものようにピカと光って、皿ごと消えた。

 しまった、忘れてた。お皿に盛ってお供えしちゃったよ……。

 ……まあ、いいか。お皿はまた持ってくればいいからね。


「タイシさん、いまのってもしかしてかみさま、ですか?」

「そうですよ。皆さんの神様もこっちにいらっしゃってます」

「……まあ、げんきそうでしたね」

「ええ。神様は元気いっぱいですね」


 元族長さんが目をまるくして驚いていたけど、あっちじゃ普通のことじゃないの?

 てっきり慣れてると思っていたのだけど。

 何か違うのかな?


 その後、お供えは終わったので頂きますをすると、元族長さんは気を取り直したのか、料理の方を好奇心いっぱいの目で見ていた。

 他のエルフ達もラップサンドを初めて見たときは興味津々だったので、同じような反応だ。

 やっぱり、こういう料理はめずらしいのかな?


「まいにちこういうものをたべているのですか?」


 そして、好奇心いっぱいの顔で聞いてきた。

 まあ、ラップサンドは毎日では無いかな。

 普段はもうちょっと庶民的というか、あまり手の込んだ物にはしていないように思う。

 だって作るの大変だものね。


「汁物と付け合せは大体そうですね。もう一品のほうは、この森の外にある料理屋から買ってきたもので、たまに出るくらいです」

「りょうりや? ですか?」

「こっちにはお料理を専門のお仕事として生計を立てている人たちが居まして、そういうお店にいけば自分で料理を作らずに済むんです」

「なんだかすごそうですな」


 ヤナさん達が以前した反応もそうだけど、エルフ達の世界では狩猟採集文化だから、専門職はあまり発展していないみたいだな。

 これは農耕を始めないとなかなか難しいから、しょうがないことだとは思うけど。

 食べるのに必要な分だけ採集して、大規模に貯蔵しないとか冬越しの為に準備するとかをやっていないと、余剰の食料でもって専門職を育成するなんて出来ないからね。

 彼らが荷車を作るのに苦労しているのも、同じ理由だろう。

 木工専門、それだけをやって暮らしているわけじゃないから、研究開発だって遅くなる。

 製造することにかかりっきりになれないから、作るのも遅くなる。

 こういう事情があって、エルフ達の物流はフクロオオカミに頼りっきりになっているんだろう。


「ばう~」

「ば~うばう」

「ばうばう」


 そんなフクロオオカミたちも、ハナちゃんが急きょ量産したキャベツを美味しそうに食べている。

 地球で品種改良された野菜だから、食べやすくて美味しいんだろうな。


「タイシ、いっしょにたべるです~」


 そうしてフクロオオカミが嬉しそうにキャベツを食べているのを眺めていると、ハナちゃんがぽてぽてとやってきた。

 一緒に夕食を食べようとお誘いしてくれたので、ハナちゃん一家と元族長さんとで夕食を食べることにしようかな。


「そうだね。一緒に食べよう。元族長さんも、遠慮なさらずにどうぞお食べください」

「それでは、いただきます」

「いただきますです~」


 そしてハナちゃんはにっこにこ笑顔で、ラップサンドをちまちまと食べ始めた。

 久々のラップサンドだから、嬉しそうだ。


「おいしいです~」

「これはまた、すごいですね」

「なんせ料理の専門家が作ったものですからね。料理一筋だからこそ出せる味です」


 元族長さんは、ラップサンドを一口食べて驚いていた。

 まあ、こっちにある調味料を駆使したうえ、ワサビちゃんブーストもかかっている。

 舌の肥えたこっちの人ですら美味しいと感じるんだから、そりゃ驚くのも無理はない。


「このあじつけなんですけど、あのひっこぬくとさけぶやつがつかわれてるんですよ」

「……え? あれをつかっているのか?」

「そうです。こっちではワサビちゃんってよんでるのですが、ワサビちゃんをつかうとおいしくなるんですよ」

「よるになると、あるきまわるです~」

「え? あるきまわるのあれ。なにそれこわい」


 ヤナさんが元族長にワサビちゃんの顛末を説明しているようだ。

 あの植物の有効的な利用方法を発見したのはこっちのエルフ達、というか腕グキさんなんだよな。

 その情報はあっちの世界には伝わっていないから、あっちの世界ではワサビちゃんは迷惑雑草のままなんだろう。


 ……ソーラー街灯をあっちの世界にも設置できれば、向こうでもワサビちゃん農園を作れるのではないだろうか?

 そのあたり、今度考えてみよう。それがうまくいけば、あっちの世界でもワサビちゃんは大事にされるかもしれない。


「タイシ、なにかおもいついたです?」


 ハナちゃんが期待の目でこちらを見ている。今思いついたことを話してみるかな。


「いやね、こっちでやっているワサビちゃん栽培を、あっちの森でもできたらいいなって」

「あや! そんなのできるです?」

「多分ね。それほど難しい事じゃないから、出来るんじゃないかって」

「いいかもです~」


 ハナちゃんはあっちの世界でもワサビちゃん栽培が出来そうと聞いて、ラップサンド片手にキャッキャしている。

 ワサビちゃんたちが歌うあの幻想的な光景を見て、さらにその味と効果も知っている人なら、あっちの世界でもワサビちゃんがのびのび育つと聞くとほんわかするかもだ。


 新月の夜に歌いながら、ほのかに光る花を咲かせるワサビちゃん。

 あれこそまさに、異世界の幻想的な風景だと思う。

 それが本場の異世界で行われるのを見られたら、どれだけ凄いだろうか。


「よくはわかりませんが、おしえていただけるので?」

「今度その畑に案内しますよ。どうやって育てるのかもその時一緒に教えます」

「それはありがたい。おねがいします」


 今日は元族長さんもお疲れだから、ワサビちゃん農園やら、村の案内やらは後にしておこう。

 別に今日急いでしなければいけない事じゃないからね。後日やればいい。

 今日は食事が終わったら温泉に入ってもらって、おふとんでゆっくり体を休めてもらいたい。


 それに今日は、女子エルフさん達お待ちかねのシャンプーとリンスもある。

 きっと、賑やかになるだろうな。


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