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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第七章  エルフ交通
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第十四話 鏡というのは


「はーい! 皆さん配りますよー!」


 調達してきた美容品をユキちゃんが配っている。

 そして女子エルフさん達はもう待ちきれない様子で、うずうずしていた。


「まずはシャンプーで頭を洗って良くすすいだ後、このリンスを付けて下さい。そしてまた良くすすぎます」

「これでかみのけサラッサラになるのね」

「おんせんがたのしみだわ~」

「うふふ、うふふ」


 一応各種小物や美容品は世帯ごとに配布しているけど、今配った分を消費しきったらお店で買って貰う予定になっている。

 お値段はお安くしてあるけど、気に入ったら使い続けてねっていう方針だ。

 何種類か用意してきたようなので、商品を選ぶ楽しさもある。


「タイシさん、このつめきりってやつ、どうつかうの?」


 お、マイスターが爪切りの使い方を聞いてきた。

 ちょうど良いから、実演して見せよう。


「こうやって、この歯の部分で爪を挟んでこうするんです。そしてこの部分で削って形を整えます。足の爪も同じようにできますよ」


 パチパチと爪を切って、ヤスリで整形してみせる。俺はマメに爪切りしているから、あんまり切れないけど。


「これはべんり」

「かんたんにつめのおていれできるとか、すてき」

「おれのじまんのつめとぎいしは、そこらでひろったいしだったのだ……」


 爪切り実演を見た他のエルフ達も、同じようにパチパチと爪を切り始める。

 しかし、今まで石で爪研ぎしてたんだ。

 そりゃあ時間がかかってしょうがないだろうな。

 でも、そこらで拾った石って……。

 

「おお、そうやるんだ。こうかな?」


 マイスターも早速自分で爪切りを始めた。

 始めたけど……。


「なんか、くせになる」


 あっちょっとまって。切りすぎ切りすぎ!

 めっちゃ深爪してる! 止めないと!


「おっと! あんまり切りすぎてもいけませんよ。ほどほどに、ほどほどに」

「ておくれかと」

「ぎりぎりのところをせめちゃった!」

「おまえいっつもやりすぎね?」


 マイスターの深爪を若干引いた様子で、周囲のエルフ達も見ている。

 うん、それくらいの深爪だと、物を掴むとき困るんじゃないかな。


「すげえすっきりしたじゃん?」


 しかし、かなりの深爪だけどマイスターは満足そうだ。

 ……深爪マイスターが誕生してしまった……。


 ほどほどに、何事もほどほどにね……。



 ◇



「タイシタイシ、このカガミすごいです~」


 マイスターが足の爪も深爪しようとしたのを止めて、ほっと一息ついていた時のこと。

 ハナちゃんが鏡をもってぽてぽてとやってきた。

 台座付きのやつだな。

 ユキちゃんにお任せしたけど、ガラス製ではなく樹脂製の割れない奴を買ってきてくれた。

 鏡が割れてケガをしないか、という心配をしなくても済むので良い。


「このカガミ、ものすごいくっきりうつるのな」

「まるでもうひとりのじぶんが、そっちにいるみたい」

「おれのじまんのいしかがみは、そこらのいしをめっちゃみがいただけだったのだ……」


 おっちゃんエルフが、なにやら黒曜石みたいなのを磨いたっぽい石とユキちゃんが買ってきた鏡を見比べてヘコんでいる。

 ……エルフ達は、石を磨いたものを鏡にしていたんだな。

 石を磨いたにしては結構綺麗な像が出ているから、加工精度は高いと思うけど。

 ただ、黒曜石みたいなのを基板にしているだけに、色の再現性はさすがに現代の鏡にはかなわない。


「これで、みだしなみもはかどるです~」


 ハナちゃんは鏡を見ながら、ブラシで髪の毛をとかしている。

 まあ、石けんだけで洗った髪だからちょっとゴワゴワしてて、ブラシの通りはそれほどでも無い。

 これが、今日シャンプーとリンスをしたらサラッサラになるかな。


「今日配ったシャンプーとリンスを使えば、髪の毛ももっと梳かしやすくなるよ」

「たのしみです~」


 そうして、ハナちゃんの髪の毛をとかしてあげたりしていた時のこと。


「「「キャー!」」」


 女子エルフさん達の辺りから、なにやら悲鳴が聞こえてきた。


「おもってたよりおはだ、つやつやしてない」

「しゃしんでみたときは、そうでもなかったのに」

「こうしてはっきりとうつしだされると、げんじつが、げんじつが」


 鏡でくっきりはっきりとお肌を確認出来るようになった為、否応なく現実を見てしまったようだ……。

 あれだね。写真はカードサイズだからそれほど目立たないけど、鏡はそうはいかないからね。

 地デジ開始で解像度が上がって、女優さんの目尻にあるアレを発見しちゃったみたいな……。


「どうしましょ! どうしましょ!」

「お、おはだが~! おはだが~!」

「たいへんだわ~!」


 いや、俺からするとつやっつやに見えるんだけど。

 皆さん結構良いお肌をしてますよ?


 ……もしかして。

 女子エルフさん達の、お肌に対する要求水準は――かなり高い?

 

 右に左にわたわたする女子エルフさん達だけど、俺にはどうしようも無い。

 なんたって、お肌とか美容とか、全然分からないから……。


 ――そこに適任がいらっしゃいますね。


「ユキちゃん、申し訳ないんだけど……」

「……ええまあ、何とかします。気持ちは分かりますから」


 こうして、ユキちゃんはエルフ美容の先生になった。

 押しつけたとも言う。


 すまぬ。すまぬ……。



 ◇



 お肌が気になる女子エルフさん達とユキちゃんが、集会場で緊急お肌会議を始めた。

 俺や他の男性陣、それとお子さん達はその会議には参加せず、会議が終わるまでのんびりと過ごすことにした。


「ギニャ~」

「ニャ~」


 のんびりとした雰囲気につられたのか、フクロイヌも遊びにやってくる。

 しっぽをふりふりさせて、遊ぶ気全開だ。

 そこまで期待されたら、遊ぶしかないよね。


「ほらおいで。こちょこちょしちゃうよ」

「ギニャ~」

「ニャ~」


 フクロイヌをお誘いしたら、もう大喜びでトテテテっと駆け寄って来た。

 なでくりしてあげよう。


 そうしてフクロイヌをなでくりしているとき、ふと思いついた。

 彼らは長毛の動物だから、ブラッシングしたら喜ぶんじゃ無いか、と。

 思いついたなら早速実行だ。

 予備のブラシを取り出して、ブラッシングをやってみよう。


「タイシ、なにしてるです?」

「いやね、このブラシでフクロイヌ達の毛繕いをしてあげようとおもってね」

「あや! ハナもそれやりたいです~!」


 ハナちゃんもフクロイヌ達の毛繕いをしたいようだ。

 自分のブラシをぴょいっと取り出して、やる気十分の様子だね。

 ただまあ、自分のブラシを使わなくても、予備があるからそれを使おうね。


「このブラシでやろう。まずは自分がやってみるよ」

「あい~!」


 そうしてブラシを準備したら、いざ毛繕いだ。

 こちらを見上げているフクロイヌに、声をかけよう。


「きみたち、このブラシで毛繕いをしてあげよう」

「ギニャッ!」

「ニャッ!」


 毛繕いという意味が分かったのか、二匹ともうつぶせになって臨戦態勢に入る。

 しっぽははげしくふりふりしているので、ものすごく期待されている……。

 それじゃ、始めますか。


「ほ~ら、どうだい?」

「ギニャニャ~」

「ニャニャ~ン」

「よろこんでるです~」


 ブラッシングをしてあげたら、フクロイヌ達はうっとりした感じになる。

 背中をブラッシングされるのが特に良いらしく、でろ~んと伸びきってしまった。

 うん、ご満足頂けたようだ。

 それじゃ、ハナちゃんにもやってもらおう。


「ほらハナちゃん、同じように毛繕いしてあげて」

「あい~! けづくろいするです~!」


 ハナちゃんにブラシを渡すと、優しい手つきでブラッシングを始めた。

 これにはフクロイヌもさらにうっとり。

 さっきよりもでろ~んと伸びていった。

 うん、この動物、凄い伸びるね。ネコみたいだね。


 ……これほどブラッシングが気に入ったなら、今度は動物専用のブラシでも買ってこようかな。

 人間用のブラシより動物向けに設計されているだろうし、良いかも知れない。


「あえ?」

「あれ?」


 そうしてフクロイヌ達をブラッシングしていたとき、ふと気づくといつの間にか他のフクロイヌ達も集まって順番待ちをしていた。

 ……君たち全員を、ブラッシングするの?


「ばう~」

「あや! フクロオオカミもきたです!」

「ブラッシング、して欲しいのかな?」

「ばう~!」


 これ、全員ブラッシングするのは、大変なのでは……。


「タイシ、どうするです?」

「この際だから、とことんやろうか」

「あい~!」


 そうしてハナちゃんと動物たちをブラッシングしまくった。

 フクロイヌ全員をブラッシングで延伸化させ、ようやく最後の大物、フクロオオカミに取りかかる。


「ほら、やっぱり背中が良いのかな?」

「ばう~ばう~」


 うつぶせになったフクロオオカミの背中をブラッシングすると、気持ちよさそうにでろ~んと伸び始めた。この動物も伸びるんだ……。


「おや、うちのこのけづくろいをしていただいてるのですか?」

「あい~! ふわっふわにするです~!」


 フクロオオカミのブラッシングをしている最中に、平原のお父さんがにこにこしながらやってきた。

 奥さんと娘さんはお肌会議に参加中なので、一人でぶらぶらしていたようだ。


「フクロイヌの毛繕いをしていたら、フクロオオカミも参加してきたんですよ」

「けづくろい、だいにんきです~」

「それはありがたい。わたしもおてつだいしますよ」


 平原のお父さんが洗車ブラシみたいなのを取り出した。

 フクロオオカミをブラッシングするには、やっぱりそれくらいの物は必要だよね。


 そうして三人で動物をブラッシングしまくった結果、こんもりとした抜け毛の山ができました。

 そりゃ、毛繕いも喜ぶよね。


「ギニャ~!」

「ニャニャ~」

「ばう~」


 毛繕いをして貰ってさっぱりした動物たち、大喜びで俺たちの周りを走り回る。

 うん、定期的に毛繕いをしてあげよう。

 

 それからしばらくの間、三人でふわふわ毛並みの動物たちと遊んだ。

 美容品としてブラシを買ってきたけど、思わぬ所で思わぬ使い方をすることになったな。

 ブラシを一番喜んだのは、毛の長い動物たちだった。

 何がどこで役立つか、分からない物だ。



 ◇



「タイシ、いってくるです~」

「すみませんが男性陣は、話が終わるまで集会場には立ち入らないようにして欲しいです」

「分かった。ユキちゃんにお任せするよ」

「任されました」


 しばらく動物たちと遊んでいたら、ハナちゃんや、お肌会議に参加しなかった女子が集会場に呼ばれていった。

 何をするのかは分からないけど、ユキちゃんにお任せだ。

 あの箱の中身を配布したり、色々説明するんだろう。


 そしてその間集会場は男子禁制となったので、そこら辺をぶらつくことにした。

 親父と高橋さんも、マッチョさんを伴って温泉の測量をするそうで、温泉に向かっていった。

 高橋さんがこの間測量していたけど、続きをやるんだろうな。

 測量しておけば、今後男湯女湯を分ける工事もやりやすい。

 この辺はお任せしておこう。

 俺は居住区の設備点検でもしておこうかな。

 家が傷んでいたりしたら、補修をする必要があるし。


 そうして俺は俺で村の見回りをしていると、男性陣が葉っぱを運んでなにやら作っているところに出くわす。

 一体何を作っているんだろう?


「ヤナさん、それって何を作っているんですか?」

「ああ、これはくんせいのためのこやをつくっているんですよ」

「燻製小屋ですか」

「そうです。へいげんのひとたちは、うちのくんせいをたべたがってましたから」


 なるほど、平原の人たちに燻製を提供するために、燻製小屋を作っているんだな。

 前に親父が燻製小屋も作ろうって話をしていたけど、実際に建築はまだしていない。

 平原の人たちがお客さんとして来たので、急遽必要になったんだろうな。


 今作っている葉っぱの燻製小屋に耐久性があるなら、これでいいやってなると思うけど、その辺りどうだろう?


「この燻製小屋って、どれくらい持つのですか?」

「そのつどつくってます。つかいすてですね」

「けむりではっぱがカラッカラになるからな」

「そのはっぱも、やねとかにつかいまわしたりはしてたかな」


 残念、使い捨てだったか。使い回しはしてたみたいだけど、ここじゃ屋根に使い回すことは出来ない。

 やっぱり、そのうちに燻製小屋は作らないといけないな。


 これは高橋さんに相談しておこう。

 ベニヤとトタンで簡単に作れる程度で良いと思うけど、小屋となると基礎作りがちょっと大変だから、高橋さんに設計して貰った方が良いからね。


「いずれ本格的な燻製小屋を作る予定ですので、その際は案などを集めると思います」

「おお! そのときはわたしらもがんばっちゃいます」

「くんせいたくさんつくるぞ~」

「おにく、たくさんあるからいっぱいつくれるな」


 そんな雑談をしながら、葉っぱの燻製小屋はどんどんできあがっていく。

 エルフ達は、どんどんかつての生活を取り戻していく。

 ちょっとずつ、ちょっとずつ村が発展していくのを見るのは、楽しいな。


「これでもとぞくちょうがいれば、くんせいもかなりのものができるんですけどね……」


 ふと、ヤナさんがぽつりとこぼした。

 元族長というと、ヤナさんになんかの石を渡して、族長を任せた人だったっけか。

 その人は、燻製作りの名人なのかな?


「元族長って、そんなに燻製作りが上手なのですか?」

「ええ。もとぞくちょうだけがしっている、ひでんとかいろいろあるみたいです」

「おれらも、うでにはじしんがあるんだけど、もとぞくちょうにはかてなかったなあ」

「あのひとのつくるくんせいは、すごいおいしいんだ」


 かつての日々を思い出したのか、エルフ達がしんみり……というよりじゅるりとしている。

 うん、食いしん坊さん達だね。


「もとぞくちょうに、ひでんをきくのわすれてましたもので」

「ひきつぎとか、いしをもらっただけだもんなあ」

「そんなばあいじゃなかったもんな」

「おしいことをした」


 他の森に移住するために慌ただしかっただろうし、引き継ぎも簡単なものだったという話だから、まあやっている余裕は無かったんだろうな。

 実際に、引き継いだところで燻製を作る葉っぱもなければ、動物を狩れる状況でも無かっただろうし。

 どうしようもなかっただろうな。


「でもまあ、わたしらもじしんはありますので、おいしいくんせいをつくりますよ」

「がんばんべ~」

「へいげんのひとがかえるまえには、それなりにできるかな」


 平原の人たちは燻製目当てに来たとは聞いたから、旅立つ前に持たせてあげたいんだろうな。

 わざわざ塩を持ってきてくれていたから、恩を感じているのかもしれない。

 この辺りはエルフ達のしたいようにして貰おう。


 それに、上手に燻製ができたら、それをつまみに飲み会を開催しても良いかもしれない。

 そろそろお酒を解禁してもいいだろう。

 毎日の晩酌に、はさすがに無理だけど、祝い事や催し物の時に出すくらいなら問題ないように思う。

 細かいことは燻製が完成してから考えようか。


 そうして今後の楽しい催し物を考えていると、女子会は終わったのかぞろぞろと集会場から女子エルフさん達が出てきた。


「これはべんりだわ~」

「うんどうしてもだいじょうぶとか、すてき」

「よくできてるの」


 なにやらトートバッグを下げた女子エルフさん達は、ほくほく顔だ。

 まあ、やっぱり色々と不足していたんだろう。

 大体想像はつくけど、俺が聞いて回るわけにもいかなかった問題だ。

 ユキちゃんという協力者ができたことは、幸運だな。

 ……というより、そういうことを見越して加茂井さん(お婆ちゃん)が、ユキちゃんを派遣してくれたのかもしれない。


「あ、大志さん。ひとまず配布は終了しましたよ」

「ありがとう。俺じゃどうしようも無いから助かるよ」

「お役に立てて良かったです」


 ユキちゃんが巻き尺? をバッグにしまいながら声をかけてきた。

 まあ何かを測ったんだろう。細かいことは聞くまい。

 一仕事終えた達成感があるのか、ユキちゃんはほっとした表情だ。


「タイシタイシ~。いろいろもらったです~」

「おっとハナちゃん! 見せちゃダメよ!」

「あえ?」


 ハナちゃんがキャッキャしながら貰った物を見せようとしたけど、即座にユキちゃんが止めていた。

 まあ、俺に見せられても困っちゃうからね。


「それはお母さんと相談しながら使って、何かあったらユキちゃんにも相談すると良いよ」

「あい~! ユキにおねがいするです~!」


 またもやユキちゃんに押しつけた気がするけど、すまぬ、すまぬ……。


「それでタイシ、かみさまにもこれをおそなえするです?」

「あ~……どうだろ。神様が欲しがったらお供えしようか」

「きいてみるです~」


 女子が必要とするような物品だけど、神様にお供えか……。

 何が配布されたかは正確には知らないから、なんとも言えない。

 神様に聞いてみるしかないな。


「あの、大志さん。……今、神様が欲しがったらお供えって聞こえたんですけど」


 ハナちゃんとお供え物について相談していると、ユキちゃんが心底不思議そうな顔で聞いてきた。


「聞いたままだよ。神様にちょくちょくお供え物をしているんだけど、今回はどうしようって話だね」

「お供え物はまあ、分かります。ただ――欲しがったらとは?」

「そのまんまだよ。エルフ達の神様は割と意思表示するんだ」

「え? エルフ達の神様? 意思表示する?」


 ユキちゃんは訳が分からない様子で、はてなマークだらけの様子だ。

 これはなんと説明したらいいだろうか。

 ……実際に見て貰った方が、早いかな?


「口で説明するより、見て貰った方が良いかな」

「はあ……」

「おそなえするです~!」


 いまいち飲み込めていないユキちゃんを釣れて、駄菓子屋にある神棚へと移動する。

 ほのかに光る神社がそこにはあった。

 ……ただ、なんだか光が弱い気がする。

 何があったかは分からないけど、神様お疲れ?


 ……そういえば、あっちの世界から帰ってきてから、なんだか謎の声を聞いていないな。

 お疲れ? それとも忙しいのかな?


「取り合えず、いろいろ並べてみよう」

「あい~!」


 ハナちゃんがブラシや鏡などを並べていく。

 中を見ない方が良い奴は、箱のまま置いた。神様なら中身分かるだろうから、これでいいよね。


 そうして、皆の前で配った物は一通り並べ終わった。

 じゃあこの中から、何が欲しいか聞いてみよう。


「神様、何か欲しい物は有りますか?」

「あるですか~?」

「ええ……?」


 ユキちゃんが困惑する中、神様にご希望の品を選んで貰う。

 まあ、全部でも良いんだけど。


 ――と、鏡が強く光った。

 そうか、鏡が欲しいんだ。


「タイシ、これみたいです」

「え? 何? 光った?」


 三人とも鏡が光ったのは見えたので、これで確定だろうな。

 それじゃあ、これをお供えしよう。


「じゃあハナちゃん、お供えしてあげて」

「あい~!」


 ハナちゃんが鏡を持って、ぽてっと神棚にお供えする。


「神様、お供え物です。お受け取り下さい」

「くださいです~」

(あ……がと……)


 神棚に鏡をお供えすると、すぐさまピカっと光って鏡は消えた。

 かなり感度は悪いけど、謎の声もちょっと聞こえた。

 この感度の悪さは……どっか遠くから聞こえてくるみたいな感じだ。

 何か立て込んでいるのかな?


「えええ……?」


 そして鏡が消えたのを見て、ユキちゃんの混乱は最大に。

 ものすごい驚いている。


「大志さん、今! 今鏡が消えて!」

「うん。エルフ達の神様が持って行ったんだよ」

「もってったです~」

(ぷは~……これでらくちん~)


 お、謎の声もはっきり聞こえるようになった。

 ……これで楽ちん? やっぱり何か大変だったのかな?


「ええええ」


 そしてユキちゃんの混乱は治まらずだけど、そんなに驚く事なのかな?

 ユキちゃん家の前に押しかけたときと同じ感じで、慌てているけど……。

 こっちじゃ普通の事なんだよな。


「えらく驚いているみたいだけど、こっちじゃこれが普通だよ?」

「いや……普通、こんなに簡単に現世に干渉するの、無理ですから……」

(なぬ?)

「無理なの?」

「普通はまあ、そのはずなんですけど……」


 謎の声は「なぬ?」とか言ってる。

 自覚なしなんだ……。


「……まあ、出来るんだから良いんじゃ無い?」

「そうなんですかね?」

「わかってないかんじです~」

(それほどでも~)


 褒めてないよ?

 ……まあ、謎の声も良く聞こえるようになった。

 元気になったぽいから、これでいいんじゃ無いかな。

 細かいことを考えたところで分からないから、気にしてもしょうが無い。


「かみさま、げんきになったぽいです~」

「ハナちゃん、何か分かるの?」

「あい~! らくちんになったみたいです~」


 ハナちゃんがユキちゃんに、神様の状態を説明しているな。

 確かに、なにやら楽ちんになったとは聞こえた。

 一体何が楽になったのかは良くわからないけど、お供え物が関係しているとは思う。


「……お供え物は鏡だったけど、何かに使えるのかな?」

「大志さん、鏡というのは――」

(つなげるの~らくちんになる~)


 ん? 今なんと?


(ついか、おねがい~)


 ――え? 追加?


「……大志さん?」

「ユキちゃんごめん、『鏡というのは』の続きを聞かせて欲しい」

「ええ。鏡というのは、こちらの世界とあちらの世界を――」


 ユキちゃんが説明を続けてくれたそのとき、にわかに周囲が騒がしくなった。

 ワイワイガヤガヤと、喧噪が近づいてくる。


「あえ?」

「ん?」

「え?」


 皆慌てているけど、どうしたんだろうか。

 ヤナさんがこっちに走ってきた。


「タイシさん! こちらにいらっしゃいましたか!」


 手を上げてシタタタと走ってきているその背後には、エルフ達が集まっている。

 あそこで何かが起きているのかな?


 エルフ達が集まっている方を見ると、なにやら違和感が。


 ……あれ? なんだか――知らない人が居るぞ?


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[一言] 定期的にブラッシングすれば毛糸が収穫されそう: こんもりとした抜け毛の山ができました
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