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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第七章  エルフ交通
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第十一話 さらに客


 平原の人たちを連れてきた翌日、俺は採取したサンプルを分析に回すことにした。

 分析は加茂井さんが担当してくれるのだけど、送り先は良くわからない。


「親父、加茂井さんにこれ送りたいんだけど、どうしたらいい?」

「受け取りに来てくれるってさ」

「わざわざ来てくれるんだ」

「連絡くれるって言うから、まあ待ってれば良い」

「じゃ、そうする」


 加茂井さんが来てくれるなら、それに越したことは無いか。

 連絡もくれるというのなら、待つことにしよう。


 それじゃ、加茂井さんからの連絡を待つ間、ちょっくら積み残した情報収集と行こうか。

 ヤナさん達から、いくつか聞いておきたい事がある。



 ◇



「しおがふそくしていたりゆうですか?」

「そうです。なにやら塩不足になっていたと聞きました」


 平原の人たちから、だんだんと塩が足りなくなってきていたと言う話を聞いた。

 それは一体なぜなのか、ヤナさんなら理由が分かるのではないかと。


「とおくまでかりやらさいしゅうやらででかけるのが、ふえたせいですね」

「遠くまで出かけることが増えたから、より塩が必要になったということですか?」

「そうです。たくさんあるくと、なんだかしょっぱいものがたべたくなりまして」


 ……なるほど、という感じかな。やっぱり、という事でもある。

 沢山歩けば当然汗もかくし、塩分も失う。

 より沢山の塩分が必要になるのも当然の話だ。

 遠くまで出かけることが増えた理由は、恐らく実りが減ったから、だと思う。

 近くの食糧が減ったから、単純に遠くまで行かなきゃならなくなった、とか。

 これは、森に変化があったかどうかを聞く必要がある。

 ということで、森の変化について聞いてみよう。


「もしかして、段々と実りが悪くなったり動物がいなくなったりしていませんでした?」

「そのへんはなんとも……ただ、むらをいどうさせるかんかくは、みじかくなってました」


 村を移動させる間隔は短くなっていたのはわかるけど、食料が減ってきていたという実感が無い?

 なんでだろ。


「私の予想では、食料が減っていたからかなと思うのですが、ヤナさんはそのあたり実感はありませんでした?」

「ええまあ。わたしはむこいりできたもので、あのもりですごしたじかんがみじかいもので……」


 ヤナさんは婿養子だったのか。じゃあ、ずっと見てきたわけでも無いから実感はあまりないかも知れない。

 その辺りは、ひいおばあちゃんならわかるかも。


「ひいおばあちゃんなら、なにか知ってますかね?」

「ふがふが、ふが~」

「むかしにくらべたら、きのみへりすぎ、どうぶついなさすぎ、っていってるです~」


 なるほど。やっぱりそういう変化はあったみたいだな。

 この調子で、別の森にいたヤナさんからみたあの森の違和感と、ずっと過ごしていたひいおばあちゃんの経験等をまとめていこう。



 ◇



 一時間ほど話を聞いたけど、やっぱりというか推測を裏付ける状況が沢山でてきた。


 森の実りが減り、動物が減った。それはじわじわと起きていて、大きかった集落は小さくなり、沢山あった集落は限界集落が出始め、それらの限界集落は合併を始めた。

 そうして最終的に、俺とハナちゃんが向かったあの集落だけになってしまっていたそうだ。

 集落を出た人たちがどこに向かったかというと、あっちの森だそうだ。

 この辺りは、平原の人たちからも同じような話を聞いた。

 やっぱり、森はだんだんと衰退していたように思える。


 ヤナさんによると、あっちの森はいくつもの集落があって、人も沢山住んでいるとのこと。

 ハナちゃん達が住んでいた森と比較したら、森の大きさは三倍、人口は十倍くらいの規模で、大都会だそうな。

 そんな大都会に大勢移住していたので、あっちの森には親戚だらけになった。

 というより、大勢移住したから大都会になってしまったというか。

 それでも、結婚してあっちの森に移り住み、たまに孫の顔を見せに戻ってきたり等、移動も交流も良くあったそうだ。

 そのおかげで、森が灰色になってしまった時でもすんなり移住ができた、とのこと。


「……なるほど。森はやっぱり、じょじょに衰退していたようですね」

「はなしをまとめると、そうみたいですね」

「ふが」

「タイシのかんがえてたとおりです~」


 数十年単位で起きていた、微妙な変化のようだ。

 ただ、ちりも積もれば山となる。原因があって結果がある。

 じわじわと進んだ衰退は、あの森に住むエルフ達に緩やかな変化と適応の猶予を与えたわけだ。


「しかし、あっちの森への移動は大変みたいですね」

「ええ。フクロオオカミがいなければ、かなりたいへんですね」

「ばう?」


 噂をすればなんとやら、フクロオオカミがやってきた。

 ……おおう、俺にすりすりと甘えてきたぞ?

 体は大きいけど温和で、人なつこい動物だな。


「タイシさん、すっかりなつかれちゃいましたね」

「ばう~」


 平原のお父さんがやってきて、俺にすりすりするフクロオオカミをにこにこと見ている。

 食べ物を沢山あげたから、なついたのかな?

 まあ、ちょうどいい。フクロオオカミがなぜ旅に必要なのか、聞いてみよう。


「フクロオオカミって、旅をするのには必要なんですか?」

「もちろん。フクロにたくさんにもつやしょくりょうをいれられるんです」


 フクロに荷物や食料を入れられるか。

 具体的にどれくらいなんだろうか。


「どれくらい入るのですか?」

「いっとうで……ひとりのにんげんが、ろくじゅうにちくらいはたびができるくらいはいけますね」


 ……フクロオオカミ一頭で、一人六十日分もの物資を運べる、か。

 そりゃあすごい。


「ほら、このとおりいろいろいれられるんです」

「ばばう~」


 平原のお父さんが、ひょいひょいとフクロオオカミの袋から旅道具を取り出して見せてくれる。

 天幕だったり、壺だったり革袋だったり。

 ……うん、トラック一台分くらいは持てそうだ。

 この袋、相当容量がある……。原理はまったくわからないけど……。


「ただ、おもいものをいれすぎると、さすがにあるくのがたいへんみたいです」

「ばう……」


 重量は無効化されないんだな。重い物はそんなに詰め込めない感じだ。

 重量制限はあるみたいだな。


「ほんとうは、にぐるまとかをつかいたいのですが、なんせつくるのがたいへんで」

「大変なのですか?」

「ええ。それをつくってもらっているあいだは、たべものをずっとこちらがよういしないといけないもので……。こじんでは、つくってもらうのはむりですね」


 荷車を作るのは、個人では無理なのか。

 でも存在自体はあるわけだ。もしかして、荷車って共同体の持ち物なのかな?


「荷車って、村とか集落単位での物だったりします?」

「そうです。みんなできょうりょくして、なんとかかんとかつくります」


 集落全体で協力して、やっとこ作れるくらいなんだ。


「あのむらでは、ひとがすくなくてつくるのはむりでしたね」

「おれのじまんのもっこうざいくでも、ひとりじゃむりだな」

「つくるのにいっしゅうくらい、かかるのよ~」


 作るのに一周(いちねん)もかかるなら、森が枯れ始めた時に作り始めるのは、無理だったろうな。

 ……まあ、エルフ達の輸送事情は何となく分かった。

 荷車を作るのが大変なので、フクロオオカミの大容量謎袋で、積載をなんとかしてたんだ。


「……それで、タイシさんのつかっていたリアカー? ですか。あんなのをもってるとかすごいですね」


 平原のお父さんが、リアカーを指さしている。

 そうだな。木製の荷車を作るのも大変というなら、リアカーはそれこそ相当な装備に見えるだろう。

 ……こっちじゃそこらで買えてしまうわけだけど。


「このリアカーって、このむらのもちものなんですか?」

「いえ。私個人の物ですが」

「ええええ!?」

「こじんで、にぐるまとかもてちゃうの~?」

「やばすぎるわ……」


 平原の方々がぷるぷるとし始める。まあ、さっき聞いた話だと荷車は共同体でなんとかこさえる物だ。

 それを個人が持っているとかは、驚きなんだろうな。


「このリアカー位なら、幾らでも用意できますよ?」

「あわわわわ……」

「わわわ……」

「そんなまさか」


 そのまさかです。お金さえあれば、幾らでも用意できます。

 と言うと失神しそうなので、黙っておく。


「こんなべんりなのものがあれば、もりからもりへのいどうは、らくになりますね」


 ヤナさんがリアカーをしげしげと見ながら言った。

 森から森への移動が、楽になる?


「楽になるのですか?」

「ええまあ。これににもつをつんで、フクロオオカミにひっぱってもらえば、フクロオオカミだってらくちんですよ」

「ばう」


 ……リアカー、もしくはそれに近い物を用意してフクロオオカミに引っ張ってもらう。

 そうすると、フクロオオカミも楽になる、か。


「フクロオオカミが楽ちんになるのですか?」

「もちろん。ひっぱるほうが、らくですからね」

「じっさいに、もりのなかにあるべつのしゅうらくにいくときは、そうすることもあります」


 森の中にある別の集落に行くときは、フクロオオカミに荷車を引っ張って貰うこともあるのか。


「それって、森の中限定なんですか?」

「ええ。あんまりながいきょりをいどうすると、こわれちゃいますから」

「ながたびには、ちょっとつかうのがもったいないの~」

「こわれたら、おいていくしかないもので……」


 そういうことか。せっかく必死になって作った荷車だけど、そんなに耐久力があるわけじゃ無い。

 さらに、長旅で使って途中で壊れたら……放棄するしかない。

 森の中なら、他の集落に助けを求めたり、修理できたりするかもしれない。

 でも、長旅の途中にそれが起きたら、もうアウトだ。

 どうにもならないから、諦めるしか無い。せっかく必死になって作った、共同体の財産なのに……。


「このリアカーは、そうとうがんじょうですよね?」

「まあ、相当長持ちしますね」

「これなら、ながたびにつかえるかもしれないです」


 なるほど。このリアカーなら、可能かも知れないな。

 さらにいうなら、もう一つ利点がある。


「ちなみにこのリアカーですが、折りたためます」

「え?」


 がしゃこがしゃこと、リアカーを折りたたんでみせる。

 折りたたむと結構コンパクトになる。

 これなら……。


「例え壊れてしまっても、こうして折りたたんで持ち帰ることができますよ?」

「ええええええ!?」


 平原のお父さんは思いっきりビックリしている。

 他のエルフ達は、村に運んできたときに折りたたまれた状態なのを見ているから、平原のお父さんほどビックリはしていない。


「さらに言うなら、折りたたんだ物を一台、予備としてフクロオオカミの袋に入れておけば……」

「ばう?」


 フクロオオカミの袋に、折りたたんだリアカーをひょいっと入れてみる。

 ……うん、すんなり入った。とんでも大容量だ。


「もしリアカーが壊れても、この予備を引っ張り出せば問題解決です」

「あわわわわわ……」

「壊れた奴は、ここで修理できますよ? 諦めて放棄しなくても済むんです」

「……ほんとに?」

「ええ。可能ですよ」


 最低限、二台この折りたたみ式リアカーを保有していれば、故障しても予備がある。

 そして、故障した物も折りたたんでしまえば回収できる。

 さらに、その回収した物は、こちらに持ってきてくれれば修理ができる。

 大変高価な荷車でも、壊れたら諦める、と言うことがなくせるわけだ。


「これは……もし、うまくつかうことができれば……」

「まあ、その辺りはゆっくり考えて下さい。時間はありますから」

「……ええ。そうします……」


 なんだかこのリアカーが、思いの外役立ちそうだ。

 ……俺もなにか、運用法を考えておこうかな。

 このリアカーを渡して、はいおしまい。そんな程度では、恐らくダメだ。

 彼らがリアカーを上手く運用するには、そのライフサイクルを考えないと根付かない。


 なんたって……あっちの世界では、作れない物なのだから。

 あっちの世界で作れない、整備も出来ない物をただ渡しても、壊れたらそれで終わりだ。

 こっちに持ってくれば修理が出来るとは言え、じゃあどうやって持ってくるのという問題もある。

 そこら辺の全体のライフサイクルを見据えた運用は、恐らく俺が考える必要がある。


 願わくば、あっちの世界でより多くの幸福を生み出せるような、そんな運用方法を。


「こいつの上手い使い方、一緒に考えましょう」

「ええ……わたしたちも、いろいろかんがえてみます……」

「かんがえるわ~」

「わくわくしちゃう」

「ばう~!」


 うん。リアカーの運用は、おいおい考えよう。

 木製の荷車ではなく、アルミ製の折りたたみ式リアカーだ。

 これが、あっちの世界でどう役立つか、役立てられるか。

 なかなか夢のある課題じゃないか。

 こっちじゃたいした物じゃなくても、あっちじゃオーパーツになりうる。

 その辺、慎重に考えなくちゃな……。



 ◇



 リアカーの運用について、皆と楽しく語り合っているとき。

 ふと、スマホが振動した。着信だ。

 一体誰だろうか?


「……」


 スマホの着信画面を見てみると「加茂井」と表示されていた。


 ――怖!


 加茂井さんのデータ、俺のスマホに登録してないのに!

 なんで「加茂井」って表示されてんの!?

 いつの間に登録されたの!?

 怖すぎる!?


「大志、どうした?」


 青ざめる俺を心配したのか、親父が肩をゆさゆさしてくる。


「……いやさ、加茂井さんから電話がかかってきたみたいなんだ……」

「ああ、加茂井さんか。そういうもんだと思っておけ」


 思っておけって……。これ正直、相当怖いよ。

 ……しかし、スマホはぶるぶる震えて、俺が出るのを促している。

 怖いけど、これ出るしか無いよな……。


 ちょっとだけためらった後、電話に出てみる。


『ワタシ加茂井。今、アナタノ後ロニイルノ』


 ――――怖い~。怖いよ~……。


 いきなり後ろ。

 俺の知ってる都市伝説では、もうちょっと猶予をくれるはずなのに、いきなり後ろ!

 最初からクライマックス!


「……」


 おそるおそる後ろを振り返ったそこには……。


「あえ?」


 ――ハナちゃんが居た。

 かわいらしく、こちらを見上げている。


 あれ? 後ろにいるって言ったの、嘘なの?


『後ろに居るというのは嘘で、今そっちに向かってます』


 電話からそんな声が聞こえてくる。

 ……その嘘をつく必要性、あったのだろうか……。

 というか、今こっちに向かっている?


「加茂井さん? ですか。村に来られると言うことですか?」

『そうですよ。もうすぐ着きます』


 もうすぐ着くって……。


「やけに急ですね」

『それにはちょっと、事情がありまして……まあ、あとで話します』


 事情があるのか。何の事情かは分からないけど、話してはくれるようだ。

 それなら、そのときに聞けばいいや。


 そうしてしばらく待っていると――。


「タイシ、だれかくるです」


 ハナちゃんが俺の後ろを指さして、言った。

 さっきの通話からすると、加茂井さんなんだろうな。


 ハナちゃんの指さした先は、村の入り口だ。

 さて、俺の知っている加茂井さんは、お婆ちゃんだった。

 たまに家に来ては、大量のお茶菓子を平らげていく謎のお婆ちゃんだった。

 おせんべいが特に好きなので、家には大量のおせんべいが常備してある。


 まあ、それはそれとして。

 さっきの電話から聞こえてきた声は――お婆ちゃんじゃなかった。


 さて、一体どんな人がやってくるのか。

 

 ……まあ、茶目っ気のある人だとは思うけど……。


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