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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第七章  エルフ交通
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第八話 こっちの森仮説


 原因はまだわからないけど、何らかの理由があって塩不足になったようだ。

 人口増加かなとは思うけど、聞いてみないことにはわからない。 

 まあ、ちょっと昔なら間に合ってたとも言ってるから、計画的には運んできてくれていたんだろう。


 ――そうだ、年間でどれくらいの量になるか、わかるかな?

 それが分かれば、この森に暮らして居たエルフ達の、大まかな人口が推測できる。

 聞いてみよう。


「全員合わせて、どれくらいの塩を運んでいたかって、わかります?」

「まあそうだんしあっているので……このしおなんですが、だいたい……」

「もてるだけ~」

「ほかにくるひとたちもあわせて、よんじゅうくらいですね」


 お父さんが塩を取りだして見せてくれた。

 にょきっと取り出されたそれは、ピンク色をした岩塩だ。

 ……一つあたり十キロ程度かな?

 それが四十個という話だから、約四百キロ分の塩だ……。


一周(いちねん)につき、何回来られます?」

「いっかいですかね。なんにんかが、じきをずらしてくるようにしてます」


 約四百日分で、四百キロか……。

 一日に必要な塩分量を五グラムと仮定して計算すると……。


 ……二百人だ。たったそれだけしか賄えない。

 あれ? 少なすぎやしないか?


 実際はしょっぱい葉っぱをかじっていたとか、もっと塩分量を減らしているだろうから、もうちょっとは賄えるだろうけど……。

 それでも、三百人から四百人くらいが限界なんじゃないか?


 ……変だな。そうすると、今俺たちが居る集落分の塩しか運んできてない感じがするんだけど。

 他の集落とかは、どうしてたんだろうか。


「ねえハナちゃん……この森の他の集落って、塩とかどうしてるの?」

「あえ? このむらいがいには、ひとはいないですよ?」


 ……この森で、この集落だけしか人がいない?

 他に集落ってないの?


「ここにしか人は住んでないの?」

「あい。ここだけです~」


 ハナちゃんが言うにはそうらしい。

 ハナちゃんが把握していない集落があったとか、無いかな?

 そのあたりは平原の人達が知ってるかも。


「お三方、ここ以外に集落は無いのですか?」

「そうですよ? このむらにいたひとたちだけですね」

「ほかにはいないわ~」

「ここだけですね」


 ここ以外に、集落は無い。人が住んでいたのは――ここだけ。


 ――おかしい。人口が少なすぎる。

 この温暖な気候の巨大な森で、たった三百人から四百人しか住んでないなんて、ありえるのか?

 ……平原の人たちがどの方角からきて、どれくらいかかったかが分かれば、もうちょっと森の大きさに見当がつけられるかもしれない。


「お三方がこの村まで来るのに、どれくらいかかりました?」

「いちにちですかね。もりにはいってここまでで、それくらいです」

「はいったときに、おかしいのはわかってたの~」

「でも、ここにくるいがいにほうほうがなかったんです……」


 森に入った時点で、おかしいことはわかっていた。

 でも、ここに来るしか無かったと。食料が無かったからだな。

 それでも、一縷の望みをかけて来たんだ。

 そして、それは一日くらいかかっている、と……。


「どっちの方角から来ました?」

「あっちですね」


 お父さんが指さした方角は、洞窟から見たらだいたい反対側になるな。

 俺たちとは、逆方面から来たって考えていいだろう。

 とすると……この森の直径は、これで最低五十キロ程度はあると仮定できる。


 ……日本の縄文時代だと、一平方キロメートル辺り三人とかいう人口密度だったから、それから考えてみると変ではないけど……。

 むしろ多いとは言える。縄文時代基準では、超過密都市だ。


 ただ、村に出来たエルフの森を見ても、食料は豊富だった。

 植生が地球のそれとは全く異なるので、日本の縄文時代の人口密度よりは多く住める気がする。

 それにここは冬が無く、温暖な気候で常に植物は成長している。

 さらにはエルフ達の文化水準と技術水準は高いので、人口密度はもっと高くなるんじゃないかな……。


 なのになぜか人口は少ない。ここにしか住んでいない。

 とすれば……少子化が起きていた?


 ……いや、村に居る子供達の割合を見ても、少子化していたとは思えない。

 きちんと年齢分布のバランスがとれた、普通の集落だった筈だ。


 そして、あれほどの規模の果樹園を作っている。

 あの規模の果樹園を移動するたびに、こまめに作っていたのに――この人口密度……?


 なんだろ……おかしいな。

 この森と比較して、他の森はどれくらいの人口か分かるかな?

 おんなじくらいなら、まあこの世界の標準なんだろうと思えるけど……。


「……あっちの森? ですか。そこはどれくらいの人が住んでいるのですか?」

「せいかくにはわからないですけど……ここよりは、かなりおおかったきがします」

「このもりより、ずっとずっとおおかったかな~」

「よんばいくらいは、すんでたかしら」


 この森の人口より、感覚だけど四倍差くらいぽいな。

 じゃあ森の規模とかも聞いてみよう。

 森の規模がここより大きいなら、まあこの人口差は当然という話で終わる。


「あっちの森って、この森と比べて大きかったりします?」

「こっちよりはおおきいですけど、なんばいもってほどではないですね」

「こっちのもり、おおきさのわりにひとがすくないかな~」

「けっこんして、あっちのもりにいっちゃうのよね」

 

 あっちの森はこっちの森より大きいけど、何倍もってほどじゃない、と。

 人口は四倍くらい差があるのに?


 聞いた話だけだけど、纏めると……。


 ――この森は、人口が妙に少ない、ということになる。


 ……なんでこの森は、こんなに人口が少ないんだ……?

 結婚してあっちの森に行っちゃうそうだけど、一方的に人口流出してるってのは変だな。

 村に来たエルフ達の男女比だって、偏りは無かったし……。


 ――何かがおかしい。

 この森では、人口が増えない何かの理由があるのでは?


 たとえば、水が少ないとか……。

 でも、水が減ったのは森が枯れ始めてからだったよな。

 というか、水不足だったらこんなに森は大きくならないよね。

 ヤナさんから聞いた話でも、水不足だったとは特に聞いてないし。


 じゃあ、ほかに理由があるとすると……。


 ……食糧不足?

 ハナちゃんなら、何か知っているかな?

 

「ハナちゃん、この森って……食べ物あんまり採れないとかある?」

「う~んと……ハナたちがたべるぶんには、もんだいなかったです」

「そうなんだ。ほかのもりとくらべてってのは、わかる?」

「あや~……ほかのもりのことは、ちょっとわかんないです~」

「わかった。ありがとね」

「あい~」


 他の森の事はわからないながらも、ハナちゃん的には食料は問題なかったようだ。

 じゃあ外の人から見たら?


「お三方は、何かわかります?」

「このもりのたべものは、しおとこうかんでてにいれてましたので、ちょっとわからないですね……」

「なれてないもりだから、かりとかさいしゅうとかはなるべくしないの~」

「あぶないものね」


 食料とかは交換で手に入れていたから、わからないと。

 まあそうか。たまに来る程度の森だから、狩猟採集とかをしようにも良くわからないし、危ないこともある。

 わざわざ危険を冒さずとも、塩と交換で食料が手に入るんだから、無理することも無い。

 

 う~ん……手詰まりだな。

 これ以上情報はないか……。


 あとは……村に来ているエルフ達と話した時に、何か言っていたかな……。

 思い出してみるか。


 エルフ達から聞いた話では、確か――。


”いっかしょにいつづけると、たべものなくなるのよね~”


 こういう理由が、あったから――。


種芸(しゅげい)してから移動してたんですね”

”ええ。でないとたべものがなくなっちゃいますから”


 ――こういうことを、やっていた。

 食料を安定供給するために、果樹園を作っていたわけだ。

 ついこのあいだ聞いたばかりで、さらに今日この目で見てきた。


 あ! これと同じことを他の森でやっていたのか聞いてみよう。


「この森では、木の実を植えてから村を移動してると聞きましたが」

「そうです~」

「ええ。なんしゅうかにいちど、そうやっていどうしてますね」

「どこのもりでも、やってるわ~」

「たまにいどうさきがわからないとき、あるのよね」


 他の森も同様か……。

 う~ん……ヤナさん達に、もうちょっと突っ込んで聞いておけば良かったな。

 今ある手持ちの情報じゃ、これ以上は……。


 「あ、そうそう」


 平原のお父さんが、何かを思い出したかのように、手を「ぽむ」と叩いた。

 何だろう?


「このもりのひとたちですが、むらをいどうするかいすうが、なんだかふえてきてますね」


 村を移動する回数が――増えている?


「回数が増えているとは、一つの場所にとどまる時間が短くなっているということですか?」

「そうです。なんだか、さんしゅうにいちどだったのが、だんだんみじかくなって……いまではいっしゅうにいちどくらいに……」


 三周(さんねん)に一度だったのがだんだん短くなって、一周(いちねん)に一度になっている……。


 ……これは、じょじょに食料が取れなくなっていたのでは、ないだろうか……。

 食料がだんだん減ってきているから、一つの所にとどまれる期間が短くなっていたのでは。


 ……そういえば。

 ヤナさん達が来た初日に、農業について話したことがあった。

 その時も木の実を植えていたって話を聞いて、果樹をやっていたなら農業もできるかなって安心していたとき……。

 だれかが……。


”おれがうえたきのみ、ぜんぜんはえてこなかったいやなおもいでが……”


 ――だれかが、こんなことを言っていた。


 ……。


 何かが「パキッ」と割れる音がした。音の正体は、キャンプファイアーだ。

 キャンプファイアーに目をやると、灰色の枝が赤々とした炎を纏って、燃えていた。

 その灰色の枝が、ときたま「パキッ」と割れるんだ。


 この灰色の枝は……枯れてしまった森の、なれの果て。

 いきなり森が枯れてしまってこうなった、木々の枝だ。


 ――いや、違うんじゃないか?


 ……いきなり枯れたのでは、ないのでは?

 この森はもしかして……時間をかけてじわじわと、ずっとずっと前から――。


 ――衰退を、していたのでは?


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