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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第七章  エルフ交通
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第七話 何かがおかしい


 夕食の調理をしている最中、平原の人のお父さんがナイフを見て――「鉄」と言った。

 エルフ達は土器や石器の文明だと思っていただけに、衝撃を受けた。


 ――これは、詳しく聞かなければならない。


「……今、『鉄』と聞こえましたが」

「ええ。てつなんですかねこれ。それっぽいかんじが」


 ……エルフ達――鉄を知ってるの?

 土器やら石包丁やら聞いてたから、てっきり石器時代かと思ってたのに……。


 ――詳しく聞いてみよう。


「これはまあ、いちおう鉄ですね。もしかしてこちらでも――鉄って作られてます?」

「いや、おおむかしにつくるのをやめたみたいです」


 大昔に作るのを――止めた?

 一体なんで?


「え? 作るのを止めたんですか? それはまたなんで……」

「いいつたえでは、きをきりすぎて、もりがなくなりかけたそうでして……」


 製鉄で燃料の為に伐採した結果、森が無くなりかけた、と。

 それで製鉄を止めたってことなのか。


「……たしかに、製鉄は木を燃料にしてたらそうなりますね」

「そうなんですか?」


 え? そうなんですかって……。鉄を作ってたんじゃないの?


「鉄を作るには大量の燃料がいりますよ? なので大量の木を切って燃料にする必要があると思うのですが……」

「なるほど、そういうわけですか。なんできをきりすぎたのか、やっとこいみがわかりましたよ」

「そうなんだ~」

「あのいいつたえって、ほんとだったのね」


 謎が明らかになってすっきり! みたいな顔をするお三方だ。

 この反応を見るに……。


 ――製鉄はもう、失伝してるぽいな。


 それと、森が無くなりかけた後はどうしたんだろう。

 植林とかしたのかな?


「森が無くなりかけて、どうなったのですか?」

「まあ、それがげんいんで、もりにすめなくなったとかなんとか。なので……こうして、へいげんをたびするようになったのがはじまりだそうです」


 森で住めなくなったので、旅をするようになったのか……。

 それはそれで、大変だったろうな……。

 だから、あっちこっち移動しているんだ。


「平原の部族とは、そういう方々なのですか?」

「そうですね。もりがかいふくするまで、へいげんでたびをはじめたのがきっかけとはいいつたえにあります」


 切っ掛け? じゃあ今はどうなんだろう。

 相当昔の話だろうから、森は復活したのかな?


「今は、森は回復しているのですか?」

「ええまあ。そこそこかいふくして、いまはもりでくらしてるひとも、それなりにいますよ」


 それなら、旅をする生活はしなくても良いわけだ。

 でも、彼らはいまだに旅を続けている。なんでだろ?


「旅する必要は、もう特にはないわけですか?」

「まあそうです。でも、たびをするのはたのしくてですね……」

「それで、今でも旅をしているってわけですか」

「そうなんです。いろいろなものがみられて、たのしいんですよこれが」

「たのしいの~」

「めずらしいものをみたら、わくわくしちゃうわ」

「ばうばう~!」


 いろいろな思い出があるのか、平原の人たちは楽しそうな顔をした。

 フクロオオカミも同意なのか、ばうばうと楽しそうに吠えている。


 ……なるほどね。森は回復したけど、旅をする楽しさを忘れられなかったって事か。

 それで、今でも旅を続けている、と。

 厳しい過去があったとはいえ、それを糧に新しい生き方を手に入れたんだな。

 ……凄いじゃないか。そうそう真似出来るようなことじゃ無い。


「それは皆さん、凄いですね」

「そうなんですかね」

「もう、たびがやめられないってだけかな~」

「としをとれば、もりにかえりますけどね」


 生粋の旅好き部族になっちゃったんだな。さすがに老齢では無理なようだけど。

 そして、彼らのような存在が居たから、森に住むエルフ達も、遠方のものを得られるようになったんだ。

 世の中、なにがどう転がるかわからないもんだ……。


 ――と、それはそれで良い話で興味も尽きないけど、製鉄のことも聞かないとな。

 いつぐらいに製鉄を止めたのかとか、わかるかな?


「製鉄を止めたのって、どれくらい昔なのですか?」

「う~ん……もうずっとむかしだそうで、いいつたえでしかのこってないのでなんとも……」

「なんできをきりすぎたのかとか、わからないくらいだもの~」

「めっちゃむかしよね」


 ……残念、どれくらいの時期かはわからないか。

 それほど昔の事なんだな。

 製法の失伝のみならず、止めた理由も忘れられているくらい古い話ってことか。


「てつでつくったものは、わずかにのこってはいますが……おおむかしのはなしですね」

「今でも製鉄って、したいと思います?」

「きをきりすぎてしまうなら、やりたくはないですね」

「たぶん、ぶぞくのみんなもそういうかな~」

「もりはだいじですよ。もりがないとみずがなくなりますから」


 うん、もう製鉄をする気はゼロのようだ。

 製鉄という核心技術を捨てる決断をするほど、この世界では森は大切なんだな。

 石器を使っているのは、技術が未発達なのが理由じゃない。


 ――鉄器では、得られるものが少ないどころか、失ってしまうからなんだ……。


「なるほど。とても興味深い話でした……」

「いやいや、たのしんでいただけたのなら、こちらもはなしたかいがあります」

「おじいちゃんのながばなし、やくだった~」

「なんかいもきいたので、おぼえちゃいました」


 お年寄りが、この教訓というか教えを言い伝えているんだな。

 まあ、鉄器についてはわかった。

 ダークエルフ達が、旅するようになった理由もわかった。


 異世界でちょっとだけど旅をして、ここならではの歴史を異世界人から聞いている。

 しかもエルフから。

 

 あ~。凄い浪漫あるな。

 浸れるな~これ。俺は今、異世界を満喫してるな~。


「タイシ、タイシ」


 ……あれ? ハナちゃんが服の裾をクイクイと引っ張っている。

 なんだろ?


「あれ? ハナちゃんどうしたの?」

「タイシ、カレーはまだです?」


 ――あ! 忘れてた!



 ◇



 幸い話が終わった辺りで、ちょうど湯煎もアルファ化米もできたところだった。

 野菜炒めをちょっと温め直して、頂きますをした。


「これ、おいしいですね!」

「あじがこくてたまんない~」

「このもりででてくる、あのどきにこみみたいでいいですね」

「ハナもカレーは、だいすきです~!」


 カレーをバクバクと食べる皆は、やっぱりなじみの味なのか大好評だった。

 ごはんもバクバク食べている。

 キャベツとソーセージ炒めや、卵スープもあるから堪能してほしい。


「こっちも美味しいですよ。これなんかは卵入りの汁物です」

「たまご! しるものにいれちゃうのですか!」

「ぜいたく~!」

「このキャベツ? とおにくをいためたものも、おいしいですね!」


 副菜もおすすめしてみたけど、こっちも好評でよかった。


「タイシ、このおにくおいしいです~」


 ハナちゃんも、ソーセージをパリっとかじって顔がとろ~んとなっている。

 そういや、ソーセージを食べるのはこれが初めてか。

 気に入ってもらえて良かった。


「けさはしょくりょうがなくてこまってたのに、うそみたいです」

「こんなごちそうがたべられるなんて、きてよかった~」

「よのなか、なにがあるかわからないものね」

「ばう~!」


 出会った時点では食料がなくてはらぺこだった平原の人だけど、今はおなかいっぱい食べられて大喜びしている。

 フクロオオカミも、沢山のキャベツを美味しそうにバリバリ食べている。

 一番はらぺこで困ってたのはフクロオオカミだから、実感もひとしおだろうな。


 ほんと、世の中なにがあるかわからないものだな。

 俺だって、こんな出会いがあるなんて思ってもみなかった。

 異世界に来てみて、良かったな。


「タイシタイシ、にぎやかです~」

「そうだね。賑やかで楽しいね」

「あい~! たのしいです~!」


 ハナちゃんも人が増えて賑やかになったのが嬉しいのか、にこにこしている。

 美味しい食事をおなかいっぱい食べて、大勢でわいわいやる。

 うん、面白い旅が、もっと面白くなったな。

 神様も粋な計らいをするもんだ。

 村に帰ったら、また何かお供えして、感謝の言葉を伝えよう。

 まあ、それは向こうに帰ってからの話だな。

 今はこっちに集中するか。


 食事のあとには、お楽しみもあるし。

 ハナちゃんお待ちかねの、食後のデザートだからね。



 ◇



 一通り食事が終わったので、食後のデザートを振る舞うことにする。

 スーパーで買ってきたお菓子なんだけど、割と分量がある。

 こういうお菓子は食べたことが無いだろうから、どんな反応があるかな?


「それでは皆さん、食後に甘いものでもどうですか?」

「あまいもの! おかしです!?」

「あまいもの、たべられるのですか?」

「わわわ! よそうがいのできごと!」

「そんなことって、あるのかしら!」

「ばう!」


 甘いものといった途端に、ものすごい食いつきが。

 ハナちゃんはなんだか構えていて、いつでも取り出せる状態だけど……。

 今回はハナちゃん調達の駄菓子ではなく、俺調達のお菓子の出番だ。


「実はお菓子も用意してありまして、これなんですけど」


 ココナッツが練り込まれたサブレのやつとか、スポンジケーキの中にカスタードが入っているやつとか。

 他にもいくつかあるけど、今日はひとまずこの二つだ。


「みたこともないおかしです~!」

「これはめずらしい!」

「これがあまいおかし~?」

「よだれでてるわよ」

「ば~う」


 お菓子をみた皆はもう、かぶりつきだ。とりあえず配っちゃおうか。


「こっちの固いやつがほのかな甘さで、こっちのふわふわしてるのがすっごい甘いお菓子です」

「あやややや……おいしそうです~」

「いただいちゃって、よろしいのですか?」

「もちろん。お口に合えば良いのですが。ささ、どうぞお食べ下さい」

「ありがと~」

「おいしそう」


 皆それぞれにお菓子を食べ始めたけど、反応はどうかな。


「タイシ~! おいしいです~!」

「……やばい、これはやばい……」

「……!」

「いきててよかった……」


 お菓子を食べ慣れているハナちゃんは、大喜びでちまちま食べているけど……。

 食べ慣れていない平原の人たちは衝撃を受けたのか、言葉少なげにちびちびと食べている。

 ……あれ? 刺激が強すぎた?


「……大丈夫ですか? お三方」

「ええ……ちょっとびっくりしたもので……」

「きょういちばんの、おどろき~」

「こんなすごいの、たべたことないわ……」


 うん、刺激が強すぎたな……。

 ……まあいいよね、喜んでくれているし。


「ばう……」


 ん? フクロオオカミがなにか物欲しそうな顔を……。

 ――まさか、甘いもの食べたいの!?

 草食なのに……て、そういや草食の馬も、甘いもの大好きな動物だったな……。

 馬は甘いものが大好きだから、糖度の高いニンジンや、さらには角砂糖とかを大喜びで食べるんだった。

 このフクロオオカミも、そんな感じなのかな?

 まあ、試しに食べて貰おうか。


「食べます?」

「ばう!」


 お菓子を差し出すと、嬉しそうにかじり始めた。

 ああ……俺の手もべろんべろん舐めている……。


「ばう~」


 おかわりのおねだりかな? 美味しかったようだ。

 じゃあもうちょっとあげよう。


「ほら、これもお食べ」

「ば~う」

「よかったね~」

「ばう~!」


 こうしてちょっと騒ぎになっちゃったけど、皆でおやつを楽しく食べた。

 あとはたき火でも炊いて、雑談しながらまったり過ごそうかな。

 寝る時間にはまだ早いし、もうちょっと親交を深めよう。


 でも、この灰色の木って、燃えるのかな?



 ◇



 灰色の木は、燃えませんでした……。

 いろいろ試してみたけど、なんともならない。

 これは、キャンプファイアーは諦めるかな。LEDランタンあるから良いんだけど。


「タイシ、ひおこしならハナにおまかせです!」


 ハナちゃんいつの間に隣に! 気配すら感じなかったぞ……。

 ……まあそれは何時ものことか。

 でも、この木に火を付けるのは、ハナちゃんでも無理じゃない?

 なんというか、コンクリートブロックに点火するようなものじゃないかと……。


「ではつけるです~」


 灰色の枝をマッチの棒みたいに、板に当てて擦るようだ。

 ハナちゃん得意の、マッチ風点火の応用技なのかな?

 いやでも、それで火が点くとは――。


「えい」


 ――――火が点いた。


「タイシタイシ、ひがついたです~」


 ……。


 ……………………なにが――起きたの?



 ◇



 パチパチ、ではなく、たまに「パキッ」という破砕音を出して燃えるキャンプファイアーができあがった。

 ハナちゃん大活躍で、しゅぼしゅぼと灰色の枝に火を点けていったんだ。

 正直凄い。そして何かがおかしい。

 

 ……。


 ……色々理解を超える現象はあったけど、火は点いた。

 様々な腑に落ちない点はあるけど、キャンプファイアーは用意できた。

 

 ……。

 …………うん、考えないことにしよう。


「ハナちゃんありがとね~。お礼になでちゃうよ~」

「うふ~」


 これでいい。

 ハナちゃんも役に立てたのが嬉しいのか、大喜びだからね。

 これでいいんだ。


 さて、それじゃあ細かいことは放り投げて、キャンプファイアーを囲んで語らいましょう!

 とりあえず平原の人たちが、どうしてこの村に来たか聞いてみよう。


「そういえばお三方は、今回どのような目的でこちらへ?」

「いつものとおり、しおをもってきたんですよ」

「たくさんもってきた~」

「まえにきたとき、しおがたりないってこまってたもので」


 塩を沢山持ってきてくれたんだ。いい人達だな。

 でも、塩が足りてなかったか……。


 ここいらでは塩は貴重品だから、計画的に消費していたはずだ。

 それでも困るほど足りなくなったと言うことは、何かあるように思える。

 ……ハナちゃんなら、なにか知ってるかな?


「ハナちゃん、塩が足りてなかったらしいけど」

「あい。なんだかたりてなかったです~」

「理由ってわかる?」

「あや~……よくわかんないです~」


 ハナちゃんでもわからないか……。

 まあ、塩を管理したりしていたのはハナちゃんじゃなかっただろうから、わからないのも無理は無いよね。

 これは帰ったら、ヤナさんに聞いてみよう。


 しかし、この森全てのエルフ達の塩を、この平原の部族が賄っていたとは考えにくい。

 話を聞くと、実際に足りてなかったみたいだし。

 他に塩の交易をしていた人とか、あとは他の集落はどうだったとか聞いてみようか。


「この村に塩を持ってくる人って、他にいらっしゃいます?」

「わたしたちと、あとなんにんかですね」

「担当とかあるんですか?」

「そういうのはないのですが、まあくるひとはおなじようなかおぶれです」

「かおなじみ~。そうだんしあってるの~」

「あんまりむけいかくにたびすると、しおとかあまっちゃいますから」


 なるほど。塩を交換したいのに、何人も来たら余っちゃうよね。

 それで交換してもらえなかったら、困ったことになるし。

 平原の彼らだって、長旅が徒労に終わるのを避けたいと思うのは、当然の話だ。

 だから、来る人や時期は、相談で決めてるっぽいな。


 ……あれ? でも足りてなかったんだよね?


「塩は足りてなかったんですよね?」

「ええまあ。ちょっとむかしならまにあっていたのですけど」

「なんだろ~」

「ここなんしゅうかは、だんだんとりょうがふえてきてますね」


 ……ここ何周(なんねん)かで、塩不足に?

 人口が増えたのかな?

 

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