表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第七章  エルフ交通
84/448

第五話 今後の方針どうしましょう


 食事の準備の前に、とりあえず自己紹介をしあった。

 三人家族だそうで、お父さんとお母さん、それと娘ちゃんだ。

 フクロオオカミも子供の頃から育てた家族だそうで、平原を旅するなら欠かせない動物らしい。

 地球で言う、馬みたいなものかな?

 平原の部族はオオカミに乗っているので、騎馬民族ならぬ、騎狼民族、みたいな?

 肝心のフクロオオカミがほのぼの動物なので、どこかのんびりした感がにじみ出ているけど……。


 ともかく、自己紹介も終わったので食事の準備を始めよう。

 とりあえず車座になって貰い、キャンプ道具を囲んだ状態になってもらおう。


 食事をごちそうするとは言っても、初めて会った人から謎の食べ物を渡されるわけだ。

 多少の警戒はあるだろう。

 なので、調理手順をはじめから見せることで、その警戒を緩めようと思ってのことだ。

 まあ、お湯を沸かして注ぐだけ、なんだけども……。



 ◇



「タイシ、ひをつけるです~」

「じゃあ、ここにおねがい」

「あい」


 しゅぼっとマッチの点火のように火が点いた。いつ見ても鮮やかだ。

 そして、やっぱり原理が全くわからない……。

 わからないけど、とりあえずガスに点火して火の準備は完了だ。


「ええ……」

「ちょっとまって。なんかおかしい」

「ありえないものをみちゃったわ……」


 平原の方々も唖然としている。

 やっぱり、ハナちゃんの火起こしはエルフ基準でも驚異的なのね……。


「それ、なんだかすごそうなどうぐですね」

「なんでもえてるの~?」

「このなべ? ってべんりそうですね」


 火起こしに一通り驚いていた皆さんは、次にキャンプ用道具に興味津々になったようだ。

 不思議そうな顔で、ガスバーナーとアルミ鍋を見ている。

 ここら辺の反応も、村に来たエルフ達と一緒だな。

 彼らも土器の文化なんだろうか?


 ともあれ、火の準備はできたのでお湯を沸かそうか。

 とりあえずペットボトルを取り出して、水を鍋に注いで……と。


「わわわ! みずがちゅうにういてる~」

「……いや、よくみると……とうめいな、なんかっぽいぞ?」

「それって、とうめいなどきなの?」


 水が入ったペットボトルを見て、驚いてらっしゃる。

 ……そういえば、あっちの村のエルフ達もガラス瓶で驚いてたな。

 こっちは石油化学製品だけど、まあ当然見たことはないだろうから、珍しいのも無理は無い。


「これは土器とは違うのですが、まあ液体を入れておく容器ですね。手に持って見て下さい」

「ほんとだ! おみずがはいってる~」

「おお……べんりですねこれ」

「これはいいわね。かわぶくろみたいに、においがうつったりはしなさそうだし」


 平原の方々は物珍しそうに、水が入ったペットボトルを手にとって見ている。

 ……そういや、彼らは水を持っているのかな?

 ここら辺の泉がどうなっているかわからないけど、水が減ったとはエルフ達の話で聞いている。

 もし水で困っているなら、こちらの水を分けてあげないといけない。

 とはいえ、こっちもそんなに余裕はないけど……。


「皆さん、水は大丈夫ですか?」

「ええ。みずはまあなんとか……あっちのいずみは、まだみずがありましたので」

「かわぶくろにいれてあるの~」


 なるほど。泉自体はまだあるんだな。水量がどうなっているかわからないけど。

 でも、水質はだいじょうぶなのかな?

 この灰色の森に沸く泉だから、ちょっと心配ではある。


「水質の方は問題ありませんでした? 正直、この森を見てしまうと……」

「だいじょうぶでしたよ。みずじたいにいじょうはなかったです」

「きのうからのんでるけど、とくになにもないかな~」

「なら良かった。水は心配しなくて良さそうですね」


 水質自体に問題はないんだな。それは朗報だ。

 ……あとでその泉の水も、サンプル採取しておこう。

 地下水なんだろうけど、含有している成分からも色々なことが分かるはずだ。


 と、そんな話をしているうちに、お湯が沸いたな。

 じゃあラーメンにお湯を注ごう。

 カップ麺を見せて、ちょっと説明しながらやろうか。


「これがさっき言いました、ラーメンという料理です。ここにこうやってお湯を注ぎます」


 カップの蓋をはがして、お湯を注いでみせる。

 これで三分待てば、もうできあがりだ。


「なるほど、ようきのなかにはいってるわけですか」

「わたしらのつぼりょうりと、にてますね」


 お湯を注いだカップ麺を配っていると、平原の人達がふむふむと頷いている。

 ……壺料理? なんだろそれ。


「壺料理? と似てるんですか?」

「ええ。しおとみずとほしにくと、きのみのこなをやいたものをつぼにいれて、ひにかけるんですよ」

「てまがかからないの~」

「めんどうなときは、おゆをそそぐだけにしたりします」

「なるほど。それなりに即席にできる料理なんですね」

「たびをするときは、だいたいこれですね」

「みずがすくないときは、そのままかじるの~」


 彼らにも即席料理はあるみたいだな。

 煮るだけじゃ無くて、お湯を注いで戻すだけでも食べられるのか。

 ……まあ当然か。旅をしている時に、のんびり土器を取り出して煮込み料理とか難しいよね。


 それに、水を節約したいときはそのまま食べられるみたいだし、旅のお供って奴なのかな?

 なかなか興味深い話だな。面白いじゃないか。

 異世界に来て、異世界の住人の文化や風習の話を聞くのは、雰囲気抜群だ。

 森は灰色だけど、空は青くて気分も良い。


 ちらほら見える、エルフ達の住居跡も異世界情緒が出ていて、またそそられる。

 例えカップ麺だろうと、この雰囲気の中で食べたら美味しいだろうな。


 ……そう思うと、よけいに腹が減ってきたな。

 そろそろ三分経つし、早速食べようじゃないか。


「もうそろそろ出来ますので、食べましょうか」

「ええ! もうできちゃうの!?」

「はやっ」

「これはいいわ~」


 三分でできあがったことに驚いている平原の人たちだけど、見知らぬ料理にわくわくしている感じがする。

 味の方も、村に来たエルフ達にはウケていたから、まあ大丈夫だと思う。

 見た目がダークエルフなだけで、根っこは同じだろうからね。


「じゃ、食べましょうか。こうやって食べます」

「いただきますです~」


 フォークを取り出してラーメンを食べてみせると、皆も同じように食べ始めた。

 さて、お味はどうかな?



 ◇



「ラーメンおいしかったです~」

「ふしぎなあじでしたが、あれはおいしいですね」

「またたべたい~」

「ごちそうになりました」


 ラーメンを食べ終えてほくほく顔の皆さんだ。

 ハナちゃんは食べ慣れているから良いとして、平原の人たちにもウケは良かった。

 さすが、地球でも世界中で食べられる味に調整されているだけあるな。

 最大公約数的な味付けだけど、だからこそこうして役立てられるわけだ。

 メーカーの人には、感謝だな。

 それはそれとして。


 おなかを満たして落ち着いた皆さんに、これからどうするかの話をしよう。

 まあ、村に招くつもりでいるけどね。直感だけど、この方々なら村に来れるだろう。

 だって、村に来たエルフ達と――雰囲気そっくりなんだもん……。

 なんというか、ぽやっとしている……。

 こっちの人たちは、こういう感じの人が多いのかな?


 ……まあ、それは良くわからないけど、村に来たらどうかって提案をしてみよう。


「おなかが膨れたところで、これからの話をしましょう」

「するです~!」


 ハナちゃんも何となく俺の考えを察しているのか、にこにこしている。

 最初に洞窟の開門を見たときに、「仲間が増えるかも」という話はしてあるからね。

 そういう方面で話をするだろう事は、まあ既定路線だ。


「これからのはなしというと?」

「皆さん、ここから別の森に行くのは難しいのでは? と思っていまして」

「そうですね……ほぼ、むりかと……」


 こちらの予想通り、お父さんから無理宣言が出た。

 彼らがなんとかなっていたなら、多分俺とハナちゃんはこっちに呼ばれてなかったろうからね。


「たべもの、もうないの~」

「よりみちするからいけないのよ」

「ば~う!」

「ごめんなさい……」


 ……なんだかお父さんが、ご家族からチクチク言われて居るみたいだけど……。

 寄り道したからこうなったのかな?

 まあ、そこは余りつつかないでおこう。お父さんしんなりしちゃってるし……。


「……それで提案なんですけど、皆さん――私の村に来ませんか?」

「タイシさんの、むら……ですか?」


 村、と聞いてもピンとは来ないよね。なんせ異世界にある村だし。

 この世界でその存在を知っている人なんて、存在しない。

 このあたりの説明は、この村に住んでいたかつてのエルフ達の話も交えて説明しよう。


「そうです。この村に住んでいた方々の一部は、今そこで暮らしているんですよ」

「いちぶ、ですか? ぜんいんじゃなく」

「そうそう! みんなどこにいっちゃったの~?」

「そうね。なにかごぞんじで?」


 この村の住人がどうなったかという話が出てきたので、ずずいと前のめりになる平原の人たちだ。

 そのあたりは、ハナちゃんから説明して貰った方が良いかも。


「ハナちゃん、皆に説明してあげてほしいな」

「あい~! せつめいするです~!」



 ◇



「みんな、あっちのもりにいっちゃったのですか……」

「そんでいちぶは、タイシさんのむらにいったのね~」

「ヤナさんがぞくちょうになってるとか、いろいろあったのね」


 ハナちゃんから話を聞いた平原の人たちは、納得したようだ。

 途中、儀式の説明のところでハナちゃんが踊ろうとしたとき、平原の人達がなんだか止めていた。

 ……なんで止めるんだろ。話が長くなっちゃうからかな?


 まあそんなことはあったけど、とりあえず説明は終わった。

 あとは――彼らはどうしたいかだな。


「そんな訳で、お三方とフクロオオカミさんも、いったん私の村に避難したらどうかなと思いまして」

「……まあ、そうするしかないですね」

「でも、ここからみっかかかるみたいだけど、だいじょうぶなの?」

「しょくりょうがもうないのですが……」

「ばう……」


 村に来てくれることは良いみたいかな。

 でも、手持ちの食料を心配しているっぽいな。

 フクロオオカミの食料は現地生産すれば良いから、問題は俺たちの食料か。

 まあ……こちらの食料は二人で十日分持ってきているから、さっき皆で食べた分を引いたうえで、残りは五人で三日分にはなる。

 ……ギリギリだけど、なんとかなるな。

 本当は俺が三日で大半を食べる想定だったけど、そこは我慢すればいい。


「私たちの食料は十日分位ありますので、それを分ければ全員で三日は問題ないかと」

「よろしいのですか?」

「ええ。問題ありません。力を合わせて村まで行きましょう」

「ありがとう~」

「たすかります」

「ばうば~う!」


 申し訳なさ半分、この状況をなんとか出来る目処が立って、安心半分な顔をする皆さんだ。

 まあ、この村で二泊三日を予定していたけど、今すぐ帰らないといけなくはなる。

 もうちょっとこの世界を調査したかったけど、これはしょうが無い。

 今は調査より、彼らを救助する方が大事だ。


「それでは、村に行くとなると歩いて三日ですから、今日出発しないといけないですかね。……出来そうです?」

「……できなくはないですね」

「フクロオオカミもげんきになりましたから、だいじょうぶじゃないかしら」

「ば~う!」


 今日出発することについては、まあ出来そうな感触だな。

 ちょっと休憩してから、引き返すとしようか。


「オオカミちゃんがもっといれば、いちにちでいけるのにね~」

「ばう~」


 ん? フクロオオカミがもっと居れば?

 平原の人の娘ちゃんが、フクロオオカミをもふもふしながら言っているけど……。

 どういうことかな?


「フクロオオカミが居ると、移動が速くなるんですか?」

「ふたりくらいなら、のせていけますよ」

「あるくよりはずっとはやいわ~」

「さんにんだとむりなので、フクロオオカミにはゆっくりあるいてもらってるんです」


 ……なるほど。二人くらいならなんとかなるのか。

 もうちょっと情報を集めよう。


「二人を乗せた場合、どれくらいの速さで、どれくらいの時間歩けるかとかわかります?」

「う~ん……やすみながらいけば、まああさからひるすぎくらいなら……」

「このくらいのはやさよ~」

「ばう~!」


 娘ちゃんがフクロオオカミに乗って、実演してくれた。

 ……大体六時間移動できて、速度は時速六キロから七キロくらいか。

 小走りくらいの速さはあるな。これくらいなら、一日あれば村にたどり着けてしまう。

 それが出来るのなら、ここで一泊してから戻れるんだけどな……。

 ……三人いるから、移動速度が制限されているわけだ。


 ――あれだ。だれか一人、リアカーに乗って貰おうか。


 正直乗り心地は良くないだろうけど、それが出来れば一日で帰ることが出来る。

 ちょっとお願いしてみようかな。


「お三方のうちだれか一人、これに乗って頂ければ速く移動できますよ?」

「これにですか? にもつをはこぶどうぐみたいですけど……」

「ええ。荷物を運ぶ道具なんですけど、人も乗れると言えば乗れます」

「おもそうだけど、だいじょうぶなの?」


 別に言うほど重くはないかな? 人一人増えた程度じゃ大して変わらないだろうし。

 ちょっと実験してみるか。

 一番体重がありそうな、平原の人のお父さんを乗っけてみればわかるよね。



 ◇



 実際の運用と同じ条件にするため、ハナちゃんを肩車しながら、お父さんをリアカーに乗っけて実験してみた。

 もちろん荷物を満載で。


 ――結果は別に問題なし。時速十五キロくらいで普通に走れた。


 お父さんのほうはちょっと怖かったのか、ぷるぷるしてたけど……。

 まあ、実際はその半分の速度で走るので、ご安心を。


「すっごいちからもちなんですね……」

「そうです~! タイシすごいちからもちです~!」

「からだがおっきいだけあるわ~」

「のるひとはもう、きまったようなものね」


 平原の人のお母さんは、どうやらもうお父さんを乗っける気でいるみたいだ。

 結構揺れてたから、お父さんじゃないと多少の不安はあるよね。

 まあ、お母さんと娘ちゃんはフクロオオカミに乗って貰って、お父さんはリアカーに乗って貰おう。

 これで移動時間は大幅に短縮できるな。


「というわけで、この移動方法なら一日で村に着けます」

「そうしましょう……ちょっとたいへんですけど」

「おとうさんがんばって~」

「がんばるです~」


 お父さん覚悟を決めたみたいだな。じゃあこれで決定だ。

 そしてこれなら、出発を明日に出来る。

 今日はゆっくり、観光出来るな。


「これで移動時間も余裕が出来たので、食料にも余裕が出来ました。出発は明日にしましょう」

「そうするです~」

「あしたですね。わかりました」

「それまでゆっくりしましょ~」


 皆もそれで問題ないようだ。じゃあ、キャンプの準備をしたら観光しよう。

 ハナちゃんにガイドしてもらって、エルフ達が元いた村を、ちょっと見学しようじゃないか。


「時間に余裕ができたから、ハナちゃんにここら辺を案内して欲しいな」

「あい~! あんないするです~!」


 ハナちゃんはご機嫌でガイドを引き受けてくれた。

 もう早く村を案内したくて、うずうずしている感じだ。エルフ耳がぴっこぴこしている……。

 ……まあ、それなら案内はハナちゃんに全面的にお任せしよう。


 もう引き払われて数ヶ月経つ村だけど、それでもまだまだ、エルフ達が生活した痕跡が残っている。

 彼らを理解するにも、良い機会だからね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ