第五話 お料理、腕が鳴るわ
村に着くと、そこには食器を出したままのしなしなエルフたちが待っていた。
しまってていいから。まだそれ必要じゃないから。
このエルフ達、なんとなく残念な雰囲気を感じる……。
……まあ気にしない事にしよう。
さて、ラーメンと卵を車から降ろすか。
「「「おおおおぉ……」」」
ドサドサと車から食料を降ろしていると、エルフ達がざわめいた。
高まる期待。そしてプレッシャー。
一体どうしたんだろう?
「たまごだ……」
「たまごとか、すてき」
「とんでもないごちそうだ……」
「……ゆめでもみてるんじゃなかろうか」
ん? 随分と卵に注目が集まっているな。とんでもないご馳走とか言ってるけど……。
お、ヤナさんがびっくり顔で近づいてきた。
「たまご、こんなきちょうなたべものををいただけるので?」
「た、たまごです~」
ヤナさんが驚き顔で聞いていたけど、もしかして卵は……彼らにとって貴重な食べ物なのかな?
ハナちゃんも大量の卵を目の前にしてキャッキャしているし。かなりの喜びようだ。
……まぁ日本でも、昔は卵もなかなか貴重だったという話を聞いたことがある。
彼らにとっても、そういうものなんだろうな。
「こっちじゃ卵はありふれてますので、皆さんにご馳走しますよ」
「ほんとですか!」
「もちろん! それに卵と合う食べ物も持ってきました。これから調理しますので、しばしお待ちを」
「たまごだけでもごちそうなのですが、ほかにもあると!」
「「「わあああああ!」」」
エルフ達も大喜びのようで、どんどんボルテージが上がっていく。
「おりょうりするならてつだいます」
「わたしも」
「まかせて」
カナさん他数名の女性が手伝ってくれるようだ。
一人じゃきついからありがたい話だ。
だけど皆さん、食器はまだいいですよ。しまってていいですから。
……とりあえずお手伝いを名乗り出た人たちに声をかけようか。
「よろしくお願いします。作り方は説明しますので」
「がんばります」
「まかせて」
「うでがなるわ~」
「ぐきっておとがしたけど、だいじょうぶ?」
ごちそうを目の前にして、カナさんと腕をグキっとさせたりしている他のエルフ達は大張り切りだ。
卵だけでこの盛り上がりだけど、果たしてラーメンは彼らの口に合うかな?
……まあ消化に良くすぐ作れるので、今彼らに出せる食べ物としての選択肢としては、悪くないと思う。
それに細かいことを考えてもしょうがない。
とりあえず調理をするために炊事場に向かおう。
◇
ぞろぞろとエルフ達を引き連れ炊事場に移動した。
この炊事場は、キャンプ場によくある炊事場と同様の設計だ。
一度に、四家族が炊事できるよう設計されている。
水は湧水を引っ張ってきており、常に水が流れる便利設計にしてある。
……水道でもあればもっと便利なんだろうけど、さすがにこの山奥に水道を通すのは無理だったんだよな……。
まあそれはいいとして。
調理器具を準備しよう。
炊事場にある倉庫の鍵を開け、鍋四つと菜箸、エルフ達は箸を使えないだろうからお玉も取り出す。
まずは洗う必要があるので、同じく倉庫に置いてあった家庭用洗剤とたわしを鍋に放り込んで倉庫を後にする。
「タイシタイシ。それはなんです?」
ハナちゃんが鍋を指さして聞いてきた。鍋を見たことが無いのかな?
「鍋だよ。これで食べ物を煮たりできるんだ」
「たべものをにるって、あれはいわゆる、どきなのか……!」
「ぴかぴかしてるどきとか、すてき」
「おれのじまんのどきは、ただのつちのかたまりだったのだ……」
ハナちゃんにそう答えると、周りのエルフ達がざわめき始めた。
エルフ達は、ステンレス鍋に衝撃を受けているっぽいな。
土器土器言ってる感じからすると、彼らはまだ陶器にまで到達していないのかな?
それならさぞかし金属製の鍋は衝撃だろう。
その後鍋を洗ったりもしたけど、彼らは家庭用洗剤もたわしも見たことが無いようだ。
鍋を洗うたびに、歓声とどよめきが起こった。
そして洗い物が済んで準備が完了した。
次はいよいよ調理を始める番だ。
お手伝いの奥様方には、俺の手順をなぞってもらおう。
「お手伝いの皆さん、まずは手本として俺が調理しますので、同じ手順でそれぞれの鍋を使ってやってみてください」
「がんばります」
「まかせて」
「うでがいたいわ~」
「だいじょうぶじゃなかったのね」
約一名問題がありそうな……まあ、手洗いをしたりと、皆さん気合十分で調理準備に取りかかっている。
なんせ、始める前から負傷者が出るくらい、気合が入って居る。
さらに視線は常に卵に釘づけだった。
……まあ、卵はごちそうと言っていたくらいだから、気合も入るのだろう。
それでは闘気みなぎる皆さんに、調理方法を説明してきましょうか。
「最初に水を入れます。量はこの位」
「はい」
じゃばばば、と、お手伝いの皆様も鍋に水を入れている。
見た感じ分量も問題なさそうかな。
それじゃ次に進もう。
「次に火を点けます」
「あい」
おもむろに棒と木の板を取り出すハナちゃん。
……それもどこにしまってたの? さっきまで無かったよね。
というか、このエルフたちは火起こしを「それ」でやるのか。
「ひおこしなら、ハナにおまかせです!」
かわいく宣言したと思ったら、もう「しゅしゅしゅ」っとやり始めている。
――凄い早い。
でも、そんな方法で火起こししなくても……。
「……火は簡単に着くんだよ。ここをこうやって捻るとね」
コンロのつまみを捻れば、カチっと音がしてボッと火が点いてしまうんだ。
「「「えっ」」」
コンロであっという間に点火する様子を見たエルフ達、びっくり顔をしている。
まあ、摩擦法で火起こしをしていたなら、ガスコンロは衝撃を受けるかも。
「こんなにかんたんにひが……」
「かみさまか……」
「ハナちゃんなみにはやくひがつくとか、ありえねえ……」
唖然とした様子で、ガスコンロを眺める皆さんだけど……。
聞いた感じでは、ハナちゃんがガスコンロ並みに早く火を点けられるらしい。
摩擦法じゃむりでしょ。いくらなんでも。
まあ、それは気にしないことにして火力をあげよう。
これからが調理本番だ――といっても煮るだけだけど。
あと、ハナちゃんはどうかな。がんばって火起こしして――もう点いてる!
見事な火柱が、ボッってなってる! 摩擦法でもう火を点けちゃってる!
おかしいよそれ、たった十数秒だよ!?
「ふぃ~」
ハナちゃんは、すごく満足そうに汗をぬぐっている。やりきった感のある顔だ。
……何をどうしたらこんな芸当が可能なのか、ちょっと聞いてみよう。
「ハナちゃん、普通はボッてならないよね。何をどうしたらそうなるの?」
「ぼってなるようけんきゅうしたです」
「何をどう研究しても、やっぱり普通は棒と板だけでボッて出来ないと思うんだけど……」
「あきらめないことがたいせつなのです」
……諦めないでやっても、物理的に無理だと思うんだけど。
あれ? エルフ達がなにやら不思議そうな顔で俺とハナちゃんを見ているぞ?
なんだろう?