第十話 ここはとある世界の……
ここはとある世界のとある平原。常春の気候の中、平原ではエルフの家族がのんびり旅をして居ました。
しかしある日、とある森に訪れたとき異変を発見します。それはエルフの家族に降りかかる、災難の始まりでした。
◇
「そろそろ見えてくるかな?」
「皆元気にしてるかしら」
「お肉楽しみだわ~」
「ばう~」
お父さんお母さんと、十三歳くらいの女の子の三人家族ですね。
娘さんは、なんだか牛くらいの大きさもある……地球で言うアードウルフの毛を長くしたような動物に乗っています。
そんな彼らは、とある森を目指してトコトコと平原を歩いていました。
「塩をいっぱい持ってきたけど、皆喜んでくれるかな~」
「前に来たとき、結構足りなくなってたから喜んでくれるわよ」
「お肉と交換しなきゃ~」
「ばうばう」
娘さんの頭の中は、お肉でいっぱいですね。もうすでにじゅるりとしています。
おっきな獣も、ばうばうと楽しそうです。
そんな三人と一匹は、やっぱりのんびりトコトコと平原を歩いていましたが――ちょっと心配事もありました。
「食料ももうギリギリだから、しっかり補充しないとな」
「寄り道しすぎなのよ」
「だってほら、珍しい石とかあるって言うじゃ無いか。そりゃ行くだろ」
お父さんはじゃらりとなんかの石をとりだし、こねくりしています。
確かに綺麗で珍しそうな石ですね。でもその石、どこかで見たような……。
――まあ、それはおいておいて。
このなんかの石を取りに行くために回り道をした結果、ちょっと食料が心許なくなっていたのでした。
お父さんはなんかの石がそれなりに手に入ったので、わりとご機嫌のようですが……。
「食べられないものを集めてもしょうがないわよ」
「お肉のほうが良いわ~」
「ばばう」
お父さんとは裏腹に、残りの方々はあきれ顔です。
お父さん以外の方々もまた、食べられない石より食べられるお肉のほうが良いのでした。
お父さんちょっと肩身が狭いですが、無理して石を採ってきたのにも理由がありました。
「まあまあ。あっちの族長もこう言うのが好きだったし、お肉と交換してくれるかもよ?」
そうなのです。今向かっている森の族長は、こういうものが好きなのです。
石を採ってきたことは無駄じゃ無いアピールをするお父さんなのでした。
「特製の燻製肉に交換してもらえるように、交渉するのよ?」
「あの森の燻製肉、美味しいのよね~」
「ばう~」
お肉の話がでたので、あの森特製の燻製肉を思いだし、母子エルフはキャッキャし始めます。
おっきな獣さんは、お肉はあんまり興味がなさそうな感じですね。
お腹は減っていないのかな?
そしてお父さん、どさくさ紛れになんかの石と特製の燻製肉を交換する任務を任されてしまいました。
責任重大です。
「ま、まあ……出来たら良いなあ」
お父さん弱気です。わざわざ寄り道して石を採ってきただけに、何にも交換出来なかったら父親としての尊厳がぴんちですね。
がんばってください。
「お腹減ってきたわ~」
「ばうばう」
「食べ物、もうあんまりないのよね?」
そしてお肉の話をしたせいか、残りの食料が気になり始めました。
寄り道したおかげで食料がギリギリなので、ちょっと節約しなければいけません。
お父さんは残りの食料をごそごそと確認します。
「まあ、あと一日分はあるから大丈夫だよ」
「もうちょっとで、森に着くものね」
「お肉楽しみだわ~」
「ば~う」
あと一日分の食料があると聞いて、皆一安心です。
なにせ、平原だと余り食料が採れません。
今日中に森に着かなければ、空きっ腹を抱えて旅する羽目になるところでした。
「森に着いたら、まずは食事にしようか」
「そうね。ここのところ節約気味だったから、ぱーっとやりましょうよ」
「良いわね~」
「ばうば~う」
森に着けば落ち着いて食事が採れるので、ぱーっとやっちゃうのですね。
長い旅を続けてきたので、森でほっと一息つきたい皆さんなのでした。
「それじゃ、あと少しだから急ごう!」
「早く着かないかしら」
「お肉~」
「ばう~」
気合いを入れるお父さんと、のんびり歩く親子と一匹、森を目指してトコトコトコトコ。
でも、気合いを入れた割には……速度が変わらない皆さんでした。
◇
――場面は変わって。
ここはとある地球のとある村。梅雨を目前にした季節の中、村ではエルフ達がのんびりと暮らしていました。
しかしある日、とあるエルフの女の子と一人の地球人が異変を発見します。それはエルフ達と地球人達に訪れる、素敵な出会いの始まりでした。
◇
「タイシタイシ~、田んぼはどうです?」
「うん。もんだいないよ」
「大丈夫そうですか?」
大志とエルフ達は、田んぼの様子を見に来ていました。
イネはすくすくと育ち、田んぼには様々な生き物が根付いています。
大志は田んぼを一通り確認して、問題ないと判断したようです。
「そのうちざっそうとかがはえてきますので、ひっこぬいてください」
「イネ以外の草を抜けば良いのですよね?」
「きほんはそうですね。まあ、むりせずぼちぼちやっていきましょう」
「わかりました」
「頑張るです~」
農薬をうかつに蒔けないので、雑草や虫はある程度諦めるしかありません。
まあ、無理せずぼちぼちやっていく方針なのでした。
「タイシ、田んぼにはピヨドリ、使えないです?」
「ギニャ?」
ハナちゃんはフクロイヌを抱き上げて、ピヨドリ農法の提案をしました。
フクロイヌもいつでもピヨドリ散布の準備ができているようで、しっぽをふりふり、くすぐりを待っています。
「う~ん。みずどりじゃないから、すいめんをおよげるかな?」
ピヨドリは水鳥ではないため、水かきがありません。
なので、田んぼに放しても大丈夫かどうか大志にはわかりません。
「それなら大丈夫だ。ピヨドリは水に浮くから。ほーらこちょこちょ~」
「ギニャッ、ギニャッ」
「ピヨ~」
「ピピィ」
「ピ~ヨピヨ」
マイスターがしゅぴっとやってきて、フクロイヌをくすぐりはじめました。
そしてすぐさま散布されるピヨドリ達、元気に田んぼに入っていきました。
「ほんとだ、ちゃんとおよいでる」
水鳥でも無いのに器用に泳ぐピヨドリ達を見て、大志もほっと一安心です。
「可愛いです~」
「ちゃんと虫食べてるな」
「行けそうだな」
他のエルフ達も、ピヨピヨと田んぼを泳ぐピヨドリ達を見て、和みました。
白くて小さな、可愛らしいピヨドリ達、ピヨピヨつんつんとお仕事をしていきます。
「アイガモのうほうみたいで、かわいいな」
「ピヨドリ達、がんばるです~!」
大志とエルフ達は、田んぼでのピヨドリ農法をしばらく眺めて過ごしたのでした。
◇
田んぼの確認も終わって、夕方までちょっと時間が出来ました。
このくらいの時間だと、村ではエルフ達が各々自由に過ごします。
家事をしたり温泉掃除をしたり――駄菓子屋に行ったり。
最近出来たこの駄菓子屋は、村の人気施設になりました。
百円一枚握りしめて行けば、甘いお菓子が結構沢山買えちゃいます。
甘い物を好きなときに食べられるようになったので、エルフ達は大喜びです。
今日も今日とて、駄菓子屋に足を運ぶのでした。
「ふがふが~」
「ひいおばあちゃん、お店番頑張ってです~」
「ふが~」
今日はハナちゃんのひいおばあちゃんがお店番のようですね。
大志達が田んぼの世話をしている間、お年寄り達はお店番と、その研修です。
「おうタイシ、たんぼはどうだった?」
「もんだいなかったよ」
「それはよかった」
「おみせのほうは?」
「こどもたちがあそびにきたよ。いまは、しゅうかいじょうでひるねしてる」
大志とお父さんは、しょっぱい駄菓子をかじりながら報告し合います。
お店の方は、どうやら子供達が遊びに来たり、集会場でお昼寝をしたりとちゃんと客足があったようですね。
「子供達が遊びに来て、こっちも暇しなくて良いな」
「よその家の子供と話す機会って、あんまりないものね」
「人と話すってのは、大事だな」
お店番のお年寄り達も、子供達とふれ合えてまんざらでも無い様子です。
「かみさまも、げんきかな?」
大志がちらりと神社に目をやると、ほよっと光ってお返事です。
神様も元気なようで、良かったですね。
そうしてお店を一通り確認していると、ヤナさんが話しかけてきました。
「お店番に慣れてきたら、いずれ一人か二人でお店を運営するのですよね?」
「そうですね。もちまわりでいきましょう」
「当番じゃない日は、俺らどうしたら良いの?」
いずれ一人か二人でお店を運営すると聞いたお年寄り達、当番では無い日はどうするか気になりました。
おうちで暇していてもしょうが無いですしね。
「とうばんではないひは、つりでもします?」
「釣りか! いいね~」
「今度はお魚が食べられるようになるの?」
「釣れればな」
釣りと聞いたエルフ達、お魚料理に思いを馳せます。
今のところタンパク質と言ったらお味噌汁かジビエです。
ここにお魚が加われば、より一層食事の幅が広がります。
「お魚の塩焼き、美味しいよね」
「お味噌汁に入れたら、凄いかもしれない」
「良いね良いね」
お魚料理で盛り上がる皆さん、もうじゅるりとしています。
まだ釣り竿すら持ってきていないわけですけど……。
「そのうち、つりのどうぐをもってきます。つりばもおしえますよ」
「お願いします。お年寄り達は、釣りが得意ですから楽しみです」
大志が釣りの道具を持ってくると聞いて、ペコペコするヤナさんでした。
でも、ヤナさんもちょっとじゅるりとしています。
ヤナさんもお魚、好きなんですね……。
そんな釣り話で盛り上がる中、ハナちゃんがブタメンをもってぽてぽてとやってきました。
「お父さん、これ食べたいです~」
「ハナ、おなかが空いたのかい?」
「あい」
ハナちゃんはどうやら小腹が空いてしまったようです。
お父さんにカップ麺のおねだりをしました。
「しかし、今からラーメンだと夕食を食べられなくならないかな?」
「……あや~。あるかもです~」
小腹は空いたけど、カップ麺を食べてしまえば夕食に響きます。
ハナちゃんもなんとなくそのあたりはわかったようで、葛藤が始まりました。
「あえ~。お腹が空いたですけど、これを食べたら夕食が……あや~……」
ハナちゃんのエルフ耳は、ぺたんと下がってしまいました。
きゅるるるる。
そしてハナちゃんから発せられる腹の虫の音。
ハラペコでは無いけれど、我慢できるか微妙な具合のようです。
「……それなら、ちょうどいいのがあるよ」
「ちょうど良いのです?」
「うん。もんじゃやきってのがあるんだ」
大志がカセットコンロを取り出し、専用のプレートを乗っけました。
「おやじ、キャベツのみじんぎりたのんでもいいかな?」
「おう、ちょっくらきざんでくるわ」
大志がお父さんに、材料の準備をお願いしました。
大志は大志で、なにやら小麦粉を取り出し黒い液体と混ぜています。
「タイシ、もんじゃやきって何です?」
「ちょっとしたおやつだよ。まあたべてみればわかるかな」
「面白そうな事始めてる」
「何だろ何だろ」
材料の準備を始める大志とお父さんを見たエルフ達、集まってきました。
「おうタイシ、みじんぎりできたぞ」
「ありがと」
そして、大志のお父さんがもってきたキャベツのみじん切りを、先ほど作った液体に混ぜ始めました。
「これを焼くです?」
「うん。おいしいよ」
「楽しみです~」
カセットコンロに火を入れ、鉄板を加熱していきます。
そして、程々の温度になったところで液体を鉄板に流し入れました。
じゅわわっと音を上げる生地は、ソースの良い香りを漂わせます。
「美味しそうな匂いです~」
「やばい、腹減ってきた」
「面白い料理ね~」
だんだん焼けてくるもんじゃを見て、エルフ達はごくりと喉を鳴らします。
ソースの焦げる香りは、夕食前のエルフ達にとってはかなりの破壊力でした。
「うん、やけたね。このへらでからめてたべるんだよ」
大志がもんじゃ焼きを小さなへらに絡めて一口分を取り分け、神棚にお供えをしました。
柏手を打ってごにょごにょ、すぐさまぴかっと光ってもんじゃは消えました。
お供えも無事完了です。
そして、次にまた一口分からめてハナちゃんに渡しました。
「ほら、ハナちゃんもどうぞ」
「ありがとです~」
受け取ったハナちゃん、大喜びでぱくりと一口食べます。
「! これ美味しいです~!」
「マジで!」
「俺も食べたい~」
おいしさにキャッキャするハナちゃんを見て、他のエルフ達も食べたくなってしまったようです。
「それじゃひとくちずつとりわけますので、しょっきをください」
「「「わーい!」」」
大志はエルフ達が差し出す食器に、一口分ずつ取り分けていきました。
今日はお試し、無料サービスです。
「ほんとだ、これ美味しい!」
「甘塩っぱいのがいいな」
「このおやつは良いな」
一口食べたエルフ達、もんじゃ焼きのおいしさに大はしゃぎです。
もっと食べたそうな顔をしていますね。
「これはごじゅうえんではんばいしますが、いまざいりょうをつかいきってしまったので……まあ、あしたからになりますね」
「明日からか~」
「材料がないのね」
「明日絶対食べるぞ~」
材料がなさそうな事がわかり、残念そうなエルフ達でした。
「キャベツはハナちゃんにお願いしたいな。良いかな?」
「任せるです~。タイシ、一緒に育てるです~!」
「うん。あしたいっしょにやろうね」
「あい~!」
残ったもんじゃ焼きをちまちま食べていたハナちゃん、タイシにキャベツ栽培をお願いされてやる気十分なのでした。
「そうそう、ハナちゃんにはキャベツひとつにつき、にひゃくえんあげるよ」
「!? タイシ、ホントです!?」
「うん。ハナちゃんからキャベツをおかいあげします。いっぱいはむりだけどね」
「作るです~! キャベツ作るです~」
お金をもらえると聞いたハナちゃん、耳をぴっこぴこさせて喜びました。
食べたかったあのお菓子、欲しかったあのおもちゃが買えます。
「楽しみです~」
もんじゃ焼きをちまちま食べながら、タイシになでなでされる明日を想像するハナちゃんでした。
「うふ~」
もう夢膨らんでしょうがない感じですね。
◇
翌日、ハナちゃんと野菜をにょきにょきする前に、大志が言いました。
「そうだハナちゃん、きょうはどうくつをかくにんするよていだけど、いっしょにくる?」
「あい! 行くです~」
大志とお出かけですので、ハナちゃんは大喜びです。
一緒に洞窟の確認に行くことにしました。
「じゃ、せっかくだからかたぐるまをしてあげよう」
「あい~! 肩車するです~!」
大志が肩車してくれるというので、ハナちゃんは大喜びで大志によじ登ります。
大志がかがむ前に、一瞬で上ってしまうハナちゃんでした。
さすがエルフ、木登りは得意なのですね。
「いや、のぼらなくてもかがむから……」
「タイシ、どうくついくです~!」
ハナちゃんまた話を聞いていませんね。ご機嫌で山を指さしています。
まあ、喜んでいるので良いのかな?
そうして、ハナちゃんを肩車しながら大志はスタスタと森を歩いていきました。
勝手知ったる自分の森、順調に洞窟までたどり着きます。
たどり着いた先には、もちろん洞窟はあったわけですが……。
「あえ?」
「は?」
二人は、洞窟を見て唖然としています。
なぜなら――。
これにて第六章は終了です。
お付き合い頂きありがとうございます。
引き続き、次章もお楽しみ頂ければと思います。




