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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第六章  エルフ経済(初級編)
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第七話 説明しよう


 翌日になり、親父と一緒に駄菓子やら雑貨やらを満載して村に向かう。


 お店の設営なので、高橋さんも誘ったらトラックに資材を満載にしてやって来た。

 こっちはそんなに本格的な店にするつもりはなかったのだけど、もうなんか棚とかカウンターとか作る気満々だった。

 ……まあ、使いやすいお店が出来るに越したことはないので、ありがたく好意を受け取ろう。


 さらに途中でワサビちゃんの代金をある程度引き出し、全部硬貨に両替したりもした。

 現時点では、硬貨のみ取り扱って貰おうと思ってのことだ。

 村では五百円、百円、十円の三種の貨幣のみを運用する。

 村で一品目千円以上のお買い物をする機会は、今のところ無いからね。


 なんだか大がかりになってきたけど、気にせず突っ走ろう。


 そして村に到着すると、いつものようにハナちゃんとフクロイヌがお出迎えしてくれた。


「タイシタイシ-! まってたですよ~!」

「ギニャニャ~ン!」


 ハナちゃんとフクロイヌが、よじよじと体を登ってくる。

 フクロイヌは登りながら袋の中身をピヨピヨキャンキャンとこぼしていくので、一気に動物だらけになった。

 君、この袋の中にどんだけの動物詰め込んでるの!?


「タイシさんこんにちわ。なんだかすごいことになってますね……」

「どうぶつ、いっぱいです~!」


 動物まみれになった俺とハナちゃんを見て、うらやましそうなヤナさんだった。


「ヤナさんこんにちは。今日はワサビちゃんの受け取りと、あとまたご相談があります」

「そうだんですか。シロウさんとタカハシさんはもうなんか、いろいろやってますけど」


 ヤナさんと動物をかまいつつ本日の用件を切り出すと、ヤナさんは俺の後ろの方を見ながら首を傾げた。

 後ろでワイワイやっている親父と高橋さんが、いったい何をやっているか気になるんだろうな。

 高橋さんはもう資材を荷台から下ろしたりしているし、親父は駄菓子やら店で必要になるだろう機材やらを下ろしている。

 二人とも、言い出しっぺの俺より張り切ってないかな……。


「タイシタイシ、そのおっきなにもつ、かんけいしてるです?」


 ハナちゃんも同様に気になったのか、駄菓子の詰まった箱を指さしている。

 もう何か面白いことが起きることを予感しているようで、わくわくした表情だ。

 そうだな、親父と高橋さんには準備やら設営やらを任せて、俺は皆に説明をしようか。


「そうだよハナちゃん。この大荷物で、面白いことをするんだ」

「おもしろいこと! たのしみです~!」

「おもしろいこと、ですか」

「ええ。とりあえず説明しますので、皆さんを集会場に集めていただけます?」

「わかりました」


 さて、皆どんな反応をするかな?



 ◇



「おみせ? こうかんできるもの、もってないよ?」

「きれいないしなら、そこそこあるけど……」

「おれもすっからかんだ。……おれのじまんのどき、こうかんにつかえる?」


 高橋さんと親父がなにやらギコギコと作り始めたのを横目に、エルフ達にお店を作る話をした。

 反応は様々だけど、交換出来そうな物がないことを気にしている人が多いかな?

 でもご心配なく、そこで皆さんが稼いだお金の登場です。


「皆さんが収穫してくれたワサビちゃんがお金になったので、それを使いましょう」

「まえにみせていただいた、あれですか」

「そうです。とりあえず三種類のお金を使いましょう」


 五百円、百円、十円を皆に見せる。

 とりあえず八万円分持ってきたので、今回は一世帯につき一万円を配ろう。

 これ以降の分配は、ヤナさんに丸投げの方針で。


「三十日くらいに一回、このお金がある程度入ってきます」

「あるていどですか」

「そうです。そしてこのお金を、ヤナさんに各家庭に分配してほしいんです。どう分配するかはお任せします」

「そこはがんばります。それでこのおかねをどうやってつかえばよいのでしょうか」


 よし、ヤナさんの承諾も得られたことだし、具体的な使い方の説明に行こうか。


「この百円でラーメン一杯というのは前に話しましたよね?」

「ええ。おぼえています」

「もやし~」

「ラーメン~」


 ラーメンという言葉を出した途端、何名かがじゅるりとしたけど……。

 気にせず続けましょう。


「この茶色いのが十円と言いまして、十枚でラーメン一杯分になります」

「こまかくなったわけですね」

「そうです。逆にこの五百円はラーメン五杯分です」

「ごはいもたべられちゃうの!?」

「そんなにたべたらふとっちゃうわ~」


 そこの方々は、どうして一気に食べようとするの?

 ……食べても居ないのに、恍惚とした表情になっている。

 うん、皆さんがラーメン好きなのは良くわかりました。

 それはそれとして。


「この百円で石けん一個分にもなります」

「ラーメンいっぱいか、せっけんいっこか……なんというきゅうきょくのせんたく」

「はんぶんずつにすればいいじゃない」

「それじゃたべたりない……」

「いいことかんがえた。はんぶんくらい、もやしにしちゃおうぜ」


 そこの人たちはラーメンから離れてください。

 あと、石けんはちゃんと常備しておいてください。

 ラーメンに全部つぎ込んじゃだめですよ。


「……だいじょうぶですかね?」

「大丈夫……だと思いたいですね……」


 大丈夫なんじゃないかな。大丈夫だと思う。大丈夫かもしれない(不安)。

 ……しかしもう後戻りが出来ない。なにせ、横で親父と高橋さんがトンカンやってるお店作り、もうほとんど出来ているし……。


「ま、まあ……このお金を使えば、皆さんが気兼ねなく自由に雑貨を得られるようになります」

「そういうはなしだった」

「せっけんでかおトゥルットゥルがすきなだけとか、すてき」

「おれのじまんのもっこうざいくも、うっていいかな?」


 ステキさん……顔を洗いすぎるとガッサガサになりますから、程々にね。

 それに、おっちゃんエルフが割と前衛的な形をした、木彫りの人形を陳列し始めた。

 夜中に動き出しそうな奴だ。それ、売る気?


「このなんともいえないかんじ、あじがある?」

「こっちからみると、すごいわよ」

「ほんとだ、なんかゆめにでてきそう」


 おっちゃんエルフの人形を品評し始める皆さん。

 あの……その話、あとにしてもらって良いですか?


「タイシタイシ、ラーメンとせっけんのほかに、どんなものがあるです?」


 大人エルフ達が前衛的人形の品評会を始めたのをよそに、ハナちゃんが目をキラッキラさせて質問してくる。

 良い子だなあ~。ちゃんと話し聞いてくれてる。なでておこう。


「ハナちゃんは良い子だね~」

「? えへへ」


 なでなでされてご機嫌のハナちゃんに、商品を説明しよう。

 きっと喜んでくれるはずだ。


「このお店に置く商品の殆どはね。なんと甘いお菓子とかなんだ!」

「「「あまいおかし!」」」


 甘いお菓子と言った途端、謎人形品評会をしていた皆さんがずずいと迫ってきた。

 ……ちゃんと聞いてたのね。


「タイシタイシ! あまいおかしって、ほんとです!?」

「いま、あまいおかしとかきこえた」

「あまいおかしたくさんとか、すてき」

「おれのじまんのにんぎょうも、おかしにはかてなかったよ……」


 ものすごい食いつきようだ。おっちゃんエルフもへこんでいるふりをしているけど、チラッチラとものすごい興味持ってる感ありありだし。

 ……みんな甘い物、食べたいんだな。

 それじゃあ、軽く駄菓子屋の話でもしておこうかな。


「こっちでは駄菓子屋と言いまして、子供のお駄賃でお菓子を食べられる店って意味です。たとえば十円で一個交換できるお菓子とか」

「ラーメンをいっしょくがまんすれば、おかしがじゅっこも!」

「このひゃくえんてやつひとつあれば、おかしがたくさんたべられるの!?」

「じゃ、じゃあ……このごひゃくえんってやつだと、ごじゅっこも……」


 ……普段は計算を途中で諦めるのに、どうしてこういうときだけしぱっと計算できるの?

 前は十を超す計算、途中で投げてたよね?


「タイシタイシ! おかし! おかしどこです~!」

「おかし~!」

「キャー!」

「あまいおかしー!」


 ああ……またもや子供達が登ってきた。ハナちゃんはやっぱり定位置となりつつある肩車状態で、キャッキャとお菓子を催促している。

 だんだん収拾不可能になりつつあるけど、どうしようかな。

 ……と、親父と高橋さんがこっちにやってきた。

 お店の準備、できたのかな?


「おい大志、えらい騒ぎになってんな」

「もう店出来たぞ。商品も価格別に陳列したから見てくれ」


 もう出来たみたいだ。親父と高橋さんはやり遂げた顔をしている。

 まあ……棚とカウンターと椅子を設置して、箱に入った商品を置くだけだからすぐに出来るとは言っても、配置を考えるのは大変だったはずだ。

 二人とも、ありがとう。

 そしてジャストタイミングだ。商品を見て貰えば、説明もしやすい。

 早速みんなに、お店を見て貰おう。


「お店が出来たようなので、皆さんご覧になってください」

「「「わー!」」」


 どっとお店の方に向かう皆さんだ。

 しかし子供達は俺にぶら下がったままなので、ゆっくりとお店の方に向かおう。

 ほらほら子供たち、いろんな商品があるぞ~。


「わー! なんかたくさんある!」

「こんなにおかしがたくさんとか、すてき!」

「このしなぞろえ、やばい」


 沢山陳列された駄菓子や雑貨をみて、目をキラキラさせる皆さん。

 商品は市場の相場より安くしてある。消費税はこっちが負担だ。

 ただ、インスタント袋麺はまとめ買いすると単価が百円を切るけど。

 この差額は、他の高額商品をお安くして埋め合わせしている。

 全体で言うとこっちの持ち出しが多く、隠し援助となっている。


 雑貨としては石けん、歯ブラシ、歯磨き粉、手ぬぐい、筆記用具やインスタントカメラ用の乾電池なんかも置いてある。これらは全部百円にした。

 インスタントカメラ用のフィルムも、二百円とかで置いてみた。市場価格から大幅値引きだ。

 あとはティッシュペーパーやら洗剤やら、乳児の居るご家庭用に粉ミルクとかもある。

 ほ乳瓶や消毒剤は援助ということで後で渡す予定だ。使い方も同時に説明する。

 調味料とかもいくつか置いてあるので、雑貨屋というよりよろず屋に近いかも。


「はわ……」


 そして今カナさんがキラキラした目で見ているのは、クレヨンや色鉛筆や水彩画セットだ。

 どうやら、パッケージ写真を見てお絵かき道具だと気づいたらしい。


 しかし、これはお高い。一式で五百円だ。この店では今の所、お絵かき道具が最高額だったりする。

 もっと安くしたかったんだけど……原価が高かったので、値引き限界だった……。

 まあ、絵の具はバラだと五十円にしてあるけど。

 十二色セットの絵の具を買えば、百円お得になるように設定した。


 これらはまあ、お絵かき大好きなカナさんへの応援の品だ。

 初回は一式援助するから、無くなったら自分で買ってねという方式にする予定だ。

 カナさんにはこの旨、伝えておかなきゃな。


「カナさん、このお絵かき道具一式ですが、最初は援助します」

「はわ?」

「消耗品を使い切ったら、次からはお店で買って下さいね。はいどうぞ」


 ぽかんとしているカナさんに、お絵かき道具一式をどさっと渡す。有無を言わさず渡す。


「はわー!」

「おかあさーん!」


 カナさんが驚きのあまり、お絵かき道具を抱えたまま固まってしまった。

 ……まあ、顔は恍惚としているから、大丈夫かな?

 ほっとけばそのうち解凍するかと思うので、そのままにして次に移ろう。


「タイシさん、これは?」

「それは粘土細工用の道具ですよ。こっちは木工用」

「まじで」


 おっちゃんエルフがかぶりつきになった。粘土細工は一式三百円、木工用は一本百円だ。

 どう使うのかは、実はわからない。一式あったので買ってきただけだ。

 おっちゃんの創意工夫でなんとかしていただきたい。

 これも、欲しい奴をいくつか援助しておこう。追加で欲しくなったら自腹で。


「これとこれとこれを援助しますので、他に欲しい物ができたら買って下さい」

「あれ? おれ、ないてるのか……?」


 おっちゃんエルフは泣き出してしまった。うん、喜んでいただけて良かったです。

 あとは、図鑑類も説明しとこう。


「ちなみにこれは図鑑といいまして、それなりの種類の植物が載ってます」

「それください。はしからはしまでぜんぶ」


 マイスターが、まだお金も分配されていないのに購入しようとする。そして真顔だ。

 めっちゃ欲しそうなのが分かるな……とりあえず三冊を援助して、あとは買って貰おう。

 いちおう、文字が読めなくても楽しめるように写真が沢山の奴にしたんだけど……。


 ――そういえば、エルフ達は文字を扱うのかな?


 あれだけ計算もできてるくらいだから、文字もあるんじゃないかな……。

 おっちゃんエルフご自慢の土器に、それっぽい記号があった気がするし……。

 まあ、後で聞いてみよう。別に急ぐことじゃない。


 その後も、ほかの方々に興味のある道具や雑貨を初回のみ援助した。

 初回をタダにしたのは援助という意味合いもあるし、営業という意味合いもある。

 消耗したり、他に欲しいものが出来たら、次からはお店に足を運ぶだろう。

 それに価格設定は良心価格というより価格破壊してあるから、彼らでも問題なくお買い物が出来るはずだ。

 これで雑貨は大丈夫だろう。


 次は、いよいよ駄菓子屋の本格的な説明に入ろう。


 ――これが今回の計画の、主目的だ。


 この駄菓子屋を、村の憩いの場にするんだ。

 お年寄りの活躍の場にするんだ。

 大人も子供も足を運ぶ、素敵なお店にするんだ。

 そして……神様に毎日手を合わせる、感謝の場にするんだ。


 皆、この考えに賛同してくれたら、いいな。

 

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