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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第六章  エルフ経済(初級編)
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第四話 桃色おふとん

「こっちじゃ、俺みたいな種族をリザードマンって言ってるそうだ」

「じゃ、作業の説明を始めます」


 キメ顔の高橋さんはおいといて、東屋設置を始めよう。


「おい! なんか俺の扱い雑じゃないか? 今すごくキマってたのに」

「わかったわかった、補足しとくよ」


 補足しておくと言っても、俺から言えることは実はあまりない。


「見た感じそれっぽいから、まあリザードマンって事にしとこうとなりました」


 リザードマンとはこういう特徴がある、なんて正確な分類は何もない。

 そもそもこっちには存在しない人種だし、便宜上そういっているだけだったり。

 ――もしかしたら違うかも知れないけど、違ったところで特に問題は無い。

 だって本人含めても、誰もわからないんだし。


「なんだかよくわかりませんが、わたしはヤナハといいます。ヤナとよんでください」

「ハナハっていいますです。ハナってよんでね!」

「おう! 二人ともよろしく! 皆もよろしく!」


 ヤナさん達もよくわかっては居ないようだけど、まあ警戒心は無くなったようだ。

 自己紹介もできたし、ひとまず顔合わせはこれでいいかな。

 これでようやく作業の説明に移れる。


「顔合わせはこれでいいとして、次は作業の説明ですかね」

「おんせんのところに、やねをつけるんですよね?」

「そうですね。しばらくすると梅雨に入りますから、屋根が必要になってきます」

「タイシ、つゆってなんです?」


 そうだな、梅雨の説明してないな。


「あと何日かで、三十日ほど雨ばっかり降る季節になるんだ」

「あめばっかりです?」

「毎日ってわけじゃないけど、十日のうち三日か四日くらいは雨が降ったりするね」

「まえいたもりでも、おおあめがふるときがありましたね」

「まあ似たような物です。なので、屋根がないと不便になりますね」

「なるほど」


 ここら辺の地域は確か日本でも有数の年間降水量が少ない地域だから、言うほど雨は降らないけどね。


「せっかくだから、炊事場の周りとか温泉の入浴槽んとこにも建てるぞ」

「そうそう、高橋さんの方からも援助ということで、屋根の設置を増やすことにしました」

「それはうれしいですね。ありがとうございます」

「良いって事よ」


 目的は共有できたところで、具体的な作業の説明をしよう。


「私と高橋さんは基礎工事をしますので、若い男性陣には資材運びをお願いしたいと思います」


 資材運びの指示は親父が担当だ。運ぶ際に簡単に設置の説明もして貰う予定だ。


「わたしたちはどうします?」

「おてつだいできるです?」


 お年寄りと子供、それと女性陣はどうするか……。

 割と力が必要だったり危ない作業もあるので、見学か軽いお手伝いくらいかな。


「主に見学になりますかね。軽いお手伝いくらいならあります」

「それでは、けんがくしてますね」

「タイシ、がんばってです~」


 まあ、見学しているだけでも勉強にはなると思う。

 簡単な建物でも、割と手順踏んで作るからね。


「それじゃ、始めましょうか」

「「「はーい!」」」



 ◇



 エルフの皆さんに資材を運んで貰っている間に、俺と高橋さんはえっちらおっちら基礎工事だ。

 東屋を乗っけるだけなので、独立基礎を作ればそれでいい。

 二人で手分けして丁張りを行っていく。


「高橋さん、水盛りはこれでいいかな」

「ああ。水平出てるな。じゃあ『回し』もやっといてくれ」

「了解」


 とりあえず基礎高は二十センチで良いので、基礎予定地の周りに貫板を打って「回し」をさっさと済ませる。


「『回し』終わったけど、水糸もやっとく?」

「頼むわ。俺は沓石(くついし)と砕石持ってくるから。あとモルタルか」

「わかった」


 基礎用の資材は高橋さんに任せて、丁張りを仕上げよう。

 基準の水糸を張ってから、もう一本直角に交差するよう水糸を張る。

 この時点では直角は目見当でいい。

 ここから正確に直角を割り出すのは、「三四五(さんしご)」で行う。

 二本の水糸を使って、ピタゴラスの定理で直角を求める昔ながらの技法だね。


 糸同士の交点から、基準の水糸が三メートル、二本目が四メートルの位置で点を打って、その点同士の距離が五メートルなら直角だよという簡単お手軽さ。

 そこで直角を出した後はもう簡単。三本目四本目の糸も張って丁張り完了。

 この辺はもう慣れたもんだな。


「お、丁張り終わったか」

「まあね。これでいいかな」

「問題ない。じゃあ印を付けて沓石設置すっか」

「わかった」


 水糸の交点に印を付けたら、水糸を一端外す。

 この印のところに沓石を設置すれば、基礎工事完了だ。

 まずは床堀りからかね。基礎用の穴掘りである。


「高橋さん、凍結深度どんくらいにする?」

「標高からすると……六十センチあれば良いんじゃないか?」

「じゃそれで」


 ここら辺は冬期に土中の水分が凍るから、凍結対策で穴を掘る深さが決まっている。

 これを間違えると、冬になってから凍結により建物が持ち上がるなんてことが起きる。

 まあ、たしかに六十センチもあれば十分か。


 さっそくざくざくと穴を掘って、砕石を詰め込んで突き固め。

 砕石をがっちがちに突き固めしたら、そこに空練りのモルタルを盛る。

 このモルタルは土中の水分や雨で勝手に固まるので、水を加えなくても良い。


「しざいをはこんできましたけど……それはなにをしているんですか?」


 ヤナさん達が資材を運んできてくれたか。工事途中の基礎を見て、興味津々だ。


「これは基礎工事をしています。がっちりと基礎を作ることで、建物もがっちりと作れるんですよ」

「ほほう。だいじなさぎょうなのですね」

「ええ。とっても大事です」


 興味津々な皆さんには、資材を並べたりと準備をして貰おう。

 その間に、基礎工事を終わらせとくかな。


 水糸を張り直し、その水糸の高さに合わせて沓石を置く。

 あとは沓石の周りにモルタルを追加で盛って、さらに土を盛れば完成。

 ……結局ほとんど俺一人で基礎工事をやってしまった。


「タイシさん、それっておれにもできるかな?」


 ん? マッチョさんができあがった基礎を見て、聞いてきた。

 まあ手順がわかれば簡単だから、マッチョさんにも出来るかな。


「出来ると思いますよ。やってみます?」

「やるやる! おしえてほしい」

「お、じゃあ俺が教えるから、大志は東屋組んじゃえよ」


 マッチョさんへの建築技術指導は、高橋さんがやってくれるみたいだ。

 プロに教えて貰った方が何かと良いだろう、ここはお任せだ。


「わかった。じゃあ俺は東屋を組んじゃうか」

「せっかくだから、こっちのガタイの良い兄ちゃんには基礎から東屋作るところまで、一通り教えとくわ」

「いいの? おれどしろうとだけど」

「素人だって問題ねえよ。お前さん、建築に興味があるみたいだから、しっかり覚えときな!」

「ありがとうございます!」


 マッチョさんと高橋さんは入浴槽のほうに向かっていった。あっちの東屋、二人でやるんだな。

 じゃあこっちはこっちで、洗い場の東屋を組んじゃおう。

 これは簡単、順番に枠を組んで屋根を乗っけるだけ。皆に手伝って貰おう。


「それじゃ皆さん、まずはこの屋根を組みましょう」

「「「はーい」」」


 親父が指示を出して、とりあえず東屋を組んでしまう。

 基礎は明日固まるので、明日俺と親父と高橋さんの力技で東屋を乗っけてしまう。

 本当なら、基礎が固まった後枠組みするけど、面倒だし。

 腕力で解決できる人間がそろって初めてできる、荒業だ。


 ――そして午後を少し回ったところで、全ての東屋組みと基礎工事は完了した。


「これで今日の作業は完了ですね。皆さんお疲れ様でした」

「けっこうたのしかったですね」

「たてものつくるの、おもしろいな~」

「またやりたい」


 作業とは言え、エルフ達も楽しんでくれたようだ。

 みんなワイワイと今日の作業を振り返っている。


「明日は、この組んだ屋根を基礎に乗っけて固定すれば、それで作業終了です」

「あしたもがんばります」

「これでかんせいするんだな」

「たのしみです~」


 明日の作業はまあ、エルフの皆さんは見学が主になるけど。

 基礎が固まるだろう、午後位の作業になる。午前中はのんびりしていようかな。

 それと、今日独立して作業していた二人組はどんな感じだったかな?


「おい大志、このにいちゃん結構筋がいいぜ」

「けんちくって、いいな~」

「またなんか建物作るときは、教えてやるぜ」

「たのんます!」


 マッチョさんと高橋さんが肩を組んでわっはっはとやっている。問題なかったようだな。

 マッチョさんもどうやら色々勉強できたようで、良かった。

 おまけにすっかり打ち解けているしで、コンビを組んで作業してもらって正解だったか。


 この二人の打ち解けようを見るに、これから村で何か建築する際はこのコンビに任せるのも良いかもしれない。

 高橋さんは建築を教えるのが好きだし、マッチョさんは建築に興味がある。

 最適の組み合わせなんじゃないかな。

 そして、マッチョさんがそれで建築を色々覚えてくれれば、エルフ達が出来ることの幅も広がるかも。

 思わぬ収穫だな、これは。



 ◇



 高橋さんは色々測量するとかで温泉に残ったけど、こっちはこっちでイベントがある。

 皆さんお待ちかねのおふとんの納品だ。

 トラックに積んであるおふとんを、持って行ってもらおう。


「さて、これから皆さんお待ちかねのおふとんを納品します」

「「「おふとん!」」」


 おふとんと聞いた途端、エルフ達は顔が「ぽわわん」となった。

 まだ納品してないんだけど……。


「タイシタイシ-! おふとんあるです!?」


 ハナちゃんも大興奮で俺の体をよじ登って、肩車になった。

 おふとんでおねむする快適さを唯一知っているだけに、興奮度合いも最高潮だ。


「みんなの分があるから、これから運ぼうね」

「あい~!」


 ハナちゃんを肩車したまま、トラックから枕付きのおふとんが一式になったパッケージをおろし、並んで待っている皆さんに渡していく。

 一式なので結構重量があるだろうけど、皆大喜びで抱えていった。


「おふとん……おふとん……しこうのひととき……」

「こどもといっしょに、おふとんでおやすみ……」

「ふわふわおふとん……ぽかぽかおふとん……かぞくもおおよろこび……」


 ……持って行く時の皆さんの目が虚ろだったのは、気のせいだよね……。

 まあ、喜んでいるから良いかな。良いよね。良いに違いない(正当化)。


「あれ? タイシさん。おふとんけっこうたくさんあまってますけど……」

「あまってるです~」


 全員がおふとんを持っていった後、ヤナさんがおふとんの余剰に気づいた。

 この余剰分は俺からの贈り物って所かな。


「ええ。予備と集会場での雑魚寝用です」

「よびにざこねよう、ですか」

「ええ。集会場にあったら、こないだみたいな時に便利ですし」


 集会場で雑魚寝して、親睦を深める機会はこれから何度もあるだろう。

 さしあたっては今日だな。高橋さんも泊まるし、早速使うことになる。


「なるほど。それはいい」

「タイシタイシ! またこんど、ざこねするです~!」


 ハナちゃんも雑魚寝用布団に大喜びだし、自腹切って良かったな。

 この追加のおふとん、有効活用していきたい。


 そして――ここで不意打ちです。


「ちなみに、この淡い赤色、いわゆる桃色のおふとんは神様用です」

(なんですと)

「かみさまよう、ですか?」

(ほんとに!?)

「せっかくですので、神様にもふわふわおふとんを堪能していただこうかと」

(ほ……ほああ……)


 このおふとんだけ、ちょっと良い奴にしてある。

 神様だけ特別扱いだ。なんたって世話になっているからね。


「ありがたいことです。かみさまもよろこぶとおもいます」

「そうなったら、良いですね」

(み、みなぎるー!)

「みなぎってるです~」


 ……確かに、凄くみなぎっている感じの空耳は聞こえるかな。

 まあ、今までで最高額のお供え物だ。堪能していただきたい。


(ありがとー!)

「あ、早速光り出しましたね」

「これまでにない、がんばりようですね」


 神様用のおふとん一式が光り始めた。早速お供えが始まったんだな。

 でもこれは大物ですよ、頑張って下さい。


「すごくひかってる。もうピッカピカだな~」

「ひかりもこころなしか、ももいろっぽい」

「がんばってです~」

(がんばる~!)


 ――それからしばらくの間、桃色のおふとん一式がピカピカ光り続ける。

 一生懸命おふとんを持って行こうと頑張るその光景を、皆でほんわか眺めたのだった。


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