第四話 そんなに来ちゃったの?
業務用スーパーに着いたが、これからどうしようか。とりあえず親父に報告だけはしないとな。
とりあえず電話しとこう。
親父の携帯に電話を掛けると、数コールでつながった。
『おう大志、どうした?』
「あ、親父? 村になんか客が来てたわ」
『お! とうとう来たか! ――で、どんな客がきた?』
「――なんかエルフが来てた」
さて、どんな反応が返ってくるか。
『お! エルフ! いいね~エルフか~』
楽しそうなうれしそうな反応が返ってくる。やっぱエルフってだけ聞くとそうなんだろうな。
――そう、エルフってだけなら問題は無かったんだ。
「俺も最初はそう思ったんだよ。けどさ、ちょっと問題があって……」
『問題? 一体どうしたんだ?』
「腹を空かせているのはいつもの事だけど、今回は人数がね……多かったんだ」
『人数が多い? 十人くらい来ちゃったのか?』
何組もの客人を手助けした経験のある親父ですら、多いと聞いて十人位を想定するんだな。
実際に来た人数告げたら、絶対びっくりするぞこれ。
「……それがさ、三十人位来た」
『さんっ……!』
電話越しに何かが割れる音がした。「ガチャーン!」て感じで。
「大丈夫? なんか割れた音がしたけど」
『あ、ああ。大丈夫……。びっくりして湯呑を落としただけだ』
お茶でも飲んでたか。やはり驚いたのかものすごい動揺っぷりだ。
「気持ちはわかる」
『しかし大志、その人数ほんとなのか? 多分それ過去最大だぜ? しかもぶっちぎりの』
「これが本当なんだな……」
過去に来た客人で聞いた限りだと、最大で十人位だ。
三十人程が一気に来たことなんて、俺が知る限り一度も無いんだよなあ。
『大志が小学生の時に来た客人の高橋さん、あの時が俺の代での最大人数だったんだぜ?』
「七人だっけ」
『そうだ。その時の四倍以上の人数来ちゃってるんだな。これは大変だわ』
実際村にある施設も、十人位を想定して整備している。
三十人ではいろいろと不足が出てくることは間違いない。
ただ、遥々世界を超えてうちを頼ってきてくれた客人だ。
たとえ人数が多かろうと手助けすることに変わりはない。
義を見てせざるは勇無きなり。
「まあ、せっかく頼ってきてくれたんだから、できる限りのことはするさ」
『逆に考えれば、沢山人が来て賑やかで楽しくなるんじゃあないかな』
……そうか、そういう考え方もあるな。
確かに無人で寂しかった村が、一気に賑やかになった。
大勢人が居れば楽しいことも沢山あるだろう。
「そうかも。うちもエルフ達も、お互い色々苦労はするだろうけど、賑やかになることは間違いないよ」
『そうだな。数が多いんで村づくりって規模の話になると思うが、出来ないことはないと思うぞ。俺も手伝うし』
村づくりか……人数から言えば、そうなるか。
幸いにも家や炊事場などのある程度の施設は整っているのと、土地だけはある。
親父の言うとおり出来ないことは無いかな。
――ただし、俺一人じゃ無理だ。
親父や友人、そのほかの知り合い等の手を借りないと出来ないだろうな。
勿論エルフ達の力だって借りる。人数が多いから、出来る事も色々あるだろう。
……さしあたっては、親父の力を借りることになるだろうな。
「手伝い頼む。一人じゃちょっとね」
『そこんところはまかせろ。そんで、今なんか俺が手伝えることあるか?』
今出来る事……食料援助の相談をしてみるか。なんせ約三十人分だ。
「まず食料を渡して腹を満たしてもらおうと思ってるんだけど、どうすればいいかな。今食料調達するために業務用スーパーに来てるんだけど」
『お、じゃあインスタントラーメンでも買ってけば、とりあえずしのげると思うぞ。そこ十八号沿いの店だろ?』
「そうそう、そこ。じゃあインスタントラーメンでも大量に買ってくか。鍋は村にあるやつ使えばいいよね。ガスもまだあるし」
村にはプロパンガスを設置してあるけど、ガスが切れたらボンベをガス屋さんに持って行って充填してもらわないといけない。
まあ、これのおかげで薪で料理をしなくても済むようになった。
というより、村に人がいない状況で、可燃物を積み上げて保管するのは危険極まりない。
安全を考えて、プロパンにせざるを得なかったんだよな。
『ガスがあるって時点でいいよな。おれん時は燃料に不自由したぜ』
親父の時は薪、炭、豆炭と駆使していたらしい。ガスを設置したのは俺の代からだ。
「ガスは便利だしね。ただ、これからは人が大勢いるようになるから、薪も使うことになると思うけど」
ガスだけで毎日約三十人分の食事を調理していたら、あっという間にガスが切れてしまう。
なるべく早いうちに切り替えないといけない。
『細かいことは後で考えればいいさ。今はまず飯を振る舞ってあげろよ。腹空かせてるんだろ?』
「そうだな。細かいことは後にしてまずラーメン食べてもらうわ。助言助かったよ」
『がんばれよ。じゃ』
よし、方針は決まった。
エルフ達には、インスタントラーメンを振る舞う方向でいこう。
即席麺コーナーにあるよね。
即席麺コーナーを探し当てたけど、予想通り沢山の商品が箱売りしていた。
そして、とある商品に目が留まる。
「おっ、コンちゃんラーメンが箱売りしてる」
中部地方の一部地域でしか売ってないラーメンだけど、ここ長野ではおなじのラーメンだ。
俺が生まれる前から売っている、超ロングセラー商品らしい。
これ、俺も子供のころよくおやつに食べたなあ。懐かしいなあ。
エルフ達にもこのラーメンを食べて貰いたいな。
うん。これにしよう。これがいい。
じゃあこのラーメンを買うとして、どのくらい買おうかな。
……とりあえず、一箱三十食を十箱買えば間に合うかな。
ラーメンはこれでいいとして、あとは卵も買うか。
このラーメンに卵を投入すると一層美味しくなるからね。百個も有ればなんとかなるだろう。
そしてラーメンを箱買いし、卵も大量購入した。
この大量の食糧をよっこらせと車に積み、一路村へと引き返すことに。
これから三十人分のラーメンを作る大仕事の始まりだ。
……果たして喜んでもらえるだろうか。喜んでくれたらいいな。
まあ、喜んでくれるかどうかは、食べて貰わないとわからないか。
それにエルフたちは割と切羽詰まっていたから、早いところ食べさせてあげよう。
このラーメンでお腹を満たしてもらおう。
さて、村に急いで戻ろう。