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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第五章  エルフ農業(中級編)
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第十六話 ワサビちゃん畑

 とりあえずワサビちゃんの生態の一つはわかった。

 畑に集まるのも、家の外に集まるのも、LEDの光が原因だったわけだ。

 色々興味は尽きないワサビちゃんだけど、延々と観察しているわけにもいかない。

 今日はこれ位にして、引き上げよう。


「それでは皆さん、ある程度謎は解けましたので、今日はこの位にしましょう」

「そうですね。だいぶよふかししてますし」

「そろそろねるです~」

「おれはもうちょっと、かんさつしてく」


 ……マイスターはこのまま観察を続けるようだ。

 もう既に、おっきな葉っぱを使ってテントみたいなのをこしらえ始めている……。

 それじゃあ、LEDの懐中電灯を渡しておこうかな。

 二十四時間は持つやつだから、朝まで使っても余裕なはずだ。


「それでは、これを渡しておきます」

「おお、ありがたい。あしたかえせば、いいかな?」

「良いですよ。存分に活用してください」


 こっちは親父の持ってる懐中電灯があるから、まあ問題ない。

 それじゃ、帰ろうかな。


「では、観察頑張ってください」

「おう」

「おやすみです~」


 マイスターに手を振りつつ、皆でのんびり家に向かって歩き出す。

 今日も面白い一日だった。まさかワサビちゃんがあんな習性を持っていたとは……。

 上手くすれば、家庭菜園にワサビちゃんが侵入するのを防げるかも。


 何らかのLED光源を森の近くに設置して、そこの土を耕すか砂場にする。

 そうすれば、ワサビちゃんもわざわざ家庭菜園まで進出してこなくて済むのでは。

 こっちも無理やり引っこ抜かなくて済むし、ワサビちゃんも引っこ抜かれなくて済む。

 お互い棲み分けられるのではないだろうか。

 試してみる価値はあるな。

 

 ――問題はどうやって実現するかだけど……。

 東屋が来たらつけようと思っていた、ソーラー式の街灯が使えるんじゃないだろうか。

 あれなら、昼間充電して夜に点灯する。

 そして街灯用なので耐候性があり、メンテナンスも不要だ。良いかも。

 その街灯が照らす範囲を、ワサビちゃん用の畑にするなり砂場にするのも、すぐにできる。

 うん、明日やってみよう。


「タイシタイシ、なにかおもいついたです?」


 俺の隣をぽてぽて歩いていたハナちゃん、にこにこしながら聞いてくる。

 俺がなにか思いついたのを、なんとなく感じ取ったのかな。

 ……まあ、このパターンおなじみだし、まる分かりか。


「タイシのいまのひょうじょう、なにかおもいついたときのかおです~」


 ハナちゃんが、ばんざいするような仕草で、わかっちゃったよアピールをした。

 割と長いこと一緒に居たから、お互いのパターンも読めてくるのかもな。

 俺もばんざいポーズで、ばれちゃったアピールをしとこう。


「そうか~。分かっちゃうか~」

「わかっちゃうです~!」


 そうしてハナちゃんとばんざいしたりして、キャッキャしながら家に帰る。


 しばらくぽてぽてキャッキャと歩いているうちに、ハナちゃんちに到着。

 ちょうどいいから思いついたことを説明しよう。

 どっこらしょと皆で腰を落ち着けて、車座になる。


「それじゃ、ワサビちゃん対策として思いついたことを説明します」

「あい~」


 とりあえず、お試しでやってみようとさっき思いついたことを説明した。

 


 ◇



 翌日。


 今日は一日休みだけど、俺と親父は朝から町へ出ていた。

 明日の田植えで使う苗を引き取ったり、ソーラー式のLED街灯を買うためだ。

 そして苗の引き取りも街灯の購入も滞りなく終わり、ついでに子猫亭に顔を出すことにした。


「こんちは。調子どうです?」

「おお! 大志と志郎さんか! 丁度いいから試食してってくれ!」


 お店はランチ営業の為の仕込みをしているようだったけど、大将が威勢よく出迎えてくれた。

 そしていきなり試食のお誘いだ。


「メニューも大詰めでな。ほぼ完成してるんだが、折角だから意見を聞かせてくれ」

「わかりました」

「俺もご同伴にあずかろうかね」

 

 そして俺と親父はカウンターで試食の為に待っていたのだけど……。


「これが全メニューだ。まあ組み合わせただけなんだが、結構な種類になったろ?」


 大将が笑顔で持ってきたラップサンドは、十種類か。

 移動販売でやるなら、十分なメニュー数じゃないかな。


「種類が豊富ですね。良いじゃないですか」

「本当はもっと組合せができるんだけど、まあ厳選してこれくらいになったんだ。ささ、食べて感想を聞かせてくれ」

「わかりました。頂きます」

「頂きます」


 親父ともぐもぐ試食をする。


 ――おお! ひき肉からふわっとニンニクの香りが漂い、バーベキューソースの味が追いかける。

 そして、トルティーヤの生地と野菜の味が混ざり合って、さっぱりとした後味に変わっていく。

 さすがプロの料理人だ。ガツンとインパクトがある味なのに、最後は綺麗にまとまっている。

 ――これは売れるんじゃないかな。


「大将、これ美味しいですよ。売れますよ」

「これは美味いわ。若いもんにうけるんじゃないか?」

「そうだろそうだろ? 徹夜して頑張ったんだぜこれ」


 俺たちの感想を聞いて、大将もにっこりだ。

 さんざん苦労して右往左往して、ようやくできたメニューだ。

 美味しいと言われて、嬉しくないわけがないよな。

 多少なりとも、お役に立てて良かった。


「このニンニクの香りと味を付けるのが上手く行かなくてな、そこにあのワサビ? が役立ったんだ」

「ニンニク使うのって、そんなに難しいんですか?」

「まあな。ニンニクの香りを出すにはある程度の量が必要なんだけど、そうするとニンニク風味が強くなりすぎて他の味を壊すんだ」

「へえ~」

「そこで、あのワサビを使ったわけよ。バーベキューソースとワサビとニンニクの配合、良い割合がようやく見つかってな。配合と調理手順しだいで、香りを増幅しつつ、味を抑えるとかできるんだぜあれ」


 そんなこと出来るんだ。凄いな。

 もうそこまで使いこなせているあたり、熱心に研究したんだな。

 納得の完成度だ。

 料理はこれでい良いとして、あとは販売を始めるだけに思える。


「もう後は始めるだけですか?」

「ああ、来週には始められる。まずは様子見でぼちぼち売るように計画してるけどな」


 来週なら、村の方もひと段落ついている頃か。

 子猫亭が移動販売を始めたら、モールの方に顔を出してみようかな。

 協力した身としては、やっぱり気になるし……。


 でも、こっちはこっちで、ワサビちゃんの研究もしなきゃいけないんだよな。

 子猫亭のことは後で考えるとして、こっちはこっちの事を頑張るか。

 帰ってワサビちゃん畑を作ろう。


「なかなか順調そうで良かったです。では、私たちはそろそろお暇します」

「おう! また顔出してくれよな! 歓迎するぜ!」

「ええ。ちょくちょく顔をだしますよ」


 そうして席を立って店から出ようとしたとき、ふとエルフ達の顔が頭をよぎった。

 このメニューが出来たのも、彼らの助力あってのことだ。

 食べさせてあげたいな……。


 このラップサンド、エルフ達へのお土産にできないかな?

 聞いてみよう。


「大将、このラップサンド、沢山作れます? お金は払いますので」

「まあたんまり作れるけど、そんなに沢山どうするんだ?」


 お、大丈夫みたいだな。理由はそのまんま伝えれば良いか。


「ちょっとお土産にしようと思いまして」

「お土産ね……ちょっと待っててくれ。すぐに作るから」

「お願いします」

「良いって事よ」


 そうして、大将は腕まくりをしながら厨房に入っていった。

 このお土産、エルフ達は喜んでくれるかな?



 ◇



 沢山のお土産を調達して、十時ちょっと過ぎくらいに村へ到着。


 持ってきた苗は親父に任せて、俺はワサビちゃん畑の整備に取り掛かるとしよう。

 二メートル程度の杭三本と固定用ワイヤー、ソーラーLED街灯は三つある。

 さらに工具を抱えて、ハナちゃん菜園に向かった。


「あ、タイシ! はたけ、たがやしといたです~!」

「お、ハナちゃん有難う。皆さんもお手伝い有難うございます」

「ひろさは、これくらいでいいですか?」

「ええ、問題ないです」


 ハナちゃん菜園に到着すると、エルフ達が集まって畑仕事をしていてくれた。

 昨日話した案を実現するため、朝から皆で協力してくれたわけだ。

 いずれ砂場も作ろうかとは思うけど、砂を調達してくるのは若干大変だ。

 今回はお試しと言うことで、土を耕すに留めることにした。


 そしてエルフ達のおかげで、一番手間な部分はもう終わっている。

 あとは街灯を設置するだけで済んでしまう。

 お昼前には終わらせてしまおう。


「タイシタイシ、これなんです?」


 ハナちゃんが杭やら街灯やらを指さして、好奇心いっぱいの顔で、周りをくるくる回っている。

 他の皆さんもわいわいと集まってきた。


「この杭を立てた後、この街灯を設置して夜の明かりとします。そうすれば、ワサビちゃん達が夜に光を浴びられるようになります」

「へえ~」

「がいとう?」

「おうちについてるあかり、あれそとにもつけられるんだ」


 街灯の見た目は各家庭につけたライトとちょっと違うけど、基本は同じ。

 耐候性を持っている点と、センサーで夜間に自動点灯する機能がある。違いはそれくらい。

 その違いの分お値段は高いけど、性能は良い。


「これ、夜になると自動で明かりが点きますので、設置してしまえば手間がかからないんですよ」

「べんりだな~」

「じどうであかりがつくとか、すてき」

「おれのじまんできるもののなかに、ひかくたいしょうがなかった……」


 ……街灯の説明を聞いてキャッキャしている彼らはさておいて、さっそく設置しちゃいましょう。

 まずは杭を立てよう。こいつで良いかな。


「よいしょ――っと!」


 杭を手に取って、もう強引に地面につきたてる。

 本当は槌で叩いて埋めるけど、めんどいので力技でぶっさす。


「ええ……」

「おかしくね……ふつうむりじゃね……」

「どんなちからしてるの……」

「タイシ、ちからもちです~」


 あれ? 力技で杭をぶっさしたら、エルフの皆さんドン引きしてるけど……。

 これくらい普通じゃない? 全然本気だしてないけど。

 ……まあいいか。他の杭も設置しちゃおう。


 そうして、ドン引きする皆さんをよそに杭を三本とも設置した。

 すぐさま固定ワイヤーも設置する。これで土台は完成だ。


「あとは、この街灯を杭のいい感じの位置に付けるだけです」

「あっというまに、くいうっちゃったよ……」

「おれらがやったら、はんにちかかったんじゃね?」

「おかしい、なにかがおかしい」


 ぷるぷるするエルフの皆さんをよそに、街灯もちゃっちゃと設置していく。

 ステーをしっかり固定すればいいだけだから、あっという間に終わる。

 ――よし、作業終了。


「これで作業は終了です。日没後になったら、また様子をみる予定です」

「「「はーい」」」

「それじゃ、お昼にしましょう。お土産がありますので、楽しみにしていてください」

「「「わーい!」」」


 お土産と聞いて大喜びの皆さん、キャッキャしながらお昼の準備を始める。

 俺も準備を始めるかな。お昼の献立をちょっと変えてもらわなきゃいけないし。


 ぼちぼちと歩いて炊事場に到着すると、奥様方がせっせとお昼の準備を始めていた。


「きょうはなにつくろうかしら~」

「さいきん、こんだてのネタがつきてきたの」

「あたらしいおりょうり、かんがえなきゃね」


 献立のマンネリ化に若干悩んでいる様子だけど、俺も料理はそんなに詳しくはない。

 とりあえずそのうち、調味料をもっと持ってこようかな。

 一つ調味料が増えるだけでも、幅が広がるはずだ。

 それはそのうちやるとして、献立の要望を伝えよう。


「すいません、今日の献立ですけど、汁物だけにしてください」

「しるものだけですか?」


 カナさんがきょとんとした顔をする。

 まあそうか……お土産の内容を話していないから、汁物だけにしてって言われてもわからないよね。

 理由を説明しておこう。


「お土産は食べ物なので、主食はそれにしようかと。なので汁物だけ用意して頂ければと」

「わかりました」

「おみやげ、たのしみなの」

「あら~いいわね~」


 話はまとまったので、奥様方には汁物だけだけど、お料理を頑張ってもらう。


 そうして、お土産を車から運んだり、奥様方がわいわいとお料理をしているうちに、全員が集まった。

 汁物はもうできているし、お土産を配ってお昼にしよう。

 ラップサンドが入っている、発泡スチロールケースのふたを開けて……と。


「はい、皆さん。これがお土産です」

「おお~」

「おいしそうなにおいがする~」

「みためも、おしゃれ~」


 ラップサンドを見た皆さん、お腹をぎゅるぎゅる鳴らしながらケースをのぞき込んでいる。

 各自に持って行って貰えば良いかな。一人二つだ。

 

 ――と、皆に持って行って貰う前に、神様にもお裾分けしなきゃな。


 お皿に四つほどラップサンドをとりわけて……と、これでいいかな。

 それじゃ、森にある祭壇までちょっくらいってくるか。


「あ~皆さん少々お待ちを。ちょっとこれ、神様にお供え――」

(わーい!)


 ――お皿がピカっと光った!

 そして気づくと――手には何も持っていなかった。


 ――速攻だ! 神様速攻で持ってった。しかも皿ごと!


 ……うん、祭壇まで行かなくて済んで、よかったよかった。

 そういうことにしよう。


「……お供え完了です。多分」

「はやかったな~」

「いっしゅんだった」

「こんどはおさらごとなのね」


 ……予想外の速攻お供えがあったけど、気を取り直してお土産を配ろう。


「それでは皆さん、二つで一人分となりますので、各自持って行ってください」

「タイシタイシ、このたべもの、だれがつくったです?」


 ハナちゃんが目をキラッキラさせてお土産を見ている。


「これはね、お料理を専門にしている人が作ったものなんだ。すごく美味しいよ」

「すごくおいしいです!? たのしみです~!」


 すごく美味しいと聞いて、ハナちゃんがぴょんぴょんし始めた。

 早く食べたくて仕方がない感じだ。


「すごくおいしいんだって」

「たのしみすぎて、おなかがなりそう」

「おりょうりがせんもんて、すごいな~」


 他の皆さんもわくわくしている。

 あと、お腹はさっきから鳴りっぱなしですよ、ステキさん。

 鳴りそう、ではなくて、今まさに鳴ってます……。

 ……うん、早い所持って行って貰おう。待ちきれないみたいだし。


 そして五分程度でラップサンドと汁物は行き渡った。

 それでは、お昼を食べましょう!


「では、頂きます」

「「「いただきまーす」」」


 大将謹製のラップサンドをもぐもぐ食べ始める皆さん、料理人が本気で作った料理に舌鼓を打っている。


「タイシ~、これすごいです~! いろんなあじがするです~!」

「美味しい?」

「すごくおいしいです~!」


 ハナちゃんはラップサンドを大喜びでもぎゅもぎゅしている。

 まあ、ハナちゃんは割と渋い味覚しているから懐が深い。

 大抵の物は美味しく食べられるんじゃないだろうか。

 他の方々の反応も気になるな、どうだろうか。


「なにこれすげえうまい」

「おいしい~。おりょうりのせんもんかとか、すてき~」

「こんなにあじがふくざつなのに、けんかしてないのはすごいな~」

(おいちー!)


 子供も含め、他の方々にも好評だ。

 異文化の彼らも美味しいっていうんだから、大将のラップサンドは売れると思う。いい感触だ。

 これは、子猫亭が本格的に移動販売したときが、楽しみだ。


 こうして、大将のラップサンドを食べながら、のんびりとお昼を過ごしたのだった。



 ◇



 その後、温泉に入ったりハナちゃんと遊んだり、夕食を食べたりしているうちに、日没になった。

 さあ、ワサビちゃん畑の様子を確認だ。上手くいっていると良いな。


 皆も興味があるようで、ぞろぞろとワサビちゃん畑に向かう。

 遠目からみても、街灯はきちんと動作しているな。畑をまんべんなく照らしている。

 ここまでは想定通りだ。あとは……ワサビちゃんがこれに気づくかどうか……。


「ぴっぴぴー」

「ぴっ」

「ぴぴー」


 ……問題なくワサビちゃんがたむろってた。


「タイシ! たくさんいるです!」

「上手くいったみたいだね」

「だいせいこうです~!」


 ぴょこぴょこと光で照らされている範囲を歩き回ったり、くつろいだりしている。

 お試しで作ったワサビちゃん畑、思ったより上手くいっている。

 何でもやってみるもんだな。これには俺もにっこりだよ。


「うわ~。あのざっそう、こんなんなるんだ」

「はじめてみた~」

「めっちゃくつろいでないかな?」


 ワサビちゃんが歩き回るのを初めて見た方々は、興味深げにワサビちゃんを見ていた。

 今は夜中だし、ワサビちゃんものびのびとしている。

 後は朝になったら、このワサビちゃん畑のある範囲でとどまっているかどうかを、確認しよう。

 ちゃんと狙い通りにこの畑にとどまっていてくれたら、ひとまずは成功って言える。


 ぴょこぴょこ歩くワサビちゃん、心なしか元気があるように見えるな。

 よかったよかった。


「……あえ?」


 ん? ハナちゃんが顎に手を当てて、何か考え始めた。


「あえあえ?」


 首を右に傾け、左に傾け「あれ?」みたいな顔をした。

 くりくりしたおめめも、右に左にせわしなく動く。耳もぴこぴこ動く。

 何を考えているんだろう?


「……あや! あややや!」


 あれ? ハナちゃんがなんだか「あっ!」て顔をして、耳がピーンとなった。


「タイシ、タイシ……」


 そして、服の裾をクイクイと引っ張って呼びかけてきた。

 

「タイシ……ハナは、たいへんなことにきづいちゃったです」


 ぴしっと無表情になったハナちゃん。耳も水平になる。

 ――大変なことに気づいた?


「どうしたの? 何に気づいちゃった? 大変なことみたいだけど」

「……あい~。たいへんです~」


 もじもじとするハナちゃん、何か言いづらそうだ。そしてどんどん下がっていくエルフ耳。

 しかし大変なことという話だ。聞いておく必要がある。


「大丈夫だよ、その気づいちゃったこと、言ってごらん?」

「あい。タイシはこのワサビちゃん……しゅうかくできるです? ハナにはむりです~」


 ――え?


 ……ワサビちゃんを収穫できるかって?

 んんんん?


「ぴ?」


 今は夜だよね。このままワサビちゃんを「むんず!」と掴めば叫び声もなしに収穫できる。

 収穫できる……。

 収穫……。


「ぴぴ?」

「ぴ」

「ぴっぴー」


 ……。

 …………。


「ぴー?」


 ――無理! 無理無理!


「……むりです?」

「うん……無理……」


 うわあ! どうする!

 これ見て収穫するとか無理にもほどがある!

 どうするよこれ!


「おれもちょっと、むりかな……」

「さすがにこれみちゃうとなあ……」

「わたしもむり」


 エルフの皆さんに視線を向けてみるけど、同意見のようだ。

 ですよね~。


 ああああ。

 これは困った……。


 子猫亭の移動販売開始はもう目前。そしてワサビちゃんは必須食材となっている。

 だが我々はワサビちゃんを収穫できないでござる。


 ――おおう。詰んだ……。

 俺も「あえ~? あえ~?」ってわたわたしたい。どうしよう……。


「おこまりのタイシさんに、ろうほうです」


 ん? マイスターがドヤ顔でこっちに来た。

 朗報って言ってるけど、なんか打開策があるんだろうか。


「ぴ?」


 いや、無理じゃね?


 しかし、マイスターは自信満々のドヤ顔である。

 ……とりあえず聞いてみよう。


「朗報とは、何でしょうか」

「きのうかんさつしてるときに、ひとつおもいだしたことがあったんだなこれが」


 思い出したこと? そういや昨日残って観察するって言ってたな。今の今まで忘れてた。

 すんません。


「こっちのつきも、たまにみえなくなるときがあるっぽいじゃん?」


 え? 唐突に天体の話?

 ……月が見えなくなる? 新月って事かな?


「あのお月様なら、だいたい三十日くらいの周期で、見えなくなりますよ」

「まえにいっかいかにかい、そうなったきがしたけど、やっぱそうか!」


 お月様を指さして言うと、マイスターはキャッキャし始めた。

 一か月以上こっちに居るわけだから、そろそろ法則にも気づく頃かな?

 ……まあそれはそれとして、月齢がどうしたんだろうか。


「そんでさ、あとどれくらいでつきがみえなくなるか、わかる?」


 次の新月がいつ頃か?

 ……前の満月が十二日、もしくは十三日前だったかな……。

 満月から数えて十五日位で新月になるはずだから、あと二日か三日くらい?

 ちょっとスマホで調べてみよう。


 月齢カレンダーっと。……うん、明日から数えて三日後に新月だ。


「明日から数えて三日後で、お月様は見えなくなりますよ」


 そういや、その頃ならちょうど田植えも終わってるな。


「うん、すぐだな。じゃあそんときわかるとおもう」

「何かあるんですか?」

「おれもきいたことがあるだけなんだけど……まあ、それがほんとならたぶんな」


 聞いたことがあるだけらしいけど、ここはマイスターの話に乗ってみよう。

 あとは、何があるかは今は言いたくないっぽいんだよな。

 ダメ元で聞いてみるかな?


「何があるかは、今は言えないんですか?」

「うん。しらないままじっさいにみたほうが、いろいろとかんがえられるとおもう」

「色々とですか……」


 マイスターはマイスターで、何か計画があるっぽいな。


「タイシさんはもうさ、このワサビちゃん? のことだいじにしようってこうどうしたじゃん?」

「ええまあ。成り行きでしたけど……」

「それでもさ、ちゃんとけっかだしたじゃん? でもおれらはまだ、そこまでいけてない」

「畑仕事を手伝ってくれたのに?」

「うん。おれらはまだ、タイシさんほどには……ワサビちゃん? のことかんがえられてはいないかな」


 そうなのかな……よくわからない。

 わからないけど――ここは一つ、マイスターの言うとおりにしよう。


「まあ……良くわからないですけど、その考えに乗ります」

「おお! そういってくれるとおもってた!」


 マイスターは俺が賛同したことに勇気づけられたようだ。

 ドヤ顔がさらにドヤっていく。


「それじゃ! つきがみえなくなるときを、たのしみにしていてくれ!」


 まあ、田植えの後、新月の夜に何かがある。それを待とう。

 ここまでマイスターが自信を持っているんだから、それを信じよう。


 そしてマイスターのドヤ顔をみた皆さんはというと……。


「そのかおやめて」

「めっちゃドヤってるけど、やめて~」

「はいはいドヤがおやめるべし」

「もっとほめてくれ」


 マイスター……それ褒めてないよ?


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