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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第五章  エルフ農業(中級編)
63/448

第十二話 そこは専門家に

「もっぴょおお!」

「おろろろろろろろーん!」

「めえええええーん!」


 他の方々の手を借りて、ハナちゃん菜園の雑草は何とか除去できた。

 しかしほんとうにうるさいなこれ。最後のとか剣道みたい。

 こんなのが常に生えてきたんじゃ、畑仕事がままならなくなる。どうしたらいいかなあ……。


「さすがにつかれた……」

「みみがキーンとしっぱなしだわ~」

「せめてこのねっこが、たべられりゃあなあ……。このくろうもむくわれるんだけど」


 手伝ってくれた皆さんも、うるささにぐったりとしている。

 これだけ大変なのに食べられたもんじゃないとか、泣けてくる。

 いや、……葉っぱは美味しいって話だったな。

 せめてこの苦労を有効にできるよう、何か考えてみるか。


「これって、食べても大丈夫なんですよね?」

「だいじょうぶだな。はっぱのほうは、せんじてのむのがいいかんじ。ねっこはキツすぎてむりだとおもう」


 マイスターがふむふむと雑草を観察しながら回答してくれた。

 葉っぱはまあ、お茶にして飲むようにしようか。

 いい感じって言ってるし、それだけでも救いだ。

 せっかくだから、雑草駆除後の一休みってことで、この葉っぱを煎じてお茶会でもしよう。


「それじゃ皆さん、休憩がてら、この葉を煎じて飲みましょうか」

「お、いいですね」

「のむです~」


 たくさんの雑草を抱えて、炊事場に移動する。

 とりあえず水で洗おうかと、雑草を水に漬けてばしゃばしゃやってみる。

 土が落ちると、よりはっきりと人の形をした根っこが浮かび上がる。

 やっぱり腰のあたりのくびれが蠱惑的。

 まあそれは良いとして、葉っぱをむしって煎じてみるかな。


 やかんに葉っぱを投入し、じわじわと沸かすこと数分。

 さわやかな緑色の、ミントみたいな香りのする液体が出来上がった。

 香からすると、美味しそうな感じはする。

 そして皆にこの謎液体を配り、さて飲みましょうかとなった。


「では、飲みますか」

「「「いただきまーす」」」


 俺も一口すすってみる。

 ――おお! ほのかに甘酸っぱいミントティーみたいな味だ。美味しいぞこれ。


「これ、美味しいですね」

「ええ。はっぱはおいしいんですよこれ。よくのんでました」

「ほっとするあじです~」


 皆ものんびりとお茶を啜っている。良く飲んでいたというだけだって、くつろいだ様子だ。

 この味なら、まあ多少は救われるか……。あの苦労に比べたらささやかなものだけど……。

 ――と、葉っぱをむしった後に残った大量の根っこが目に入る。これどうしようかな……。


「ヤナさん、この根っこ、どうしましょう?」

「ほっとくしかないですね……」


 この、ちょっと蠱惑的な根っこ、やっぱりほっとくしかないか……。

 何かに使えたらいいんだけどなあ……。

 ……味見、してみようかな。どれほど辛いか興味はあるし。ちょこっと切り分けてみよう。


「タイシさん、はものをとりだして、どうするんですか?」

「ちょっと味見しようと思いまして」

「いや、はんぱではないほどからいですよこれ」

「やめたほうがいいです~」

「うん、あのからさはかなりアレなかんじ。きっついとおもう」


 マイスターが止める程の辛さか……。

 危険物に指定されるほどの辛いソース並みだったらやばいかも……。

 まあちょっとだけ、ほんのひと欠片だけだからだいじょうぶだと……いいな。


「まあ、何事も実験ですよ。胃袋は頑丈なので、大丈夫です」

「タイシさんがそういうなら……」

「あのからさにちょうせんするとか、ふるえる」

「そのこころいき、みならいたい」


 俺が包丁で根っこの皮むきをするのを、若干引いた様子で眺める皆さん。それほど?

 まあもう準備はできちゃったので後に引けない。やるしかない。

 よし――気合を入れていくぞ!


「では、行きます!」

「「「ひえええ」」」


 ひと欠片を口に入れる俺を見て、戦く皆さん。さて、お味は――あれ?

 ……なんだ、ワサビじゃん、これ。拍子抜けしたわー。気合いれて損したわー。


「あれ? へいきなかおしてる」

「なんでもないかんじ」

「うそでしょ? おれがたべたとき、からくてのたうちまわったのに……」


 いや、これのたうちまわるってほどの辛さじゃないよ。

 美味しいよこのワサビ。これだけで食べられる水準で美味しいよ。

 ……刺身食べたくなってきた。これで食べたらかなり美味しくなるだろうなー。


「おい大志、どんな味なんだ?」


 親父も気になったのか、味を聞いてきた。

 まあワサビ味だよって言えば済むけど、ここは実際食べて実感してもらおう。


「刺身が食べたくなる味かな?」

「刺身? 何でまた刺身なんだ?」

「親父、食べてみたらわかる。これは刺身が食べたくなる」

「食べたらわかるって……まさか」


 親父もすぐさまひと欠片を口に放り込む。

 ……ほら、驚いた顔になった。やっぱり同じ意見だよな。


「大志、なんだこれワサビじゃないか」

「うん。しかも凄い美味しいよねこのワサビ」


 もうワサビ扱いで良いよねこれ。俺と親父の認識では、完全にワサビだし。

 良いじゃんこのワサビ。あの苦労が完全に報われたというか、むしろ栽培したいよこれ。

 もうひと欠片いっとくか。……うん、美味しい。


「おいしいっていってる」

「ワサビ? なにそれ」

「へいぜんとたべてる……」


 まあ、ワサビとして考えれば、かなり美味しいと思う。

 辛さもあるけど、ただ辛いだけじゃ無い。なんというか、旨味のある辛さというか。


「いうほど辛くはないですよこれ」

「ほんとですか?」

「どれどれ……あれ? ほんとだ、いうほどからくない」


 マイスターが皮も向いてない奴をぼりぼりと食べ始める。

 いや、ここにちゃんと切り分けた奴あるから。なぜにそっちを食べるのか。


「え? ほんと?」

「あら? たしかにいうほどからくないわ~」

「おもってたよりからくないけど、おいしいかっていわれると、どうだろう?」


 他の皆さんも試しに食べ始めた。もちろん俺が皮をむいて切りそろえた方だ。

 ……やっぱりそんなに辛くないよね?

 美味しいかって言われると、というのはまあ確かに。

 ワサビだけ食べてもそうだろうと思う。

 ワサビを食べ慣れていて、この辛さに慣れていないと、美味しいって感じるのは難しいだろうな。


「でも、なんでからさがよわまったんだろ? ふつうは、やばいほどからいはずなんだけど」


 マイスターが首を傾げている。普通はもっと辛い?


「今までにない事なんですか?」

「はじめてのことかな」


 皆の反応もそうだし、このワサビは普通じゃないのかな。

 あっちの普通がわからないから俺には分からない。

 生えてる場所が違うからなのかな? 一応肥料も撒いて栄養のある土だから、辛さが和らいだとか。

 ……要観察だな。今の時点では何もわからない。


 まあ、なんにせよいい食材が手に入った。

 今日の夕食でさっそく使ってみるのも面白いんじゃないだろうか。


「これ、お肉の付け合せというか、薬味として使うと美味しいと思いますよ」

「あ、たしかに」

「おいしそう」

「いいわね~。ゆうしょくでやってみるわ~」


 というわけで、早速夕食に使ってみることに。

 奥様方にはお肉料理を作ってもらい、ワサビを薬味として配ってもらう。

 ワサビはそこらへんにあったざらざらした石をつかって、摩り下ろした物を提供した。

 そしてついでに神様にもおすそ分けしした。

 調理したものと、とれたて新鮮丸ごと一本の両方を。


 結果はというと……。


「おにく、けっこうおいしくなった。なんというか、さっぱりしたかんじ?」

「このすりおろしたの、ちょっとつけるだけでちがうのね」

「まさか、あのざっそうがわりとつかえるとはおもわなんだ」


 結果はまあまあ好評だ。

 塩コショウだけで焼いた肉にも、焼肉のタレに混ぜてもどちらもいける。

 俺も食べてみたけど、悪くないな。

 お肉と一緒に食べて初めて分かったけど、脂っこい肉のくどさを中和してくれる感じがする。


「まあまあつかえました」

「ちょっとつけすぎちゃったの」

「ぶんりょうがむずかしいわ~」


 奥様方はというと、辛い食材だけに分量が難しかったようだ。

 こちらもまあまあという感じか。

 ワサビも割と使いどころ難しい食材だし、しょうがないよね。

 あの雑草抜きの苦労が多少は報われただけマシと思うことにしよう。


 薬味としてのワサビのおかげで、よりいっそう俺好みになったお肉料理を食べていると、ぽてぽてとハナちゃんがやって来た。

 お肉にワサビをちょっとだけつけて、もぐもぐと食べている。

 ……子供にワサビはウケが悪いかなと思うんだけど、どうだろう。


「ハナちゃん、味はどうかな?」

「けっこういけるです~!」

(か、からいの~!)


 結構いけるのか……。ハナちゃんはこういう刺激物でも大丈夫なんだな。

 子供だけど渋い趣味をしてらっしゃる。

 そして謎の声は辛いと言っている。

 調味料として使ったものは少量なのでそんなに辛くはないと思うんだけど……。

 ……もしかして、一本丸ごと食べたのではないだろうか。

 さすがに俺でも、一本丸ごとは辛くて泣くよ。耐えられるのはマイスターくらいだよ。

 まあ、次は甘い物でもお供えしておこう。


 全体を見ると俺と親父には大好評、大人エルフさん達にはまあまあ好評か。

 そしてハナちゃん以外の子供エルフちゃん達には不評という結果かな。

 皆が美味しいっていう物にするためには研究が必要になるなあ。

 でも、今の村では研究しようにも設備も物資も不足しているしで、ちょっと難しいかもしれない。

 奥様方は料理上手とは言え、それが専門というわけでもないし……。


 ――あ、居たわ専門家。村人じゃないけど、大将とその息子さんは料理人だよね。

 ちょうど新メニュー研究してる所だから、このワサビを渡したら面白いことになりそうだ。

 もしかしたら、美味しい食べ方を見つけてくれるかもしれない。

 そうなったらいいな。なるんじゃないかな。なせばなる(他力本願)。


 ――よし、明日大将のところに持って行こう。一キログラムほど持っていけば足りるかな?



 ◇



 ランチタイムが終わり、午後五時の営業まで準備中になる頃を見計らって、子猫亭に訪れた。

 大将と息子さんが店を切り盛りしていて、奥さんは家で事務処理をしているそうだ。

 さっそく、ワサビをお披露目しよう。


「というわけで、新食材を持ってきました」

「新種のワサビが取れたからって話はわかった。ただな、それ、とてもワサビには見えないんだが……」

「なんというか、人っぽい形してますよねそれ。セクシー野菜みたいな……」

「ワサビです」


 大将と息子さんは例のブツを見て、若干引いた様子だ。でもここはワサビで押し切る。

 だってほんとに味はワサビだし。問題ないよね。


「まあまあ、食べてみてくださいよ。そして新メニュー研究の糧としてください」


 ついでにこいつの美味しい食べ方も開発してください。


「どうも別の意図があるような気がするんだが……まあちょうどこっちも行き詰まってたところだ。気分転換にも良いかもな」

「まあ、大志さんがそういうなら試してみようかな……」


 よし! 押し切れた。

 大将と息子さん、二人ともこのワサビの見た目に不安を感じているようだけど、とりあえずやる気にはなってもらえたようだ。

 後は色々試してもらおう。まずは葉っぱを煎じた謎リキッドの味見からでいいか。


「根っこはワサビなんですけど、葉っぱはミントを入れたアップルティーみたいな味です」

「もうその時点で不安しか無ぇ」

「なにそれ怖い」

「ささ、どうぞどうぞ」


 有無を言わさず味見をしてもらう。

 そしておそるおそる葉っぱを煎じた謎リキッドを口に含む大将と息子さん。

 ――すぐにびっくりした顔になった。


「……驚いた。美味いじゃないか!」

「これ、もう普通にメニューに加えられそうですね」


 謎リキッドの味は好評のようで、ほっとした。


「この味、若者向けっぽい感じしません?」

「確かにそんな感じはする。良いかもな」

「ちょっと葉っぱを沈めとくのも、見た目的に良いかもしれません」


 飲料ではあるけど、若者向けメニューの候補が一つ出来た。良い感じじゃないか。

 この調子で、根っこの方も味見してもらおう。


「こっちの方もどうぞ。ワサビとしては美味しい部類です」

「ホントかねえ」

「まあ食べてみます」


 恐る恐る、根っこを摩り下ろした物を口に含んだ二人の顔からは、不安がすとんと抜けた。

 表情を見た限りでは、味に問題はないようだ。


「どうです?」

「いやこれ、確かにワサビとしては美味しいな……」

「半信半疑でしたけど、確かにワサビですね……」


 こちらも好感触だ。見た目が蠱惑的なのを除けば、食材として優れていると個人的には思う。

 それに、今のところエルフの森産? の植物で外に出せるのはこれくらいだし。

 お肉が柔らかくなる例の草とか、あれは危なくて外に出せない感がある。

 それに比べれば、このワサビは見た目がアレなだけだ。仲間内であれば、提供が出来る食材かなと。


「俺が思うに、フィレステーキのソースとしてワサビ醤油で提供出来ると思うが、お前はどうだ?」

「父さんと同じ考えかな。早速作ってみる」

「おう」


 お、息子さんがやる気になったみたいで、いそいそと厨房に入っていった。

 これは、試食のご同伴にあずかれる流れかな?


 しばらく大将と色々検討していると、息子さんが料理を持って戻ってきた。

 さっき宣言したとおり、フィレステーキだ。俺もこの店でよく食べる奴だから、おなじみの料理だな。

 料理の方は試作だからか、盛り付けも簡素な、あくまでも味見用! という感じだ。


「それでは、食べてみましょう。焼き加減はブルーレアでやってみました」

「どれどれ」

「頂きます」


 一口分を切り取ってみると、レアより生に近い焼き加減だ。ブルーレアってこうなんだな。

 カツオの叩きみたいな焼き加減で、これは見た目からして美味しそうだ。

 ワサビ醤油がソースだから、生に近い焼き加減にしたのかな?

 見た目はとても食欲をそそる。では次に、お味はどうかな。

 ワサビ醤油を少々つけて、では実食。


 ――ワサビ醤油の味がまず口の中に広がり、一噛みするとカリっと香ばしい表面の味が追いかける。

 そしてレア部分の肉汁がじゅわっとあふれだし、醤油の旨味、肉の香ばしさ、肉汁の風味が混ざり合う。

 二噛み目以降は、これらの主張の強い味がワサビのほんのりした辛さと旨味に包み込まれて一体となり、それぞれの味のとがった部分を上手く丸めて、上品にまとまった味へと昇華した。

 その後は噛むごとにこの味のまとまりが増幅され、やがて余韻を残しながらもすうっと引いていった。


 ――これは美味しい。

 ワサビひとつで、味がここまでまとまるものなのか。


「……これ、肉は普通の奴だよな? 和牛じゃないよな?」

「オーストラリア産テンダーロインの、ミドルだよ。……うん、肉の臭みが良い具合に消えてるね」

「これは美味しいですね。なんというか、口の中で綺麗にまとまります」


 大将と息子さんも、驚きながらもその出来映えににっこりだ。


「大志、この食材、もっと持って来ることは出来るか? 金は払う」

「ええ、それなりに量はありますので、大丈夫ですよ」


 おお、大将が乗り気になった。目がらんらんとしている。


「このワサビ、主張の強い味同士をまとめるのに、かなり使えますね」


 息子さんも、ノリノリになってきた。何度も味見して、出来映えを確認している。

 まあ、若者向けという方針では未だに何も出来ていないけど、味に関しては一歩前進したのではないだろうか。


 その後いくつかの試作と試食を行い、じわじわとだけど研究は進んでいった。

 さすがプロの料理人。何に合うか、どう使うかを見つけ出すのが上手いな。

 俺はお店の味がだんだん向上していくのを、一緒になって喜んだ。


 そして、ディナー営業の仕込みを始める時間になり、試食会はお開きとなった。


「それじゃあ、また持ってきます」

「頼んだぞ」

「今ある分は、色々研究しているとすぐに使い切りそうです」


 ご機嫌の大将と息子さんに見送られながら、俺は子猫亭を後にした。

 いやあ、それなりに上手くいって良かった。

 オマケにあの迷惑雑草が有効活用できちゃうしで、よかったよかった。

 また沢山持ってこよう。なんせいっぱい生えてたからね。


 ――あれ? そういえば大将は「金は払う」って言ってたよな?

 あれあれ? これ、村の現金収入になるのでは?

 ……ということは、商業作物の販売をすることになるよね。

 まあ研究用の少量で、これから先も出荷を続けるかはわからないけど。

 でも、小さな一歩とはいえ、エルフ達の力で――現金獲得が出来るんだ。

 これは素晴らしい。早く皆に教えてあげよう。



 ◇



「おかね? たべものかな?」

「それっておいしいの?」

「あまいものだといいな」


 うん、食べ物とは一言も言っていないです。

 どうもお金という物がわからないようだ。

 でも、彼らだって何らかの取引はしていたはずだから、名前が違うだけかもしれない。

 ヤナさんに聞いてみればわかるかな。


「ヤナさん、皆さんは物が欲しいとき、交換はどうされてました?」

「たいていはものどうしでこうかんしてました」


 物々交換が主なわけね。でも、大抵はという話だから、やっぱり何かあるっぽい。


「物が無いときはどうされてました?」

「この、きれいないしをつかってました。ただ、こうかんがせいりつしないこともおおかったです」


 ヤナさんが宝石みたいな感じの、なんかの石をいくつか取り出した。

 確かに綺麗な石で、カットしたら価値が出そうな感がある。

 ……でも、これでも取引が成立しないのか。


「成立しない事も多いのですか?」

「ええ。だっていしはたべられないですからね。きれいなだけで」


 まあそうか。食べられない石が沢山あったところで、おなかは膨れないよね。

 しかし……貨幣に信用という価値を持たせて、その信用の元となる組織や人物が交換を保証するって所までは行ってないということか。

 それを実現するには、強力な中央集権か権力者が居ないと無理だ。

 彼らの社会は、そういう社会じゃなかったんだろうな。

 縄文文化も、そんな感じだったと聞いたことがある。こういう所も、似ているんだ。


 あ~、これは……信用的付加価値を伴う貨幣経済、そこから説明しないといけないな。

 まあ、今やらなくても良いか。大将からの支払いは、村の資金として貯蓄しておこう。

 そして、畑仕事が一段落したら、村に貨幣経済を導入しよう。


 あ、そうすると分配の問題も出てくるな……。これは難題だぞ……。


「タイシさん、どうされました?」


 俺が悩んでいるのを見て、ヤナさんが聞いてきた。


「いや、お金のことはまた説明しようと思ったのですが、これ、分配が難しくてですね……」


 お金の分配は細心の注意が必要だ。そこをきちんと出来なければ、とても困ったことになる。


「ああ、ぶんぱいならまかせてください。わたしのしごとはそれでしたので」

「え? ヤナさんのお仕事ですか?」

「ええ。わたし、かりがへたなので、けいさんのおしごとでおにくをもらっていたのです」


 計算の仕事? もしかしてヤナさん、専門職だったのかな?


「その計算の仕事で、物の分配等の計算をしていたということですか?」

「そうです。けいさんができないと、うまくぶんぱいできないですからね」

「ヤナさんがけいさんすると、わりといいかんじにいきわたるんだよな~」

「ヤナさんがいないと、ぶんぱいがきめられないもんなあ」


 なるほど。狩りでも採集でも大勢で行うこともあるし、そういう場合は分配の問題がでてくる。

 その分配率を計算したりしてたんだ。ほぼ行政のお仕事だよねそれ。

 ヤナさんが族長に指名されたのも、族長をやっていられるのも納得だ。

 分配の仕事はほぼ族長の職分だし、役人的立場でもある。結構凄いじゃないか。


「あとは、いちばでものをこうかんするときも、ふこうへいをださずに、うまくつりあうようけいさんしてました」


 おお、市場もあったんだ。物々交換のようだけど。狩猟採集といえど、結構経済活動してたんだな。

 まあ当然か。

 それなら、あんまり苦労せずにお金のことも説明できるんじゃないかな。

 大将から得たお金は、ヤナさんに分配してもらうのが良いな。

 族長だし、聞いたところでは分配も上手みたいだし。適任だと思う。

 それでいい、それがいい。そうしよう。

 

 後は、エルフ達の市場がどんな様子だったのか、軽く聞いてみるか。

 どんな風景だったのかを知るだけでも、貨幣経済導入計画の大きな助けになる。


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― 新着の感想 ―
[一言] 引っこ抜いて大音響なら掘り起こせばいい。 茎が引き延ばされて軋む音ではないだろうか。
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