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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第五章  エルフ農業(中級編)
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第十一話 みみがー!

俺とハナちゃんは、家庭菜園を見てぽかんとしてしまった。


「……あえ?」

「ん?」


 ――なんだ? これ。


 ハナちゃんと家庭菜園に訪れると、そこには――変な植物が生えていた。

 なんだかニンジンみたいな、別の物のような……。


 ……まさか……また――何か起きたのか?


「あや~! ざっそうがはえちゃったです~!」


 そしてハナちゃんは、謎の植物が生えてしまった家庭菜園を見て大慌てし始めた。「あえ~? あえ~?」と右に左にわたわたしている。

 なるほど雑草か……。

 ――雑草? こんな雑草見たことないぞ?


「きのうはなかったです~! とつぜんはえちゃったです~!」

 

 突然生えたと聞いて、もうほんと「またか! また謎植物なのか!」とは思う。

 うん……俺も正直大慌てしたいけど、ここで俺も慌てたら収集がつかなくなる。

 ここは一つ、落ち着いたふりをしよう。

 そう、平常心平常心……。


「ほらハナちゃん落ち着いて。大丈夫だよ。畑に雑草はつきものだから」

「……ざっそう、はたけにはつきものです?」

「まあね。大体生えてくるよ。小まめに引っこ抜くしかないね」

「たいへんです~」


 わたわたしてたハナちゃんだけど、落ち着いてくれたようだ。よかったよかった。

 さて、落ち着いてもらったところで、この謎の雑草について聞いてみるか。

 何か知っているみたいだし。


「それでハナちゃん、これって雑草なの?」

「あい~……。まえにいたもりでも、おうちのなかとか、いろんなところにはえてきてこまったです」


 色んなところ、家の中まで生えてくる雑草……。

 確かにそりゃ困るな。家の中で草むしりとか勘弁してほしい。

 ――そして、すごく……嫌ぁ~な予感がする。


「ひっこぬくと、すっごくうるさいのがとくにめんどうだったです~」


 え? 今なんて?


「タイシタイシ、みみふさぐですよ」


 ハナちゃんがどこからか耳栓みたいなのを取り出して、耳につめつめしている。


「では、ひっこぬくです~」


 え? ちょっとまって。その、なんだかやばそうな草を引っ張りだしたけど……。

 あっ! 待って! 耳塞ぐから待って!

 ――間に合った!


「えい」


 そしてハナちゃんが雑草を引っこ抜く。

 ――その瞬間。


「あんぎゃあああああああああ!」


 ひぃっ……。


 引っこ抜いた雑草がものすごい叫び声をあげた!

 なんだこの草、なんだこの草。やばい! 叫ぶ草とか相当やばい!

 もっと言うなら見た目一番がやばい! なんか人みたいな形してる!

 ……でもよく見たら、腰のくびれっぽいところがけっこう蠱惑(こわく)的。


「あや~。みみ、キーンとするです~」


 そしてハナちゃんは耳をキーンとさせながらも、特に動揺はしていない。

 俺より至近距離であの叫び声を聞いたはずだけど、なんでもないようだ。

 このかなりやばい草に慣れてるのかな?

 とりあえずこの草がなんだか、聞いてみよう。


「……ハナちゃん、これなに?」

「あえ?」


 引っこ抜いた謎の草をぷらぷらさせながら、ハナちゃんが首を傾げる。

 ――あ、ハナちゃん耳栓したままか。聞こえてないんだな。当たり前か。

 耳栓を外してもらおう。

 俺はハナちゃんの耳にある耳栓を指さして、引っこ抜く仕草をして伝える。


「あや! みみせんとるです~」


 良かった、伝わったようだ。ハナちゃんは耳栓をぴこっと外してくれたので、再度聞いてみよう。


「ハナちゃん、これなに?」

「? ざっそうですよ?」


 うん。俺には雑草に見えない。これはなにかやばい物だ。そうに違いない。


「おい大志! すげえ悲鳴が聞こえたぞ! 何があった!」

「ハナ、どうした!」

「なんだなんだ」

「どうしたの~」


 あの凄まじい悲鳴を聞いて、皆も集まってきた。

 しかし、ハナちゃんが持っているブツを見るや否や「なんだ」という顔をした。


「おとうさ~ん、はたけにざっそうがはえてきちゃったです~」

「ハナ、ひっこぬくとき、ちゃんとみみせんしたかい?」

「あい! してたです~」

「みごとにそだってるな~。しかもまだたくさんはえてら」


 ハナちゃんが持つ奇妙かつ蠱惑的な謎の根っこをみても、皆さんほのぼのだ。

 俺と親父だけ置いてけぼり。

 わけが分からないけど、聞いてみない事にはどうにもならないな。


「あの、皆さん。これって……一体なんですか?」

「? これはざっそうですね。まえいたもりでは、よくはえてきました」


 うん。ヤナさんが笑顔で答えてくれたけど、何一つ疑問は解決しなかった。


「皆さんとこの雑草って、引っこ抜くと叫ぶんですか?」

「これはそうですね。もりができたときに、かるくせつめいしたあれですよあれ」


 ……森が出来たときに? すいません。覚えてないです……。

 しかしあれだ、ひっこぬくと悲鳴を上げる植物と言えば……一応心当たりはあるんだけど……。


「大志、これもしかして――マンドラゴラじゃないのか?」


 親父もおんなじことを思ったみたいだ。ただ、マンドラゴラとは決定的に違う点があるんだよなあ。


「かなり似てるけど、悲鳴を聞いてもアレしてないから、似てるだけなんじゃないかと俺は思う」

「それもそうか。この雑草とやらが、こっちのマンドラゴラと同じものだったら……皆無事じゃないよな」


 そもそもマンドラゴラは、生えてくる条件がかなりアレだ。

 この家庭菜園でそんなことは無いから、もうその時点で違う。

 じゃあこれは一体何なのかと言ったら、あっちの世界の似た植物、なのかなぁ……。

 ……うーん、考えてもわからない。


 あ! こういう植物に詳しそうな人がいる。マイスターに聞いてみよう。

 丁度いいことに、マイスターは例の雑草をハナちゃんから受け取って、何やら観察しているところだし。


「あの、この草ってどういう特徴があるんですか?」

「はっぱはさわやかなあじがしてうまいんだけど、ねっこはからくてくえたもんじゃない。つーんとするんだよこれが」

「食べられるんですか?」

「どくはないな。くってももんだいはない。そうとうまずいだけだな」


 葉っぱは美味しいけど、根っこは辛くてだめ、と。毒もないから食べても良いけど、まずいわけか。

 味はわかったけど、生育条件とかはどうなんだろう?


「どういう条件で生えるとか、あります?」

「ひかるきのそばにだけ、はえるくさだったりするな」

「でも、家の中に生えてきて困るって聞きましたけど」

「ひかるえだを、いえのなかでつかうと、いつのまにかはえてくるっぽい」


 光る枝を使うと生えてくるの? でも、もう使ってないしなあ……。

 ……ん? 光る枝……なんか忘れてる気がするな、なんだっけ?


 ――あ! 森の植物が根を張ると森が広がる可能性がある。


「あー。また森が広がるかも知れませんねこれ」

「「「あーっ!」」」


 皆も思い出したようだ。まだ検証途中とはいえ、その可能性はある。


「どうすべどうすべ」

「うーん、あきらめる?」

「でも、このままだとヤナさんちがもりのなか、みたいな~」


 大慌てしだす皆さんだけど、俺としてはそんなに慌ててはいない。

 広がるならもうそれで良いんじゃ無いかな、と思う。

 あんまり森が広がっても困るけど、言ってしまえばそれだけだから、まあ……。

 それに別に危険な森じゃないわけだし、大きな問題にはならないとは思う。

 ぶっちゃけ、こっちの森の方が危ないしな。里山の手入れとかずっとやってないし。


(もり、ひろがらないよ~)


 ん? なんだか謎の声がきこえたけど……。広がらないの?


「ひろがらないです?」

(もぐっただけ~)

「あえ? もぐっただけです?」


 あれ? ハナちゃん?

 ……もしかしてこの声――ハナちゃんも聞こえている?


「タイシタイシ、たぶんだいじょぶですよ?」

「……大丈夫なの?」

「あい」

(ねっこ、はってないよ~)

「あ、たしかにそうだったです~」


 うん、確定だ。ハナちゃんも謎の声が聞こえている。

 皆は聞こえてない風だったので、この声が聞こえているのは俺だけかと思ったけど――ハナちゃんもそうだったんだな。親近感湧くなあ。

 ……まあ、俺は聞こえないふりをしておこう。

 こういう謎の声に下手に応答すると、もう色々と頼りにされちゃうからねえ……。

 子供のころ、良くわからずに応答しちゃって、変な独り言を言う子とか周りに思われたし……。


 ――それはそれとして、何が大丈夫なのかは聞いておこう。

 ハナちゃんはわかったみたいだし。


「何か大丈夫そうな感じとか、したの?」

「あい。このざっそう、ねをはってないです~」


 根を張ってない? 謎の声もそう行っているけど、一体どういう事だろうか。


「根を張ってないのがわかるの?」

「あい~。かんたんにひっこぬけたです。いつもはもっと、ひっこぬくのたいへんです~」

「そうなんだ」

「すっごいちからいるです~。でもこれは、すぽっといけたです」


 良くわからないけど、謎の声とハナちゃんが言うなら、そうなんだろう。

 この謎植物は、家庭菜園に根っこを張っているわけじゃ無くて、ただ土に潜っているだけ。

 そう解釈しても問題ないと思う。


「まじか。おれもためすわ」

「「「おわっ!」」」


 それを聞いていたマイスターがおもむろに雑草に手を伸ばした。ちょっ……。

 耳――塞がなきゃ!


「おっひょおおおおおおおおお!」


 ――間に合った……。

 相変わらず耳がキーンとする音量だけど、なんだか悲鳴がさっきと違うな……。

 バリエーションがあるのかな?

 まあそれは置いておいて。

 周りを確認すると、突然のマイスターの行動に、耳を塞ぐのが間に合わなかった方々が何名か……。


「みみがー! みみがー! キーンて!」

「い、いきなりひっこぬくとか、しんじらんない……」

「おれのじまんのみみせん、つかうひまもなかった……」


 モロに大音量を食らった方々だけど、それでも耳キーンで済んでいる。

 やっぱり、マンドラゴラと違ってただうるさいだけなんだな。

 ただ似ているだけの、違う植物と考えて差し支えないかな?


「うん。ねっこがはってるわけじゃなくてもぐってるだけだな。かんたんにぬけたわ」


 そして涼しい顔で言うマイスター。

 彼も耳をふさいでなかったはずなのに、平然としている……。

 この人なんかすごいというか、変。

 ……まあ良いか。

 マイスターも同じ見解のようだし、森が広がるという点に関しては、問題無いと考えて良いだろう。


「という事は、この雑草が生えたからと言っても、すぐに森が広がるってわけじゃないということか」

「そうです~。これでもりがひろがってたら、ハナのおうち、もうもりのなかです~」

「そう言われてみれば、そうだね。じゃあ今はまだ大丈夫ってことか」


 なるほど。家庭菜園は家の直ぐ裏だから、とっくに森にのまれてるよな。

 謎の声から助言を受けたとはいえ、ハナちゃん自身がちゃんと気づいたんだから、ここは褒めてあげよう。


「しかしハナちゃん良く気付いたね。えらいえらい」

「えへへ」

(よかったね~)


 まあ、大丈夫そうとはいえ、畑にこんなに生えてたら野菜作りするうえでとっても困る。

 ここは全部引っこ抜くしかないな。

 ほっといたら根付いてしまう可能性もありそうだし。

 皆にもお願いしておこう。


「皆さん。念のため、この草を森の外で見つけたら引っこ抜きましょう」

「「「はーい」」」


 とはいえ、引っこ抜くとうるさいのがちょっと問題だな……。

 引っこ抜くたびにあの絶叫が響くとか、防除するのも一苦労だ……。

 とりあえずは、この家庭菜園に生えてる奴をなんとかしなきゃな。

 申し訳ないけど、皆にも手伝ってもらおう。


「さしあたっては、ここに生えている物を全部引っこ抜きましょう」

「わかりました、じゅんびします」

「ひさびさだな~。このさぎょう」

「あっちでは、よくやってたよね」


 特に問題は無いようで、皆さん耳栓をつめつめし始めた。

 あっちの世界では良くやっていたようで、慣れた物みたいだ。

 じゃあ俺も作業に参加して……あ……俺、耳栓持ってないな。

 そんな物必要になるとは思ってなかったから、当然準備なんてしてない。

 ……どうしよう。


「タイシタイシ、ハナがタイシのみみ、ふさいであげるです~」


 耳栓が無くて困っている俺に気づいたのか、ハナちゃんが耳を塞いでくれるようだ。

 手をばんざいさせながら、ぴょんぴょんしている。

 これは、肩車をしてってことなのかな?


「じゃあハナちゃんにお願いしようかな。ほら、肩車するよ」

「あい~。かたぐるまです~」


 ぴょんぴょんしているハナちゃんをひょいっと持ち上げて、肩にすとんと乗せる。


「うふ~」


 嬉しそうなので、問題ないようだ。じゃあ、耳を塞いでもらおう。


「それじゃハナちゃん。耳、お願いね」

「あい~!」


 ハナちゃんも自分の耳に耳栓をつめつめしたあと、俺の耳をちっちゃな手で「ぽふ」と塞いでくれた。

 子供は体温が高いせいか、ハナちゃんのちっちゃな手は温かかった。


 ――よし、これで準備完了。

 さっそくこのうるさい雑草を、なんとかしましょうかね。


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