第四話 洞窟の様子はどうかな?
「それじゃ献立は任せます。皆さんが普段食べているものでかまいませんので」
「わかりました」
「きあい、はいるの」
「まだきたえたりないから、うではならさないわよ~」
「そもそも、うでをぐきってやるひつよう、あるの?」
いつもの奥様方が、いつものようにお料理を始めた。俺はその間にトラクターでも洗車してくるかな。マメな洗車は機材を長持ちさせる。割と大事だ。
手動の加圧式洗浄機でやれば、泥を落とすくらい直ぐだ。洗車が終わる頃には料理ができあがっているだろう。
そしてトラクターを洗車して戻ってくると、ちょうど料理ができあがっていた。
「あ、タイシさん。どうぞどうぞ」
調理担当のカナさんが料理を手渡してくれる。
お、これは……ナンのような生地に肉と野菜を挟んだものだ。自分たちで料理を開発したのかな?。
「これ、みなさんが考えたのですか?」
「ええ、そうです。おやきみたいにしてつくっていたのですけど、てまをはぶいていたらこんなかんじに」
「おやき、つつむのにしっぱいしたら、いいかんじだったのよ~」
なるほど、おやきを作ろうとして失敗したけど、それはそれで良かったわけか。
「良いですね。この調子でいろんなものを作ってみてください」
「わかりました」
「まかせて」
「ほめられちゃったわ~」
奥様方は嬉しそうだ。お料理を褒められたら、そりゃ嬉しくなるよね。
奥様方とそんなやりとりをしていたら、ハナちゃんがぽてぽてとやってきた。
「タイシタイシ、いっしょにたべるです~」
「シロウさんも、どうぞいっしょに」
俺と親父に、お食事のお誘いか。もちろんいっしょに食べますとも。
「では、お言葉に甘えて。親父はどう?」
「ご同伴に預かりますかね」
ハナちゃん一家と輪になって、奥様方の作った料理を食べる。なかなか良い感じだ。
「それでは、頂きます」
「「「いただきまーす!」」」
では、奥様特製のお肉サンドを食べましょう!
◇
奥様特製のお肉サンドはかなりおいしかった。お店で売れる水準だ。
ろくに素材も調味料もないのに、あんなのが作れるとか、素直にすごいと思った。
さて、おいしい昼食も食べたことだし、一休みしてから洞窟の確認でもしよう。
「ハナちゃん、一休みしたら洞窟に行こうね」
「いくです~」
「俺はお年寄り達といっしょに、待ってるよ」
親父はお年寄り達といっしょに村で待機するのか。まあ電話があるから、連絡は取り合えるし良いかな。
何かあっても連携できるから、村で待機していてくれるのはありがたい。
「じゃあ村は親父に任せた。何かあったら電話で連絡入れるから、よろしく」
「あいよ」
後は、他の参加者に声をかけておこうかな。
「それじゃ、洞窟を見に行く方は、一休みした後集まってください」
「「「はーい」」」
さて、洞窟はどうなっているかな。
一休みした後、二十人ほどのエルフと洞窟に向かう。お年寄りは村に残り、お昼寝するそうだ。
ぞろぞろと洞窟に向かう道すがら、こっちの山のガイドもしていこう。
「この沢は流れも緩やかで浅いので、暑いときには水浴びすると気持ちいいですよ」
「いまはまだ、さむそうですね」
「まだちょっと早いですね」
魚釣りも出来るけど、道具を持ってきてないな。エルフ達は魚を獲る道具とか持ってるかな?
「この沢、魚も獲れるのですけど、皆さんそういう道具は持ってます?」
「さかなをとるための、もりならありますよ。つりのどうぐはないですけど」
銛はあるんだな。でも、水が冷たいからちょっと銛漁は厳しいよな。釣り竿でやった方が良い。
「魚を釣るための道具もありますので、今度用意します」
「なにからなにまで、すみません」
「おさかなつり、おじいちゃんたちがとくいです~」
お年寄りは魚釣りが得意ってことかな? のんびりした作業だから、たしかに向いているかもな。
農作業が本格的に始まって、畑仕事が厳しいお年寄りは若干暇している感じなので、余暇の過ごし方としては良いかもしれないな。
暇つぶしにもなって、さらに食べ物も得られる。今度勧めてみよう。
「この先に池があるのですけど、そこでも魚が釣れます。この沢とその池で、そのうち釣りでもしましょう」
「いいですね」
「ハナも、おさかなつりしたいです~」
魚釣りの話で盛り上がってきたところで、洞窟が見えてきた。さて、お仕事を始めましょうかね。
「皆さんの通ってきた洞窟って、あれですよね?」
「そうですね」
「なか、まっくらだったです~」
「おれのたいまつだけ、いようにはじけたんだよな……」
マッチョさんがしみじみと言う。マッチョさんの松明だけ異様に弾けたって、それ木が乾いてないやつを無理矢理松明にしたからじゃないかな。
この人もわりとおおざっぱだ。
まあそれは良いとして、洞窟はどうなっているかな……?
「行き止まりが見えますね」
「いきどまってるです」
洞窟を確認したけど、「門」は閉じていた。
これは、今ここにいる全員が「あっちの世界」に行く必要が無いか、あっちの世界に行ってもろくなことがないという事を意味する。
……いつごろ閉じたかがわからないから何とも言えないけど、フクロイヌはどうやってこっちに来たのだろうか?
最初に確認しておけばよかったな。もう後の祭りなんだけど。
「これは、いまはあっちにいかないほうがよいということですか?」
ヤナさんが洞窟を覗き込みながら聞いてくる。今までの法則だとそうなるな。
「ええ。今まではそうでした。今回も多分そうだと思います。まあそのうち、行き来できるようになると思いますけどね」
「そのときを、たのしみにまちましょうかね」
「しんせきに、おれらだいじょうぶだからってしらせたいだけだしな」
「こっちにもりがあるから、むりしてもどらなくても、まあいいかなっておもうわ~」
エルフ達ものんびりしたもので、特に焦ってはいないようだ。というか、そのうち行き来できるとも聞いているので、特に混乱は起こらなかった。よかったよかった。
「そのうち行き来できるようになったら、皆さんの世界に遊びに連れてってください」
「タイシ、あそびにくるですか?」
「うん。皆が行き来出来るようになったら、そこに自分も便乗できるんだよこれが」
異世界の人が行き来するとき、「門」が開くから俺も便乗しちゃえるんだよね。
里帰りする高橋さんに便乗したりとか、たまに異世界大冒険が出来る。これがもう、海外旅行なんて目じゃないほど新鮮で楽しい。
……たまに変なことに巻き込まれもするけど、まあ何とかなる。
「そのときは、あんないしますよ」
「楽しみですね。ぜひともお願いします」
「たのしみです~」
ヤナさんも、俺もあっちに行けると聞いて、案内を買って出てくれた。
まだちょっと気が早いかもしれないけど……いずれ行き来できるようになる日が楽しみだ。
……さて、ハナちゃん達の世界を想像するのはこれくらいにして、今日の確認はこれで良しとしようか。
あとは定期的に様子を見に来るようにしよう。
これをさぼったから、フクロイヌがどうやって来たかが良くわからなくなったわけだし、今後はマメにやっていこう。
……わかったところで何が変わるわけでもないけど、調べてわかる事なら知っておいて損はないしな。
――よし、ここではもうやることもないし、村に戻ろう。
「それじゃ皆さん、確認は終わりましたので、ぼちぼち村に帰りますか」
「わかりました」
「あい」
洞窟の確認を終えて村に帰る道すがら、隣をぽてぽて歩いていたハナちゃんが、にこにこ顔で話しかけてきた。
「タイシ、むらにかえったらなにするです?」
あ~、特に考えてなかったな。夕食まではまだ時間はあるし、どうしようか。
まあ、何も考えてないことは正直に言っておこう。
「とくに考えてないかな」
「じゃあじゃあ、ハナとおやさいつくるです? それともひおこしのれんしゅうするです?」
お、ハナちゃんから遊びのお誘いか。しかし野菜作りと火起こし練習か……。じゃあ今日は野菜作りでもしようかな。
「それじゃ、今日は野菜作りをしよう」
「あい~! にょきにょきです~!」
ハナちゃんはぱああっと笑顔になって、うきうきとしだした。そんなハナちゃんを見てか、ヤナさんも笑顔でペコペコする。
「ハナのあそびにつきあっていただけるようで、ありがとうございます」
「いえいえ。こちらも良い息抜きになりますので」
家庭菜園でほのぼのと農作業をするのも、また良いもんだ。いろんな種を持ってきたから、なにを植えようかな。
そうしてうきうきのハナちゃんやヤナさんと雑談しているうちに、村に到着した。
もう特に予定はないから、あとはそれぞれで過ごしてもらおう。
「それでは皆さん、各自ご自由に過ごしてください」
「おんせんそうじするわ~」
「おれは、ゆみのれんしゅうするかな」
「おれもれんしゅうするわ」
それぞれやりたいことを宣言してから、洞窟探検はお開きとなった。さて、俺はハナちゃんと家庭菜園に行きますかね。
「じゃあハナちゃん、家庭菜園に行こうか」
「あい~」
「それでは、わたしもおつきあいします。カナもどうだい?」
「そうね、わたしもいくわ」
親子そろって、一緒に家庭菜園で余暇を過ごすみたいだな。そしてカナさんはもう農機具を構えている。
早いです。まだ良いですよ。
「では、いくです~!」
カナさんと同じく、もうちいさなスコップとじょうろを構えたハナちゃんが先頭になり、四人で家庭菜園に向かった。
「タイシタイシ、なにつくるです?」
家庭菜園に到着すると、ハナちゃんがうきうきしながら何を栽培するか聞いてきた。
そうだな……甘い野菜なんかどうだろうか。
たしかポケットに種の袋をつっこんであったはず……これかな? スイカ、イチゴだ。
どっちも一年草で茎や蔓に実がなるから、野菜だよね? 樹木になるものが果物だったっけか。
スイカもイチゴも、今の時期に種を撒けばいいからちょうどいい。
普通に育てたら、スイカは夏ごろ、イチゴは来年収穫になるけど。
「ハナちゃん、甘い野菜を作ってみよう」
「あまいやさい! そんなのがあるですか?」
「うん。何種類かあるんだよ」
「すぐにつくるです~!」
甘い野菜と聞いて俄然張り切るハナちゃん。目をキラキラさせて、土をザクザクと掘りはじめた。俺も手伝うかな。
「ハナちゃん、俺も手伝うよ」
「では、わたしたちもやりましょう」
「ありがとうです~!」
四人でザクザクと土を耕していく。人手が多いから、ちいさな範囲なら直ぐだな。
「その、あまいやさいとは、どのようなものでしょうか」
割と畑が出来上がってきた頃、ヤナさんが野菜の種類について聞いてきた。
パッケージ写真を見せれば一発かな。
「これがスイカ、これがイチゴです」
「このイチゴににたものは、もりでもありましたね。すっぱいです」
「イチゴもそうですよ。甘酸っぱいという感じですけどね」
「おいしそうです~」
イチゴに似たようなものはあるんだな。スイカはどうだろう。
「このスイカという野菜はどうです? いわゆる甘いウリなんですけど」
「ないですね」
「しましまがふしぎです~」
スイカは見たことがないか。というか品種改良されまくった結果なので、似たようなものがあっても原型がわからない可能性はあるな。
今ある栽培野菜も、原種とかなり異なる見た目のものが良くあるし。トウモロコシの原種なんかサヤエンドウみたいで、言われないと分からない。
エルフの森に生える植物を調べてみたら、案外こっちの植物と似たようなもの、あるかもしれない。
今度調べてみようかな。
「タイシタイシ~、そろそろたねをまくです?」
俺が考え事をしている間に、もう畦は出来上がっていた。大人が三人も居るから、やっぱり作業は早いな。
もう種を撒いても良いだろう。
「じゃあ皆で種を撒きますか。この範囲はスイカで、残った範囲にはイチゴを撒きましょう」
「わかったです~」
「じゃあわたしたちはスイカをまきます」
じゃあ俺とハナちゃんはイチゴを撒きますか。
「はい、これがスイカの種です」
「これですね。わかりました」
「じゃあハナちゃんと自分は、イチゴを撒いてます」
「あい~」
ヤナさんとカナさんに種を渡して、あとはおまかせ。
俺はうきうきしているハナちゃんと一緒に、イチゴの種を適当に撒こうかな。
――そして、種を撒いているとき、ふと思いついた。
ハナちゃんに、普通に野菜を育ててもらうこともしたいな。
そうしたほうが、収穫の喜びは大きくなるし、自分で作った野菜にもっともっと愛着がわくんじゃないだろうか。
便利な能力に頼りがちだけど、そういったものに頼らずに、普通に作ることを知るのも大事なんじゃないかな。
よし、ハナちゃんに提案してみよう。
「そうだハナちゃん、スイカもイチゴも、一部は普通に育てたらどうかな?」