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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第五章  エルフ農業(中級編)
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第三話 田起こし順調

 さんざん雑談をしながら、ようやく畑に到着。これからエルフ達は親父に手作業でのコメ作りを習い、小さな水田を作る。とはいえ、水田の基本機能はもうあるので、耕すだけだったりするけど。

 俺はその間に、六十馬力のトラクターを使って田起こしをする。


「それじゃ親父、頼んだ」

「ああ、任せとけ。それと、皆にはとりあえず……四反歩くらい耕してもらって、余裕があるならもうちょっと広げる」

「わかった。それでいいと思う」


 親父の後ろに控える作業着姿のエルフ達は、見た目はもう立派な農家だ。そういえば、エルフ達に初めて着せた地球産の服が農家装備か……。うん、考えないようにしよう。これは必要なことなんだ。そうだよ。


「タイシ、どうしたです~」


 俺が必死に自己正当化していると、やっぱり農家装備のハナちゃんが様子を心配してぽてぽてとやってきた。……うん、かわいいエルフの子供にあげた初めての服が、農作業用ツナギ。

 もしかして俺は、とんでもない何かをやらかしたのでは無いだろうか……。


「いやね、せっかくの初めてのこっちの服なのに、それが作業着ってのはどうなのかと思ってさ」

「ハナはこのふく、きにいってるです~。このぼうしもかわいいです~」


 ハナちゃんは手を広げ、くるくる回ってうれしさを表現してくれた。うん、これはこれでかわいいかな。それに気に入ってくれているなら、いいのかなと思う。


「ありがとうハナちゃん。気に入ってくれてうれしいよ」

「タイシとおそろいです~」


 会話だけ聞くとロマンチックだけど、二人とも格好は農家のソレだ。ときめくのが困難だ。


「タイシさんはそれをつかうのですよね?」


 エルフの農作業着姿に悩んでいる俺に、農作業着姿のヤナさんが話しかける。やっぱり俺はやらかしたのではという思いが募るけど、もう遅い。諦めよう。

 気を取り直して、ヤナさんの質問に答えるかな。


「ええ、このトラクターを使って、一日にこの畑二枚を耕します」

「このひろさをいちにちで?」

「具体的には、朝から初めて昼頃には二枚が終わります」

 

 田起こし用のロータリーは幅二.二メートルあり、これを回し時速四キロで進みながら耕す。

 そうすると、一時間に単純計算で八反歩強耕せてしまう。ロス率が二割と考えても、七反歩耕せる。

 そしてこの仕事率で三時間作業すれば、二十一反歩、つまり二町歩弱が耕せてしまう。今回はのんびり三日かけて六町歩耕すので、東京ドーム一.二個分の面積を三日で耕すことになる。

 手作業では絶対不可能なこの作業効率は、まさに機械化の恩恵と言えるかな。

 そして……朝から初めて昼頃には終わる、と聞いたエルフ達は、ぷるぷる震え始めた。


「ひるにはおわるって、そうぞうもできない」

「このひろさをひるまでにとか、ふるえる」

「かていさいえんと、きぼがちがう」


 まああれだ、俺だって機械を使わなきゃ六町歩なんて耕せない。……あれ? 朝から晩までやれば、いけるな。機械化される前のじいさんたち世代はやってたし。でも機械があるからわざわざ手でやる必要も無いな。楽ができるところは楽しよう。うん。


「とりあえず私はこっちで耕してますので、皆さんはうちの父から講習を受けてください」

「わかりました」

「ハナもがんばるです~」


 そうして皆は親父の方に行き、講習が始まったようだ。男性陣が(くわ)でざくざくやり始めた。俺は俺で、田起こしを始めますかね。

 去年の秋、稲刈り後に田起こしをし、今年の冬もやった。なのでこれが三回目の田起こしになる。

 この田起こしが終われば、少し寝かせて代掻(しろか)きすれば田んぼは完成する。

 肥料は昨日と一昨日かけて親父が蒔いておいてくれたので、俺は耕すだけで良い。ありがたい話だ。


 皆が作業を始めたのを確認できたので、俺も始めますかね。

 今回は耕深(こうしん)十五センチ、パワーテイクオフギアを一速に設定、エンジンを二千四百回転定格で運転しよう。ギアよし、ロータリーよし。さて、開始だ。


 トラクターは時速四キロのゆっくりした速度で進み、同時にロータリーが土を細かく耕していく。いつも通りだ。

 まあこのあたりはマニュアルそのまんまだから、あまり深く考えることは無い。

 千六百回転でゆっくりやる方法もあるけど、マニュアル通りにやって行こう。これだとなんたってトラブルが少ない。

 トラブル時の対応方法も、定格運用が前提のノウハウだったりするので、割とマニュアル通りというのは馬鹿にできないんだよな……。

 まあ今の所順調だな。このまま機械トラブル等なければ、予定通り昼頃には二町歩を耕せるかな?



 ◇



 お昼になり、ちょうど二町歩を耕し終えた。この調子でやれば、明後日には全部の畑が耕せるな。

 ちょっと予定より早いくらいか。悪くないペースだ。もう今日はこれくらいで良いだろう。

 とりあえず親父に電話して、今日の作業を終えることを告げようか。


「親父、こっちは今日の作業終わったよ」

『そうか。じゃあこっちも上がるとするよ』

「わかった。今そっちに戻るよ」

『あいよ。皆と待ってる……と、皆さんどうされ――うわっ! 足つぼ気持ちいい!』


 ――そして通信が切れた。


 ああ、親父もマッチョエルフ達のマッサージ包囲網を食らったか……。

 しかしどうして彼らは、電話しているとマッサージしてくるんだろうか。謎だ。

 ……まあ体は軽くなるので良いか。


 それじゃ、皆の待っている場所までは距離があるから、さっさと戻ろう。

 

 そしてのろのろとトラクターを動かしてやっとこさ皆の待っているところまでついたが、既に耕された畑を見て愕然としていた。


「皆さん、どうされました?」


 トラクターを降りながら様子を聞いてみるけど、皆はトラクターで耕された畑をみてぽかんとしたままだ。


「てさぎょうとのさ、おもいしる」

「もうふたつおわってるとか、ふるえる」

「おれはいま、なにかやばいものをみてしまったきがする」


 そしてぷるぷる震えだしたかと思ったら、こんなことを言う。

 エルフ達が手作業でザックザックと耕している横で、機械で一気に耕してしまうんだから、その差は歴然だろうな。

 でも、機械を使えば誰でも出来ることだから、別段驚くことでも無い。


「大志、調子はどうだ? こっちは特に問題もなく、二反は耕せたぜ。あと、体が軽くなった」


 親父が俺の作業進捗を聞いてくる。もうそんなに耕せたんだ。手作業でそれなら早い方じゃないかな。

 あと、体が軽くなったか。あのマッサージ効くもんなあ。

 ……まあそれはおいといて、俺の作業進捗も報告しとくか。


「俺の方も特に問題なかったな。機械の調子も良かったよ」

「そうみたいだな。もしかしたら、予定より早く終わるかもな」

「のんびりやっても、早く終わると思うよ」


 お互い畑仕事は順調のようで、これならハナちゃんと遊べる時間も取れるかな。

 と、噂をすれば……。


「タイシさんは、おひるのあとなにをされるんですか?」

「タイシ、どうするです?」


 ヤナさんがハナちゃんを連れてやって来た。そしてハナちゃんは目をきらきらさせて、明らかに遊びたい光線を出しながら午後の予定を聞いてきた。

 約束通り、何にも考えずに遊んでもいいのだけど……洞窟の確認もしときたいんだよな……。

 

 ――そうだ! 洞窟の確認を遊びにしちゃえばいいんだ!

 元々「門」がどうなっているか確認するつもりだったし、ちょうどいい。


「午後は……ハナちゃんと洞窟の確認でもしようかな」

「わ~い! タイシとたんけんするです~!」


 お仕事とハナちゃんとのハイキングも兼ねられるので、一石二鳥になるんじゃないかな。

 ハナちゃんも喜んでくれたので、上手い事思いつけたんじゃないかと思う。


「どうくつというと、わたしたちがとおってきたあれですか?」

「そうです。あの洞窟の状態を見てこようかなと」


 ヤナさんも、洞窟と言えば心当たりがあるのはそれだけなので、どこの洞窟かはすぐわかったようだ。


「おれもいっていいかな?」

「わたしも」

「どうなってるか、きになるわ~」


 あれ? 他の皆も洞窟の確認に行きたいみたいだ。自分たちが通ってきたところだから、やっぱ気になるのかな。

 俺は別に皆といっても問題はないけど、ハナちゃんはどうかな?


「ハナちゃん、どうする?」

「みんなでいけば、にぎやかでたのしいです~!」


 良いみたいだな。じゃあ、折角だからみんなで洞窟の確認兼ピクニックにしちゃおうか。


「それじゃ、皆さん一緒に行きましょう」

「「「はーい!」」」


 あとは、ちょっと皆にあの洞窟について説明しておこう。もし「門」が閉じていた場合は、混乱を招く可能性がある。

 故郷への道が無くなっているのだから、「帰れなくなった!」と思ってしまう場合がある。


「それで皆さんに、あの洞窟についてちょっと説明したいと思います」

「せつめい? なにかきをつけなければいけないことが、あるのですか?」

「ええ。あの洞窟、ちょっと特別なもので」


 皆は興味深げな様子だ。ちょっと特別、と言われたから、気になるのだろう。


「あの洞窟は、不要なときは行き止まりになって行き来が出来なくなります」

「ふようなとき? いききができない? どういうことでしょうか」

「え? とおれなくなっちゃうの?」

「どうしよう……」


 予想通り、エルフ達は不安そうな顔をした。でも安心してもらいたい。別にそれは悪い事じゃないからね。


「戻ってもろくなことがない場合は、神様か何かが行き来できないよう止めてくれているんです」

「ろくなことがないとき、ですか」

「ええ。今戻っても、森が枯れたままですよね? そこに戻っても困るだけですよ」

「……たしかに」


 皆はふむふむといった感じになった。大変な目に遭ったようだから、納得できる部分も多いだろう。

 それに、今戻ったところで出来ることは何も無い。時間が解決してくれるのを待つしか無いことなんて、沢山ある。

 まあ、問題解決したら行き来出来るようになることを説明すれば、もっと納得してくれるだろう。


「行き来しても問題ない状態になったら、いつの間にか洞窟の行き止まりはなくなります」

「ふしぎなものですね」

「すごいなぁ」

「かみさまありがと~」


 そのうち行き来できるようになると分かったからか、皆に安堵の雰囲気が広がった。

 あっちに親戚やら家族がある人もいるだろうし、当然の反応かな。


「あのどうくつ、そんなにふしぎなものだったのですね」

「ふしぎです~」


 ヤナさんとハナちゃんが、ふむふむと頷きながら言った。


「そうですね。うちに来る大半のお客さんは、そこを通ってきます。すごい特別ですね」

「ここにこれたこと、かみさまにかんしゃしなければいけませんね」

「ありがたいです~」

(それほどでも~)


 なんか聞こえたけど、まあいいか。

 とりあえず洞窟についての説明は出来たし、エルフ達も納得してくれたみたいなので、これくらいで良いだろう。

 あとは、午後の作業兼イベントも決まったので、確認するかな。


「まあそんなわけで、お昼を食べた後、希望者の方々と洞窟を確認しつつ探検しましょうか」

「「「はーい!」」」


 皆問題ないようで、元気に返事をしてくれた。

 それじゃあ、ちょこっと探検してちょこっと洞窟を確認してくるだけのささやかなイベントだけど、しっかりやりましょうかね。

 その前にお昼を食べなきゃな。俺もおなかが減ったし。

 今日のお昼はエルフ達に全面的に任せましょう。

 

 さて、どんな献立になるかな。楽しみだ。


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