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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第五章  エルフ農業(中級編)
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第一話 耕すくるま

 あの動物騒動から数日後、ちょいちょいとフクロイヌが増えたり動物が増えたりしていますが、村は相変わらずのんびりとしていました。


「今日は良い天気です~」

「ギニャ~」


 ハナちゃんものんびり、フクロイヌと日向ぼっこをしていました。ぽかぽか陽気で、ほんわかですね。

 ハナちゃんもフクロイヌも、ぐんにゃり伸びきってまったりしています。

 とそのとき、ハナちゃんの耳がぴこんと立ちました。


 どどどどど。 


 遠くから自動車の音が聞こえてきたのです。


「タイシが来るです!」

「ギニャッ!」


 ハナちゃんとフクロイヌは、トテテテと広場に向かいました。しばらく待てば、大志が村にやってきます。

 そしてわくわくしながら広場で待っていたのですが、しばらくしてハナちゃんは首を傾げました。


「あえ? いつもと音がちがうです……」

「ギニャ?」


 なんだかいつもの自動車の音と違います。なんというかこう……おなかの底に響くような、重い音です。

 いつもは「ぶろろろ」で、今日は「どどどど」です。

 ハナちゃんとフクロイヌは、首を右に傾げ、左に傾げ、不思議がります。

 そして、ほどなくしてそれは現れました。


「あや! あやややや!」

「ギニャニャニャ!」


 ハナちゃんとフクロイヌはびっくり! 飛び上がってしまいます。

 それはいつもの自動車とは違い、青い色をした、大きくてゴツゴツしたタイヤが付いた変な物でした。後ろにはなにやら沢山の刃がついています。

 こんな変な物、見たことがありません。ハナちゃんは「あやややや!」、フクロイヌは「ギニャニャニャニャ!」と、右に左にわたわたしてしまいます。


 そうしてしばらくわたわたしていたハナちゃん、あることに気づきました。

 その不思議な物の中に、大志が居たのです。


「あや! タイシです~!」

「ギニャ~ン!」


 ハナちゃんはへんてこな物にびっくりしながらも、大志に手を振ります。大志も笑顔で手を振ってくれました。それを見たフクロイヌも、一生懸命しっぽをふりふりして、あざといアピールを始めます。

 そしていつもと違う音を聞きつけて、エルフ達も「なんだなんだ」と広場に集まってきました。


「うわ! あれ何だ!」

「ごつい感じ」

「強そう」


 今までに見たこともないへんな乗り物に、エルフ達はびっくり。大志が乗っているから見ていられますが、そうでなかったら森に逃げ込んでいるところでした。

 そして、驚く皆を尻目に、そんなへんてこな乗り物から大志が降りてきて、挨拶をしました。


「みなさんこんにちは、おかげんどうですか?」

「ハナは元気です~!」

「ギニャ~」


 ハナちゃんとフクロイヌが真っ先に返事をしたのに続き、ヤナさんも手を振って返事をしました。

 見るからに、皆元気いっぱいです。


「私たちも、元気でやってますよ」

「それはそれは。よかったです」


 大志がハナちゃんとフクロイヌをなでなでしながら言いました。

 ここまではいつもと変わらない挨拶ですが、エルフ達の目はへんてこな乗り物に釘づけです。この青いやつの正体を聞きたくて、うずうずしていたのでした。

 そんな皆の様子を見た大志は、乗り物を指さして言いました。


「ああ、これはトラクターといいまして、はたけをたがやすためのものです」

「これで畑を耕すのですか?」

「ええ。そうですよ」


 畑を耕すものと聞いて、ヤナさん他エルフ達は首を傾げました。今まで手作業でコツコツやって来たので、畑を耕すのはわかります。

 ただ、こんな大がかりなもので畑を耕す意味が、いまいち想像できないエルフ達なのでした。

 そんな皆の疑問をヤナさんが代表して聞きます。


「しかし、畑を耕すのにこんな大がかりなものが必要になるのですか?」

「ええ。これがあれば、このむらぜんいんぶんのはたけを、すうじつでつくれます」

「ええ!? 数日で!?」


 手作業で畑を耕すと、丸一日かけてもせいぜいが自分の分だけです。

 でも、そんな大変な作業を全員分、それも数日で作ってしまうというのは、エルフ達には想像もできない事でした。


「そんなに大がかりな畑を作るということですか」

「ええ。たべものがたくさんつくれるようになります」

「ホントですか!? それはすごい!」


 食べ物を沢山作れるようになると聞いたヤナさん、びっくりします。今までちまちまやってきてそれなりになってきたとは言え、基本は大志からの援助で食いつないでいたわけです。


「マジか!」

「食べ物沢山とか、素敵」

「いずれやるってのは聞いてたけど、こんな大がかりになるんだな……」


 他のエルフ達もびっくりしたり、感慨深げに頷いたりと様々な反応をしていました。


「これをつかって、たんぼをいっきにつくります。こむぎばたけもつくるよていです」

「小麦はあの粉の原料という事でわかりますが、たんぼとはなんですか?」


 ヤナさんは、田んぼという聞き慣れない言葉に反応しました。今まで作ってきた畑とは違うのか、気になったのです。


「じっさいにみたほうがはやいかと。いちおう、コメをつくるためのはたけです」

「コメ? ですか。一体それはどういうものでしょう」

「ハナちゃんにあげたしろいやつ、あれですよ」

「「「あのしろいやつ!」」」


 エルフ達は、初めてこの村に来た時のことを思い出しました。ハナちゃんが食べていたあの白い奴。いつか食べてみたいと、皆ずっと思っていたのでした。


「ハナちゃん、あれどんな味だった?」

「噛めば噛むほど甘くなって、とってもおいしかったです~!」

「うおおお早く食べたい~」


 エルフの中で唯一コメを食べたことのあるハナちゃん、皆にどんなものだったか聞かれています。

 想像の中で膨らむあの白い奴の味、皆のテンションは上がりに上がります。


「ま、まあ……そういうことなので、がんばりましょう」

「「「がんばります!」」」


 あまりに高まるエルフ達のテンションに、若干引き気味の大志でした。

 しかし、ここが正念場と腹をくくって、方針を皆に伝えます。


「ここでいっきにきめます。たくさんつくります」

「これが成功すれば、沢山の食べ物が作れるのですか?」


 ヤナさんが期待を込めて大志に聞きました。食べ物を沢山作ることができれば、大志にかける負担も減ります。

 自分たちの自立も視野に入ってくるので、とてもとても大切なことなのでした。

 そんな期待に満ちた目を向けられた大志は、皆の目を見ながら言いました。


「ええ、そうです。たべもののもんだいは、ほぼかいけつします」

「「「わあああああ!」」」


 大志から食糧問題解決の話を聞いたエルフ達、大盛り上がりです。歓声を上げて喜びました。

 ……あの、皆さん? まだ解決したわけじゃなくて、これから解決するのですよ?

 ちょっと気の早いエルフ達ですが、これからの事にめどがつきそうなのは良い事ですね。


「あとは、はたけをつくるために、ふつかごくらいから、しばらくむらにたいざいします」


 喜ぶエルフ達に、大志はしばらく村に滞在すると告げました。それを聞いたハナちゃん、ぴょこっと飛び上がって喜びます。


「タイシ! しばらく村にいるですか!?」

「うん。とおかくらいはここでねとまりするよ」

「やったです~! タイシといっぱい遊ぶです~!」

「いや、あそびにくるわけじゃなくてね……」


 十日くらいは寝泊りすると聞いて、ハナちゃんは大喜びしました。大志が村に居る間、なにをして遊ぼうかと、もう頭の中が一杯です。

 ちなみに大志の話は、途中から聞いていません。


「じ、じかんがあったらね……」


 大志もあんまりハナちゃんが喜ぶので、もごもごと玉虫色の返答でごまかします。

 でもその返答、やっぱりハナちゃんは聞いていません。

 大志もあきらめた様子で、ハナちゃんの頭をなでなでしてごまかしました。


「タイシさん、結構長く居てくれるんだな」

「初めての事かも」

「俺らもがんばんべ」


 他のエルフ達も、大志が長期滞在すると聞いて歓迎ムードです。なんだかんだ言っても、大志頼みなところが多いこの村です。

 大志は確実に生活を改善していってくれるので、頼りにしているのでした。


「それで、ここふつかくらいは、じゅんびのために、いろいろとはこびこみます」

「分かりました。よろしくお願いします」

「みんなでがんばりましょう」

「「「おー!」」」


 こうして、村ではとうとう、大規模な食糧生産に乗り出すことになったのでした。

 その日は、大志とお父さんがひっきりなしに村に機材を運び込み、そのたびにエルフ達が驚くという出来事が繰り返されたのでした。


 そしてその日の夜。


「ふんふんふ~ん」

「あらハナ、ご機嫌ね。どうしたの?」


 いつもは大志が帰ると寂しそうなハナちゃんですが、今日はご機嫌でした。

 あまりに嬉しそうなので、カナさんがハナちゃんの様子を伺います。


「タイシと遊ぶ計画をたててるです~」

「あ、あのね……タイシさんはお仕事に来るわけでね」

「何して遊ぶですかね~」


 ハナちゃんは気まずそうなおかあさんの言葉をスルーして、遊ぶ計画を着々と立てていました。

 なにせ初めての長期滞在です。今まではちょろっと行動を共にするくらいで、がっつり遊んだ事はありません。


「一緒にお野菜作るです? それとも火起こしの練習ですかね。どっちもやっちゃうですか~」


 ……ハナちゃん。それ、割と地味ですね。というかそれは遊びなのかな? どっちかといえば、作業と修行じゃないのかな?


「ヤナ、どうしよう」

「ぼ、僕達が頑張って、タイシさんの空き時間を作ろう」


 普段あまりわがままを言わないハナちゃんですので、なるべく希望をかなえたい二人でした。

 しかし、ヤナさんの回答はそれ、結局何にも解決していないわけですけど。


「楽しみです~」


 ハナちゃんは二日後を心待ちにして、わりと地味な遊びの計画を立てていったのでした。


 翌日。


 大志とお父さんは朝早くから、昨日に引き続き村にガンガン機材と物資を運び込んできます。農家のもつ驚異の輸送力と機材の数々。それは初めて見るエルフ達には、驚愕でした。

 そして大志は空いているおうちを拠点にして、なにやら色々な物を運び込んだり、設置したりしています。


「タイシさん、なんだか凄い事になってません?」

「このせつび、むらでつかえるかの、じっけんもかねているんですよ」

「これが村の設備になるんですか?」

「うまくいけば、ですけどね」


 ヤナさんはどんどん要塞のようになっていくおうちを見て、唖然としています。

 なんだか黒い変な板を屋根に付けたり、たくさんのぽちぽちが付いた二つ折りの板なども運び込んでいて、わけが分かりません。


「タイシタイシ、これなんです~」


 ハナちゃんもそんな珍しい物に興味深々、なんだか銀色の変な形をした棒が沢山はいった箱を指さしています。


「それはこうぐといってね、まあべんりなどうぐだよ」

「あの屋根に付いてる、黒い板はなんです?」

「ソーラーパネルだよ」

「まるで分らないです~」


 その後も唖然とするエルフ達をよそに、大志とお父さんはどんどんおうちを改造していきます。


「物量の差、思いしる」

「見たことない物ばかりとか、ふるえる」

「俺のじまんの道具類は、ただのそこらの棒だったのだ……」


 衝撃を受けているエルフ達をよそに、順調に要塞は出来上がっていったのでした。

 エルフ達が物量の差に震えて遠巻きに見守っていると、大志のお父さんがさらに追加でエルフ達を震えさせます。


「みなさん、はたけしごとでつかう、ふくやくつがありますので、ここからもっていってください」


 大志のお父さんが指さす先には、箱が沢山ありました。


「シロウさん、これは?」

「ふくとながぐつ、てぶくろにぼうしですよ。あとてぬぐいもあります」


 箱の中には、農作業用の長袖ツナギ、安全長靴、軍手に麦わら帽子、そして手ぬぐいが入っていました。

 農家標準装備一式ですね。これを装備すれば、どこから見ても立派な農家になれます。望む望まないは別として……。


「さぎょうをするときは、これをきてください」

「こんなもの、頂いてよろしいのですか?」


 たくさんの服と、エルフ達にとってはぜいたく品の靴があります。おまけに手袋やら帽子やらもあって、皆はくらくらしました。


「履物とか、貰っちゃっていいの?」

「上と下が繋がってる服とか、素敵」

「俺の自慢の編みカゴは、ただのザルだったのだ……」


 麦わら帽子を手に取ったおっちゃんエルフ、妙にへこんでいます。麦わら帽子の網目の細かさに衝撃を受けたようです。

 ……麦わら帽子を参考にそこらの草を編み始めましたが、麦わら帽子は最終的に型を使ってその形にプレスするので、型がないと無理ですよ?

 そんな悲喜こもごものエルフ達を見て、大志のお父さんは念を押します。


「これはみをまもるものですので、のうさぎょうをするときは、かならずみにつけてください」

「分かりました。確かにこれらを身に着けていれば、ケガは減りますね」

「てぶくろとながぐつは、とくにだいじです」


 身を守るものと聞いて、皆も納得しました。大志のお父さんから受け取った農家変身装備一式を受け取り、心なしか気が引き締まった顔をしています。


 こうして、着々と準備は進んでいきました。

 明日はいよいよ、大志の長期滞在と大規模耕作の始まりです。


 畑作り、無事に済むのかな?


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今までヤナさんらエルフ達がひらがなオンリーで、大志が漢字混じりで喋っていたのになんでこの話は逆転しているのでしょう???
2022/02/27 13:10 退会済み
管理
[一言] ハナの能力?で稲も一日で収穫出来たら、村の収入源になるなぁ。
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