第九話 案の定
仕事の合間に、村にちょっと顔をだしたら変な動物が居た。
あのフクロイヌという動物は、とても人懐っこくで可愛かったけど、まさか有袋類とは……。
あっちの世界では、どういう生態系なのかはよくわからないけど、興味深い点ではある。
エルフ達もあの動物を可愛がっているみたいだし、それ自体は特に問題には感じなかった。
問題は――追加でお客さんが来たかもしれない点だ。
念のため、数日かけて親父と一緒に過去の記録を調べてみたけど、どこにも見当たらない。
「親父、やっぱり後から追加で来た記録って、無いよな?」
「ああ、無いな。基本的には、やってきた初日に出会うので全員だ」
「だよね……。あの『種』だって、エルフ達は存在を認識してた」
お客さん全員がその存在を認識しておらず、かつ一か月後に新顔追加なんて事例は、どこにもなかった。
……エルフ達の後をトテトテついてきたけど、そのまま山の中で潜んでいた、とも考えられるけど……。
まあ、それならそれで、いつものパターンか。
春先でろくに食料がない山の中で、あの「のほほん」とした生き物が、一ヶ月以上も耐えられるかどうかは怪しいけど。
とりあえず「実は最初からいたよ」パターンはこれ以上考える必要は無いな。
ようこそいらっしゃい! で終わる話だ。
では次に「後から来たよ。よろしくね」パターンだ。
まずは、追加で来た場合「どうやって来たか」が重要になるな。
基本は洞窟をくぐってくるはずだ。そして全員が村に到達したら「門」は閉じる。
今まで異世界とつながっていたそこは普通の洞窟にもどり、行き来が出来なくなる。
……そういえば「門」って確認したかな?
「なあ親父、洞窟の『門』って閉じてたっけ?」
「そういや確認してないな」
今までのパターンに慣れ過ぎていて、確認を忘れてたな。今度確認しておこう。
外からでも中の行き止まりが見えているならば、「門」は閉じていて普通の洞窟に戻っていると判断できる。ちょっと行ってみてくるだけなので簡単なお仕事だ。
「じゃあ俺が確認しておくよ」
「頼んだ」
さて「門」が開きっぱなしだったら、それはそれで解決だ。そこから来たんだろうしな。
ても、開きっぱなし、というのは凄くまずいな……。
何が来るか、いつ来るか全くわからないから、計画が上手くたてられなくなるよな。
ようやく、なんとかエルフ自立計画に目途がついたのに、ここで追加のお客さんが来てしまったら……。
来てしまったら……。
――あれ? 楽しそうだな、それ。
常にドタバタしてて、もっと村がにぎやかになるよねこれ。
今でさえすごく楽しいのに、もっと楽しくなるとか、素敵。
開きっぱなしでも問題なかった。
よし! これで問題解決。……したのかな?
……まあ、俺一人の手では余るかもしれないから、助っ人でも頼もう。そして困ったら泣きつこう。
なんなら、手伝ってくれる人に丸投げする外道技も使っちゃおう。
とりあえず助っ人として思い浮かぶのは――元お客さん達だ。
こっちの世界に残った元お客さん達なら、割と良く手を貸してくれる。
今や頼れる仲間になったあの人たちに、助っ人をお願いしよう。
とりあえずは、近所からあたろう。まずは高橋さんだな。
高橋さんには俺から電話するとして、他は親父にツテをあたってもらえばいいかな。
とりあえず提案しとくか。
「なあ親父。助っ人頼もうぜ」
「そんなにヤバい状況なのか?」
「別にヤバくはないけど、人手は居るかもしれない」
それに、せっかく面白くなりそうなのに、仲間外れは良くないよな。遠慮なく巻き込むつもりだ。
「ヤバくないのに助っ人頼むのか?」
「逆に『こんな面白い事、黙ってるなんてひどい』って言われると思うよ」
皆面白いこと大好きだからな。たぶん率先して巻き込まれに来ると思う。
親父はそれを聞いて、納得したような顔で言った。
「……確かにそうだな。じゃあいいか」
なんせ俺より付き合い長いから、良くわかってらっしゃる。これで親父の許可も出た。
親父には、まず高橋さんに話を通す考えでいることを告げとこう。
「さしあたっては高橋さんに電話するよ。家近いし」
「じゃあ高橋さんは大志に任せた。俺もいくつか当ってみるから」
いくつかか。いつも手伝ってくれる加茂井さんちとかかな?
……加茂井さんちは何か謎なんだよな。魔法みたいなことを普通に実行して、問題解決する。ある意味、ド◯えもんみたいな家だ。
そのほとんどは無償で協力してくれるけど、たまに条件がついてきたりする。その基準が良くわからない。
そもそも連絡先も知らない。何処に住んでいるんだろうか? 聞いてみるかな。
「いくつかって加茂井さんちとか?」
「ああ、さしあたってはそうだな」
「加茂井さんってどこに住んでるの?」
「しらん」
親父も知らないのかよ! それで連絡つけられるの?
「じゃどうやって連絡つけてるの?」
「電話だけど」
電話はあるんだ。いや、なんで電話番号知ってるのに住所は知らないのか。
「なんで住所はわからないの?」
「携帯電話の番号だしな。あと住所は教えてくれないんだよ。昔っからだな」
意味がわからないな。……まあ、良くわからない家ってことか。うちも人の事は言えないけど。
「そのうち大志がドラえ――おっと! 加茂井さんとのお付き合いを引き継ぐんだから、今の内に慣れとけ」
今ド◯えもんって言いかけた! 親父も似たような印象もってる!
……まあ、そういう家だと思っておけば良いか。もう考えるのはやめよう。
「……いまさら考えてもしょうがないか」
「ああ、俺も考えるのはやめてる。大志もそうしとけ」
付き合いが長いのに、住んでいる場所が分からない。いまいち不安になるけど、昔からそうならもう、そういうものなんだろうと思うしかないな。
よくわからないドラ……加茂井さんは親父に任せて、俺は高橋さんに連絡しよう。
「じゃ、俺は高橋さんに電話するわ」
「あいよ」
加茂井さん云々は考えないことにしよう。さて、高橋さんは家にいるかな?
『お、大志。どうした?』
……数コールで出た。家にいたか。今日は休みの日だったのかな?
「あ、高橋さん? 今時間あるかな」
『いいぜ。ちょうど暇してたところだ』
暇してるなら、遠慮はいらないな。早速切り出そう。
「今さ、村にお客さんが来てるんだ。その手伝いをしてほしくて」
『お! とうとう来たんだな。で、俺は何を手伝えば良いんだ』
もう既にノリノリな高橋さん、手伝う気満々だ。しかし、具体的に何がっていうのはまだ決まっていない。そのまま伝えよう。
「今の所特にはないんだけど、話だけは通しておきたかったんだ」
『わかった。何かあったら駆けつけるよ』
「ありがたい。お願いできるかな」
『任せとけ』
心強い返事を貰えて、一安心だ。これで高橋さんは大丈夫だな。
「じゃあまた電話する」
『待ってるぜ』
高橋さんとの通話を終えたので、やることが無くなった。次は何しようかな。
……そういえば、記録を調べるのに忙しくて、しばらく村に顔を出してなかったな。
ちょっと様子を見てくるか。
「親父。俺、ちょと村の様子をみてくる」
「そうだな。最近顔だしてなかったしな。あちらさんも寂しがってるんじゃないか?」
そういえば、ハナちゃんは寂しそうだったな。俺もハナちゃんの顔、見たくなってきた。
「そうかもね。俺もエルフ達の顔、久々に見てくるよ」
「そうしてやれ」
「じゃ、行ってくる」
「気を付けてな」
さて、村に向かうとするか。今の時間なら、道も空いていて早く着けるだろう。
◇
道が空いていたので、四十分程で村に着いた。
着いたのだけど……。
広場に入ると、エルフ達がごめんなさいをしていた。
……もうこの時点で嫌な予感メーターが最大値を示している。
嫌な予感というか、既に見えているというか……。
とりあえず、ヤナさんに事情を説明してもらおう。
「ヤナさん、これは一体……」
「もうしわけないです……」
「「「ごめんなさい~」」」
ヤナさんと一緒にエルフ達もごめんなさいをする。
「とりあえず、何があったか教えて貰えます?」
「はい。すうじつまえからの、はなしになるんですが……」
ヤナさんが、この状態になった事情の説明を始めた。