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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第四章  エルフと動物達
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第七話 マイスターの趣味

 大志からフクロイヌの飼育許可が出てから数日後。

 各家庭で育てている野菜に、ちょっとした事が起きていました。


「あれ? なんだか野菜につく虫、減ったような感じ」

「たしかに減ってるべな」

「なんでだろ?」


 どうやら野菜につく虫が減ったようです。ハナちゃんと違って、他のエルフ達が育てる野菜は、それなりに時間がかかります。

 野菜が育っていく間に、虫が付いてしまうのでした。無農薬栽培ではどうしてもそうなってしまいます。

 農薬の管理と適切な使用は、それなりの経験と知識を必要とします。そんな経験も知識も、エルフ達にはありません。

 なので、大志はあえてエルフ達に、無農薬栽培をしてもらっていたのでした。

 虫が付くのはある程度容認して、食べられればそれでいい、という考えでぼちぼちとやる方針ですね。


 しかし今日はなんだか、いつもより野菜につく虫が減っています。

 ……一体なにが起きているのでしょうか? エルフ達はこの謎を解き明かそうと考えました。

 考えましたが。


「……これはあれだな。あれあれ?」

「まあ、良い事だよな?」

「気にしてもしょうがあんめえ」


 エルフ達の冴えわたる思考能力で――およそ二秒ほど熟考した結果。

 特に気にしないことになりました。

 ……そうですね。人間、無理は良くありませんよね。皆さんはそれで良いと思います。


 それに虫が減れば、すくすくと野菜が育ちます。

 特に悪い事が起きたわけでもないので、気にする必要は確かにありません。

 こうして、この出来事は解明されることなく、日常に埋もれていく――はずでした。


 エルフ達の中で一人だけ、この現象に興味を持った人がおりました。

 その人は、毒草が大好きなあのお方、毒草マイスターの彼です。


 マイスターは植物や動物を観察するのが趣味で、こっちの世界にある野草にも興味深々。

 毒草を見分けられないのも、興味が先に立って警戒心をどこかに置いてきてしまうからなのでした。

 そしてそんな彼だからこそ、この現象にとても興味を持ったのでした。


「何もしないで虫が減るわけない。なんかあるぞ」


 マイスターは野菜をじっと見つめてつぶやきます。

 そんなマイスターのつぶやきを聞いていたエルフ達、胡散臭げな顔をして言いました。


「お前、昔そんなこと言って大変な目に遭ってたよな?」

「肉に使うあの草を食って、しばらく体が光るようになってたあれか?」

「オマケにちょっと宙に浮くようになってたよな」


 どうやら、過去に毒見芸を披露した結果、体が光って宙に浮くようになったみたいですね。それ、大失敗ですよ?

 そうして過去の失敗談を言われたマイスター、何でもない事のような感じで言いました。


「実は今でも、わかんないくらい微妙に光ってるぞ? 流石に宙には浮かなくなったけどな」


 皆は過去の失敗談のつもりでしたが、マイスターにとっては――現在進行形だったのです!

 それを聞いたエルフ達、ドン引き。


「マジか! うわ~引くわ~」

「あの草やべえ~。それよりまだ光ってるお前はもっとやべえ~」

「どうしてあれを食べちゃおうと思ったのか。俺はそこがわからない」

「そもそも、お前なんでそれで無事なの? そこが一番やべえよ」


 宙に浮かなくなっても、かなり長い間体が光るようになるみたいです。

 ……影響はそれだけですよね? 他に何か出てませんよね?

 皆に色々と言われたマイスターですが、どこ吹く風。ドヤ顔で反論しました。


「そのおかげで、あの草を生で食ったらほんとにやべえって分かったんだから、よくね?」


 なんというポジティブ思考! 他のエルフ達はドヤ顔マイスターを総攻撃します。


「普通の人間じゃ、その程度で済まねえよ」

「何故そんなに前向きなのか、俺はそこがわからない」

「お前、あの草食った瞬間『あっこれダメなやつだ!』とか言ってたじゃん」

「口に入れた瞬間にダメなやつってわかったのに、どうして飲みこんじゃうのお前は」


 このような危険な草に手を出して、散々な言われようのマイスター。

 ですが、マイスターは毒見芸のお蔭で、様々な毒に耐性が出来ています。

 他人には真似できない特技でのおかげで、あの草を食べても……光って浮く程度で済んだのでした。

 良い子の皆は真似しないでください。


 そして、そんなちょっとアレなマイスターが、この謎の解明に乗り出しました。

 解明に乗り出した人物がアレですので、あまり期待しないでおきましょう……。



 ◇



 翌日。


 マイスターが畑の監視に入りました。森から採ってきた葉っぱで、畑にテントをこしらえ気合十分。

 一日中監視をするつもりですね。


「ずっと見張ってりゃなんかわかるだろ」


 もぐもぐと干し肉をかじりながらつぶやくマイスター。食料も持ち込んで、じっと畑で待機します。

 ……しかし、初日は何も起こりませんでした。


「このまま夜通し張り込むぞ」


 森から採ってきた光る葉っぱの枝を、ぷすりと地面に挿し明かりを確保。そこまでやりますか。

 めげない彼は、徹夜で監視するつもりです。

 ……まあ、趣味の一環ですので、行楽というか、彼なりの余暇の過ごし方でもあります。

 ですので、彼にとっては別に苦でもないようですね。

 こうして、夜通し畑を見張るマイスター。意外と努力の人なのでした。


 翌朝。


「ふぁ~……なんも起きなかったな~」


 眠い目をこすりながら、マイスターは大あくびをします。一晩中見張っても何も起きませんでした。

 しかしこういう事は根気が重要、今日も一日監視を続けます。

 目をしょぼしょぼさせながら、畑を見つめるマイスター。


 さらにめげずに畑を監視していると――フクロイヌを連れたハナちゃんがやってきました。


「こっちです~」

「ギニャ~」

「ニャ~」


 ハナちゃんの周りを、楽しそうに走り回るフクロイヌ。今日も元気いっぱいです。

 それを見たマイスター、基地から這い出してハナちゃんに話しかけました。


「おはようハナちゃん。こんな朝早くにどうしたん?」

「あ、おはようです~。餌やりにきたですよ」

「餌やり? フクロイヌに?」


 マイスターは首を傾げました。別に畑に来なくても、フクロイヌに餌やりはできます。

 わざわざ、早朝の畑に来る意味はありません。

 しばらく考えたとき、一つ思い当ることがありました。フクロイヌは虫も食べるのです。


「もしかして、フクロイヌに野菜の虫を食べさせてるん?」

「ちがうです~」


 違うようです。マイスターはまた首を傾げてしまいました。

 そんなマイスターをよそに、ハナちゃんはフクロイヌをくすぐりはじめました。


「ほらほら~くすぐっちゃうですよ~」

「ギニャッ、ギニャッ」

「ニャニャ~ン」


 フクロイヌはたまらず、おなかの袋から中身をぽろぽろこぼします。

 ――ありえない数のなにかが、こぼれだしてきました。

 ピンポン玉くらいの大きさで、白くてまるいふわふわ。

 それを見たマイスター、正体に気づきました。


「おいおい! それもしかして……ピヨドリじゃね!?」

「そうです~。この子らの餌やりするです~」


 白くてまんまる、そしてふわふわ。

 良く見てみると、黒くてつぶらな瞳と、黒くてちいさなちいさなくちばしも見えます。

 このピヨドリは、あっちの森でもめったに見られない、とても希少な鳥なのでした。


 驚いて目をまん丸にしているマイスター、ピヨドリを唖然と見つめます。

 そうしてマイスターが固まっている間に、ピヨドリ達はつんつんと野菜をつつき始めました。


「ピヨドリって野菜食うのか。はじめて知ったな」

「ちがうです。野菜についた虫を食べてるです」

「なんだって!?」


 ハナちゃんに解説されて、あわててピヨドリに近づき観察するマイスター。

 ……ピヨドリ達は、確かに野菜についた虫を食べていました。


「ピヨ~」

「ピピィ」


 ちっちゃな羽をぱたぱたさせて、一生懸命ついばみます。沢山いるので、みるみる野菜についた虫は減っていきます。

 マイスターはそれを見て、すっきりした顔で言いました。


「野菜につく虫が減ったのはこれが原因か~」

「あえ? なんかまずかったです?」


 良かれと思ってやったことですが、なにか迷惑をかけていたら大変です。ハナちゃんはちょっと不安な顔になりました。


「いやいや、ハナちゃんお手柄だよ。正直助かるわ」


 なでなで。マイスターはハナちゃんを褒めました。

 野菜につく虫が減ったので、畑の世話もだいぶ楽になっています。大助かりなのでした。


「えへへ」


 褒められたハナちゃん、役に立ったことがわかって安心です。

 こうして、マイスターの無駄な張り込みは終わったのでした。


 畑をトテテテと走り回るフクロイヌ、ぴょこぴょこ動く沢山のピヨドリ。とってもにぎやかです。

 またまた、村に仲間が増えたのでした。

 そんな光景を、目を細めて眺めていたマイスター、感心した様子で言います。


「しかしハナちゃん、良くこんなん思いついたな」

「いろいろあったのです~」


 遠い目をするハナちゃん。色々あったようです。

 それに興味を持ったマイスターは、ハナちゃんに聞きました。


「興味あるな。一体何があったん?」

「ちょっと前に、森で遊んでたですよ……そしたら」


 ハナちゃんはピヨドリをつんつんしながら、こうなった経緯の説明を始めたのでした。


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