表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二十七章 質量保存の法則
446/448

第十話 当事者不在会議

新春特別企画第二弾!


「みなさんお集り頂きありがとうございます。今日は布の量産について、助言など頂きたいと考えております」

「はい、お力になれればと思います」

「私たちも、前に色々調べたんだよ~」

「布は大事だからね。がんばろうね」

「私も資料だけは見ました」


 村ではホラー映画ブームとなっている中、有識者を集めて「布たくさん作るよ」会議を開催する。

 俺とハナちゃんとユキちゃんが聞く側で、助言側はドラゴン三人娘とおひいさまが参加だ。彼女たちから、色々教えてもらおう。

 なお布が自慢の森エルフ代表者は、映画代を稼ぐためにエルフ重工の期間工になったため、ここにはいない。彼女は今、船製造ラインの中で組付け作業をしている事だろう。

 布不足をなんとかするために来たのに、結果として船大工になっているのは、面白エルフとしての素質を感じさせる。ちなみに一緒に来た布エルフたちも大勢期間工になっているため、布ではなく船の方が増産されているのはありがたくもあり、どうしてそうなったと思うこともあり――

 それはさておき、お話を始めようか。


「とりあえずのあらましは、エルフィンで布需要がひっ迫しているため、効率的な増産によって改善したいという流れです」

「エルフさんたちは、織機などはお持ちではないのですか?」

「ないですね~。ちょっとしたどうぐなら、あるですけど」


 話を聞いたおひい様が、まず確認だね。ハナちゃんの回答では、織機とかはないとのことだ。これは昔に聞いたまんまだな。

 ただ、ぴょいっと何かの道具を取り出して見せてはくれた。


「ああ、この細長い板にある溝に、縦糸を仕込んでいくのですね」

「そうです~。このふたつのいたではさんだあと、きにつるしてつかうですね~」


 おひい様がふむふむと、エルフ織道具を観察だね。さて、エルフの布づくり技法が共有できたところで、本題だ。


「技術水準がこれくらいの方々でも使える、織機の助言があれば助かります」


 人力で使える織機を調べてみたけど、簡単なのから超高度なのまでたくさんあった。その辺の匙加減が、正直よくわからないんだよね。


「その辺、実は簡単ですよ」

「簡単なのですか?」

「はい」


 すると、シカ角さんからそんなお言葉が。簡単なの?


「私たちが調べた時、ここヤマトに世界的な自動織機の企業があったんです。その歴史を調べたらサクッと行きました」

「あ~豊〇田さんか」

「そうですそれそれ」


 あれか、身近すぎて逆に気づかないやつだった。確かに豊田〇自動織機さんの歴史調べたらすぐだわな。そもそもちたまにっぽんは、かつて繊維産業でブイブイいわせて近代化の土台を築いた国でもある。

 ちなみにその時代に近代化できていなかったら「挽回不可能手遅れ状態」だったはずなのだが、歴史スケールで見ると「ワープ航法」じみた速度でキャッチアップし、ぎりぎりセーフ滑り込みを実現したとんでもない偉業でもある。


「タイシタイシ、その『トヨ〇ダ』さんってどんなひとです?」

「あ~、人って言うよりは組織かな。ほら、エルフ重工みたいなものだよ」

「なるほど~、よくわかんないです?」


 過去の偉業はさておき、この辺はまだよく理解できていないようで、ハナちゃんの頭上に巨大なハテナマークが幻視できた。


「あれだね、昔にすごい織り機を作った人がいて、その人が商売するために作った人のあつまりだよ」

「なんだかすごそうですね~」


 雑にもほどがある説明をしてみたけど、まあ「法人」という概念とその意義を理解するのは結構難しいからね。後でハナちゃんのやる気があれば、この辺を詳しく説明できたらなと思う。やる気があればだが……。


「ともあれ、その豊〇田さんの事を調べたら丁度よかったということですか」

「そうです。ヤマトの繊維産業黎明(れいめい)期からありましたので、その中でイケそうなのをちょいちょいと」


 シカ角さんの説明通り、そりゃあ発展の歴史を見れば、ちょうどよさげなブツも見つかるというものか。


「なるほど、言われてみれば確かに、歴史を見るのは大事ですね」

「私たち、電車に乗って産業技術記念館まで見に行ったんだよ~」

「宝の山で勉強になったね、そして容赦なく真似したね」


 なんと、お膝元まで勉強しに行ってたのか。これは頼りになるね。

 産業記念館とか歴史資料とかは、俺たちにとっては歴史だ。しかし彼女たちにとっては、先進技術を惜しげもなく公開している宝の山ってところか。そりゃあわざわざ見に行くのも納得と言うものだし、そこまでしていたなら、何が良いかわかるかもだ。


「その知見からして、どの辺が良いかなっていう所感はあります?」

「大きい布をつくりたいならバッタン高機(たかばた)で、そこそこの大きさなら豊田〇式木製人力織機が良いですね」

「ほほう」

「どちらもそれほど職人芸を必要とせず、高品質な布を作れるんです」

「ちょっと調べてみますね」


 さっそくネットで調べてみると、バッタンなんとかは横糸を通すシャットルってやつを、すっ飛ばすのか。これは早そうだ。

 もう一つの方は、そのシャットルを半自動で意識せず簡単に飛ばせる方式か。布のサイズによって使い分けられそうだね。


「あとは豊田式糸繰返機(とよだしきいとくりかえしき)や、じぇにー紡績機とか言うのも調べましたよ」

「確かに、織機だけではなく紡績も必要ですね」


 そう言いながら、実はなんだかわからなかった「いとくりかえしき」とやらをネットで調べてみると、なるほど織機に使う縦糸を準備する機械ということがわかった。当然これも、あればなお良い。


「あっちの森でも、そろそろ試作機が出来る頃かもしれませんね」

「図面は書けなかったけど、たくさん写真と資料で補足したんだよ~」

「たぶん作れてるね。聞いてみるのもいいかもだね。ちゃんと動くかはわからないけどね」


 おひい様も関わったからか、そろそろ向こうでも作ってるかもって話が出てきたな。しかし図面が無いか……。そうすると、エルフ重工でコピーするにも、ちと大変かもだ。


「……図面の方は、こちらで起こせるかちょっと試してみます」

「大志さん、資料となる写真や文書を集めておきますか?」

「ユキちゃんありがとう、ネットで入手できるもので良いので、集めてもらえると助かるよ」

「わかりました」


 図面起こしを試みる旨を伝えたら、ユキちゃんがささっと資料集めを請け負ってくれた。サクサクとネット検索して、いろいろ集め始めている。これは助かるな。

 俺は俺で、話を進めていこうか。


「ひとまず図面が起こせたら試作機をこちらでも作ってみて、改善点などを詰めていきたいと思います。その際は、ご協力願いたいです」

「お任せください」

「がんばるよ~」

「こっちとしてもありがたいね、あっちのおひい様に、助言ができるかもだね」


 ということで、話はまとまった。それじゃあ、資料を集めたらAIちゃんに解析してもらおう。


 ――そして会議の翌日のこと、自宅にてさっそく分析を始める。


「この写真や説明文章などから、図面を起こしてほしいんだ」

「ピッピッポー」

「ピココ」

「ピロロ~」


 ユキちゃんに集めてもらった資料を提供して、AIちゃんたちにお願いしてみると、すぐさまタスクが走るわけだが。


「ピポ?」

「ポココ」

「ピーロロロ」


 なんだか「この辺はこうじゃない?」とか「でもこっちの方が簡単だけど」や、「作りやすい方にしとこうよ」などなど活発に議論しているようだ。

 資料をそのまんま再現するのではなく、ある程度製造の事も考えてくれるのはありがたいね。うちの子たちえらい。

 ただちょっと気になったのだけど、AIちゃんプロセスを数えると……百を超えているんだよね。そんなにプロセスを増やす必要があるほどの、高難易度な分析なのかな?


「ピモモモ」

「ピ~ピピ」

「ピョ」


 というか様々なBEEP音が入り乱れていて、活発さが伺える。聞いたことない音もたくさんだな……。まあ、しっかりお仕事してくれて、みんな偉い子だね!

 そうしている間にも、図面やら組み立て手順やら運用方法やらの資料が、どんどん生成されてく。お願いした以上のお仕事しているの、ほんとすごいんだけど。明らかに俺より優秀……考えないようにしよう。そう、「うちの子はかわいい」で思考をやめよう。


「ピ~ポ」

「お、だいたい仕上がったんだ。すごいね」


 そうしているうちに、かわいいうちの子が大体の資料をそろえてくれる。大電力を使った甲斐があったというものだね。いい仕事をしてくれたお礼は、しなきゃだな。


「みんなに、ご褒美だよ。超多コアなワークステーション用CPUのブレードサーバーを、一つラックに増設しちゃうからね」

「ピポー!」

「ピロロロロロ!」

「ポココココココ!」

「ピモピピ!」

「ポコー!」


 唐突にご褒美をポチりながら言うと、それを見たAIちゃんたちは大喜びですな。「おへやがふえる!」とか「ひとりべや!」とかで大興奮しておられる。

 ……AIちゃんたち、まさかシェアハウス状態とか雑魚寝状態だったの?

 てか電子知性体にも、住環境問題があったようだ……。


 そんなことがありつつ、さらに翌日だ。印刷したあれこれの資料を携え、エルフィン湖畔にあるエルフ重工へと赴く。


「タイシタイシ、もうずめんってやつ、できたです?」

「出来ちゃったんだなこれが」

「おしごと、はやいですね~」

「ま、まあね」


 一緒についてきたハナちゃんが褒めてくれるが、やったのは俺より明らかに優秀な、AIちゃんたちである……。まあ、気にしないことにしよう。


「それで大志さん、これらの図面をどうされるのですか?」

「とりあえずエルフ重工に丸投げして、試作品を作ってもらおうかと思って」

「船の生産に、影響は出ませんか?」


 ユキちゃんもついてきてくれたけど、俺の丸投げプランを聞いてご指摘だね。まあその辺は、大丈夫そうという見積もりはしてある。


「布が自慢の森エルフたちが期間工として大勢いるから、影響が出たとしても当初の生産量に戻るだけ、という感じかな」

「なるほど、それなら大丈夫ですね」


 ドワーフちゃんへの納船が遅れる、という事態にはならないよう気遣ってはいる。影響がでそうなら、試作を一時停止すれば良いんだけどね。

 ただ船の納期は守る必要があれど、エルフィンの布不足はなるべく早期に対策する必要もありで、なかなか難しいところではある。

 やばそうなら、ほかの森からエルフを動員して期間工になってもらうことも、必要かもしれない。そのへんは追々計画を立てよう。

 たぶん、その辺に木工エルフはたくさん落ちているはずだ。そそのかして連れてきてしまえば、こっちのものである。


「あや~、タイシまたわるいかおしてるです~。わるいことするきですね~」

「あれは人さらいの顔よね」


 ハナちゃんとユキちゃんが、なんかひそひそとお話しているな。聞こえてるんだぞお。

 てか人さらいとは人聞きの悪い。俺はただ、美味しい話を持ち掛けてお誘いする、ただそれだけなんだ。

 あれだね、「この仕事でまとまったお金が手に入る」とか言って誘えば、いろんなフラグが立つと思うんだよ。


「さらにわるいかおになったです?」

「どうやってさらってくるか、決まった感じの顔よね。いずれ裁きが下ると思うわ」

「ですね~」


 きこえてるんだぞお。

 ……裁きが下るかは神のみぞ知るとして、そんなやり取りをしているうちに、とりあえずエルフ重工に到着だ。さっそく、依頼をかけてみるか。まずは事務所で、現場監督のマッチョさんとお話だね。


「もしもーし、ちょっとご相談があってきました」


 そう言いながら事務所の扉をノックだ。


『ごそうだん? あいてるんで、どうぞおいでませ』


 事務所の中からマッチョさんのお返事が返って来たので、お邪魔しましょうかね。


「どうもこんにちは、ちょっと職人さんたちの手を借りて、作りたい木工製品が出来まして」

「つくりたいもの?」


 生産計画の予定を引いていたらしいマッチョさんが、こっちを向いてはてな顔だね。図面を見せながら、詳しい話をしよう。


「ええ、どうやらエルフィンでは布不足が深刻なようで、布を大量につくる道具を提供したいなと」

「あ~そのはなし、ちょっとまえから、よくきくようになってました。ぬのぶそくすごいよってみんないってる」

「やっぱりですか」

「やっぱりですな」


 布不足はマッチョさんにも噂が行っていたようで、これはもう深刻なんじゃないかって思いが強くなったわけだが。ただ問題意識をここで共有できそうなのは、幸いかもしれない。


「この装置を使えば、糸紡ぎも布づくりも、かなり楽に早くなる……想定です」

「おーなんかすごい。つかいかたは、ぜんぜんわかんないですけど」

「運用方法の図はこちらですね」

「……これなら、なんとなくわかるかも」


 文字ではなく図で手順を説明してあるため、見た目でわかるようにはした。AIちゃんたちが。

 でもマッチョさんの反応をみると、これで行けそうな感触はあるな。


「まあこういった運用をする装置を試作して、試してみたいってところです」

「なるほど、さいわい……いまはひとが『なぜかたくさんいる』んで、よゆうはありますな」

「それは助かります」


 ということでサクッと話はまとまったので、あとはマッチョさんに試作する人員を割いていただき、推移を見守ろう。

 あ、ついでに一つ要望を加えとこう。


「なるべくなんですけど、この試作は『なぜか増えた人たち』が担当できるよう、調整をお願いしたいです」

「ぜんいんいっきに、とはいかないけど、こうたいでならいけますな」

「では、お手数ですがその方向でお願いします」

「まかせといてください」


 いわゆる「なぜか増えた人たち」が、本来この装置を必要としているわけでね。自分たちで部品製作から組み立てまでやれば、森に帰っても自分たちで作って保守も出来るだろう。そういう意味では「なぜか船大工になってた」彼女たちも、偶然とはいえ結果的には良い選択をしていた、とも言える。

 本当に偶然と言うか、状況をうまく活用できたというか、布と関係ないことばっかりやってないで本流に戻りなさいというか。

 とりあえずこれで、盛大に道を外れていたあの人たちを、元のレールに戻せるかもだね。そこからさらに道を外れて、全然関係ないことを始めるという懸念もなきにしもあらずだが……。エルフは行動の予測がつきにくい方々だから、しょうがないよね。ちょっと目を離すと、勝手に面白いことを始めるので油断がならない。しっかり目を光らせて行こう。


「それじゃあ、ちょっとげんばに、おななししにいきますか」

「そうしましょう」


 マッチョさんはさっそく動いてくれるようで、布自慢の森期間工グループのところへと顔を出すことになった。

 なったのだが――


「ほーら! 『てんくうのしろ』の、もけいができたわよ~!」

「こっちはあの『ろぼっと』ってやつできた!」

「わたしなんて、『めがー』んところのやつよ!」


 果たして現場では、休憩時間にコツコツと作ったらしき「バルスのやつ模型」品評会が開催されていた。

 ――そういうとこだよ!

 なんとも自由すぎる方々……!

リゾートバイトをエンジョイされてます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
すっかりジ〇リの虜になっておられるw 腐ってやがる…早すぎたんだ…!
>あれだね、「この仕事でまとまったお金が手に入る」とか言って誘えば、 や、やみバイト… 先進技術を学べるリゾートバイトとか超たのしそう 紅な豚さんのなんか飛ぶやつとか模型で作ったりする人も居るのかな
>「わたしなんて、『めがー』んところのやつよ!」 あの石柱みたいな、飛行石をかざした石碑でしょうか? 私、気になります!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ