第六話 お疲れ会
「タイシさんいろいろありがとう~」
「ふっかつしたじゃん」
「まだふるえてるけどね」
二日間映画鑑賞会でごまかしたおかげで、村人たちが続々と復活し村の業務を再開しはじめた。これで一安心といったところか。
「それでですね、ハナが言うには『ばるすのやつ』という大変面白いやつをやったそうで」
もう大丈夫と思っていたら、いつの間にかヤナさんが隣にいて、そんなことを言ってきた。どうして気配を消して近づいたのだろうか。
「そうそう、なんかもりあがったらしいときいた」
「きょうみがあるの」
「おれもおれも」
と思ったら復活村人エルフに囲まれていた。なぜみんな気配を消して集まるのだ。
「そうそう、私も聞きました」
「男がなんだかおもしろいことをしていたと」
「やはり男なのね」
「気分をアゲてくれる存在なのよ」
そしておひい様とお世話ドラゴンさんたちも、キラキラお目々で輪に加わるという。ちなみに彼女たちの動きはまだぎこちないため、完全回復はしていない模様である。
「~」
わさわさちゃんもいつの間にかいて、ぴょーんと俺の服に引っ付いたあとはそのままこちらを見上げ、お目々キラキラである。きたいのまなざしが眩しい。
「わきゃ~ん、えいがはいいものさ~」
「うちらも、ばるすのやつみてみたいさ~」
「とってもよかったよ! よかったよ!」
おおう、偉い人ちゃんもそうだけど、復活ドワーフちゃんたちも見たいって言ってるぞ。
「いまばるすのやつってきこえた」
「またえいがみられるの?」
「たのしみ~」
そして耳のいいエルフなため、観光客も集まり始める。大変なことになってきた……。でもまあ、みんな面白い映画を見たいって所だね。それじゃあ、広場にスクリーン張って上映会でもしよう。
ほんで一緒にお疲れ会もやってしまえば、村人も観光客も一緒に楽しめるイベントになるんじゃないかな。
「それでは、田植えお疲れ会も兼ねて広場で映画上映でもしましょうか! お料理食べながらのんびり映画をみんなで見ましょう」
「それいい」
「きたこれ」
「わーい!」
提案してみると、反応は上々だから大丈夫っぽいね。それじゃあ、お疲れ会兼野外シアター設置の計画を立てよう。ちと規模がでかいので、ある程度予定立てないとグッダグダになるからね。……予定立てても、いつもグダグダになってるのは考えないことにする。
「それではちょっと計画立てて準備しますので、集会場で有識者会議やります。催し物準備に首突っ込みたい方は、どしどしご参加下さい」
「「「はーい!」」」
てな感じで始まった催し物準備会だけど、まずは会議だね。ざっくりとでもいいから、ある程度の流れは決めておこう。
「うふ~、おつかれかいでえいがみるの、たのしみですね~」
「わきゃ~ん、わくわくするさ~」
「おまつりだからね! おまつり!」
「男は突然お祭りを計画するっと」
「~」
そんなわけでわさわさちゃんを引っ付けたまま集会場で会議を始めるわけだが、かぶりつき席にはハナちゃんや偉い人ちゃんと、妖精さんたちや面白ドラゴンさんたちがうきうきしながら着席していた。他は……まあ村人全員と観光客も見物している。大所帯だなこれ。
「それでは会議を始めましょう――」
こうしていろいろ話し合い、食べたいお料理を選んでもらったり、お酒はある程度村から出すけど全部は無理なので足りなかったら自腹ですまんとか決めていく。上映作品はバルスのやつまた見たいってのが多かったので、これは上映決定だ。あとはよくわかんないからお任せで良いとのこと。
イベントの流れとかも確認して、大体の方針がざっくりと決まる。あとは出たとこ勝負でなんとかなるだろう。お袋やじいちゃんばあちゃんとか、魔女さんも誘うので開催日程は後日ってことにする。まあ後日とはいえ今日明日は無理だけど、明後日とかならもしかしてって感じだね。
あと観光客の皆さまはまだ換金していない人もいるため、そっちも先にやっておく必要がある。飲み足りない時にお酒自腹となるからね。まあ……大量に作ってあるぽいから、そうそう足りなくなることはないだろうけど。
「ではでは、開催日が決まりましたら告知しますので、それまでちまちま準備進めましょう!」
「「「はーい!」」」
観光客も予定は大丈夫っぽいので、なんか一緒になって準備を手伝っていただけるようだ。お客さんを働かせる観光地……。まあ、すでに田植えで働かせていたわけだが。その辺は、村からお酒とお料理はある程度無料で出すから、それで埋め合わせってことで。
こんな感じで突発的に始まった準備だけど、別に障害とかはなんにもないのでサクサク進んでいく。
「大志さん、魔女さんもシフト空くので大丈夫だそうです。ごちそう楽しみにしていました」
「ユキちゃんありがと。うちの家族も大丈夫だから、あとは買い出しだけか」
「そうなりますね」
翌日には参加メンバーのお誘いと予定合わせもサクっと完了し、開催日程が固まった。早速告知しよう。
「お疲れ会、明後日できますよ。お天気も晴れるので、午前十時くらいから始めてのんびりいきましょう」
「「「わーい!」」」
とりあえずその辺にいた村人たちに告知すると、あっという間に村中に広まる。田舎の情報伝達速度は驚異的なのだ。なお著しく情報ジャンルは偏る模様だ。
こうして日程も決まったため、あとは機材の確認とか上映作品選びとか食材の準備とか、それくらいだ。俺は拠点で上映作品選びでもしていよう。
「さて予定も固まったところで、何を上映するかのんびり決めるよ」
「あ、私も作品選び参加します」
「それじゃあ、一緒に拠点で選ぼう」
「はい!」
作品選びするよってユキちゃんに伝えたら、一緒に手伝ってくれるそうだ。というわけで、拠点でゆっくりする。
「あえ? タイシとユキ、どしたです?」
「ギニャニャ」
拠点ではハナちゃんがフクロイヌと一緒にゴロゴロしてたけど、俺たちが帰ってくるなりメディアを机に並べ始めたのが気になったようだ。これからお仕事するよって伝えておこう。
「お疲れ会で上映する映画を何にするか、ユキちゃんとのんびり決めようかと思って」
「あや! ハナもきめたいです~」
「ギニャ~」
話を聞いたハナちゃんは、わくわく顔でフクロイヌをだっこしながらこちらにやってきた。
「もちろん良いよ、一緒に選ぼうね」
「あい~」
「ギニャ~」
「わきゃ~ん、うちもえらぶさ~」
「わたしたちもえらぶね! えらぶね!」
窓際で椅子に腰かけうとうとしていた偉い人ちゃんも、突然覚醒して参加表明してきた。こういうのには反応が早い。妖精さんたちもその窓から飛び込んできて、元気に宣言である。若干びっくりした。
「タイシ、これはなんです?」
「なんか半透明のおもちみたいなのを、すごくおいしそうに食べるやつだよ」
「あや~、それはよさそうです~」
「これはなにさ~?」
「魔女さん曰く『私もあんな風に堂々と飛びたい』やつらしいよ」
「とぶやつなのさ~?」
「これは? これは?」
「ちいさな人の暮らしは大変だなってやつだよ」
「きゃい~! そうなの! そうなの!」
「大志さん、これは上映できそうですか?」
「バルスのやつが大丈夫だったから、戦士たちが帰ってきても何とかなると思う」
「ですよね!」
「ギニャ?」
「お風呂で寝る人のやつか……人を選ぶかも。自分はこれ好きなんだけどね」
「ギニャ~」
わかりやすい解説にて作品概要を理解していただきながら、厳選を重ねる。まーこんなんで良いよね、と参加者のみなさんに選んで頂き、作品が決まっていった。
食材調達も目途は立っているし、お酒の準備も村人たちが張り切っていたので、もうほとんど準備は終わってるって感じ。当日が楽しみだね!
◇
「きょうはおまつりだ~」
「でっけーぬのがある!」
「あれが、そとでもばるすがみられるやつなのね!」
「男は映画を見せてくれるっと!」
良く晴れたさわやかな朝、今日はお疲れ会兼映画上映会ということで、広場にみんな集まってわくわく顔である。お料理やお酒もずらっと並べて、もうお好きにどうぞって状態だ。まあ、お料理は汁物や焼きそばとか、あとは焼くだけ煮るだけ温めるだけっていう献立で構成した。ほかのものが食べたい場合はその場その場で考えるってことで。
ものすごい緩いお祭りというか、肩ひじ張らないちょっとしたイベントってところだね。人も集まったことだし、サクッと始めちゃおう。
「ではではみなさま、これよりバルスのやつとかを見る祭りを始めます。お好きに焼きそばなどつまみながら、お楽しみください」
「「「はーい!」」」
てな感じで緩く始めて、みんなにお料理や飲み物がいきわたってある程度食べたかな、というタイミングで上映第一弾を始めよう。
「そろそろ映画の上映を始めます。一番初めは、みなさん大好きバルスのやつで行きましょう」
「ばるすのやつだ!」
「またみたかったのよね!」
「うちらはまだみてないから、たのしみさ~」
「きゃい~、おもしろいよ! おもしろいよ!」
「たのしみやね!」
「やね?」
「何でもございません」
上映作品を告げると、ぞろぞろと料理片手に村人や観光客たちが集まってきてレジャーシート席に腰かけた。では、メディアをセットして上映開始だね。さくさくと操作して、スクリーンに映像を映し出す。
「はじまったー!」
「めがー!」
「これがえいがってやつなのね!」
「……」
「~」
物語が始まると、見たことある人も無い人も釘付けだ。ドラゴンさんたちとかは、もう一言もしゃべらなくなっている。わさわさちゃんは……焼きそば食べながら楽しんでいるようだね。俺は短期間にこれを何度も見たので、もうおなか一杯ではあるのだが。その分周囲に気を配っておきましょうかね。てな感じで、鑑賞中のみなさんが料理や飲み物を取りやすい位置にさりげなく移動したり、お年寄りに座椅子とクッションを提供したりの細々としたお仕事をしていく。
「くるぞくるぞ!」
「あれがついに!」
「なになに?」
「きたああああ!」
やがてあのクライマックスが訪れ、たった三ワードで発動する実行確認もされない実装上どう考えても不具合な危険コマンドの実行となり、参加者大興奮のもと上映第一弾が終了だ。
「うおおおばるすのやつおもれえ!」
「あんなことになるとか、ふるえる」
「おもしろかったわ~」
「めっちゃすっきりするじゃん!」
初めて見た組の村人たちはそらもう大興奮で、ぴょんぴょんしてる。まあ興奮冷めやらぬところごめんなさいだけど、次の上映まで小休止だ。二時間の間映像に集中したのだから、少し休まないとね。
「次の上映までは少し時間を空けますので、ゆっくりご休憩下さい」
「「「はーい」」」
まあ今日は三作品上映したら日が暮れるので、あと二つ上映したら状況を見て、四作品目に移るかお開きにするか考えよう。出たとこ勝負ってやつだ。
「うふ~、つぎのやつはみたことないので、たのしみですね~」
「ギニャギニャ」
「わきゃ~ん、きたいたかまるさ~」
「えいが、おもしろいさ~」
「これはおとなりのみずうみに、じまんできるさ~」
「つぎはとぶやつみたいだよ! とぶやつ!」
「きゃい~」
「うわさをきいて~」
「あそびにきたよ! あそびにきたよ!」
ハナちゃんや偉い人ちゃんとお供ちゃんも、次の上映が待ち遠しいようで、フクロイヌをなでなでしたりしながらそわそわしている。妖精さんたちは……あれ? なんか増えてないか――気にしないことにしよう。気にしたところで、どうあがいても増えるからだ。にぎやかでいいね!
こんな感じで小休止を挟み、お次のやつを上映だ。
「あ~、いつみてもこの自由に飛ぶ様子はいいわね」
「気を抜くと写真とかに写って、騒ぎになるんだっけ?」
「UFO扱いされたことあるわ」
「あや~、おさかなのパイってやつ、おいしそうですね~」
「おさかなのやつ、たべてみたいさ~」
「ん? なんかくろいやつ、しゃべらなくなってね?」
魔女さんとユキちゃんの会話に若干気になるところはあるものの、この作品は基本平和なのでなごやかに鑑賞しているようだ。戦う作品を連続すると、疲れちゃうからね。
(かわいらしいおはなし~)
(……ゆったりしてるのがいい)
(おちついたかんじ!)
謎の声は、こういうのんびりした作品が好きのようだ。てか神様たちはなぜかお供え物のぬいぐるみをそれぞれ抱えて、キャッキャと鑑賞しておられる。見てると和むな。
「ちいさなひと、やっぱりたいへん! たいへん!」
「おきもちだけ~」
「みつかっちゃった! みつかっちゃった!」
「――」
「――!」
借りてなんとか暮らしているやつは、妖精さんたちにめちゃくちゃウケた。視点のスケールが近いからだろうか。オバケさんたちも、妖精さんと一緒にはしゃいでいるな。……作品ではなく、はしゃぐ妖精さんたちを見てデレデレしているだけか。
「なんかオバケみたいなのきた! きた!」
「こええええええ!」
「いのしし、こんなでかくなるん!」
「にげてー!」
夕方になって確認したところ、もうちょっと見たいということなので、ユキちゃん選定のサンを救えるかどうかのやつも上映だ。でもまあ、これくらいが時間の限界かな。
「あや~、たすけたのに、むらをでちゃうです?」
「村では対処できない呪い……まあ治療できない大けがみたいなのしちゃったの。それを何とかするために、外へ旅立つのよ」
「たいへんです~」
「わきゃ~ん、そういうことなのさ~?」
「なおるといいね! なおるといいね!」
この作品は少し難解で、日本的な風土風習の理解や室町時代の背景をある程度でもわかっていないと、なんぞこれという部分がいくつかある。その辺はお袋がちまちま説明しているな。
「あら? いま『ヤマト』って言いませんでした?」
「ええ、言ってましたね」
「私も聞いたね」
「なんだか、いろいろ訳ありみたいだよ~」
おひい様たちは、ヤマトって言葉に反応してたりするね。もうその政権は無い時代の話だけど、残滓は残ってるってやつだ。
「なんか、ヤバいおんなのひとでてきた」
「こわそう」
「フクロオオカミのこわそうなやつもきた」
このお話で怖くないやつが少数派であるけど、そのお人らは実は優しい部類なんだよね。まあ、村のトップの人が実は一番優しいというか、この人未来からやってきたんじゃねってレベルの先進性があるみたいだけど。
「あやー! なんかどんどんヤバくなってくです~!」
「たいへんさ~!」
「ちたまのたたかい、こええええええ!」
「きゃきゃ~!」
ともあれ物語は終盤に近付き、もうなんかいろいろ大変になっていくわけだ。この辺はメガぁのやつもそうだけど、盛り上げ方が上手だよね。観客のみなさんも、目を白黒させてお話にのめりこんでいる。
「あや~……もりがかれちゃうです~」
「これはひどいさ~」
「きゃ~い、とんでもないことに~」
「あかんて」
やがてまあ森がなんかとんでもないことになったあたりで、元難民のみなさまはもう感情移入しまくりである。森が枯れて困った方々だからね。もう最前線でかぶりつき状態だよ。
そうしてお話の中ではいろいろしっちゃかめっちゃかになったりもしたけれど、なんとかなってお話は終了だ。
「だいはくりょくだった」
「えいがすげえ」
「もえつきた……」
さすがに映画を一日に四作品も見て、最後が「ここをいい村にしよう」って奴だったのでさすがにみなさん燃え尽きたようだ。でも、満足そうな表情だね。
「いや~、今日は楽しかったですねえ」
「まじでよかった」
「おつかれかい、こういうのもいいじゃん」
「えいがたくさんみれたとか、すてき」
「いいものみれたわ~」
「じゅうじつした」
「えいが、たのしかったの」
「すごかったやん、てなんでもございませんことよ」
「~」
村人たちは、初めて見た作品にご満悦のようだ。ほくほく顔で、お料理の残りを詰め込んでおられる。
「あや~、えいがよかったですね~」
「ギニャニャ~」
「わきゃ~ん、いいものみれたさ~」
「たのしいおまつりだったさ~」
「だいこうふんしたさ~」
フクロイヌを抱えたハナちゃんや偉い人ちゃんたちも、ニコニコ顔だね。てかフクロイヌも今日の上映作品全部鑑賞してたけど、この子もなんだかんだで楽しんだのかね。よくわからない動物である。
それはさておき、本日はこれでお開きだ。あとは温泉でも入って、今日はぐっすり休んでもらおう。映像機材だけ撤収して、後の片づけは明日でいいや。
「ではでは、夜も更けてまいりましたので、そろそろお開きにしたいと思います。みなさんこの後は温泉にのんびり入って、早めにお休みしましょう」
「「「はーい!」」」
こうして筋肉痛から始まった映画騒動は、収まったのである。めでたしめでた――
「それでそれで、つぎのえいがは、いつやるんですか!」
「ほかにもみたいです!」
「ああああめがあああああ! めがあああ!」
「わきゃ~! つぎもあるのさ~!?」
「たのしみさ~!」
「きゃい~! おともだちつれてくるね! おともだちおおぜい!」
「おびただしいほど~」
「男はまた映画をやってくれるっと!」
……んお?




