第五話 子供会……?
村人たちが筋肉痛デバフで動けない状態なのに団体客が来てしまったため、苦肉の策で映画上映を行い、かなりウケた翌日のこと。
「うごけるようになったです~」
「私もなんとか」
「うちもさ~」
ハナちゃんとユキちゃんはまあまあ回復し、偉い人ちゃんもギリギリって感じ。これならまあ、そこそこの活動は出来そうだ。ではでは、本日の企画を実行しに行こうじゃないか。
「それじゃあ、昨日働いてくれた子供たちにご褒美あげに行こう」
「そうするです~」
「頑張ってくれましたからね」
「いいことさ~」
「うちらもいくのさ~」
「たのしみさ~」
昨日は大人たちがダウンしたけど、子供たちが自主的にこまごまとしたお仕事をしてくれていた。妖精さんたちもあぶなくないよう見守ってくれたりしたので、お礼をするわけだね。というわけで今日はそれらの子や妖精さんをもてなすイベント開催だ。
あと、小さすぎて昨日働かせなかった子も、メンバーに加えてある。仲間外れはかわいそうだからね。つまり、村人キッズ層全員ってことなんだけど。
「タイシさんきた!」
「ごほうびくれるんだって」
「たのしみ~」
「わくわくするね! わくわくするね!」
「はやおきしたさ~」
集会場には早起きキッズと妖精さんたちが集まり、ご褒美なにかなとわくわくしているね。まあそんな大それた贈り物はできないので、キッズたちが喜ぶものとかなんだけど。
(まだかなまだかな)
(……どきどき)
(ごほうびだって!)
なお、神様たちもすちゃっとキッズ側におられて、わくわくしている感じ。ちゃっかりしていてかわいい。
「うちらはきかくないようしってるけど、それはそれでたのしみさ~」
「ですね~」
「わきゃ~」
「じゅんびはばんたんさ~」
偉い人ちゃんとハナちゃんやお供ちゃんたちは、昨日の夜にした企画会議参加者だからなにやるかはご存じである。ただ、知っているからこその楽しみというのもあるようだ。なお偉い人ちゃんたちは、自分たちがキッズエリアにご招待されている点について、特に疑問は持たない模様である。
まあキッズ側の年齢層問題はさておき、始めようか。
「みんな、昨日はありがとう。ご褒美に今日はおやつ食べ放題だよ。昨日働いてくれた子たちには、さらに好きなおもちゃ一つあげちゃうからね」
「「「キャー!」」」
わくわくキッズにご褒美の内容を伝えると、キャーキャーと大喜びだ。今日だけは甘いもの沢山食べてもいいよねってことで。おとなたちがダウンしている今は、子供たちの天下なのだ!
「でもあとできちんと歯磨きするんだよ」
「「「はーい!」」」
こんな感じで子供たちの宴が始まる。てか大人たちの集まりはよくあるけど、子供たち主体のイベントってほとんどないからね。たまにはこういうのも良いものだ。
「ほら、こっちの部屋にお菓子とか飲み物ずらっと並べてあるから、好きなの食べてね」
「わーい!」
「おかしだ!」
「ならんでる~!」
そうして子供たちの期待を煽った後は、ビジュアルで畳みかけだ。別室のふすまを開けると、そこには俺の大好きな物量がある! 子供たちも物量に大喜びで、別室へ駈け込んでいった。だよね、物量はジャスティスなのだから。
「おもちゃは、じっくりえらんでかんがえるです~」
「きょうきめられなかったら、どうするの?」
「べつに、いつでもいいですよ~」
「そうなんだ!」
ハナちゃんはおかしを食べるキッズ側だけど、ほかの子からの質問にも回答しているね。そうそう、働いた子向けのご褒美であるおもちゃは、別に無理して今日決めなくてもいいよって感じ。せかす気はないからね。
「おいしいですね~」
「あまい~」
「こっちのおかしはいろんなのがあるね! あるね!」
「すっぱいやつたべちゃった! すっぱいやつ!」
「うち、このすっぱいのけっこうすきさ~」
こうしてキッズ大盛り上がりのイベントは始まり、子供たちや妖精さんがおかしビュッフェを堪能だね。全部あまいやつじゃなくて、すっぱいのもしょっぱいのもあるんだよお。
「わきゃ~ん、くちのなかぱっさぱささ~」
「こっちはパチパチするさ~」
「わきゃ? なんかあたりがでたさ~」
麩菓子をかじる偉い人ちゃんやお供ちゃんもキッズに交じって駄菓子を堪能だけど、なんだろうキッズ側にいて違和感が無い。……まあ、かわいらしくて良いのかな?
(こういうのもいいね)
(……おいしいぼうが、たべほうだい)
(おさけのつまみ、みたいな)
神様たちは、主にしょっぱい系の駄菓子をちまちま食べているけど、確かにお酒のつまみになりそうな駄菓子はけっこうあるんだよな。こっちはキッズに混じって渋い食べ方しておられる。
「――」
「――!」
なお妖精さんに混じってオバケさんたちもいつの間にか参加しており、なぜかキャラメルなコーンのやつを好んで食べていた。
「……」
「~……」
「!」
それを見て、ひいおばあちゃんにキャラメルをもらいに来たクモさんたちが、なんかそわそわしている。……食べてみたいのかな?
「ひいおばあちゃん、これをクモさんたちにあげてみてください」
「ふが」
試しにひいおばあちゃんにあげてもらうと、もうクモさんたちはごきげんになった。お気に入りのおやつが増えた感じだね。村で経費を負担して、クモさんに定期的におやつをあげておこう。
こうしてにぎやかに子供たちおもてなし会は進んでいく。
「お昼もあるから、楽しみにしててね。焼きそばだよ」
「「「はーい!」」」
お菓子で盛り上がるみなさんに、ユキちゃんがお昼も出るよと告げると、もう子供たちはにっこにこだ。育ち盛りの子供たちに対して、今日は一日ジャンク漬けにするという罪深いイベントなのである! これは子守も兼ねてるからね。
一日お子さんたちを預かって、村人たちにはゆっくり休んでいただくって考えもある。今日くらいはゆっくりしてもらおう。
「あや~、ちょっとひとやすみするですかね~」
「そうだね! そうだね!」
「おなかふくらませすぎるの、よくないもんな」
「そうするさ~」
てか子供たちも、お菓子を最大限食べるためにペース配分とか始めているわけで、本当に食べることに関してはしたたかなのである。安心してお世話できるというものか。
しかし全体的な傾向として、村の子供たちはおとなしめなんだよね。やんちゃも殆どしないので、意外と手がかからないというか、むしろ大人のほうが手がかかるまである。ネタに走るのだ。なんだろうこの違い……。
「じゃあじゃあハナちゃん、あのあそびしようよ、ちねちねのやつ」
「あや~あれですね~」
「だれがいちばんか、きめちゃおう!」
子供たちはおとなしいなあと微笑ましく見守っていると、腹ごなしの遊びを始めるようだ。でも「ちねちねのやつ」ってなんだろう。
「せーのではじめるです?」
「うん」
「じゅんびできてるよ」
なんだろうと思ってみていると、綿みたいのをみんな取り出した。それ以外には準備されていないため、この綿でなんかするようだ。
「いくですよ~、せーの!」
「とう!」
「いくわよおお!」
「えええい!」
やがてハナちゃんの掛け声とともに、子供たちが綿を指でつまんでちまちまやりはじめた。なるほど、糸を紡ぐ遊びっぽいねこれ。
「……」
「これは、なかなか……」
「けっこうね……」
そのうち熱中し始めたのか、言葉少なめでちねちねと糸を紡いでいくエルフキッズであり、とても地味である。なんだろう、子供でこんな地味さに耐えられるのは、ある意味すごいかもしれない。
あれか、エルフの子供たちは全体的におとなしいというよりも、エルフ特有の地味さが受け継がれているだけなのだろうか。やんちゃな遊びをしないのではなく、遊ぶときはとことん地味なのが好きというか。
「あや~……」
「このへんを……こうして……」
「……」
ちねちねちねりんと、この地味な状況が永遠に続く錯覚を覚えるほど地味である。が、本人たちは高品質の糸を高速で紡ぐべく、地味に集中している。
「大志さん、子供たちの遊びって、アレでいいんですか?」
「文化を尊重しよう」
ユキちゃんが哲学的な問題に直面したが、哲学に答えはないのだ。なんか最近、こうした哲学が必要になるケース多いな。
「あや~、やっぱりそっちはじょうずですね~」
「とくいだもの!」
「かなわないな~」
ユキちゃんと一緒に答えのない問題を考えている間にも、エルフキッズは地味に綿をちねって、地味に糸を作っていく。品質はまあまあ。遊びというより修行というか、なんというか。
やがて勝負がつき、優勝はハナちゃんよりすこし年下くらいの、ちいさなエルフの女の子がもぎ取った。ハナちゃんは真ん中くらいの順位である。糸ちねちねは、あんまり得意じゃないようだ。
「やっぱおめえつよいな~」
「じょうずよね」
「きれいにできてるです~」
戦い終わった後は、各作品の品評会である。なんと、これも地味なのだ! 作品を並べてそれぞれ品評しあっているけど、遊びっていうより職人か何かの腕比べって感じしかしない。というか、エルフってそういうところあるよね。何回も見た。
「大志さん……私もう耐えられません……!」
ユキちゃんが両手で顔を覆い、ぷるぷる震えながら何か嘆いている。元気いっぱい! のはずの子供たちが繰り広げる遊びのあまりの地味さに、心が苦しかったようだ。でも、文化だしなあ……。まあ、クチバシ突っ込んでちょっと盛り上げてみるか。
「優勝おめでとう! 賞品としてなんか贈るけど、ご要望あるかな?」
「ほんと! なにがいいかな……!」
このままだと「地味に糸紡いで地味に品評して終わる」だったので、取り合えず景品を提案してみたわけだが……なにがくるか。
「じゃあじゃあ、えいがみたい! ばるすのやつ! なんかわだいになってた!」
「あや~、あれですか~」
おっ! 映画とな。観光客たちの話を聞いたっぽいね。
「ばるすのやつ?」
「なんだろ」
「えいが?」
女の子のご要望に、子供エルフたちは首を傾げた。まだキッズ全体には広まってない話だったぽいな。一位をとって映画を要求してきた子は、なかなか耳が早いようだ。
「なんかねなんかね、すっごいおもしろかったんだって。セガーとかそんなのが」
「へええ」
「みてみたい」
女の子が煽るので、エルフキッズたちもお目々がキラキラしてきた。若干情報の伝わりに誤りがあるようだが、大した違いはないので問題はないか。それじゃあ、キッズ向け上映会を開催しよう。
「それじゃあ準備するから、みんなまっててね」
てなわけで、急遽別室にスクリーン張ってバルスのやつ上映会を開催してみる。
「わあああ!」
「そらからなんかきた!」
「ふくそうがじみ!」
「あや~、これはみたことないやつですね~!」
果たしてキッズたちはすぐさま物語にのめりこみ、駄菓子をかじりながら楽しく鑑賞だね。服装が地味って感想は確かにそうだが、人のこと言えるのかなあ……。ああそうか、今まで見たアニメはキュア的なやつなので、それ基準になってるのね。キュアなやつと服装比較したら、なんでも地味になるよそりゃあ。
(このじてんでおもしろい~)
(……さきがきになる)
(いいねこれ!)
おいしい棒を消費しながら、神様たちもキャッキャと鑑賞されておられる。キッズたちよりは落ち着きがあるかな?
「――」
「――!」
「~」
「……~」
「!」
オバケさんたちはちたま出身なので、見たことある雰囲気出してる。久々だな~って感じだ。なぜか一緒にクモさんたちも鑑賞しており、こちらは盛り上がってる感じ。
「あや~! なんかやばいことになってきてるです~!」
「どうなっちゃうの? どうなっちゃうの!?」
「きゃい~! たいへん! たいへん!」
「やばいさ~!」
「わきゃ~ん! たすけなきゃさ~!」
「がんばるのさ~!」
「わきゃっ!」
そして捕まっちゃったあたりからもうキッズは完全にのめりこんでおり、場面場面で一喜一憂するみなさんだね。妖精さんたちも子供ドワーフちゃんたちも、くぎ付けって感じ。偉い人ちゃんとお供ちゃんたちも、大興奮である。
こんな感じで大変に盛り上がり、三分待ってもらったあとメガドライブして物語は終了した。
「ばるすのやつ、やっぱおもれえええ」
「めがーめがー」
「すっきりするよね」
気づいたら観光客エルフもいつのまにか参加しており、すごい人数が映画見てた。どうして気配を消して集まるのだろうか。狩猟民族の癖なのかな?
「ばるすおもしろかった!」
「ばるすありがと!」
「いいもんみれた~」
「めのつけどころ、いいです~」
「にへへ」
キッズたちは映画をご所望した子をたたえていて、褒められた女の子エルフは映画も面白かったし、みんなにちやほやされたりなでなでされるしで、すごく嬉しそうだった。てか、優勝賞品選びが非常に上手である。自分もみんなも楽しめるものを選べるそのセンス、お父さんまねできない……!
「えいがすごいよかった!」
「そうですね~」
「もっとみたい!」
大満足の映画だったみたいでなによりだけど、キッズたちからもっと見たいという要望が出てきたな。しかし、村にメディアはそんなに置いておらず、バルスのやつだって高橋さんがゲームと間違って持ってきたやつを、せっかくだからと放り込んでくれてた物らしい。じゃあ端末からストリーミングしてプロジェクターに映そうかとも思ったけど、ケーブルもないし通信が不安定になったら、ちょっと困る。
なんにせよ、他のもやるならちと考えたり準備も必要かも。……困ったときの時間稼ぎしとこうか。
「それじゃあ、お昼食べた後また違うやつやろっか」
「「「わーい!」」」
それでいいらしく、キッズは喜んでくれた。なぜか観光客たちも喜んでいるけど、これもう一緒に見る気満々である。
さて、じゃあ俺はメディア調達するかな。家にある作品はちょっと年齢層高めのやつばかりで、大勢で安心して見られるのがないんだよね。主にお袋が問題作ばかり選んでくるのだ。
「ユキちゃん、自分はいくつかメディア買ってくるよ。自前で持っているのは人を選ぶ作品しかなくてさ」
「それならうちに、このスタジオの作品は一通りそろっていますので、お貸ししますよ」
「それは助かる、ありがとう」
ユキちゃんちで一通りそろえてあるらしいので、ありがたく借りることにしよう。
そんなわけで車を走らせ、ユキちゃんちにGOである。出発前に、エルフキッズたちがまた糸ちねりを始めたが見なかったことにする。文化を尊重するのだ……。
「はい、こちらで一揃いですね」
「おお、見事なラインナップ」
ユキちゃんちの客間で待っていると、メディアを並べて見せてくれた。全部そろえているあたり、ファンなのかもしれない。
「この、ほたるのやつはやめておこう」
「……ですね」
こいつを無垢なる異世界人に見せたら阿鼻叫喚となるのは間違いなく、現代人でもダメージを負うやつなのでやめておくのだ。
というやり取りがありつつ、途中のスーパーで焼きそばの材料を大量調達して村に戻り、リザードマン協力のもとさくっと調理し出来上がり!
「みんなお待たせ、じゃあお昼の焼きそば食べたら、映画みようね」
「「「はーい!」」」
キッズに向けて言っているわけだが、観光客も混じってお返事だからね。一緒に焼きそばも食べるだろうから、彼らの分も調達してきたのだ。こちらもさくさくと、列に並んだみんなにお皿に盛り付けた焼きそばを渡していく。
「やきそば、おいしいですね~」
「たくさんたべよ~」
「ひさしぶりだな~」
ジャンクなお昼ご飯ではあるけど、エルフたちにとってはたまに食べるごちそうって感じ。まあ、あんまり焼きそばやらないんだよね。麺を自給していないから購入するしかなく、村人的には高コスト料理なのである。
「わあああ、いいにおい!」
「みたことないおりょうり」
「ラーメンとはちがうのかしら」
「ちがうっぽいけど、うめえ!」
焼きそばを受け取った観光客たちは、初めて見る料理だろうけどなんか好評である。ラーメンは知っているみたいで、交易で調達したとか平原の人にもらったとかそんなんかな?
こうして楽しくお昼を食べた後は、本日の映画上映第二段だ。今度はとなりのやつである。
「なんだろうあんしんかんある」
「もりがあるのはいいね」
「おやさいおいしそう」
となりのやつは冒険活劇かっていうとそうじゃないやつだけど、観光客エルフが言う通り安心感はあるな。基本的に不思議な隣人との交流を描いたほのぼのストーリーだから、ほっこりしながら見られるし。
「あや~、のんびりしていていいですね~」
「これはこれで」
「このオバケはこわくないのね」
キッズたちも、平和なお話なのでのんびり楽しく鑑賞できているかな。そう、冒険活劇もいいけど、これはこれでいいのだ。ただなんというか……よくよく見ると、うちの村の生活と割と似てないかな? 神秘まみれだし。
「なんかでっかいふわふわのやつ、さけんだね」
「これ『かわいい~!』っていってるです?」
え? ハナちゃんトト□の言ってることわかるの!?