第四話 不意打ちでござる
「こんな感じで、どうも大勢お客さんが来ちゃうらしいよ」
「あや~、それはたいへんです~」
「しかし私たちは、ろくに動けませんよ……」
「たうえしたひとたちは、だいたいこんなんさ~」
一時間くらいして、ハナちゃんたちが温泉から帰ってきた。さっそく現状を説明してみたところ、みなさんお困り顔だ。まあどうしようもないよね。ただ、出来る限りの対策はしておこうとは思う。
「みんなが動けないのは、今日明日くらいの期間だろうから、その間ごまかせば何とかなるとは思う」
「ごまかすですか~」
「現状打てる手はそれくらいですかね」
「リザードマンたちに手伝ってもらうけど、彼らもいきなりの動員だから手間取るとは思う」
事前にお願いして、引継ぎをしていれば別だけど……今回はやってない。いきなり無理をお願いするのはかわいそうなので、スポットで参加しても問題ない程度にしておかないとな。
「とは言え、何をするかすぐに決めておかないといけないわけなんだけど……」
「あえ~、そんなにぱっとはおもいつかないです?」
「そうなんだよね」
今回はタイムリミットが目前であるため、ちょっと焦りもあってサクッとは思いつかんのですな。さてどうしよう?
「どうするですかね~」
「あまり人手を必要とせず、お客さんたちが楽しめる何かがあればって感じだけどねぇ」
「うむむ、じっくり考えたいですけど、筋肉痛が邪魔して頭が働きません……」
「ありそうなきはするさ~」
ハナちゃんもユキちゃんも、偉い人ちゃんだって頭を抱え……ようとして筋肉痛でぐったりだ。体調面での制限も加わって、なかなか厳しいねこれは。
「あや~、おもいつかないです~」
ハナちゃんは悩んで転がろうとし、でも筋肉痛であきらめてぐんにゃりだね。転がることすらできないのである。今回田植えの規模がでかかっただけに、村人たちのダメージが割と深刻だ。来年はもうちょっと考えて、楽ができるような計画を考えておこう。というのは後回しで、まずは目先のお手軽おもてなし大作戦を考えないと。
――しかし、思いつかないままじりじりと時間だけが過ぎて行く。
「タイシさん、なんかおきゃくさんきたよ! おきゃくさん!」
「けっこうおおぜいきた! おおぜい!」
「だんたいさん~」
そしてついに、タイムリミットが来てしまった! 妖精さん哨戒網に、大勢のお客さんが検知されたようだ……。
「あや~、きちゃったですね~」
「しかし私たちは動けない……」
「わきゃ~ん、あきらめるさ~」
ハナちゃんたちは白旗な感じだけど、動ける俺はまあ出たとこ勝負でなんとかするしかないわけで。でもどうしようかなあ。
(なんかたいへんそうだね)
(……あきらめてゲームしよ)
(これなんかよさそう!)
焦る俺たちをよそに、神様たちは思考放棄にてゲームで遊ぶようである。まあ、神様たちもなんか動けないみたいだからね。ゆっくりゲームしていても良いと思う。
(あかるそうなゲームだね)
そして神輿が、かわいらしいパッケージから、ちっちゃなカードを取り出す。……あれ? ちらっと見えたけど、パッケージとゲームの中身ちがくない? 高橋さん、めんどくさがって適当にパッケージにしまってるな。うちではお袋がこういう管理には厳しく、きっちりしまってないとちくちく言われるからしっかりやっているけど。
(じゅんびできたよ)
(……いっしょにあそぼう)
(たのしみだね!)
しかしゴッドたちはパッケージとソフトの違いに気づかず、さらに画面に出てきた新しいアイコンを、確認せず反射的にタップして起動してしまった。まあ、早くゲームやりたかったんだろう。もう真っ暗な画面に切り替わり、その右下にローディング表示されたところである。
(もうすぐだよ~)
(……わくわく)
(まだかまだかな!)
やがてローディングが終わり、かわいらしいパッケージとは正反対の、おどろおどろしいオープニングムービーが流れ始めた。おそらくこれ、ホラーゲームだよ。
(およ?)
(……あれ?)
(ん?)
この段階で、ようやく神様たちも何かおかしいことに気づいたようだ。謎の声が、困惑の色を強めている。しかし本人たちは、かわいらしいパッケージという先入観から、まだそれが怖いやつだとは確信が持てていない模様だ。
『シビトが――』
神様たちの困惑に関係なく、映像は流れ続ける。やがてムービーの終わりで、怖いみどころ演出が矢継ぎ早に映し出され、ホラー感を盛り上げて来た!
(きゃ~!)
(……あわわわわわ)
(こわいこわいこわい!)
とても怖がるゴッドちゃんたちにお構いなく、さんざん恐怖を煽ったムービーは無事終了だ。画面が暗転し、おどろおどろしい音楽とともに……タイトル画面がドロっと出てきた。
(――……)
(……これちがうやつ――)
(きゅ~……)
そんな謎の声を残し、神様たちは気絶なされた。……なんだろう、ものすごく面白いものを見てしまった気がする。でもまあ、中身はちゃんと確認しようねってことで。てか怖いのに最後まで見るあたり、律儀というか怖いもの見たさというやつなのかな?
(……)
「タイシ、かみさまたちなにやってるです?」
「物事はよく確認してから実行しようねって感じかな」
突然撃墜された神様を心配するハナちゃんだけど、びっくりしちゃっただけなので。まあ……とりあえずシャットダウンした神様たちをお布団にそっと寝かせて、サプライズホラーイベントはおしまいにしとこう。
『シビトが――』
おっと、ゲーム機もとりあえず片づけておこうかな。と思って手に取ってみると、俺的感覚でも、まあまあ怖いムービーが流れている。……これ、面白そうだな。
ちょっと興味が出たので、神様たちを撃墜したオープニングムービーを続けて見てみる。謎をちらつかせるように演出されたそれは、否応なく期待感とこれから始まる恐怖体験を予感させてくるね。おそらくゲーム本編は相当怖いやつだ。意味深なクリーチャーたちが、複雑な背景の想像を掻き立ててくるし。
「タイシ、どしたです?」
――おっと! ゲームのムービー見てる場合じゃない。あんまりにも切羽詰まった状況だから、ちょいと現実逃避しちゃってたみたいだ。今やるべきことは、大勢のお客さんを、なんとかしてもてなすことであって……。
ん? 待てよ……少人数で運用できて、でもみんなが楽しめる催しか……。今すぐに、準備できるんじゃないか? 例えば今手にしているゲームとか。いや、これは最大でも四人とかしかできないし、本体もコントローラーも今は一台しかない。あと科学文明がまだない世界から来る観光客に、複雑な現代ちたまゲームをいきなり渡しても、気軽に楽しめるとは思えないな。
てか、複雑に考えずに素直に映画でも流しときゃ良いか! 今まさに、作品の前提知識が無い俺でも、ムービーで楽しませてもらった実例もあることだし。いけそうだよこれ。
「あ~今ちょっと思いついたよ。映画……動く写真を集会場で上映しとけば良いんじゃない?」
「あや! それはいいですね~」
「駄菓子屋さんでおやつも買えますし、面白い映画とかならいけそうですね」
現在集会場には、女子エルフがダイエットのために充電しまくった電源設備から、家庭用電源を引いている。長時間上映も大丈夫なはずだ。なんたって、毎日充電されてるからね。悪あがきとも言う。それはさておき、電源は大丈夫なのだ。
「わきゃん? えいがってなにさ~?」
「えっとですね、だいたい二時間くらいの長さの、創作話を動く写真にしたやつです。ほら、アニメとか前に長いやつ見ましたよね?」
「なるほどさ~、あれはよかったさ~」
偉い人ちゃんは映画って単語にピンとこなかったようだけど、説明したらわかった感じだ。まあとりあえず上映してみて、うまくいったらめっけもんて感じでやってみよう。
「それじゃ自分は集会場に上映機材設置して、観光客のみなさんに宣伝してくるね。みんなはゆっくり休んでもらって大丈夫だから」
「あや~、タイシありがとです~」
「お言葉に甘えます……」
「そういや、うちもうごけないんだったさ~」
筋肉痛というデバフを食らっている三人にはゆっくりしてもらって、俺はちゃっちゃと動こう。
「わたしたちがせんでんするね! おもしろいものみれるっていってくるね!」
「ほかのこにもてつだってもらうよ! てつだってもらう!」
「こういうのとくいだからね! とくいだからね!」
元気な妖精さんたちは、映画上映の宣伝してくれるみたいだ。じゃあ俺は、機材の設置をまずやっちゃおう。上映する作品は、村に置いてあるやつを適当にって感じで。好評なら、さらにメディアを調達してこよう。それじゃあ、作戦開始だ!
そんなわけですぐさま集会場に行き、さくさくっとスクリーンやプロジェクターを用意し、スピーカーも設置する。暗幕は……やんなくてもいいかな?
「こっちだよ! こっち!」
「ちわ~、ここでなんか、おもしろいものみれるってきいてきました」
「なんだろな~」
「たのしみ~」
上映作品を何にしようかと考えていたら、妖精さんに案内された観光客たちが、どしどしと集会場にやってきた。まずは軽く説明して、時間を稼ごう。そうしている間に、上映作品をどうするか決めてしまわなければ。
「みなさんはじめまして。これから行うのは、こちらの布に面白い物語を映し出してみんなで楽しもうっていう催しですよ」
「ぬのにおもしろいものがうつるの?」
「ふしぎ~」
「わくわくするな~」
時間稼ぎをしている間にも、続々と観光エルフたちがやってきて、すちゃっと座っていく。みなさんの目はきたいのまなざしって感じで、プレッシャーすごいよ。
というかこの人たち、ちたまじんと初めての遭遇なはずなのに全然気にしてないのすごくない?
……よく考えたら、今までもエルフ観光客は大体こんなんだったな。エルフとは、こういう人たちなのだ。細かいこと気にしないのである。
「うごくしゃしんのやつですね」
「たのしみかな~」
「まえにみたやつ、なかなかよかったわよね」
平原のお三方も、わくわく顔で席に着いておられる。まあ彼らは村で映像観賞会に何回か参加しているから、何が始まるかは理解しているね。
「ふがふが」
そうしていると、ハナちゃんのひいおばあちゃんが、駄菓子と魔法瓶を持ってきた。どうやら、これでおもてなしのサービスしてね、ってことらしい。確かに、映画を見ている間は喉も乾くし何かつまみたくもなるだろう。
これにかかる経費をひいおばあちゃんに負担させるのはアレなので、取り合えず俺が立て替えちゃえばいい。そもそも駄菓子だから、大した額にもならないし。
「ひいおばあちゃん、ありがとうございます。経費は私が出しておきますので、必要な量のお菓子とお茶をお願いします」
「ふが」
それでオーケーらしく、ひいおばあちゃんは腕まくりして、お茶の量産体制に入るようだ。あとで動ける子供ドワーフちゃんを呼んできて、お湯を沸かしてもらえば負担も減るかな?
ともあれ上映環境は整ったので、あとは作品を何にするか決めちゃうだけだ。どれにしようかな……おっ! バルスのやつがある。お話は分かりやすく、しかも面白いこれがいいな! 困ったときのあのスタジオだよ。
「ではでは準備も整ったところで、催しを始めます。はいみなさんこちらの布にご注目を!」
そして始まる、ボーイミーツガールアンド四十秒くらいで準備してメガァな物語である。
「……」
「ほわぁ……」
「なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ」
初めて見る大作アニメ映画に、観光客のみなさん口数も少なく夢中になってきた。よしよし、思ったよりうまくいきそうだな。
じゃあこの間に、お湯沸かしドワーフキッズとかおやつ量産妖精さんとかを動員しよう。リザードマンにも声をかけて、映画上映イベントの運営も手伝ってもらわないと。さーて忙しくなってきたぞ!
――映画上映開始から、二時間後。
「ばるす!」
「めがーめがー」
「お、おもしろかった……!」
「やべーもんみちまった!」
大作アニメ映画は上映終了となり、観光客エルフのみなさんはそれはもう浸ったり興奮したりで、大満足な様子だ。まあ俺が子供のころにこの作品を見た時も、こんな感じで感動してたな。古いアニメ映画ってことで最初侮ってたけど、途中からもうなんも言えなくなってたのを思い出したよ。今でもたまに見たくなる名作だね!
「大志、まあなんとかなったな」
「後の運営はリザードマンたちにまかせてくれや、大志はもう今日は休め」
「そうする」
親父と高橋さんも騒ぎを聞きつけて手伝ってくれており、映画上映イベントの運営は俺の手を離れても大丈夫である。お言葉に甘え、仕事は終わりにして拠点でゆっくりしよう。
「タイシ~、どだったです?」
「うまくいったよ。観光客のみなさん、動く写真で大盛り上がりだった」
「それはよかったです~」
「一安心ですね」
「おしごと、おつかれさまなのさ~」
拠点に帰って女性陣に結果を報告すると、みんなほっとした顔をした。いろいろ心配してくれてたんだな。
「運営は高橋さんとかにお任せしてきたから、自分は今日のお仕事おしまいって感じだよ」
「じゃあじゃあ、みんなでおはなししながら、ゆっくりするです~」
「こんな感じでお話できるの、あんまり機会はないですからね」
「わきゃ~ん、それがいいさ~」
「みんな、ありがとう」
みなさん筋肉痛ではあるのだけど、デバフを押していろいろお茶会の準備をしてくれた。これはありがたい。
「タイシさんおつかれ! おつかれ!」
「おやつたべようね! おやつ!」
「ねぎらう~」
妖精さんたちも宣伝のお仕事が済んだのか、拠点に帰ってきた。さっそくおやつの量産がはじまる。イトカワちゃんも無難にごまお団子なので、ちょっと安心かな。なお、食べたときにどうかはまだわからない。
「それじゃあ、みんなで色々お話しようか」
「あい~!」
「はい」
「わきゃ~ん、おはなしさ~」
「なにをはなそっかな! あれがいいかな!」
「おはなし~!」
「きゃい~」
こうして突発的な団体さんのおもてなしを何とか達成し、本日のお仕事は終了したのであった。
(これはこれで)
(……なかなかどうして)
(おもしろい)
てか神様たち、あのオープニングムービーで撃墜された怖いやつで遊んでる……。なんか開き直ったみたいだけど、たくましい子たちだな。
――そして夜のこと。
(ねむれない~)
(……なんだか、ちょっとしたおとがきになる)
(まどのそとみれない!)
怖いゲームをやったせいで夜眠れなくなったらしく、一晩中神様たちはぷるぷるしながら俺の頭にひっついておりましたとさ。




