第五話 ついてきちゃったです~
お肉祭りの翌日になりました。
何とか起きてきたエルフ達は、若干胃もたれしてるご様子。
そんなエルフ達と大志親子は、朝風呂を堪能した後、朝食兼昼食を食べます。
ひとっ風呂浴びて調子が出てきたエルフ達は、モリモリ食べて元気いっぱいになりました。
なかなか回復の早い方々です。
もう大丈夫と判断した大志は、これからの事を相談することにしました。
「わたしたち、これからちょっとしごとがたてこんでいまして」
「タイシさんのお仕事ですか?」
仕事が立て込んでいると聞いて、ヤナさんが反応します。
「のうさぎょうがありまして、しばらくはいそがしいんですね」
これから田植えの本格的な時期に入ります。大志もそちらに専念しなければいけませんでした。
「農作業ですか」
「ええ。ですので、しばらくはちょいちょいとかおをだすくらいになります」
「分かりました」
顔を出すくらいしかできなくなるので、しばらくのあいだ、大掛かりな援助は無さそうですね。
色々計画しているものは、農作業がひと段落ついてからになりそうです。
そして大志がこれから忙しくなると聞いたハナちゃん、やっぱり寂しそうです。
一緒に居られる時間は減ってしまいますが、どうしようもありません。
それがわかっているハナちゃんは、ぐっと我慢をしました。
「タイシ、お仕事頑張ってくださいです~」
「うん。なるべくはやくかたづけるから、まっていてね」
「あい」
そうして、車に向かう大志とお父さん。途中で、大志が何かを思い出しました。
「あ……そういえば、なんかきかなきゃいけないことあったな……なんだっけ……」
しかしいまいち思い出せません。やがて思い出すのをあきらめた大志は「まあいいか」と特に気にしないことにします。
そして車に乗った大志は、皆に挨拶をしました。
「それではみなさん、またこんど」
「今回も有難うございました。お待ちしています」
「待ってるです~」
小さくなっていく車に向かって、手を振るエルフ達。
こうして、エルフ達の生活を大きく改善させた、大志とお父さん。おうちに帰っていきました。
また、エルフ達だけの生活が始まります。
はてさて、今度こそ平穏無事に過ごせるかな?
◇
数日後。
狩猟でお肉が手に入るようになってから、エルフ達はおやつに干し肉が食べられるようになりました。
ちょっと小腹が減ったときに、さっと食べられて大変便利です。
携帯食として、皆干し肉を持つようになりました。
そんなある日、ハナちゃんが農作業を終えた後、森で息抜き兼休憩をしているときの事です。
「おやつ、食べるですか」
森で休憩していると、小腹が減ってきました。結構な大きさの干し肉を取り出したハナちゃんは、美味しそうに干し肉をかじかじしました。おやつが食べられるようになったのは、良いことです。
そうしてしばらく干し肉を食べていると――ふと、後ろから変な音が聞こえて来ました。
きゅるるるる。
きゅるる。
「……あえ?」
どこかで聞いた音。あわよくば自分がいつも出していたその音の方に、おそるおそる振り返るハナちゃん。
そこには――黒い獣がいました。
「ギニャ~……」
「ニャ~……」
黒い毛がふっさふさとした、イヌのような、ネコのような、クマのような……奇妙な生き物です。たとえて言うなら、ビントロングに似ているでしょうか。
一匹は中型犬くらいの大きさ、もう一匹はそれより二回り小さい感じです。
そんな二匹が、ハナちゃんの干し肉を食べたそうに見ています。よだれがダラダラです。
それを見たハナちゃん、びっくり顔で言いました。
「あや~! フクロイヌがいるです~!」
「ギニャ~…」
「ニャ~…」
ハナちゃんのびっくり声にお返事するかのように、フクロイヌも鳴きました。しかしなんだか元気がありません。どうしたのでしょうか?
きゅるるるる。
きゅるきゅる。
フクロイヌから変な音が聞こえてきます。これは腹の虫が鳴っているようですね。
それを聞いたハナちゃん、フクロイヌに問いかけます。
「おなか空いてるですか?」
「ギニャ……」
力なく返事をするフクロイヌ。しっぽはしなしな、耳もへなへなしています。これはだいぶおなかを空かせている様子。
そんなフクロイヌを見たハナちゃんは、干し肉をあげることにしました。
「ほら、これ食べるですよ~」
「ギニャッ!」
「ニャッ!」
すぐさま干し肉にかじりつくフクロイヌ達。ふわふわのしっぽをふりふり、凄い勢いで干し肉を食べていきます。
「沢山食べるです~」
追加で干し肉をあげるハナちゃん。今日のおやつは全部あげちゃいました。
自分もおなかが空いて困ったことがあるだけに、おなかを空かせたフクロイヌを見過ごせなかったのです。
こうして、フクロイヌが干し肉を食べる姿を、しばらく見守りました。
しばらくして、干し肉は全てフクロイヌが平らげました。おなかが膨れてご機嫌のフクロイヌ、ハナちゃんの前に並んで、しっぽをふりふりしています。
「おなか一杯になったですか?」
「ギニャ~ン」
「ニャ~ン」
ハナちゃんが声をかけると、ありがとうとお礼を言うようにフクロイヌも返事をしました。
もう大丈夫そうですね。最初見た時より、元気があるように見えます。
フクロイヌが元気になった様子をみて安心したハナちゃん、このヘンテコな生き物を見て思いました。
「このフクロイヌ、どっから来たですか?」
この生き物、あっちの森では割と良く集落に出没し、エルフ達とさんざん遊んでいくという変わった生き物なのでした。
あっちの森にしかいなかったこの獣が、こっちに出没したのです。
一体どうやって、ここまでたどり着いたのでしょうか。
「……考えてもわかんないです」
すぐさま思考放棄するハナちゃんでした。考えるのは諦めて、フクロイヌと遊ぶことにしました。
なでなで、こちょこちょ。フクロイヌとじゃれあいます。
「ギニャッ、ギニャッ」
「ニャニャ~ン」
フクロイヌは遊んでもらえて大喜びです。ハナちゃんと二匹は、楽しく遊んだのでした。
そうして一時間くらい経った頃でしょうか。
フクロイヌと遊んでいたハナちゃんは、ぴょこっと立ち上がって言いました。
「そろそろ、おうち帰るです」
そろそろ帰らないと、おうちの人が心配します。
ハナちゃんはしっぽをふりふりしているフクロイヌ達に背を向け、おうちに向かってぽてぽて歩いていきました。
ぽてぽて。トテテテ。
「……あえ?」
後ろを振り返ると、フクロイヌ達がしっぽふりふり、ハナちゃんの後についてきています。
「ついてきちゃだめですよ?」
「ギニャ」
「ニャ」
ついてこないようにフクロイヌに言い、またおうちに向かってぽてぽて歩きます。
ぽてぽて。トテテテテ。
「あえ?」
「ギニャ~」
「ニャ~」
フクロイヌはやっぱり後をついてきます。ぽてぽて、トテテテ。ハナちゃんがちょっと歩くと、フクロイヌもちょっと歩きます。
「あ、あえ~。ついてきちゃだめですよ~」
「ギニャ~」
「ニャ~」
困るハナちゃんと、しっぽふりふりのフクロイヌ。
しばらくそんなことを繰り返しているうちに――とうとうおうちに着いてしまいました。
「あえ~……おうちまでついてきちゃったです。どうしようです~」
おうちの前で「あえ~、あえ~」とわたわたするハナちゃん。フクロイヌもハナちゃんの後に続いて、右に左にトテテテ、トテテテ。
ハナちゃんに遊んでもらっていると思っているのか、フクロイヌはとっても楽しそう。
そうしておうちの前でわたわたトテテテしていると、騒ぎを聞きつけたのかヤナさんがおうちから出てきました。
「ハナ、どうしたんだい?」
「おとうさ~ん! これどうしたらいいです~」
「ん? これって?」
ハナちゃんの後ろを見るヤナさん。そこには、二匹のフクロイヌがしっぽをふりふりしていました。
それを見たヤナさん――愕然。
「な、何故ここにフクロイヌが……」
ヤナさんがぷるぷる震えはじめました。それもそのはず、フクロイヌは、ヤナさんがある意味最も恐れる獣だったのです。
フクロイヌ達は、ヤナさんを見るや否や飛びかかりました!
「ギニャッ!」
「ニャッ!」
「う、うわー!」
ヤナさんぴんち! フクロイヌにのしかかられて尻もちをついてしまいました!